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「花散るらむ、それでも君ず」4

    第章 桜の補習
     四月十四日、攟課埌。
     聖南孊院高校の図曞宀は、薄い日暮れの光ず玙の匂いに包たれおいた。閲芧垭の䞀角に、京䞀はプリントず参考曞を敎え、そっず深呌吞する。頭の奥に鈍い痛みが残っおいるが、今日だけは厩れたくなかった。
       
     補習を申し出たのは蔵内櫻華の方からだった。
     「叀文をちゃんず読めるようになりたい」ず、保健宀で小さく頭を䞋げた。教頭ぞの届け出を通し、図曞宀か職員宀前の自習ブヌスなら“公開指導”ずしお蚱可がおりる――石川教頭は念入りに条件を付した。二人きりの密宀は䞍可、時間は䞀時間以内、終了埌の戞締たりは叞曞ず確認。
     芏則の束に瞛られ぀぀も、京䞀の胞には奇劙な熱が宿っおいた。生埒の孊びに正面から向き合う機䌚を、十数幎ぶりに“自分の意志”で掎んだ気がしたからだ。
       
     開架から戻った櫻華が、ゆっくり怅子に腰掛ける。顔色は淡く、だが瞳は決意に柄んでいた。
     「今日は“散る桜”の和歌を集めおみた。読んでみよう」
     京䞀が差し出すプリント。墚跡のように䞊ぶ叀語を、櫻華は唇の動きだけで静かに远った。
       䞖の䞭に たえお桜の なかりせば
        春の心は のどけからたし   ――圚原業平

     「先生、この歌、奜きです」
     囁く声には喜びず痛みが混ざる。「矎しいけれど散るからこそ、人は桜を埅ち焊がれお、散るず嘆く――。桜がなければ、心は穏やかなたたなのに、っお」
     京䞀は頷き、目を䌏せた。桜子の死以来、春は決しおのどかではない。桜があったから愛した。桜があったから奪われた。
     「  桜は痛みを連れおくる。でも、無かったら“埅぀喜び”も倱われるんだろうな」
     声が自分のものではないように掠れる。櫻華はペンを眮き、そっず芖線を䞊げた。
     「先生は、桜を嫌いですか」
     問いは现いが真っ盎ぐだった。呌吞が䞀拍、遅れる。
     「怖い、かな。でも憎めない。毎幎、芋るたび同じ堎所に立ち戻らされる」
     “桜子”ずいう名を出しそうになり、唇で飲み蟌む。机の瞁を握る指に汗がにじむのを感じた。
       
     小テスト圢匏のプリントを解き終える頃、窓の向こうで倕陜が薄玫ぞ滲んでいた。
     「今日はここたで。無理をしないで垰りなさい」
     櫻華は「はい」ず立ち䞊がる。だが本の山を避ける際、ふら぀き怅子に手を突いた。
     京䞀は思わず支え、図曞宀の静寂のなかで二人の距離が詰たる。桜のような銙りが䞀瞬、錻を掠めた。
     「ごめんなさい、䜎血圧で  倧䞈倫です」
     櫻華は照れくさそうに笑い、距離を取り盎す。京䞀の胞に、䞍意に焌けるような感芚が奔った。教垫ず生埒――螏み蟌んではいけない線が図曞宀の床に现い亀裂を走らせる。
     「先生も、お疲れなのに  」
     気遣う声に、頭痛が再び鈍く脈打぀。薬を飲み忘れた。だが今は圌女を送り出すたで厩れられない。
     「平気だ。図曞カヌド、返华しお垰ろう」
     二人で貞出カりンタヌぞ歩く。その背埌から、衣擊れの気配が远いかけおきた。
     「吉野先生」
     石川教頭。腕時蚈を瀺し、「補習は終了時刻十䞃時ず䌺っおいたすが」ず眉を吊り䞊げる。
     時蚈は十䞃時䞉分。
     「倱瀌したした、すぐに切り䞊げたす」
     京䞀は頭を䞋げ、櫻華に「先に昇降口ぞ」ず目配せした。圌女は小さく瀌をし、図曞宀を埌にする。
     石川は声量を抑え、「理事長宀にも報告が䞊がっおいたす。節床を守っおください」ずだけ告げ、回れ右した。
     背が去るたでの数秒で冷汗が噎き出す。理事長母に監芖されおいる意識が、銖筋を絞め぀けた。
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     昇降口。靎箱の傍で櫻華が埅っおいた。
     「ごめんなさい、私のせいで叱られたんですよね」
     「生埒を叱る先生の前で説教されるのも、教垫の仕事だ」
     冗談めかすず、圌女はほっず息をこがす。
     倖は灰色の雲が厚く、倕陜はすでに隠れおいた。校門ぞ向かう途䞭、ふず櫻華が立ち止たる。
     「先生、来週も  たたお願いしたす」
     小さな声。制服の袖が颚に揺れ、髪が頬にかかる。
     「もちろん。でも䜓調第䞀。無理はしないず玄束だ」
     「はい」
     頷く瞬間、カバンから花柄のハンカチがこがれ萜ちた。拟い䞊げ、手枡すず圌女の指先が震えおいるのがわかる。
     「これ、気に入っおお  萜ずしたら嫌だなっお。ありがずう」
     胞に倧切そうに圓おる仕草が、蚀葉以䞊の重みを䌎っお目に焌き付いた。
     門の倖で埅぀黒い車のラむトが点る。父芪が運転垭で手を振った。
     櫻華はもう䞀床「ありがずうございたした」ず頭を䞋げ、車ぞ向かう。
     遠ざかる背を芋送りながら、京䞀はこめかみを抌さえた。
     思い出すのは、十数幎前の川沿いで桜子が倒れた時の光景。
     制服の肩に萜ちた花びら、匟む息、名を呌ぶ声――胞を貫く再生䞍胜の蚘憶。
     図曞宀で重ねた短歌プリントが鞄の䞭で軋む音がした。
     桜は散る。それでも花を教えたい。
     頭痛薬の錠剀を指で転がし、京䞀は倜気の冷たさを吞い蟌んだ。

    第章ぞ→

    序章 ―散った声が、胞に降る―
    第章 色のない春
    第章 薄玅の予感
    第章 桜の補習
    第章 父の圱、嚘の決意
    第章 揺れる教垫たち
    第章 薄暮の玄束
    第章 雚のドナヌ通知
    第章 病宀の告癜
    第章 癜い倜明け
    第10章 砕ける閃光
    第11章 静かな匕き枡し
    第12章 新しい錓動
    第13章 雚䞊がりの教宀
    第14章 薫颚の坂道
    ゚ピロヌグ

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    金森マヌケティング事務所マヌケティング講垫コンサルタント。著曞10冊超。䌁業研修でマヌケティング・生成AIを教えながら、小説も曞いおいたす。ビゞネスを物語に、物語をビゞネスに接続する発信をしおいたす。月金はマヌケティング& AI。土曜はサブカルチャヌ。日曜は短線小説です。

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