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【創䜜倧賞2026】台所でせかいを぀なぐ 第話 研修宀

    バラ園の䜙韻をそのたた身にたずい、䌞子ずバラ子は予定より䞉十分も早く、研修宀の扉の前に立っおいた。
    ただ誰も来おいないはず――そう思いながら、バラ子が静かにノブを回す。

    するず、䞭から人の声が挏れ聞こえおきた。
    䌞子は理由もわからないたた、思わず息を吞い蟌む。

    扉の向こうには、朝、「十分前集合っお、日本流」ず䞍思議そうに笑っおいた明日銙の姿がすでにあった。
    身を寄せるようにしお、誰かずひそやかに蚀葉を亀わしおいる。

    宀内の前方には、ダビデ、トム、ゞェリヌ、そしお先日ギタヌを抱えおいたあの男。

    カラオケで少し打ち解けたずはいえ、互いの呌び名も、祖囜も、ただ知らないたただった。

    ふたりが入るず、自然ず芖線が集たる。
    ただ、トレヌナヌの姿はない。

    「やあ」ずゞェリヌが声をかける。
    「もう仲良くなったんだね。どこに行っおきたの」

    「暪浜のみなず公園から町を芋䞋ろしおきた」ず答えるず、圌は少し残念そうに笑った。
    「え、それなら僕も行きたかったな。声かけおくれればよかったのに」

    サングラスを倖し、おずずいのカラオケの調子そのたたに、䌞子ずバラ子の間に入り蟌む。
    「ねえ、写真芋せお、芋せおよ」

    思わず、圌が歌った『ラむオンハヌト』を思い出す。䞍思議な力を持っおいたあの歌。
    そしお、みんなで歌った『䞖界に䞀぀だけの花』の䞀䜓感——たるでドラマのワンシヌンに玛れ蟌んだようだった。

    けれど、よく考えるず、あの曲を異囜の人たちず茪になっお歌う堎面なんお、テレビのドラマでも芋た芚えがない。

    研修宀の匵り぀めおいた空気が、ざわざわず楜しげなものに倉わっおいく。

    「黒船」ずいう蚀葉に、ダビデが反応した。
    「く・ろ・ふ・ね」
    ゆっくりずした䜎音で四文字を響かせる圌に、芖線が䞀斉に集たった。

    「坂本韍銬やったんだっお。やっおみおよ」ずゞェリヌがせかす。

    䌞子は名叀屋の四間道でダビデに初めお䌚ったずきのこずを思い出す。
    即興で䟍になりきったあの芝居——ゞェリヌも、あの芝居を知っおいるのだろうか。

    「高知  いや、土䜐から来た坂本韍銬は、黒船をどんな角床から芋たがやろうの。
    この角床なら、富士山ず黒船がいっぺんに写るかもしれんねぇ」

    昚秋に芋た芝居ず同じ口調で、ダビデは坂本韍銬になりきっおいた。
    「拙者も、行っおみずうなったぜよ」

    バラ子が笑う。
    「この人、すたした顔しお、けっこう倉わっおるわ。䌞子さん、こっちに座りたしょ」

    ふたりは少し離れお腰を䞋ろし、再びバラの話を始めた。
    「やっぱり、日本のバラの育皮家っお、他の囜にはない感性を持っおるず思うの。
    芋お、この玫の薔薇  」

    教宀は、い぀しか䞭孊校の攟課埌のような空気に包たれおいた。

    そのずき、トレヌナヌず険しい衚情の数人が郚屋に入る。空気がすっず冷える。

    ゞェリヌだけが埌ろを向いおしゃべっおいた。
    党員の芖線が圌に泚がれるず、ゞェリヌは少し申し蚳なさそうに蚀った。

    「よろしくお願いしたす」

    そしお、続けお英語で蚀う。

    "It’s nice to meet you. I’ll do my best to learn from you."
    蚳お䌚いできおうれしいです。あなたから孊べるよう、最善を尜くしたす。

    しかし、前からの冷たい芖線は倉わらない。

    "There’s nothing I can teach you. I hope you learn from the facts themselves."
    蚳あなたに教えるこずはなにもない。事実そのものから孊んでください。

    しばらく、重たい沈黙が流れた。

    「これは仕事だずいうこずを、忘れないでください」
    「今日の午前䞭、どう過ごしたか。すぐにレポヌトを提出しおもらいたす」
    「業務䞭に、勝手に写真など撮っおいたせんよね」

    䞀蚀䞀蚀が、胞に萜ちおくるずいうより、䞊から抌し぀けられるようだった。

    䌞子の胃が、きゅっず瞮む。

    子どものころ、授業䞭にお腹が痛くなったのは、こんな時間だっただろうか。
    逃げ堎のない静けさの䞭で、䜓だけが正盎になる。

    気づけば、幎霢を尋ねられおいる。
    ダビデが五十六歳だずいうこずは芚えおいるのに、他の数字は曖昧だった。

    ——私は、六十四歳。
    ここでは、最幎長だった。

    ◇

    暪浜が開枯した幎に生たれおいたら、癟六十六歳。
    暪浜の歎史の、ただ䞉分の䞀ほどしか生きおいないのに、なぜか自分はあたり成長しおいないような気がしお、ため息が出そうになる。

    さっき、暪浜みなず公園の展望台で、赀いパヌカヌを着た先生が子どもたちに語っおいた蚀葉を思い出す。

    「癟六十六幎の倉化っお、すごいですね。
    黒船が最初に来たころ、ここ暪浜は小さな持村、暪浜村でした。
    氎道も電気もなく、倜は真っ暗。
    むノシシが歩いおいたかも。
    黒船が来お発展し、けれど関東倧震灜でたた焌け野原になっお、
    䞀からやり盎した歎史もあるんです。
    でもね、あなたたちの䞀幎䞀幎の倉化も、同じくらいすごいんですよ。
    自分の䜓を町にたずえたら、できるこずが、少しず぀、確実に増えおいきたす。
    さあ、みんな。たずはトむレに行きたしょう。手は、必ず掗いたしょう」

    氎筒をベンチに眮き、子どもたちは笑いながら走っおいった。
    その小さな背䞭に、未来を感じた。
    䌞子は、さっき芋た枯の景色を思い出しおいた。
    町は、勝手に倉わるわけじゃない。

    誰かの手ず、意志ず、歩みの積み重なりが、町を぀くっおいく。

    教壇の䜍眮に立぀、虹色のネクタむをした癜人男性が話しおいる。

    "Now that you’ve examined the water systems of each country,
    I’m excited to see how your cross-border private team will make its proposals going forward.
    You are the vanguard of the ever-continuing にじのわ."

    バラ子が、静かに日本語にする。

    「それぞれの囜の氎道事業を芋おいただいお、
    囜を超えた民間のチヌムが、これからどう提蚀しおいくのか。
    ずおも楜しみにしおいたす。
    あなたたちは、これから続いおいく“虹の茪”の先導隊です」

    埌ろのふたりが芋おいるかどうかは、わからない。
    それでも、そっず背筋を䌞ばした。

    ——この背䞭が、誰かの未来に届くこずを感じお。

    ◇
    次話
    第話 「barako ―䜕出茂薔薇子ずバラ子―」ぞ぀づく



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    キッチンに立ちながら、生たれた物語。 長線連茉小説『台所でせかいを぀なぐ』 「離れおしたったものの間に、小さな橋をかける物語です。 忘れかけた぀ながりを、そっずだれかに手枡しおいけたら幞せです。

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