
例えリジェクトでも、得るものはとても大きい——査読への挑戦⑧
先週の学会発表を無事に終え、手元にある論文賞入選の賞状の重みを感じながら、この数日間、私は再びデスクに向かっていました。
学会の打席で、経験豊かな研究者の先生方からいただいた、ありがたく、そして解像度の高いコメントの数々。
それらを一刻も早く自身のロジックへ還流させるべく、発表後修正原稿の作成、プレプリントサーバーへの登録準備、そしてジャーナルへの本投稿という、一連の学術実務を進めていたのです。
歓喜と熱量の余韻がまだ残るなか、私のもとへ一通の通知が届きました。
それは、修士論文の執筆と並行して、別の学術誌へ密かに投稿していたもう一本の原稿の審査結果でした。
結果は、リジェクト。
不採択でした。
せっかくの論文賞入選の余韻に水を差されたかといえば、不思議と私の心は驚くほど静かでした。
「そうか、今回はここまでだったか」
最初に浮かんだのは、その感覚でした。
そして同時に湧き上がってきたのは、
「また一つ、次に直すべき答えが回収できた」
という、どこか冷静な手応えでした。
自己紹介
1. リジェクトは、拒絶ではなく答え合わせでもある
少し前の私であれば、不採択の通知を受け取るたびに、大きく動揺していたと思います。
自分の問題意識そのものを否定されたように感じたり、実務家として積み重ねてきた経験が、学術の世界では通用しないのではないかと感じたりしたはずです。
実際、修士論文の最終試験、学会投稿、査読コメント、事前審査での不採択を通じて、私は何度も鼻をへし折られてきました。
理論説明の不足。
概念定義の曖昧さ。
先行研究との対話不足。
方法論の記述の薄さ。
命題化の根拠の弱さ。
実務家としては当然だと思っていたことが、学術論文の世界では、そのままではまったく通用しない。
その現実を、この半年ほどで思い知らされてきました。
しかし、だからこそ今は少し見え方が変わっています。
リジェクトの通知は、単なる拒絶ではありません。
もちろん悔しさはあります。
けれど、そこには必ず、自分の論理がどこで弱かったのか、どこを補強すれば研究として耐えられるのかという、極めて重要な手がかりが含まれています。
査読コメントや審査結果は、研究者としての自分のロジックを鍛え直すための、厳しくも貴重な答え合わせなのだと思うようになりました。
2. 成功の余韻に浸る前に、次の修正へ向かう
今回の不採択通知も、すぐに読み込みました。
どこが弱かったのか。
どの先行研究との接続が不足していたのか。
どの概念が、まだ観察可能な形に落ちていなかったのか。
事例から言える範囲を、どこかで言い過ぎていなかったか。
そうした論点を一つずつ洗い出していくと、悔しさよりも先に、次の修正の輪郭が見えてきました。
そこで私は、その原稿のロジックを改めて見直し、別ルートでの発表予定稿として再構成する作業に入りました。
一度不採択になった原稿を、ただ置いておくのではなく、別の場で鍛え直す。
その過程で、問いを絞り、先行研究との関係を整理し、主張の射程を少しずつ正していく。
今の私に必要なのは、落ち込む時間よりも、いただいたコメントをどれだけ早く次の形へ変換できるかだと思っています。
3. 今週進めたこと
この数日間で、主に進めたことは三つあります。
一つ目は、先週の学会発表でいただいたコメントを踏まえた、発表後原稿の修正です。
発表の場でいただいた問いは、どれも次の投稿原稿に直結するものでした。特に、理論枠組みの位置づけ、事例比較の見せ方、概念の射程については、発表前よりも明確にすべき点が見えてきました。
二つ目は、修正原稿の登録およびジャーナル投稿に向けた作業です。
学会発表を単なる一回限りの報告で終わらせず、査読付き論文へつなげるためには、発表直後の熱量が残っているうちに、原稿を整える必要があります。
三つ目は、不採択となった別原稿の再構成です。
今回のリジェクトによって、その原稿の弱点はかなり明確になりました。そこで、もとの主張をそのまま押し通すのではなく、問いを絞り直し、発表予定稿として再エンゲージする方向に切り替えました。
成功した原稿も、不採択になった原稿も、どちらも次の研究を鍛える材料です。
この感覚を持てるようになったこと自体が、私にとっては大きな変化でした。
4. 成功にも奢らず、不採択にも折れず
一本の成功に奢らず、一本の不採択に折れない。
いただいた温かいコメントも、突きつけられた厳しい指摘も、すべては研究を次の段階へ進めるための材料です。
実務家として積み重ねてきた経験を、学術の言葉にどこまで鍛え直せるのか。
現場で見てきた中小企業M&AやPMIの実態を、どこまで経営学の理論として説明できるのか。
そして、博士後期課程への挑戦に向けて、どこまで自分の研究を磨き込めるのか。
その問いは、まだ終わっていません。
むしろ、ここからが本当の勝負です。
研究に終わりはなく、打席に立ち続けないと何も起こりません。
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