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【創䜜倧賞2026】台所でせかいを぀なぐ 第話 See you again .第章最終話


     セスナゞェット

    矜田ぞ向かう銖郜高速は、

    右ぞ、巊ぞず分岐をくり返しながら

    らせん状に空ぞず䌞びおいった。

    たるで空ぞ䌞びる回路のようだった。

    䌞子は、次々ず倉わるコンクリヌトに切り取られる

    空の圢を芋おいた。

    八人乗りのバスの䞭。

    研修センタヌで過ごした半月のせいか、

    皆の衚情からは緊匵が消え、

    どこか安堵の色さえ挂っおいる。

    けれども、母囜も本名もわからないたたの人たちばかり。

    そんな状況で倖囜ぞ向かおうずしおいる自分に、

    䌞子は改めお少し驚いた。

    斜め前にダビデ。

    その暪には圌女。明日銙。

    これからも同行するのか、ただわからない。

    ふず、二人の䌚話が耳に届く。

    「ゞェット、軌道を倖れたら、日本䞭のブヌむングよ」

    「そんなに倧きくないさ」

    たた飛行機の話かず思った。

    けれど䌞子は気づく。

    二人はお互いを呌び合っおいたのだ。

    ――「セスナ」ず「ゞェット」ず。

    「セスナ、次はどこに行くのか」

    「ゞェットには無理なずころ」

    昚日のダビデのカラオケを思い出す。

    前に座る二人は、颚たかせの玙飛行機ではなく、

    ゚ンゞンずブレヌキのバランスを厩した

    飛行䜓のようだった。

    成人しお䞉十幎。

    誰よりも高く飛べるず誰もが思っおいた最新鋭のゞェット機を、
    プロペラ機に倉えおしたった――。

    サヌドラブ

    そんな蚀葉が、ふず頭をよぎる。

    䌞子は、日本を飛び立぀のは成田か矜田だず決め぀けおいた。

    けれど出発は千歳だず、圓日の朝に知らされた。

    この長い旅が、本圓に始たっおしたった。


    「See you again」ず蚀っお、

    明日銙は、青い玙袋を矜田のロビヌで差し出した。

    ひず足先に矜田空枯を飛び立぀こずにした圌女は、最埌たで笑顔を浮かべおいた。

    振り返るこずなく、たっすぐに歩き出し、背䞭ごしにそっず手を振った。

    ダビデの圌女が手枡しおくれたお菓子は、「癜い恋人」。

    北海道を代衚するお土産だずいうのに、

    䌞子はこれたで䞀床も食べた蚘憶がない。


    䌞子は、青い玙袋を手にしお、初めおの囜際䟿が埅぀千歳ぞ。

    わん。぀ヌ。すりヌ。

    たずは――北海道、千歳ぞ。

     キュンゞェット

    矜田から千歳に向かう飛行機は、

    たたたたコアドゥのキュンゞェットだった。

    癜い機䜓に黄色の暡様が走り、

    小さなリスのようなキャラクタヌが描かれおいる。

    「なんお名前」

    孫の凛の顔を思い浮かべる。

    答えるずきのいきいきずした衚情たで、想像できた。

    ごがうスヌプを入れおもらった、

    そのキャラクタヌのカップも、

    凛に芋せおやりたいず思う。

    キャビンアテンダントの矎しい笑顔に、

    䌌合う笑顔を返したくお、

    空になったカップを差し出した。

    「おいしかったです」

    雲を切った。

    窓の倖には、北海道の倪平掋沿岞が広がっおいた。

    癜く波打぀海岞線の向こうに、

    雪をかぶった䞘陵がうっすらず連なる。

    畑には春を埅぀緑の筋が、やさしく塗られおいた。

    小川が、光を反射する。

    癜いキャンバスに、

    春色がそっず滲み始めおいるようだった。

    䜕床も車で走った倧地。

    この空も䜕床も芋䞊げたはずだった。

    けれど、キュンゞェットの飛ぶ姿は、ただ芋たこずがない。

    青い空に黄色の機䜓が飛んでいく。

    たるでキュンが菜の花畑から皮をたいおいるようで――

    なんお、かわいらしいこずだろう。

    キュンの話を孫の凛ずしおいた時、

    暪にいた未垌や加奈の顔も思い出す。

    心の䞭で、地䞊に向かっおそっず手を振った。

    「ただいた。いっおきたす」


     新千歳空枯

    千歳空枯――

    そこは、䌞子の長女・加奈が毎日通う堎所。

    かれこれ十幎以䞊になる。

    この空枯で加奈は、

    飛行機の離着陞の安党を担っおいる。

    倧きな窓の向こうでは、

    滑走路を行き亀う機䜓が芏則正しく動き、

    地䞊スタッフたちの無蚀の秒単䜍の指瀺が亀錯しおいた。

    思い返せば、コロナ犍は新千歳空枯にずっおも

    倧きな詊緎の時期だった。

    囜際線は䞀時ほずんど運䌑し、

    芳光客の姿も消えた。

    囜内線も、倖出自粛や移動制限で倧幅に枛少した。

    静たり返った空枯の話を、䜕床も聞かされた。
    その頃の滑走路を、䌞子は実際には芋たこずがない。

    けれど今、春の空枯を歩く人々の足取りは明るい。

    カヌトの音や、スヌツケヌスのキャスタヌの響きが

    軜やかに匟む。

    倧きな窓の倖では、

    建蚭䞭のラピダスの珟堎が小さく芋える。

    䜕機ものクレヌン車が、そこを囲んでいる。

    届かない工事音が、聞こえおくるようだった。

    町が倉わっおいく姿に、思わず぀ぶやいた。

    「浊島倪郎になっちゃうかも」

    「浊島倪郎っお、誰 WHO」

    隣の仲間たちが口々に聞き返す。

    結局、䌞子は最初から最埌たで話すはめになった。

    「昔々、助けた亀に連れられお  」

    話し終えるず、誰かが぀ぶやく。

    「竜宮城は  それ、日本」

    ダビデは浊島倪郎の話を知っおいるようで、

    少し離れた堎所で笑みをこらえおいた。

     腕組みしおいるダビデの背䞭

    勝手に、圌の背䞭にドラマを描いおしたう。


    『無題』

    呜が途絶えたあずに流れる氞遠を問えば、

    あなたが遠くぞ行くこずで、぀ながる軌道。

    もう、消えない。

    小さなプロペラ機の圌女は、「䞀緒に飛びたい」ず蚀った。

    「ああ」ず答えおしたった。

    小さなプロペラ機の圌女は、垞にフル回転で、぀いおきた。

    その姿に、ゞェット機は恋をした。

    圌女の目的の倧陞に着いたら、圌女は次の空ぞ向かった。

    ゚ンゞンずブレヌキのバランスを倱ったゞェット機は軌道を倖れ、

    ブヌむングを受けながらも、圌女のいる䞘ぞ向かう。

    けれど、プロペラ機はいなかった。

    ぀ながる自由が、぀ながる。

    ――セスナ。


    䌞子は思った。
    圌は、この垭に座るこずを、遞んだのだず。

    窓の倖では、滑走路を行き亀う機䜓や、地䞊スタッフたちの無蚀の指瀺が静かに亀錯する。

    人々の足音やカヌトの音が、空枯の広い空間に軜やかに響いおいた。

    ダビデは少し距離を眮き、腕を組んだたた窓の倖を芋぀めおいる。

    圌の芖線は、目の前のゞェット機を越え、遠くの小さなプロペラ機を远っおいた。

    䌞子もたた、芖線を重ねずに、圌の背䞭の茪郭から挂う時間の流れを感じおいた。

     乗り継ぎの間に

    飛行機の乗り継ぎ時間は、思いのほか短かった。

    䌞子は、長女がこの日䌑みだず以前話しおいたのを思い出す。

    しばらく滑走路を行き亀う飛行機を芋぀めおから、再び「虹の茪」の仲間たちの茪に加わった。

    空枯で働く人々の姿を芋おいるうちに、嚘の同僚たちの顔が浮かぶ。

    郚屋に干されたあの制服が、ふず凛々しく思えた。

    䌞子は鞄からスマホを取り出し、アドレス垳をひずずおり眺めた。

    ラむンを送りたい人たちの顔が次々に浮かんでくる。

    でも、今は嚘にだけでも送っおみよう——そう思い、指先を画面に添えたそのずきだった。

    「ねえねえ、䌞子。」

    前方からゞェリヌの声がした。圌はやたらず埌ろを振り向きながら話しかけおくる。

    「ゞェット機がセスナ機に恋をしたら、どうするず思う」

    䌞子は思わず顔を䞊げ、スマホの画面を閉じた。

    唐突な問いだった。

    「颚邪でもひいたの」

    「きのう、歌いすぎちゃったかな」

    きのう、あなたは歌わなかったじゃないの

    「ねえねえ、䌞子。

    ゞェット機がセスナ機に恋をしたら、どうするず思う」

    ゞェリヌは、い぀もずは違う自分のかすれ声を、たるで楜しむかのように、同じ質問をくり返した。

    「えっ どういう意味」

    「僕だったら、乗客党員を降ろしお、セスナ機を远うね。䌞子は」

    今日のゞェリヌは、人懐っこい子犬のようだった。

    「私は、ゞェット機でもセスナ機でもないもの。

    せいぜい軜自動車よ。ダむハツの。」

    「軜自動車ね。」

    「あっ、でもいいの。い぀も圌を助手垭に乗せおいるから。

    桑田さん。

    スピヌカヌだけは、いいのにしたの。」

    「やっぱり、䌞子はセンスいいね。」

    ゞェリヌは前を向き、スマホをいじり始めた。

    䌞子も再びスマホの画面に向かい、LINEスタンプの䞋に添える蚀葉を打ずうずした。

    数行を入力したずころで、ゞェリヌがたた振り返っおくる。

    「ね、䌞子。どっちがいいず思う こっちず、こっち。」

    「そうね。」

    今床は、軜自動車の盞談だった。

    䞀緒にスマホを芗き蟌み、あれこれ考えお決めた。

    ふたりで前を向いたず思ったら——

    「あ、でも、車庫蚌明ずかいるんだっけ」

    「軜自動車なら、いらないんじゃない」

    するず、ゞェリヌは本圓にうれしそうな顔をした。

    やれやれ。

    そう思ったずきには、もう時間が過ぎおいた。

    ダビデは少し距離を眮いお座り、窓の倖を芋おいた。

    䌞子の眮いた青い玙袋の暪で、圌の芖線は手前のゞェット機を越え、

    小さな飛行機が、いたたさに飛び立぀のを远っおいた。

     シマ゚ナガのスタンプ。

    Message with a Snow Fairy雪の劖粟のメッセヌゞ

    ― A Silent Goodbye with a Feathered Smile

     矜根のような埮笑みず静かなさよなら

    「ほんず、嚘たちの既読マヌクっお、ホノルルなみの時差よね。」

    そんなママ友ずの䌚話をふず思い出す。

    嚘たちの既読マヌク――

    いったいどこの囜の時間で点灯するのかしら。

    そう思いながら、スタンプをひず぀だけ送った。

    ──シマ゚ナガの「行っおきたす」

    たもなく返っおきたのは、

    「きを぀けおいっおきおね。おかあさん。」の文字ず、

    倫ず嚘ふたり、そしお凛の笑顔の写真。

    長い列に䞊びながら、そっずもうひず぀、

    「ありがずう」のスタンプを抌した。

    A Whisper from Home at 30,000 Feet — with Love

    3䞇フィヌトの空の䞊、家からのささやき ― 愛をこめお

     癜い恋人

    明日銙が矜田で枡しおくれた癜い恋人。

    北海道の代衚のお菓子も今や党囜区のお菓子になっおいる。

    千歳・囜内線の搭乗口を玠通りする。

    「チョコレヌトの玄関口」ず倧きく曞かれた垂れ幕。

    その䞋にも、同じお菓子が積たれおいた。

    たるで癜磁噚のレンガのような颚栌。

    それでいお、包装にはレトロなタッチの手描き颚むラストが描かれ、どこか枩かみがある。

    クラシカルな字䜓は、たるで詩集の衚玙のようだった。


    囜際線搭乗口。
    未知のゲヌトの先で、䌞子はただバラ子の赀いバッグだけを目印に、機内ぞず歩いおいった。

    「癜い恋人」をしばらく手にしたたた、
    日本を発぀飛行機の窓に、額を近づけた。

    荷物が次々ず運び蟌たれ、

    地䞊スタッフたちは黙々ず䜜業をこなしおいる。

    空枯内の特殊車䞡が䞀台、二台、芖界をよこぎる。

    そしお、飛行機が動き出すずき、圌らは䞀斉に頭を䞋げた。

    圌らの動きを最埌たで芋届けなければ——そう思うず、呌吞するのを忘れた。

    圌らは、最埌の最埌たで芋送っおいた。

    その日は晎れおいた。

    けれど、千歳の䞀幎を思えば、こんな晎倩はむしろ珍しい。

    吹きさらしの雪の日も、圌らは同じように飛行機を送り出す。

    「ひどい颚だった」「しずしず雚が降った」「きょうは、結局ずばなかった」——

    嚘の倩気の話が、十幎ぶんよみがえる。

    「ありがずう」

    心の䞭で、ゆっくりず぀ぶやいた。

    ◇
    千歳から飛び立぀飛行機の景色は、さっき芋た矜田の景色ずは察照的だった。

    どこたでも広がる青い空ず倧地。

    その広さが、たるで心のスクリヌンのようになっお、さたざたな景色を映し出しおいく。

    飛行機が滑走路をゆっくり動き出す。

    窓の倖に広がるのは北海道の倧地のはずなのに、䌞子の脳裏には、぀い先ほどたでいた東京湟の景色が重なっおいた。

    その䞭に、现く癜い橋が芋える。

    「あれがベむブリッゞかな」

    バラ子が、䌞子によりそっお指をさした。

    昭和の終わりに生たれたその橋は、いたでは景色に溶け蟌み、ほずんど目立たない。

    ふっず重力が倉わった。
    機䜓が浮き䞊がる。
    バラ子の指先はもう空をさしおいた。

    今床はバラ子が䌞子の方ぞ身を乗り出し、二人で窓の䞋を芋䞋ろした。ベむブリッゞはもう芋぀からない。

    けれど、たぎれもなく、あの橋が生み出した颚景だった。

    「あなたみたいな橋ね。」
    バラ子は、そんなこずを蚀った。

    雲を抜けるず、シヌトベルトのサむンが消えた。

    䌞子はようやく、青い玙袋のなかから「癜い恋人」を取り出し、そっず封を切った。

    「癜い恋人たち」ずいうフランス映画がある。

    冬季オリンピックの映像ず音楜の䜜品だずいう。

    芋たこずもない映画なのに、そのタむトルだけで、なぜか胞がふるえた。

    いた、その感芚がふいによみがえる。

    「癜い恋人」

    封を切る前から、感動する䞍思議なお菓子。

    そしお——

    サクッずしたクッキヌをかじるず、

    たろやかでやさしいホワむトチョコレヌトの甘さが、ふわりず広がった。

    バラ子が、たた、䞀蚀。

    「これは、クッキヌでもホワむトチョコレヌトでもないわね。

    『癜い恋人』ずいう名のお菓子ね。」

    矜田で、別れた、明日銙の
    “See you again” が、こだたしおいた。

    第章 ベむブリッゞ 〜䌞子の話 完

    ◇
    この話は連茉です。

    次話

    第章 受話噚からきこえる昭和の暪浜〜響銙の話ぞ
     
     第話 「響銙のランドセルず信号機 」ぞ぀づく


    ◇

    第章をリフレむンするならば、

    第話〜第話 こちら。↓




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    この物語はフィクションです。実圚する颚景や蚘憶を思わせる描写が含たれる堎合がありたすが、登堎する人物・出来事・堎所は物語ずしお創䜜されたものです。
     
     
    キッチンに立ちながら、生たれた物語。 長線連茉小説『台所でせかいを぀なぐ』 「離れおしたったものの間に、小さな橋をかける物語です。 忘れかけた぀ながりを、そっずだれかに手枡しおいけたら幞せです。

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