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「花散るらむ、それでも君ず」6

    第章 揺れる教垫たち
     四月十䞃日、職員䌚議は珍しく空気がざら぀いおいた。
     黒板に䞊ぶ議題の末尟──「幎床内の進路指導方針」に䞋線が匕かれる。だが若束理銙の意識は、発蚀者の声を遠くに聞きながら別の䞀点に瞫いずめられおいた。
     吉野京䞀。
     机に肘を぀き、眉間を抌さえる姿が䌚議䞭に䜕床も揺れる。頬はわずかに痩け、銖元のシャツが小さく呌吞に揺れおいる。
     無理しおいる  
     自分の匟が病に蝕たれたずき、最埌たで「倧䞈倫」ず笑っおいた顔が頭に重なり、胞に鈍い痛みが走る。
     「若束先生、進孊クラスの補習日皋、共有いいですか」
     教頭に名を呌ばれ、理銙はあわおお資料をめくる。ペヌゞの端が指にひっかかり、玙が裂けた。小さな砎れ目が、胞の焊燥そのものに芋えた。
     
     䌚議埌の倕刻、理銙は図曞宀ぞ向かった。進路資料の差し替えが名目だが、真の目的はただ䞀぀、京䞀の様子を確かめるこず。
     開架の奥で圌はプリント束を抱えおいた。芖界に入った瞬間、理銙の足は止たる。
     「吉野先生」
     振り向いた京䞀は、少しだけ驚いた衚情を芋せる。県鏡の奥の焊点が揺れた。
     「若束先生、どうかされたした」
     「補講プリントの返华に来ただけ。──顔色、良くないわよ」
     蚀葉が思った以䞊に尖り、反射的に付け足す。
     「私、保健の知識は浅いけど、過劎ず頭痛は危険サむン。無理しないで」
     「倧䞈倫です。進路面談が重なっお寝䞍足なだけ」
     埮笑むが唇の端が匕き぀る。そのずき、脳裏に“櫻華”ずいう噂がちらりず過った。生埒たちの間で囁かれる「担任ず特別な生埒」の話。
     䜕も知らないふりをしおいいの
     窓蟺の怅子に京䞀が腰を䞋ろした拍子に、プリントが䞀枚滑り萜ちる。拟い䞊げた理銙は、そこに癟人䞀銖の歌ず䞁寧な泚釈が曞かれおいるのを芋た。
     蔵内さんに枡す教材  
     胞がざわめき、口が先に動く。
     「圌女、退院できるずいいわね」
     京䞀の指がプリントの端を匷く掎む。
     「  ありがずうございたす」
     沈黙。倕陜が曞架を赀く染め、埃の粒が光る。理銙は深呌吞し、声を萜ずした。
     「吉野先生。あなたが党郚背負わなくおもいいのよ。もし䜕かあったら、䞀人で抱え蟌たないで」
     京䞀は䞀瞬だけ芖線をそらし、それから力なく笑った。
     「若束先生は優しいですね」
     “優しい”の䞀語が、かえっお遠い。理銙は目を䌏せ、手にしたプリントをそっず返すしかなかった。
     
     図曞宀を出るず、廊䞋の奥から保健宀ぞ続く扉が芋える。
     匟を運び蟌んだあの日も、癜いカヌテンの隙間で途切れた心音を聞いた。保健宀の匂いは、今も蚘憶の奥で血の味を垯びおいる。
     理銙は無意識に扉を開けた。䞭には誰もいない。
     窓蟺のベッド、枅朔な癜垃。手を䌞ばしかけ、指を匕っ蟌める。
     私は結局、あの子を救えなかった。だからせめお、誰かを支えたいのに  
     桜の花が散る音を、心臓が脈打぀たびに思い出す。
     「若束先生」
     埌ろで保健教員が銖をかしげた。理銙は「倱瀌したした」ず笑い、逃げるように廊䞋ぞ出た。
     
     䞋校時刻を過ぎ、グラりンドに人圱はない。春雷の前觊れのような颚が吹き、空気が湿る。
     校舎脇の桜は葉桜になりかけおいた。
     理銙は枝先を芋䞊げる。緑ず茶のただらな葉が震え、散り残った花びらが二、䞉枚だけ揺れおいる。
     花はもう散った。でも誰かが来幎を埅っおいる
     掌を胞に圓おるず、そこには焊燥ではなく淡い枩もりが残った。
     
     倜、自宀。デスクラむトの䞋で採点を終えた理銙は、ふずスマホの通知を開く。
     “教職員連絡網至急”──石川教頭から。
     > 吉野京䞀教諭、軜床の貧血ず蚺断。数日間、午前授業のみ担圓。諞連絡は私たで。
     理銙は画面を凝芖した。軜床──だが数日前より症状は確実に進んでいる。
     もし圌たで倒れたら、蔵内さんは  
     指が震え、未送信の䞋曞きに文字が浮かんだ。
     〈困ったずきは頌っお。私はあなたの同僚です〉
     送信ボタンを抌す盎前で思いずどたる。
     “同僚”である限界ず、“それ以䞊”を願っおはいけない距離ず。
     画面を消し、郚屋の灯を萜ずす。窓の倖で雚が降り出した。途切れ途切れの氎音が、やけに胞に沁みた。
     
     垃団に暪たわり、雚音を数える。匟がいなくなった倜も、こんな雚だった。
     理銙はそっず掌を握る。
     今床こそ、私は間に合いたい。誰かの絶望の前に、ちゃんず立ち䌚える倧人でいたい
     雚脚が匷たり、遠くで雷鳎が震えた。
     明日、蔵内櫻華に声をかけよう。必芁なら進路宀を開攟しよう。教頭の芖線が怖くおも、䜕床でも。
     雷鳎に重なる錓動を聞きながら、理銙は目を閉じた。
     窓の向こうで葉桜が揺れ、街灯の光が濡れた葉を淡く照らす。春はただ終わらない。揺れる教垫たちは、これから本圓の嵐を迎える──その前倜だった。

    第章ぞ→

    序章 ―散った声が、胞に降る―
    第章 色のない春
    第章 薄玅の予感
    第章 桜の補習
    第章 父の圱、嚘の決意
    第章 揺れる教垫たち
    第章 薄暮の玄束
    第章 雚のドナヌ通知
    第章 病宀の告癜
    第章 癜い倜明け
    第10章 砕ける閃光
    第11章 静かな匕き枡し
    第12章 新しい錓動
    第13章 雚䞊がりの教宀
    第14章 薫颚の坂道
    ゚ピロヌグ

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    金森マヌケティング事務所マヌケティング講垫コンサルタント。著曞10冊超。䌁業研修でマヌケティング・生成AIを教えながら、小説も曞いおいたす。ビゞネスを物語に、物語をビゞネスに接続する発信をしおいたす。月金はマヌケティング& AI。土曜はサブカルチャヌ。日曜は短線小説です。

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