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擬䌌の母②

執筆日②2026幎9月22日火

 新しいクラス替えで、銬鹿な同玚生たちは倧いにはしゃいでいる。本圓にこい぀ら子䟛だな。

「なあなあ、ずうずう甲乙矎女二人ず同じクラスになったじゃん」
「でもよ、あい぀ら斜蚭の子だろ なあ、盎暹」

 ダブル岩厎が話し掛けおくる。岩厎力こずゎリに、岩厎宗兞こずチャブヌの二人組。陜気で銬鹿なチャブヌはい぀も女の話ばかり。陰湿でゞメゞメしたゎリはくだらないこずに拘っおいる。

 倧きな溜め息を぀く。確かにクラスメむトの貎子ず知子は、男子から人気が高い。ただ、タむプの違う二人を同じ目線で比べるなず蚀いたい。知子は確かに繊现で倧人しく誰もが芋おも矎人ず思うだろう。しかし貎子の掻発な可愛さず比范すれば倩ず地。貎子の傍でひっそりいるからこそ、知子の存圚䟡倀があるのだ。そしおゎリの発蚀は、孊玚委員長ずしお芋過ごせないものだ。

「おい、ゎリ。おたえさ、そういうこずを蚀葉にするのっお、男ずしお最䜎だよ 本圓にやめなよ」
「あ、斜蚭は斜蚭じゃん。俺、別に間違ったこず抜かしおねえっお」

 慌おお肘でゎリを軜くど぀く。教宀にあの二人が入っおくるのが芋えたからだ。自然ず姿を目で远っおしたう。小気味いい胞がブルンブルン揺れる貎子。ただ䞭孊生だずいうのにどこたで発達する぀もりなのか。

「あ、たた甲乙コンビ、時田のずころ行っおるよ。ああ、同じ屋根の䞋で暮らす奎には敵わねえなあ」

「ぞ 、芪無き子同士だから、気が合うんだろ」
「おい、ゎリ いい加枛にしろっ」

「䜕だよ、盎暹 、そんな怒るなっお」
「おたえはそういう境遇に立たされたこずがあるのかよ 少しは盞手の気持ちに立っお物事を蚀え」

 俺の倧声に宀内の芖線が泚目する。今の貎子の耳に入ったかな 少しはこれで俺の株もアップ

「はいはい、優等生なこずで。おい、チャブヌ、䟿所行こうぜ」

 ダブル岩厎が教宀を出おいく。
 校庭の方向を眺めながら垭に座る。今、俺の背䞭を芋おいるんだろ 心臓のドキドキが止たらない。

「な、盎暹君  」

 名前を呌ばれ振り向くず、時田次郎が立っおいた。䜕だよ、ひょっずしお貎子が䜕か蚀っおくれず頌たれたのか

「どうしたんだい 時田君」
「あ、あのさ 、できたら倧声で斜蚭ず蚀うのはやめおほしいんだけど  」

 え、蔑んだ感じで蚀ったのはゎリでしょ 俺じゃないっお。䜕を君は蚀っおいるんだ。ダバいでしょ、このやり取り。圌女たちから倉に誀解されおしたう。

「そもそもさ、恥じる事も䜕もないんだよ。クレッシェンドの家だよね クレッシェンドずは音楜の語源でだんだん匷くずいう意味合いなんだ。元々むタリア語からの由来であっおさ、音楜の䞭で音量を埐々に倧きくしおいく指瀺を指すんだよ。そんな自分たちを卑䞋しないで、ね」

 どうだいこのフォロヌ。貎子君、ちゃんず聞いおいおくれたかな

「だから、本圓にやめおくれ。みんな奜きであそこに暮らしおいるんじゃないんだ。知子の芪なんお 、いや、䜕でもない。忘れおほしい」

「  」

 それだけ蚀うず、時田は自分の垭ぞ戻る。䞍安げな衚情で寄り添う二人。あヌ、貎子の奎、䜕であんな情けない男の肩に手を眮いおいるんだよ。
 あの野郎 、人がカバヌしおいるのに、どれだけ貎子の前で悪党に仕立おようっお蚀うんだ、この芪無しが。

 授業が始たっおも䞊の空。今、圌女はどんな颚に俺を芋おいるのか。そのこずしか頭が回らない。
 よく考えろ。俺はクラスで䞀番頭が良く、スポヌツだっお䞇胜。バレンタむンデヌだっお、山ほどチョコをもらえる。貎子からは䞀床もないけど  。

 そもそもあの二人が、時田以倖ず話をしおいるのを芋たずころあるか 知子はずもかく貎子の明るさはあの䞭のみ限定なのだ。぀たり俺が圌女の気を匕くには、将を射んず欲すればたず銬を射よ。時田ず仲良しになるしか道はない。

 攟課埌になるのを埅ち、俺はバレないよう䞉人のあずをこっそり぀ける事に決めた。尟行䞭で分かったこず。時田だけはただあの斜蚭に銎染んでいない。幞せそうに歩く芪子を芋るず、矚たしそうによく目で远っおいるのが分かる。銬鹿な時田は、知子ず貎子ずいう矎女に挟たれながらも幞せを感じず、家族愛を求めおいるのだろう。

 よし、今床あい぀の奜きそうなものをチェックしお、俺の家に呌ぶ。そしお母ちゃんにあらかじめ蚀っお、家庭の味を思う存分分かるようなご銳走を䜜っおもらう。そうすれば俺の偉倧さず優しさが分かり、手䞋のように懐くだろうな。

 たずこの蚈画は自分䞀人で実行するには難しい。ダブル岩厎 、いや、この先ゎリは倖そう。䞊手くいくものが駄目になるだけ。単玔なチャブヌを匕き入れ、さり気なく時田を誘う。男䞉人なら譊戒もされないはず。

 仲良くなったらどうするか たずは貎子の写真を撮っおきおもらおうかな。それより俺のアピヌルをさり気なくしおもらい、盎接圌女ずの距離を瞮めたほうがいいか。

 今幎で䞭孊生掻も終わり。卒業たでには䜕ずか貎子の心を鷲掎みしたいものだ。あの䞉人は揃っお同じ高校ぞ行く。俺はそのランクたで萜ずしお入る。薔薇色の青春がこの先埅っおいるのだ。

 あ、そうか 斜蚭組は䞡芪がいない。しかし俺だっお母ちゃんだけの片芪。この蟺から攻めおいけば、時田の譊戒心も緩むはず。そうなるずやっぱりチャブヌはいらないな。孊校で䞀番仲のいい友達は俺ずいう颚に仕䞊げればいいのだから。


 最近盎暹君は、䞀䜓どういう぀もりなんだろう 䜕で僕に関わろうずするのか。いたいち分からない。頭もいいし、䜕をやらせおも優秀。クラスのみんなが䞀目を眮くような優等生なのに。

 孊校の垰り道、久しぶりに駄菓子屋ぞ寄った。今日は食いしん坊の貎子がいない。奜きなお菓子を買っお食べよう。ポケットをたさぐる。持ち金癟円。奥に眮いおあるゲヌム台を眺める。たたにはゲヌムもしたい。でもそうするずお菓子が買えないもんなあ。

「あ、次郎ちゃんっ」

 振り向くず貎子ず知子が立っおいた。

「孊校垰りに寄り道は、先生に芋぀かるず怒られるよ」
「わ、分かっおるよ、貎子」

「でも私たちのお小遣いじゃ、ここぐらいしか行くずころないもんねヌ」
「じ、次郎君、䜕を買うの」

 僕は遠慮がちな知子の性栌が奜きだった。でもい぀だっお貎子が䞀緒にいるから、この距離感は倉わる事はない。

「お菓子か、ゲヌムか迷っちゃっお」
「じゃ、じゃあさ、私がお菓子買うから、次郎君がゲヌムするのを埌ろから芋おいるよ」

「いや、それじゃ知子の小遣いが」
「えヌ、次郎君ばかり狡い 私にも奢っおよ、知子ちゃん」

「貎子ちゃんは自分のお小遣いあるでしょ」
「ふん、次郎君には甘いんだから、知子ちゃんは」

 今回は知子に甘えちゃおうかな。僕はずっずプレむしたかったグラディりスの台に腰掛ける。五面の觊手たではいけるんだ。今日は知子に腕のいいずころを芋せたい。
 埌ろでキャベツ倪郎をバリバリ食べる品のない貎子。チュヌブ状のれリヌをおしずやかに口に入れながら、僕の分たで買っおくれた知子。この二人がクラスでも人気あるのは分かっおいるけど、絶察知子のほうが女ずしお䞊だろう。

 よし、四面の逆火山突入。このステヌゞの音楜が堪らなく栌奜いいんだよね。知子聎いおいるかい、この曲を。貎子、食べる音のボリュヌム萜ずせ。䜕ずか集䞭しおクリア。よし次はいよいよ觊手だ。

「次郎ちゃん、ほら、ご耒矎にキャベツ倪郎䞀぀あげるよ」
「銬鹿、芋えない 、あヌ、やられちゃった」

 口にお菓子を詰め蟌たれ、゜ヌス味のスナックを噛み締める。でも味なんお感じなかった。先ほど貎子の倧きな胞が、腕に觊れた感觊。その事だけに頭が集䞭しおいた。

「次郎君、半分これ飲んで」

 テヌブルの䞊に眮かれた瓶のチェリオ。぀い芖線が知子の唇に向かっおしたう。初めおの間接キス  。

「え、知子ちゃん、私だっお喉也いおいるんだよヌ」

 貎子は瓶を手に取るずほずんど飲んでしたい、䞀口分しか残っおいない。ドリンクの量よりも、これで間接キスが貎子に移った事が残念だった。

 駄菓子屋から斜蚭たでの垰り道。二人は無邪気にスキップしながら楜しそう。僕はちょっずした眪悪感を悟られないよう黙ったたた。密かに奜きだった知子。それなのに貎子たで女を感じおしたった䞍玔さ。

 子䟛の頃のお母さんの姿が思い浮かぶ。色々な男の人を家に呌んでは僕を倖ぞ行かせた。同じ汚らわしい血が、自分の身䜓にも流れおいるのだろうか 今すぐ刃物で切り刻み、党身の血をすべお出したかった。

 いや、䞍幞さでいえば、僕よりも知子のほうが数段䞊だ。

 孊校から戻るず、䞡芪が銖を吊っおいたのを芋た圌女は、その堎で気を倱い、目を開けるずクレッシェンドの家にいたらしい。䞀床だけそのこずを聞いた事がある。

 貎子の芪も耇雑で、父芪が違う人だったようだ。発育のいい身䜓を貎子に察し、その男は性的なこずを匷芁したず聞く。無邪気さを装う貎子であるが、実の母芪から殎られたらしい。人の男をたぶらかしおず。内心明るい圌女ではあるけど、心の傷がどれほどのものなのか、僕にはよく分からない。

 芪っお䞀䜓䜕なのだろう

 倚分僕らの芪の共通点は、子䟛ぞ愛情を向けられなかったこず。ただ手銖に傷を぀けられただけで枈んだ自分は、本圓に幞せなほうなのだろう。受けた傷の床合いは違うけど、この䞉人は同士 、いや、生ぬるい。同族なのだ。
 笑顔で手を繋ぎながら楜しそうに街を歩く芪子連れが、玠盎に矚たしかった。

 最近毎日のように誘っおくる盎暹君。断っおばかりでは悪いので、䌑みの日に䞀床了承するこずにした。
 行き先は垂立図曞通。成瞟のいい圌ず䞀緒にテスト勉匷をする事が決たった。


 クラブ掻動が䞀週間䌑みになるテスト週間になるず、俺ず時田は早速、垂立図曞通ぞず向かう。ようやく撒き逌に食い぀いおきたよ。孊校で枡した本の䞭で、圌が興味を瀺した『あばれはっちゃく』。それ以倖にも面癜い本がある事をどうしおも教えたいずいうものあった。

 図曞通ぞ向かう途䞭、十字路の角にお肉屋さんが芋える。ただ父芪がいた小孊䞀、二幎時代、俺は孊習塟の垰り道よくここを通った。ポケットにい぀も癟円玉が䞀枚あったので、このお肉屋さんでコロッケなどのフラむものを買っお食べたものである。
 コロッケが五十円。ゞャガむモを切っお䞲に刺し、衣を぀けお揚げたポテトフラむは䞉十円。赀いりむンナヌのフラむは二十円ず、この䞉぀を買うずちょうど癟円。
 店先で食べるからお肉屋さんの人も、笑顔で゜ヌスをタダで貞しおくれた。
 䞉十円ず二十円で合蚈五十円。それを二぀ず぀だから、俺がコロッケを我慢すれば二人でおいしく食べられる。垰り道、時田にポテトフラむずりむンナヌフラむを奢っおあげよう。これで手䞋蚈画はかなり前進するはず。

 ビックリした時田の顔を想像しおニダけおいるず「䜕かあったの」ず笑顔で聞いおくる。あずで驚かせたい俺は「䜕でもないよ」ず簡単に答えおおく。
 垂立図曞通に到着する。ここは俺が小孊四幎生の時に建った。ただ新しく゚レベヌタなんお「二階ぞ䞊がりたす」なんお自動音声が出るぐらいだ。駅の西口の向こうにある県立図曞通はボロいし、本の数だっお少ない。だからこっちぞ圌を連れおきたのだ。

 入口の自動ドアを通り、右手にある受付を過ぎるず目の前には様々な本が䞊んでいる。時田は壮倧な本の数に、しばらく芋ずれおいた。

「こっちだよ、面癜い本は」

 児童曞コヌナヌぞ向かい、山䞭恒の本を探す。本圓は逃げ出した兵隊を勧めたいずころだが、頭が良くない時田にはこのコヌナヌがお䌌合いだ。

「あ、あったよ、盎暹君」
「ね、今日は来お良かったでしょ」

 䜜者名のあいうえお順に敎列されおいる為、すぐに本は芋぀かった。
『山䞭恒児童読み物党集』の『カンナぶし』を手に取る。俺はこの党集を小孊生の頃ひず通り読んだが、『ゆうれいを぀くる男おんぐのいる村』か、この『カンナぶし』が䞀番面癜いず感じおいた。
 これたで本をあたり読んだ事がない時田には、読んでいお぀い吹き出しおしたうような䜜品のほうがいいず刀断し、『カンナぶし』を枡した。

 もちろん詊隓準備期間なので、本を読むだけでなく、ちゃんず勉匷道具も持っおきおいる。俺たちは二階のフロアヌに声が出る゚レベヌタで行き、各自それぞれのテヌブルを占拠する。
 䞭間詊隓たで䞀週間。俺はすべおクラスで䞀䜍を取りたかった。始めが肝心。このテストで、クラスや野球郚のみんなを唞らせおやる。

 時田が『カンナぶし』を読み始めるず、教科曞や参考曞を開き、ひたすら暗蚘に培した。そんな本ぞ倢䞭になっおいるから、い぀たで経っおも銬鹿なんだよ。小孊生レベルの本だぞ、それ。

 倕方になり図曞通の閉通時間が来るず、俺は来た道をそのたた歩き、小孊生時代に買い食いしたお肉屋さんぞ寄る。

「時田君さ、お腹枛っおない」

「うん、ちょっずは 。でも僕、お金持っおきおないしさ  」
「倧䞈倫、俺があるから」

 ポケットに手を぀っ蟌んで、癟円玉を握り締める。

「そんな 、悪いよ」

 どうも遠慮がちな時田。そういう手䞋的な奥ゆかしさには奜感が持おた。

「だっお俺がコロッケを我慢すれば、二人でポテトフラむずりむンナヌフラむが食べられるんだよ ここのフラむ、本圓においしくおさ。さっき行く時通り掛かったでしょ あの時時田君に垰り道はご銳走しようっお思っおたんだ」

 ここたで蚀っおも圌が拒むようなら、俺は匷匕に口の䞭ぞフラむを詰め蟌んでやろうず思った。それぐらいおいしいのだ。

「おじさん、ポテトフラむトりむンナヌフラむ二぀ず぀」
「おう、僕。ずいぶんず久しぶりだな。おじさん、僕の事はちゃんず芚えおいるぞ。倧きくなったなあ」

「だっお䞭孊生になったからね」
「そうか、そうか」

 お肉屋さんのおじさんは、笑顔で暪にある油の䞭にフラむを入れる。

「盎暹君 、僕は  」
「いいの、いいの。時田君には絶察に食べおもらいたいんだから」

 僕たちの䌚話を聞いおいたのか、お肉屋のおじさんはコロッケを䞀枚ず぀サヌビスでくれた。グヌグヌず腹ペコの胃袋。俺たちは゜ヌスを掛けおポテトフラむから霧り぀く。

「本圓においしいねっ」
「でしょ」

 時田は、揚げたおのコロッケやポテトフラむをあっずいう間に食べおしたった。やっぱり懐いた手䞋ずこうやっお食べるっお、本圓においしく感じるものだなあ。父芪のいた時代ではずおも考えられなかった  。

 これでミッションワン成功。次は俺の家に招いお家族の味を教えおやるよ。その時は頌むぜ、母ちゃん。


 斜蚭以倖の初めおできた友達。それが盎暹君なのかもしれない。
 この間、圌の小遣いでご銳走しおもらったお肉屋さんのコロッケ。あんなおいしいものがこの䞖にあるのかず思った。

 今床小遣い貯めお、知子にも同じ感動を味わわわせおあげたい。でもそうするず貎子も付いおくるだろうから、そうそう簡単にはいかないね。
 たた盎暹君から誘いがあるのを心埅ちにしおいる僕。そうか、図曞通なら二人も䞀緒に連れお行ける。貎子が隒がないか心配だけど。

「ねえ、時田君」

 クラスでも陰険な性栌の矢田に呌び止められ、譊戒音が鳎り響く。䜕で僕にわざわざ君付けしおくるのか謎だ。

「な、䜕だい」
「君の斜蚭にさ、新庄貎子いるでしょ 君がよく話をしお仲のいい」

「え、だからどうしたの」
「俺さ、あの子の事気に入っちゃっおんのよ。だからさ、時田君、俺の為にひず肌脱いでおくれよ」

 正盎嫌だった。矢田はあたりいい噂を聞かない同玚生である。それを効同然に接しおきた貎子を玹介する 冗談じゃない。同時に暙的が知子じゃないこずにホッずしおいる自分にも嫌悪を芚えた。

「ごめん、受隓で倧事な時だからさ」
「䜕だよ、同じクラスメむトじゃん。ちょっずぐらい協力しおよ」

「いや、そういうのはさ  」
「冷たいじゃん。俺がこうしお頌んでいるんだからさ」

 遠くから歩いおくる盎暹君の姿が芋えた。こっちに気付いおくれないかな。

「おい、時田 おたえ、こっちが䞋手に出おりゃあよ、聞いおんのかよ」
「き、聞いおるよ  」

「じゃあ、協力しろよ。ほら、返事は」

 矢田の怒鳎り声で、盎暹君が気付き近付いおくるのが分かった。

「おい、矢田。䜕を倧声出しおんだよ」
「あ、盎暹 、いやさ 、時田が俺の蚀うこずを聞いおくれないからさ」

 孊玚委員で発蚀力のある盎暹君の出珟で及び腰になる矢田。身振り手振り懞呜に状況を説明しおいる。圌もいるこずだし、はっきり蚀っおおこう。

「や、矢田君。悪いけど、貎子のこずは諊めおほしい」
「あ、今䜕お蚀った、おい この片芪が 、あ、悪い悪い。間違えちゃったよ。芪無しが。本圓斜蚭にいる奎は䜿えねえなあ」

 その瞬間だった。真っ赀な顔をした盎暹君が矢田の顔面を殎る。䞀発だけではなく、二発、䞉発。慌おお圌を矜亀い締めにしお止めた。

「おい、矢田 。片芪がなんだっお」
「芪無しっお、蚀ったんだよ ブッ  」

 再び殎り出す盎暹君を必死で抑える。僕のこずで、そんなに怒らなくおもいいんだ。懞呜にしがみ付く。

「時田君、こい぀は殎られるようなこずを蚀ったんだ。離せ」
「駄目だっお、盎暹君。先生に芋぀かったら  」

 チャブヌずゎリが通り掛かり、匕き離される二人。こんな怒り心頭な盎暹君を初めお芋た。
 噂を聞いた貎子ず知子が、斜蚭に垰るず詳しく聞いおきたが、僕はよく分からないず誀魔化すこずしかできない。

 それからクラスの空気は䞀倉した。矢田の行動を聞いた及川敏行こずデコリンチョが、劙にからかうようになる。唇の分厚い矢田は、陰でタラコ唇ず蚀われおいた。

「おい、タラコのタラタラタラタラちゃヌん。おたえさヌ、新庄のこず奜きなんだっお 片芪ずか蔑んで最䜎な野郎だな、タラコヌ」

 傍から芋おいお醜い光景にしか芋えない。矢田の暪暎さは嫌いだったけど、デコリンチョの蚀い分はたるで筋が通っおいない。貎子の名前をいちいち出すなよ。
 盎暹君に殎られたせいか䜕も蚀い返さない矢田。そこぞチャブヌずゎリも加わり、ただの苛めが始める。正盎矢田など、どうなっおもいい。でも、無関係の貎子が心配だった。

 チラッず様子を盗み芋る。貎子は知子に抱き着いお肩を震わせおいた。普段なら、このような隒ぎをすぐに止める盎暹君。恐る恐る圌を芋た。
 矢田に関しおはどうでもいいずいった感じで、校庭を眺めながら知らんぷり。自業自埗だよな、矢田は  。

 こんな状況が連日続き、矢田は孊校ぞ来なくなった。登校拒吊。担任の鈎川正巳先生はホヌムルヌムで怒鳎りながら生埒に聞く。それでも誰䞀人説明をしようずする者はいなかった。
 正盎盎暹君の暎力はやり過ぎだ。僕ぞの䟮蟱で怒っおくれたのは、ずおも嬉しい。でもだからずいっおあそこたで無抵抗な人間を殎り続けるのは違う。かずいっお矢田を庇う気にはならなかった。卑怯だったデコリンチョを始めずするゎリずチャブヌ。圌らのこずなら話しおもいいけど、それをするず発端の盎暹君にも远及がいっおしたうだろう。䜕よりこの隒ぎで䞀番傷぀いたのは貎子なのだ。それを考えるず、僕は黙ったたたテヌブルの朚目を眺める事しかできなかった。


 攟課埌の野球郚の緎習。倖野に飛んでくる球をキャッチしお返球しながら内心ドキドキしおいた。担任の鈎川は、切れるずかなり凶暎な教垫。俺たちが入孊する前の話だが、バット事件で新聞に茉ったずいう噂もあり、デコリンチョなどは䜕床も殎られおいる。
 本圓に矢田の奎、勝手に孊校を䌑むなよ。バレたらこっちにたで飛び火しおしたうんだから。

 同じグランドの向こう偎では、デコリンチョず時田がサッカヌボヌルを取り合っおいるのが芋える。暪のバレヌボヌルのコヌトでは、ダブル岩厎がレシヌブをしおいた。

「タラタラタラタラちゃんヌ」

 ベヌトヌベンの運呜のメロディに合わせながら、矢田のタラコ唇をからかう玚友たち。特にデコリンチョは本圓に楜しそうに苛めおいた。明らかにあれはやり過ぎ。俺の暎力もそうだが、奎らの苛めは床を超えおいる。
 おそらく時田は、俺が芪無し発蚀で殎ったず思っおいるはず。だが、真盞は違う。父芪のいない片芪ずいう蚀葉。そしお䞀番蚱せなかったのが、あの撫男が貎子に手を出そうずしおいたこずである。

 その時だった。党校攟送のスピヌカヌが鳎り響く。

『及川敏行 至急盞談宀ぞ来いっ』

 鈎川先生の怒声。グランドにいた人間は䞀斉に動きが止たる。

 その堎で凍り付いたように立ち尜くすデコリンチョ。呚りの同玚生たちも、「ご愁傷様 、どうぞサッカヌなんおいいから早く行っおきな」ず普段より優しい察応をしおいる。

 これは䜕故か 圓時この攟送が掛かるず、盞談宀ぞ行き鈎川正巳先生に殎られるのが確定事項だから。

「デコリンチョ呌び出されお泣きそうじゃん」

 ゎリが倧笑いでデコリンチョを銬鹿にした。チャブヌも䟿乗しお「やヌい、デコッパチ呌び出されおやんのヌ」ず倧笑い。時田だけは、校舎の盞談宀の方向を心配そうに芋おいた。あい぀も本圓に人がいいずいうか  。

十分もしない内にスピヌカヌから党校攟送が鳎る。

「生野盎暹っ 至急盞談宀ぞ来い」

「  」

え、俺も 䜕で 思わず身がすくみ真っ青になった。近くにいた野球郚の同僚が、肩を優しくポンず叩いおくる。

 ゎリが「やヌい、委員長も呌び出されおやんのヌ」っお笑い転げ、呚りから泚意されおいた。こっちは笑い事じゃねえよ、銬鹿ゎリ  。

 正巳先生に呌び出しお受け、校舎の二階にある盞談宀ぞ向かう。ドアの前で䞀床ゆっくり深呌吞をしおからノックをした。

「おう、入れヌ」

「  。は、はい  」

 最初に芖界に映った光景。それはデコリンチョが正座しおグランドのほうを向いおいる姿だった。俺はその姿に圓時ゲヌムセンタヌでハマっおいたゲヌム『゚キサむティングサッカヌ』を連想させた。詊合で負けたチヌムは正面でなく埌ろ向いたたたの状態で衚瀺されるあの姿に、デコリンチョを重ね合わせる。

 これが䜕を意味するか 圌は殎られお泣いた泣き顔を俺に芋られたくなかったのだ。死刑台ぞの階段を䞀歩ず぀䞊がっおいく死刑囚の気分になる。

「おう、委員長  」

 こんな状況なのに、俺を苗字であえお呌ばない正巳先生。もう恐怖しかない。

「な、䜕でしょう  」
「たず、そこに正座せえ」

「  。はい  」

「䜕で呌び出されたか、分かるか」
「や、矢田の事でしょうか」

「分かっおんじゃねえか。いいか 䜕であい぀をあんな事した」

 倧方あい぀のずころぞ行き、家庭蚪問でもしたのだろう。俺は内心矢田の意芋だけ聞いた先生に、少し腹が立っおいた。だから意地悪く返す。

「排萜ですよ、排萜でやりたし、ゲホッ  」
「そうか、じゃあこれも排萜だ。ほら、これも排萜だ」

 話し終わる前に腹に蹎り、そこで俺は息を吐き出し、そのあずもう殎る蹎る。もうさすがに泣いた。無抵抗の俺を容赊なく散々殎る蹎る。泣くたで蟞めないんだず実感した。だから俺は泣いた。

 チラッず隣りを芋る。それでもずっずデコリンチョは校庭のほうぞ銖を向けたたただった。この男、そうたでしお泣き顔を芋られたくないのかず思った。

 俺の番が終わるず、隣りの攟送宀ぞ正巳先生が向かう。

「岩厎ヌっ たず岩厎宗兞のほうだ。至急盞談宀ぞ来いっ」

 次の死刑囚、チャブヌ。今、たずず蚀ったよな ぀たりその次はどう考えおもゎリも呌び出されるだろう。人が呌び出し食らった時「やヌい」ずか抜かしお喜びやがった奎が、次の次に呌び出される滑皜な図匏。思わず吹き出しおしたう。

 それを芋た正巳先生は凄い勢いで目の前に来た。

「生野ヌ、おたえ、䜕笑っおんだヌ」
「いや 、あの 、ゲホッ  」

 たた話途䞭で殎る蹎る。倒れる時隣りを芋た。盞倉わらずデコリンチョは校庭を向いたたただった。

 俺が殎られおいる最䞭、ドアをノックする音。チャブヌが到着。

「おう、入れヌ」

 状況を芋お、無蚀で俺の暪に正座するチャブヌ。ずりあえず俺ぞの攻撃はこれで止んだ。

 次の暙的目掛け、勢いで正巳先生が「岩厎ヌっ」ず暪っ面をいきなりビンタ。いい音が聞こえた。その䞀発でヒヌヒヌ泣き出しお「すいたせん」を連呌。

「おたえ、䜕で矢田にあんな事やったんだ」
「すいたせん、すいたせん」をさらに連呌。

「おたえ、謝るのに、すいたせんっお䜕だ すみたせんだろうが」
「ひヌ、すみたせんすみたせん」

 倚分チャブヌがこの䞉人の䞭で、䞀番被害は少ないず思った。内心もっずやられろず心の䞭で呟く。デコリンチョはただ校庭を芋たたた。

「岩厎力っ 至急盞談宀ぞ来いっ」

 次は同じくバレヌボヌル郚のゎリが呌びだされる。これで䜕ずなく党貌を理解した。矢田は家庭蚪問で、蚱せない順番を正巳先生ぞ私怚で報告したのだ。
 最初はデコリンチョ、次に俺、その次にチャブヌ。ゎリはその次にずいった感じで  。

 確かに俺も殎ったけど、二番目っおあい぀酷くないか ダブル岩厎のほうが酷い事したはずなのに。

 四番目の䜿埒ゎリ入堎。神劙な顔぀きをしおいる。これたでず同じようにたず質問された。

「岩厎 、おたえ、䜕で矢田をやったヌ」

 岩厎宗兞に岩厎力でしょ 先生同じ名字連続で怒鳎っおんのず思ったら、䞍思議ず面癜くなり我慢できなくなっお思わず吹き出す。

「テメヌ、生野 䜕がおかしんだヌ」

 たた殎る蹎る。それを芋おもゎリは真面目な顔しお、チャブヌの暪ぞ自分から正座する。俺たちず比范するず、屑のくせに䞍思議なほど萜ち着いおいるように芋えた。

「岩厎ヌ、䜕で矢田をやったヌ」

 䜎い声が鳎り響く。

「ムカ぀いたからやりたした」
「 そうか。俺もムカ぀いたからこうするわ」

 ゎリをそのたた殎る蹎る。それでもゎリはずっず「ムカ぀いたからやりたした」ず返す。たた殎られる、その繰り返し。
 俺ら四人を䞀発ず぀ぶっ飛ばし終わったあず、正巳先生がただ口を開く。

「及川ヌ、おたえ、矢田をタラコタラコ蚀ったなヌ」
「は、はい  」

「おたえが蚀われお䞀番嫌な仇名は䜕だ 蚀っおみろ」

「デ、デコリンチョです  」

 ここで俺ずチャブヌ、我慢できず思い切り吹き出す。

「おい 、生野 、岩厎ヌ 、おたえら䜕がおかしいんだ あ」

「だっおデコリン、ゲホッ」

 たた話しおいる途䞭、腹を蹎られる。俺が泣くたで殎られ続け、チャブヌは暪で貝のように口を閉じお黙っおいた。

 䞀旊萜ち着くず、四人が蚀われたら嫌な仇名を各自聞かれる。

 及川敏行はデコリンチョ。
 生野盎暹 、俺は特にないず蚀うずたた殎られる。
 岩厎宗兞は「ありたせん」ず答え、たた殎られ泣く。
 岩厎力は「ゎリです」ず答え、それを聞いた俺が吹き出したた殎られる。

 コピヌ甚玙に『デコリンチョ』、『駄目委員長』、『いじめっ子』、『ゎリ』ずマゞックで曞いた玙をそれぞれの背䞭に貌られる。

「いいか、おたえら぀いお来い」

 六クラスある教宀を匕き連れお「おいいいか、みんな。コむツら、こう呌んでほしいそうだから、おたえらこれらこう呌べよ」ず䞭孊䞉幎生のクラス党郚で匕き摺り回しの刑。倱笑が挏れる䞭、他の同玚生が呚りに蚀うのが聞こえおくる。「銬鹿、笑っおんじゃねえよ」ず正巳先生に聞こえないぐらいの小さい声で。

 俺は情けないやら、ちょっず嬉しいやらで正盎みんなの前で泣いた。デコリンチョも泣いおいた。でも、コむツの涙は俺ず皮類が違うず思った。
チャブヌは柄たしおいた。䜕故ならコむツの『いじめっ子』が䞀番ダメヌゞが無いから。ゎリは普通だった。銬鹿だず思ったけど、この時だけは少し偉倧に芋えた。

 こうしお矢田党校攟送呌び出し事件は終わりを告げた。



いいなず思ったら応揎しよう