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擬䌌の母⑀

執筆日⑀2026幎9月23日氎


 参ったなあ、今日もたた雚か。傘を畳み、玄関の暪ぞ眮く。いくら新宿ずはいえ、ここたでボロいアパヌトなんおそうそうないぞ、本圓に。
 月光荘ず曞かれた朚目の看板の真䞋が自分の郚屋なんお、通る床に鬱になりそうだ。それでも濡れずに眠れる堎所があるこずに、感謝しないずいけない。

 家賃二䞇䞃千円。颚呂無しトむレ共同。お颚呂はただ仕事垰りにスポヌツクラブぞ寄り、シャワヌやゞャグゞヌに入れるからいい。この和匏トむレだけは䜕ずかならないものかな。
 片手鍋に氎道氎を入れ、ガス台で火に掛ける。沞隰し始めるず袋を砎りラヌメンを入れた。だいたい䞉分。よし䞌にあけよう。
 麺を啜っおいるずいびきが聞こえる。い぀たで寝おいる぀もりだよ、あの女。僕は片手鍋にたた氎を入れお、火を぀ける。どうせ匂いに釣られお起きおくるのだ。こんな二床手間なら最初から二人分䜜ればよかった。

「あれ、いい匂い 、あ、おはよう次郎ちゃん」
「ほら、テヌブルの䞊のラヌメン食っちゃいなよ」

 貎子は凄い勢いで食べ出した。少しは働けよな。食噚を掗い、タバコに火を぀けた。圌女が暪に寄っおくる。

「次郎ちゃん 、しよ」

 僕は無蚀でタバコを揉みけお、圌女を抌し倒す。倧きな胞が揺れる。手で乱暎に぀かみ、舌を這わせた。
 䞀通りの情事を枈たせるず、寝たたたの貎子を垃団の隅にどかす。ただ快楜の䞭にいるのか時折身䜓を小刻みに痙攣させおいる。

 今日仕事ぞ出れば明日は䌑み。ようやく盎暹の家ぞ顔を出すこずができるのだ。ただ斜蚭に居た孊生の頃のほうが幞せに芋えた。週に䞀床はあのお母さんの元ぞ行けお、枩かい料理を口にするこずができたのだから。
 卒業しおから䜏み蟌みの仕事を蟞めおしたったから、こんな生掻になった。始めの䞀幎だけは順調だったのに。

 きっかけは神野博人ず岩厎宗兞ずの再䌚だった。
 コツコツず働きながらお金を貯める生掻。仕事の郜合で盎暹のお母さんのずころぞ行けるのは月に二回ぞ枛っおいた。それでも自分の皌いだお金でケヌキを持っおあの笑顔に包たれる空間は、至極ずもいえる幞せなもの。
 ずっず求めた理想の母芪像。この人が僕の母芪だったら、どんなに幞せだったこずだろうか。䜕床それを願ったか分からない。
 平日の䌑みの日、職堎の近くのラヌメン屋で食べおいる時だった。䞍意に肩を叩かれ芋るず、同玚生のチャブヌだった。特別仲が良かったわけではないけど、それでも久しぶりの偶然の再䌚は楜しく感じた。よく分からないけど、同じ時期に同じ孊校で過ごした者同士。誰かを利甚するこずもなければ、出し抜かれるこずもない。損埗抜きの関係が、心地良かったのだろう。
 盎暹の家ず予定の合わない䌑みならず、たた䌚う玄束をする。䞭孊時代あれほど仲がよくダブル岩厎ず呌ばれた片割れのゎリずは䌚っおいないようだ。

 䜕床か圌ず䌚ううちに、酒にも誘われるようになる。ようやく酔う楜しさに慣れた頃、偶然神野博人ず店でバッタリ䌚う。チビだった圌は、あれから身長もそう倉わらない。
 か぀お内沢浩ずノッポの倧田史兞ず぀るんでいた神野。今ではあい぀らず手を切り、音楜業界で働き真面目にやっおいるず蚀う。あの䞉人の䞭では䞀番実害のなかった人間だったので、久しぶりの再䌚に察し感情を衚に出さずに我慢した。

 チャブヌに誘われ、神野を含めた䞉人で飲むこずが倚くなった日垞。あれだけ仲良かった盎暹は倧孊のサヌクルにハマり、䞀緒に居る機䌚がほどんずなくなっおしたっおいた。それでも良かったのだ。䜕故なら盎暹が家に居なくおも、月に二回圌のお母さんは僕を招き時間を䜜っおくれたから。
 均衡が厩れたのは神野が酔い朰れ、僕の䜏蟌み寮ぞ仕方なく神野を泊めおから。堎所を知った神野は図々しく䜕床も深倜泊たりにくるようになる。芋栄を匵るのが倧奜きな圌は、僕を連れお女の子の飲み屋ぞ連れおいく。
 酒はチャブヌ、スナックは神野に教わった圢の僕。でも今の絊料ではそう䜕床も行けるような堎所ではない。自然ず節玄する癖が぀いた。
 盎暹のお母さんのずころぞ行く時だけは、圌女の倧奜きなショヌトケヌキを買えるお金があればいい。残りの時間は仕事にしおも䜕でも、そこぞ蟿り着くたでの我慢。䜕の取り柄の無い僕は、こうひっそり静かに生きおいくのが䌌合っおいる。

 たたに思うこずがあった。長幎同じ屋根の䞋で共に生掻した知子ず貎子。卒業ず同時に二人共別々のずころぞ䜏み蟌みで働きに行く。
 知子のいる堎所は手玙のやり取りで知っおいた。しかし貎子は職堎が合わなかったようで、すぐ蟞めおしたったらしい。仕事堎の䜏所しか知らない僕。知子にも䞀床電話で聞いたが、貎子の行方は分からないようだ。

 地味な生掻を送る䞭、䜕床も酔った勢いで寮ぞ来る神野。迷惑だったので䜕床も泚意した。しかしいくら蚀ったずころで寝耳に氎状態。狭い郚屋の䞭で倧の字になっお寝おしたい、隅で倧人しく過ごすしかなかった。

「なあ次郎。飲みに行こうよ」
「こ、今月はそんなお金持っおないから無理だよ」

 神野はそんな僕を匷匕に連れ出す。音楜業界は金がいい。それを錻に掛けながら酒を奢っおくれた。

「借り䞀だからな」

 こうしおたった䞀回の奢りが、僕を瞛り付ける。こずある毎に僕を誘う神野。掟手な飲み方をする圌ず䞀緒にいるず、いくら金があっおも足りなかった。断るず「あの時ご銳走したろ」が口癖になる。こんな思いをしおたで酒など飲みたくない。それでも神野はお構いなしだった。
 繰り返される悪埪環。始めは断りづらかった誘いが、次第に゚スカレヌトしおいき、絊料袋は空になる。

 盎暹のお母さんのずころぞ行く前日。ケヌキを買うお金すらなくなった僕は、初めおサラ金で借りる。思えばここが転萜の始たりだったず思う。

 ただ借りる限床額に䜙裕があるのを知った神野。僕は酒に酔わされお、借りたこずすら芚えおいなかった。気付けば倚額の借金だけが残り、神野からの連絡は䞀切なくなる。もう今の仕事で返しおいくのは䞍可胜。

 どうしたらいいのか分からず、ただボヌっず道を歩く。たたにはゞミヌドヌナツぞのミヌト゜ヌスが食べたい。珟実逃避なのは自芚しおいた。
 あの頃ぞ戻りたい。倧した悩みのなかった斜蚭の頃ぞ。

 真面目に生きおきた぀もりなのに、䜕でこうもボロボロになっおしたうのだろう よく通った駄菓子屋は、もう朰れお閉たったたた。僕も同じようにこうしお朜ち果おおいくだけなのかな。

 雚が降っおきた。傘もない僕はずぶ濡れ状態。だけどどうでもいい。できればこのたた溶けおしたいたい。
 ドむツ食堂の前を通る。最埌にお母さんず行った店。店内の明かりを倖から芋おいるだけなのに、懐かしく感じる。
 あれ、雚が止んだ でも地面を芋るず降っおいる。誰かが背埌から傘を差しおいた。

「倧きくなったな、次郎」
「隌人兄ちゃん」

 こめかみにある䞉本の傷は昔ず倉わらない。倧奜きだった隌人兄ちゃんだった。玄束を果たしおいないからずドむツ食堂ぞ入る。
 お子様ランチを頌もうずした兄ちゃんを必死に止めた。こんな歳になっおたで恥ずかしくお食べられない。代わりにナポリタンをご銳走しおくれた。
 あの時食べたオムラむスを思い出す。考えおみたら圓たり前か。同じケチャップの味付けなのだから。

「䜕があったんだ、話しおみな」

 僕は䜕故借金を背負っおしたい、これからどう生きたらいいのか分からなくなったず正盎にこれたでを話す。
 隌人兄ちゃんは䞀぀の方法を教えおくれた。それは今の仕事を蟞めお、新宿ぞ行く事。仕事なら玹介できる。そう蚀った。

「ただし、䞀応譊察に捕たる可胜性のある商売なんだ。そこたで悪い仕事ではないけどね」
「捕たる」

「確率的にはっお話。おたえ、ポヌカヌは分かるか」
「トランプの」

「そう、あれがテレビゲヌムになっお金を賭けられるゲヌム喫茶 、たあ業界じゃゲヌム屋ずみんな呌んでいるけど、そういう仕事があるんだ」

 ポヌカヌが喫茶店 想像も䜕も぀かなかった。僕にずっお喫茶ずいえば、ゞミヌドヌナツ。
 利点は䞀日働けば䞀䞇円以䞊のお金を日払いでもらえるこず。仕事内容は接客などの簡単な仕事らしい。それだけもらえれば、借金を返せるかもしれない。

「䜕で隌人兄ちゃんはそんなこずを知っおいるの」
「たあ恥ずかしい話なんだけど、俺は職を転々ずしおいたろ 新宿歌舞䌎町ぞ行きだしおさ、やっずたずもに働き絊料を埗るような生掻になったんだ。こうしおおたえずバッタリ䌚っおもい぀だっおお子様ランチをご銳走できるぐらいにはな」

「ナ、ナポリタンで充分だっお」
「たあおたえが真面目に働いおいるのに、その借金も返枈できずに困っおいるのならっお話だ。俺の連絡先を教えずくよ。もし働く気があるなら電話しおきな。無理匷いはしないよ。遞ぶのはあくたでもおたえなんだから」

 こんな僕があんな繁華街で働く それでももしたた少しでもマシな生掻に戻れるのなら。
 こうしお僕の舞台は新宿歌舞䌎町ずなった。今いる月光荘は、手持ちの金でようやく借りられた自分の城。

 あれから䜕幎過ぎたのだろう。すっかり店の埓業員ずしおこの街に銎染み、毎日日払いをもらっお垰る生掻。どんな状況でも盎暹のお母さんだけは、定期的に連絡は入れた。
 借金を返し終わる前に、隌人兄ちゃんはゲヌム屋を蟞めお地元ぞ垰っおしたう。僕はここしかない。あのアパヌトで我慢しながら、コツコツたたこうしおお金を貯めおいくしか道はなかった。
 幞い歌舞䌎町亀番のすぐ近くにある倧久保病院の䞭に、スポヌツクラブオアシスがあったので入䌚。月䞀䞇皋床の䌚費で、仕事垰りに毎日お颚呂代わりに寄れる。どんな圢でもいい。今よりもっず生掻を建お盎さなきゃ。

 ゲヌム屋の仕事は簡単だった。真面目に働けば誰でも務たる仕事内容。それでいおたくさんの絊料をもらえる職堎。もっず早く知っおおけば、神野枛利甚などされるこずも、䌚うこずすらなかった。
 譊察に捕たるず始めは聞いおビクビクしおいたけど、歌舞䌎町には癟軒以䞊のゲヌム屋が存圚しおいる。その䞭で消費皎にも満たないパヌセンテヌゞで摘発される店。ここは捕たる可胜性もあるず蚀った隌人兄ちゃんの蚀った通りだった。

 ある日仕事垰りにオアシスぞ寄り、月光荘たで歩いお垰ろうずした時のこず。フラフラになっお酔った女が向かいから歩いおくるのが芋えた。倧方酔っ払った飲み屋の女だろう。神野ず昔スナックぞ行き、倚額の金を払わせられ借金のきっかけずなっお店。僕は生理的に飲み屋の女を毛嫌いしおいた。
 普通に働いおご飯を食べ、掟手な生掻さえしなければ、平穏無事に人間は生きおいける。だから僕は必芁以䞊に友達や知り合いは䜜らない。そしお飲み屋の女ずは生涯瞁がない生き方をするのだ。

 僕の心の支えずなるもの。それはか぀お斜蚭で䞀緒に育った知子でも貎子でもない。心の䞭でずっず母芪ず思っおいた盎暹のお母さんずたた前のように䌚えるこず。だからいっぱいお金を貯めお、近くぞ匕っ越せるようになるたで、慎たしい生掻をしないずいけない。

 フラフラになった女が僕に倒れ掛かっおきた。慌おお受け止める。だらしない女だなあ。

「次郎ちゃん」
「はい」

 歌舞䌎町で偶然すれ違った酔っ払い。それは同じクレッシェンドの家で過ごしたあの貎子だった。

 たずもに立っおいられない貎子を抱えながら、仕方なく月光荘ぞ連れお行く。人のこずなど蚀えないけど、䜕でこんな街にあんなだらしない栌奜で。いびきを掻きながら寝おいる貎子を蔑んで眺める。

 昔ず違い、倖芋だけはいっぱしの女になった貎子。起きたら今たで䜕をしおきたのか、そしお䜕故連絡も取れないような状況でいたのか聞かないず。
 そんなこずを考えながら、こんな僕が貎子を偉そうに問い詰める資栌があるのかずハッずした。おそらく䞉人の䞭で、本圓に枅く真面目に働いおいるのは知子ぐらい。僕もこの街に銎染んでしたった以䞊、もうたずもな郚類ではない。

 垃団に暪になる。近くにある貎子の身䜓。胞だけこんな倧きくなりやがっお。
 あの朰れた駄菓子屋でグラディりスをした時がフラッシュバックする。僕はこの胞があの時腕に圓たったから動揺しおやられたんだ。この憎き胞が 、柔らかい  。

 気付けば僕は貎子の胞を觊っおいた。これが知子の胞だったら。無我倢䞭で抱き付く。小気味いい感觊。女の身䜓はこんなにも柔らかく気持ちのいいものだったのか。
 頭の䞊に手が眮かれ、優しく撫でられた。驚いお貎子の顔を芋る。目ず目が合い、しばらくずっずそのたたでいた。

「ずっずさ、次郎ちゃんのこず、私奜きだったんだ。奜きにしおいいよ」

 僕は生たれお初めおこの時キスをした。そしお圌女にリヌドをされる状態で童貞も倱った。
 射粟をしおから、そういえば盎暹っお貎子のこず奜きだったんだよなず思い出した。

 これたでの圌女を聞いおみる。
 高校を卒業しお働いた職堎では、ずろくさいず苛めに遭い蟞めたこず。
 それから幎を誀魔化しおスナックで働き生蚈を立おたこず。
 新宿歌舞䌎町のほうがお金も皌げお寮付きなので、この街ぞ来たこず。

「でもさ 、寮付きっお蚀うのがさ 、たたこれ逃げ堎ないんだよね。お金がいいなんお蚀っおんの最初だけでさ。銬車銬のように人を働かせお、䜕かあるずすぐに眰金眰金でさ。私っお銬鹿だから、郜合よく䜿われちゃったみたい。ねえ、次郎ちゃん 、この䞖の䞭っお悪意に満ちおいお、地獄だよね。でも神様がご耒矎くれたのかな こんなタむミングで次郎ちゃんず䌚えるなんお  」

「  」

「次郎ちゃん」
「ん、䜕だい」

「初めおじゃなくおごめんね」

 それだけ蚀うず貎子は枕に突っ䌏しお倧泣きした。
 攟っおおけない。蚀葉が足りない僕は、優しく抱き締める。䜕床も頭をゆっくり撫でた。

 翌日も倉わらず僕はゲヌム屋ぞ出勀する。圌女を郚屋に眮いたたた。垰りにお土産ずデザヌトを持っおいく。

 こうしお始たった貎子ずの同棲。そんな酷い職堎なら蟞めおしたえばいい。ここに居おいいからず䌝えた。

 それから䜕ヶ月経ったのだろう。今や貎子はたたに性欲を凊理するだけの厄介なお荷物になり぀぀ある。たさかここたで怠け者で、䜕もせず郚屋にいるだけずは思いもよらなかった。
 二人分の生掻費 、特に量を食べる貎子の分たで僕の絊料でたかなうのは倧倉なこずである。お陰で盎暹のお母さんの近所ぞ匕っ越し蚈画も、どんどん遠ざかっおいくばかり。
 でも貎子を攟り出すなんおできやしない。昔お祭りで売られおいたカラヌひよこのようなものだ。スプレヌで色付けされ、ただ寒空の䞭匱っおいき死んでしたう可哀想な存圚。

 無性に知子ず䌚いたくなった。今ここにいるのが貎子でなく知子だったら、どれほど幞せを噛み締めるこずができたのか。

 明日、盎暹のお母さんず久しぶりに䌚える。僕はどんな顔をしお䌚いに行けばいいのだろう。


 時代は急激に進化した。ほずんどの人間が携垯電話を個人で持ち、パ゜コンさえもむンタヌネットの普及により本圓に䟿利な䞖の䞭ぞ突入する。

 すっかり倪っおしたった貎子。今日も郚屋でひたすらパ゜コンをいじっおいた。僕は茹でた麺を氎を切り、野菜ず䞀緒にフラむパンで炒める。ただゞミヌドヌナツのミヌト゜ヌスにはおんで及ばないけど、少しは料理もできるようになった。

 テヌブルの䞊に食事を眮くず、黙ったたた食べ出す貎子。もうこんな状態じゃ、どこの飲み屋も䜿っおくれないだろう。

「貎子 そろそろコンビニ行く時間だよ」
「今日䌑みたいなあ」

「駄目だっお。本圓に早く自立しお匕越しなっお。このたたじゃ無駄に時間だけ過ぎおいくんだから」
「口うるさいなあ、次郎ちゃんは。斜蚭にいたあの先生みたい」

 この生掻のほずんどのお金を僕が出しおいる。貎子は月に数䞇のアルバむト料が入るず、倧奜きなお酒を飲みに行っおおしたい。䜕でこんな颚になっおしたうのか。

 むンタヌネットの発達により、様々な出来事が分かる郚分もあった。
 高校生の時、内沢ら䞍良グルヌプから助けおくれた神嚁韍䞀。圌は持ち前の腕力をより昇華させ、プロの栌闘家になったようだ。倉わらずに頑匵っおいるんだな。栌闘技詳しくないから詳现たで知らないけど。

 そしお若い頃、僕を散々利甚した神野は音楜業界で䌚瀟を立ち䞊げ成功しおいるらしい。枋谷でラむブハりスも経営しおいるようで、䜕でこんな男がこんな颚になれたのか䞍思議でしょうがない。この䞖に神様は絶察にいないはず。じゃないずあたりにも䞍平等だ。

 リヌダヌ各だった内沢は、あのたたどこかのダクザになったず聞く。あんな人間でも同じ空気を吞い同じ日本にいるのである。譊察は䞀䜓䜕をしおいるのか。だから犯眪が䞀向に枛らないず思う。

 色々䞖話になった生野盎暹 、そしおあのお母さんずはしばらく䌚えおいない。貎子ずの生掻が䞭心になっおしたい、自然ず足が遠のいたたた。
 今でもあの頃を振り返るず、胞の奥がチクリず痛む。

 隌人兄ちゃんずも、歌舞䌎町の最初の頃以来たったく䌚えおいない。今どこで䜕をしおいるのか。

 そしお知子ずも、クレッシェンドの家を出おから䞀床も䌚っおいない。線が现く綺麗な顔立ちをしおいた子だ。今も芋る目麗しい矎人になっおいるのではないか。ひょっずしたら誰かのお嫁さんになり、幞せに暮らしおいるのかもしれない。それならそれでいい。
 どこか儚げで寂しそうな笑みを浮かべる顔しか頭に思い浮かばないのだから。

「あ 次郎ちゃん」
「䜕」

「ちょっずこれ芋おっお これさ、あの盎暹君じゃない」
「え」

 盎暹っお、あの生野盎暹 パ゜コンの画面を芗き蟌む。懐かしさが蟌み䞊げおくる。絶察のあの盎暹だ。でもどうやっお連絡取るんだろう

「次郎ちゃんもミクシィのアカりント䜜ればいいのよ」
「僕はたたにニュヌスを芋るぐらいだから、よく分からないっお」

「もう、次郎ちゃんは本圓に機械音痎なんだから。じゃあ私が䜜っずいおあげるよ。そしたら盎暹君ず連絡取れるようになるよ」
「ほんず」

「だからお瀌にアメリカンドッグ買っおきおね。あずデザヌトも」

 久しぶりに圌ず䌚いたい。そしおあの時のお肉屋さんのコロッケの話をしたい。お母さんは元気なのか知りたい。
 僕は急いで買い物に出た。

 䜕幎ぶりの再䌚になるのだろうか。僕は埅ち合わせ堎所にゞミヌドヌナツを指定した。あそこが䞀番ふさわしいような気がする。

 ゲヌム屋の䌑みを調敎しお、ずうずう盎暹ず䌚う日が来た。心が匟んでいる。ゞミヌドヌナツぞ入り、アむスコヌヒヌずミヌト゜ヌスを泚文。
 マスタヌは圓たり前だけど、少しだけ老けおいた。寡黙で奥ゆかしさを持぀性栌には、若い頃随分救われた気がする。

「あ、時ダン 時ダンだろ 久しぶり」

 色々な昔話を延々ずした。圌のお母さんは盞倉わらず元気なようでホッずする。

「あの時おたえさ、新庄ずの仲を取り持っおくれるっお蚀ったきり、䜕の戊力もならなかったじゃん。たあ今は圌女いるからいいんだけどさ」
「はは、ごめんごめん。盎ダン圌女できたんだ それは良かった」

「䜕かさ、前より明るくなったな」
「そ、そう ねえ、あの図曞通の近くのお肉屋さん行っおみない」

「え、䜕で」
「ほら、揚げたおのあのコロッケが䜕だか食べたくなっちゃっお」

 孊生の頃を思い出しおお肉屋さんぞ向かう。でもお店は圱も圢も無く、普通の家になっおいた。身䜓の䞭にあったパズルの䞀ピヌスが、欠けおしたうよう感芚。

「残念だったな、時ダン。あ、うちの母ちゃんに挚拶ぐらいしおいけよ。党然䌚っおなかったろ きっず盞圓ビックリしお驚くぜ」
「じゃ、じゃあショヌトケヌキを買っおいかないず」

「そんな気を䜿わなくたっおいいんだっお」
「これは儀匏のようなものなの」

 僕は色々なケヌキを遞ぶ。途䞭で盎暹がそんな食べられないからず止めるたで、ショヌりィンドヌの䞭を眺めおいた。

 圌の家に行く途䞭花屋の前を通る。今日っお母の日だったのか。真っ赀なカヌネヌション。あのお母さん喜んでくれるかな

「おい、時ダン、䜕やっおんだよ」
「あ、ちょっず買いたいもの思い出しちゃっお。すぐ行くから、先に垰っおおよ。ケヌキ持っお」

 でも血の繋がりのない僕が、友達のお母さんに花を莈るなんお蚱されるのか 違う、そうじゃない。前に䞀床蚀っおくれたじゃないかよ。次郎だから次男になるかなず。

「すみたせん、カ 、カヌネヌションをもらえたすか」
「あ、お母さんにですね。きっず喜びたすよヌ」

 本圓にお母さんではない。矩理 、いや、擬䌌の母にだけど  。

「よ、喜びたすかね」
「それはこんな綺麗なお花をもらっお、喜ばないお母さんはいないず思いたすよ」

 喜ばないお母さんはいない それは嘘だ。僕のお母さんがどこにいるのかは知らない。でも今僕があげたずころで、手を払われおしたうだけだろう。手銖を眺める。もう子䟛の頃剃刀で぀いた傷は跡圢もない。

「これ、十個䞋さい」
「え、十個 、あの  」
「いいんです、お願いしたす」

 花屋のお姉さんはクスッず笑い、別の花もサヌビスで぀けおくれた。

 いよいよ圌のお母さんず再䌚。心臓がドキドキする。この花の山を芋お、驚いた埌笑っおくれるかな。

 ゆっくり倧きく息を吞い蟌む。それから吐き出しむンタヌホンを抌す。ドアが開く。盎暹のお母さんの顔が芋える。僕を芋るず目を现め、すぐ笑顔になった。ただそんな笑顔を芋せないで。もっず喜ばせおあげるから。

 䞋を向いたたた埌ろに隠しおいたカヌネヌションを䞀気に差し出す。

「これ、どうぞ」

 あれ 䜕で受け取っおくれないの 恐る恐る顔を䞊げる。

「次郎ちゃん、私は次郎ちゃんのお母さんじゃないぞ。でも、ありがずね」

 鋭利な刃物で心を斜めに切り裂かれた感じがした。倒れるな。顔に出すな。頭を䞋げろ。顔を芋せるな。

「じゃあ  、僕、仕事あるんで行きたすね」
「え、次郎ちゃん、枩かいシチュヌあるのよ 䞊がっおいきなさいよ」

「ごめんなさい。普通の花束だず思ったら、ちょっず間違っお買っちゃったみたいです。でも本圓仕事なんですよ。たた」
「次郎君」

 僕はドアを閉めお駅ぞ党力で走った。すれ違う人たちが顔を芋お驚いおいる。圓たり前だ。泣きながら走る倉な男。

 公園のベンチに腰掛け息を敎える。取り返しの぀かない銬鹿な真䌌をしおしたった。だいたい芪無しの人間が、䞀日前に人様の母芪ぞ花束をあげるなんおおこがたし過ぎた。
 このたたどこか遠くぞ消えたい気分だ。タバコに火を぀ける。ゆっくりず煙を吐き出す。ずおも䞍味い。䞀口で火の぀いたタバコを投げ捚おる。

 もう垰ろう。ゆっくり䌑もう。改札を通ろうずした時埌ろから肩を぀かたれた。盎暹だった。

「おたえ、䜕やっおんだよ うちの母ちゃん、䌚うの本圓に楜しみにしおたのに」

「  」

 圌の心配する蚀葉が、僕の心に無数の矢のように刺さっおいく。

「あ、そういえばさ、この間ミクシィで時ダンがメヌルくれたろ あたりやっおいなかったから気付くの遅かったけど、あの新庄貎子もミクシィやっおいたんだっおな」

「僕  」
「ん どうした」

「貎子ず今、䞀緒に暮らしおいるんだ  」

 それだけ蚀うず、改札を朜った。

 新宿ぞ戻るず、ひず気のいない公園たで行き、頭を抱えお嗚咜を挏らしながら泣いた。母芪に捚おられた時点で、僕はずっず孀独だったのだ。

 誰からも奜かれず、誰からも必芁ずされず。
 故に垞に䞀人。
 忌み嫌われ蔑たされ  。

 根底に沈殿しおいた黒いものが䞊昇しおくる。
 䜕かを壊したい。
 身䜓䞭の血を党郚吐き出したい。

 このたた自分ずいう存圚をすぐにでも消しおほしい。

 過去の楜しかった思い出が脳裏に蘇っおくる。でもノむズのようなものが走り、映像が现切れになっおいく。

 ベンチから立ち䞊がり、近くにあった朚に頭を打ち付けた。このたた壊れおしたいたい。䞀発頭をぶ぀ける毎に、目の前が暗くなる。ただ足りない。もう䞀回。

 気付けば地面に倒れおいた。今日に限っお倜空がずおも綺麗だ。
 䞉日月もくっきり芋える。

 知子を思い出す。
 そう、圌女は月のように矎しい。

 䌚いたい。知子に䌚いたい。
 そしお僕が䞀人がっちじゃないず蚌明しおほしい。

 どのぐらい時間が経ったのか。手の甲で目の呚りを拭う。立たないず。明日も仕事なんだから。

 鬱蒌ずした月光荘ぞ垰る。貎子は僕の姿を芋お驚き立ち䞊がった。

「どうしたの、次郎ちゃん。額擊りむけおいるよ 䜕があったの 掋服だっお泥だらけ。どうしたの」

 服を乱暎に脱ぎ捚お、貎子を抌し倒す。

「次郎ちゃん」

 どうだ
 盎暹の顔が浮かぶ。

 おたえがずっず気に入っおいた女を、僕はい぀だっおこうできるんだ。
 服を脱がせ、倧きな乳房に顔を埋める。
 圌女の心臓の錓動が聞こえた。䞍思議ず萜ち着く。僕は泣いおいた。貎子の胞の䞭で子䟛のように嗚咜を挏らしながら。

 知子に䌚いたい。
 この女は代わりに過ぎない。

 頭の䞊に手を眮かれる。軜くポンポンず二回叩かれた。



いいなず思ったら応揎しよう