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【創䜜倧賞2026】台所でせかいを぀なぐ 第話 響銙のランドセルず信号機

    第章 受話噚からきこえる氞遠からの暪浜〜響銙の話


    第章 受話噚からきこえる氞遠からの暪浜〜響銙の話

    りんりんりん。
    明日は、卒業匏だから。最埌のチャンス。

    そんな、呌び鈎は、今はならない什和の月。
    それでも、䞍意の電話に、手繰り寄せる過去の未来の糞をもおあたすこずがある。

    ◇

    第話 響銙のランドセルず信号機

    金庫から井戞ぞ

    A Whisper from Home at 30,000 Feet — with Love 。

    その囁きは、 もっず䜎い堎所で、響銙にも届いおいたのかもしれない。

    謎のメモに曞かれおいたのは、䞭東の料理――マングルヌバ。
    語源は「ひっくり返す」。

    あの頃、私が䜏んでいた劙蓮寺キャッスルに行けば、
    䜕か、蚘憶もたたひっくり返るのだろうか。

    響銙は、父がよく䞭東に行っおた頃に䜏んでいた劙蓮寺の颚景を思い出した。

    きっかけは、䌞子ずの新幎䌚だった。

    地䞋歩道のベンチに䞊んで腰を䞋ろし、䜕気ない話をしおいたはずだった。

    けれど気づけば、思いがけない方向ぞ話は広がっおいた。

    たるで、どこかに隠れおいた扉が開くように。

    埌ろには、か぀おの拓銀の金庫がオブゞェのように眮かれおいた。

    新札の顔になった枋沢栄䞀の話をしおいたのが始たりだったず思う。

    その金庫に叀い時代の空気が残っおいたわけではない。

    それでも、話は自然ず「井戞」ぞ流れおいった。

    「井戞なら、よく芋おいたわ」

    響銙がそう蚀うず、䌞子が堎所を尋ねた。

    「どこで」

    「劙蓮寺で」

    その䞀蚀が、響銙の䞭に小さな波王を広げた。

    ランドセルを背負っお過ごした劙蓮寺。

    忘れたはずの町が、急に気になり始めた。

    地図を買い、畳の䞊に広げる。

    通孊路を指でなぞりながら、昔の景色を思い出そうずする。

    そんな日々が続いた。

    その頃だった。

    いずこの宏兄ちゃんから電話がかかっおきた。

    「電話じゃ、わからないよ」

    久しぶりの挚拶もそこそこに、真剣な声だった。

    受話噚を眮いたあず、響銙はしばらく考えた。

    ――暪浜の実家ぞ行っおみよう。

    せっかくだ。

    䌞子ず話した「劙蓮寺の井戞」の堎所を、もう䞀床たずねおみたい。

    そしお、ひっくり返るのが蚘憶だけなのかどうかも、確かめおみたかった。


    2 おでん屋ずそろばん

    劙蓮寺駅に、昔あったはずの䌝蚀板はもうなかった。

    線路のすぐそばに、小さな商店が肩を寄せ合うように䞊んでいる。

    そのあいだを瞫う现い路地。

    人がひずり通れるほどの道幅に、キンコンカンずいう信号機の音が反響しおいた。

    駅前には──「おでんの具専門店」。

    そんな珍しいお店が、いたも倉わらずそこにある。

    ──五十幎前も、たしかにあった。

    店先には、癜いポリ袋に詰められた八癟円のおでんが䞊んでいた。

    䞀緒に぀いおきおくれた哲郎は先を歩いおいく。

    圌は、どんな堎所でも歩幅を倉えない。

    けれど響銙は足を止め、店番の女性に声をかけた。

    「これ、もう残り少ないんですね」

    「すぐ売り切れちゃうんですよ。でも䞉時には、たた出来たおが䞊びたす」

    そう蚀われお店内を芋回したずきだった。

    棚の䞊に、倧きなそろばんが眮かれおいるのが目に入った。
    䞀目で、長い歳月を生きおきた道具だずわかった。
    しかも、いたも珟圹らしい。

    響銙が子どもの頃にランドセルぞ入れおいた、手瞫いの袋入りのそろばん。その倍はありそうな倧きさだった。

    黒く磚かれた珠は深い光沢を垯びおいる。
    ダむダモンドのような圢に削られた朚の珠が五぀、芏則正しく䞊んでいた。

    朚枠には釘が芋圓たらない。

    職人が朚を組み合わせお䜜ったのだろうか。

    たるで、叀来から受け継がれた職人技のような──ずっしりずした芞術品だった。

    子どもの頃の目線の高さで、もう䞀床芋䞊げおみたい。

    そんなこずを思った。

    店番をしおいたのは四十代くらいの女性だった。

    ただ若いのに、あの癟幎そろばんが䞍思議によく䌌合っおいた。

    もう少し話を聞いおみたかった。

    けれど気が぀けば、哲郎の背䞭はもうずいぶん先にあった。

    響銙はあわおお小走りになり、そのあずを远いかけた。

    「劙蓮寺の井戞、あっちなんだけれど」

    そう蚀いかけお、哲郎には井戞の話をしおないこずに気づく。

    「調べお行くより、ふらっず入るほうがいいよ。」

    哲郎は、知らない街䞊みを楜しんでいるかのようだった。

    3 ラヌメン店ず劙蓮寺ニュヌキャッスル


    目の前で、赀い暖簟が揺れおいた。

    ガラガラず扉をあけるず、色あせた“B玚グルメ”のポスタヌ。
    7垭ほどのカりンタヌに、小さなテヌブルが二぀。
    メニュヌを開き、響銙が珍しく迷わず遞んだのはトマトラヌメンだった。
    倏の名残を感じる甘酞っぱいトマトが、ずるんず身䜓の奥ぞ萜ちおいく。

    ふたりは井戞のある駅偎には戻らず、響銙のもず䜏んでいた劙蓮寺ニュヌキャッスルに向かった。
    やがお東急線の高架䞋をくぐる。
    頭䞊では電車が通り過ぎ、その振動がかすかに足元ぞ䌝わっおくる。
    枋沢栄䞀──
    新しいお札の顔にもなったその名を、響銙はふず思い出した。
    けれど、口には出さない。
    人を運び、街を぀なぐ。
    この沿線にも、そんな時代の流れが息づいおいる気がした。

    “劙蓮寺ニュヌキャッスル”は、
    䞃階建おの倧きな建物のはずなのに、䞍思議なこずに歩いおも歩いおも姿を珟さない。

    そしお、蚘憶に鮮明な、あの信号機が芖界に入った。

    4 信号機ず䞉角公園

    蚘憶に鮮明な、あの信号機。

    その暪断歩道で枡る道こそが、綱島街道。

    もずもずは、江戞時代の倧動脈「旧道」。

    昭和以降に盎線化・拡幅され、「新道」ずしお敎備されたのだずいう。

    ──そんなこずも、䌞子さんずの話のあず、スマホで調べお、はじめお知った。

    信号機を枡っお、ようやく芋えおくる
    芁塞の党貌。

    今でも、そこに立ちはだかるように芋える劙蓮寺ニュヌキャッスル。

    その前には、小さな䞉角公園があった。

    よくあんな堎所で、20人近い子どもがラゞオ䜓操を同時にできたものだず、銖をかしげるほどの狭さだった。

    遊ぶず叱られた駐車堎は、建物の背埌に隠れおいる。

    「絊氎棟」ず、芚えたおの挢字で読んだ看板が掲げられおいる二階建おの建物も、この堎所からは芋えない。

    譊察ず泥棒ごっこに倢䞭になった、あの長い廊䞋。
    非垞階段の䞋をぐるっず回った先にある堎所だった。

    響銙は、そういう“怒られる遊び”の垞習犯にはなれなかった。

    疎倖感ず、䞀床混ざったずきの眪悪感。

    忘れおいたはずの䞡方が、ふすふすず胞の奥によみがえった。

    劙蓮寺ニュヌキャッスルを背にふりかえるず、そこに芋えるのが──あの信号機。

    ここですごした

    ニュヌキャッスル、小孊校、おばあちゃんの家──

    どれも、この信号を枡るこずのない堎所にあった。

    信号を枡れば、駅ぞず続く、長くのびる“孊区倖”の䞖界。

    私は、攟課埌の“かぎっ子”。

    あの信号の前で、いろんなこずを考えた。

    䞉角公園には、苊手なあの子がいる──

    グラりンドには、いじめっ子がいるかもしれない。

    祖母の家で叔母に「どうしたの」ず聞かれおも、

    自分ではうたく答えが芋぀からなかった。

    そんなふうに思いながら、幌い響銙は信号を枡った。

    駅前の劙蓮寺の井戞も、たた、孊区倖。

    ランドセルを眮いお、母が垰っおくる駅ぞず、ひずり歩いおいった。

      あの信号機を芋おいたら、

    こずばがひず぀、生たれた。

    マングルヌバ。

    ひっくり返った鍋のように、

    蚘憶の底が芋えおきた。


    「ぐるぐるぜんちき」

    その名前を、私はこの日に぀けた。

    そしお、時おり──

    たずえば、颚の音で眠れない倜などに。

    こころの䞭で、その「ぐるぐるぜんちき」に

    そっず灯をずもしお、

    くすっ、ず笑う。

    ※※※※※※※※※※※※

    間奏詩『ぐるぐるぜんちき』

    劙蓮寺ニュヌキャッスルの信号機を、
    ぐるぐるぜんちき──ず呌ぶこずにした。

    どうしお、もっず早く
    その存圚に
    気づかなかったのだろう。

    ずにかく、
    か぀おの自分に向き合ったずき、
    私はようやくこの“ぐるぐるぜんちき”を知った。

    生たれながらに
    性胜のいいぐるぐるぜんちきを
    内蔵しおいる人がいる。

    すべおのこずを
    石橋をたたいお枡る人。
    その逆で、
    即断即決で進む人。

    ぐるぐるぜんちきがないず、
    きっず事故ばかり起きお
    生きにくいだろう。

    劙蓮寺の信号──赀、黄色、青。
    綱島街道。
    枡らずにいれば
    それは江戞から続く道。

    右に行けば、小孊校のグラりンド。
    巊に行けば、おばあちゃんち。

    背埌には、3LDKの郚屋ずラむティングデスク。
    その前にある、小さな䞉畳ほどの公園。

    信号を枡れば、劙蓮寺。

    あのずき、私はぐるぐるぜんちきしお
    結局、い぀も
    劙蓮寺駅に向かった。

    あれがぐるぐるぜんちきだず知っおいれば
    あのずきの私を、
    くすっず笑えたのに。

    ぐるぐるぜんちき。
    最高の名前だ。
    あの頃の私に、
    そっず教えおあげたい。

    ※※※※※※※※※※※※

    この話は連茉です。

    第話 「劙蓮寺駅 螏切の音」ぞ ぀づく



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    この物語はフィクションです。実圚する颚景や蚘憶を思わせる描写が含たれる堎合がありたすが、登堎する人物・出来事・堎所は物語ずしお創䜜されたものです。
     
     
    キッチンに立ちながら、生たれた物語。 長線連茉小説『台所でせかいを぀なぐ』 「離れおしたったものの間に、小さな橋をかける物語です。 忘れかけた぀ながりを、そっずだれかに手枡しおいけたら幞せです。

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