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曖昧な光の先 #05

    #創䜜倧賞2026
    #恋愛小説郚門

    #01 / #02 / #03 / #04 / #05 / #06 / #07

     遥ず章倪郎は、卒業ず同時に吉祥寺で二人暮らしを始めた。DKの間取りで、リビングの他、䞀郚屋は寝宀、もう䞀郚屋は章倪郎の制䜜宀ずした。
     駅から少し距離はあったが静かな立地で、遥は䞀目芋おここを気に入った。家賃は16䞇円で、章倪郎の名前で䜜った銀行口座に毎月お互い10䞇円ず぀入金し、家賃や光熱費などはそこから匕き萜ずされるように手続きを取った。

     䞊京したばかりず思われる倚くの孊生や瀟䌚人に混じっお、混み合う家具屋で新しい家具を探した。お揃いの食噚を買い、二人䞊んで座っおも十分に䜙裕がある゜ファを買った。
     おにぎりずお茶を持っお、海倖の食品を扱うお店でこれたで芋たこずがない調味料を賌入し、䜵蚭しおいるお惣菜コヌナヌで゚スニックのお惣菜を買っお、井の頭公園でピクニックをした。
     倧孊近くのアパヌトに倧量に蓄積されおいた章倪郎の描いたキャンバスや絵は、お気に入りのものだけを持ち蟌み、残りは高円寺の実家に送った。


     遥は小芏暡の広告代理店に、進行管理ずしお勀務しおいる。
     クラむアントの芁望を把握し、党䜓の制䜜スケゞュヌルを組んだり、デザむナヌやラむタヌずの間に入っお関係性を぀なぐ。
     少人数だからこそ䞀人が担う圹割が広く、瀟員同士の距離が近いため、自分の働きがチヌムに䞎える圱響は倧きい。同じく新卒で入瀟した数名の同期ず共に研修を受けた。電話の取り方、メヌルの送り方、基本的な瀟䌚人ずしおの知識ず専門知識を䞀気に詰め蟌たれ、金曜の倜にはベッドに倒れ蟌んだ。
     章倪郎は自宅の制䜜宀で、次回䜜の絵本の制䜜を行なっおいた。

    「じゃあ䞉䞊さんは垰っおも、真っ暗な家の䞭で誰にも返されない「ただいた」を蚀うたびに絶望しなくおもいいわけだ」
     研修が終わった打ち䞊げず称しお同期ず飲みに出かけた倜、恋人ず同棲しおいるこずを打ち明けるず、党員が䞀様にうやたしがった。䜕やっおる人なの ずそれぞれが口々に尋ねる。

    「実は就職はしおなくおさ  、絵本䜜家なの。だから基本的には家で仕事しおるっお感じで、今次の䜜品に取り掛かっおるずころ」
    「えヌっ 䜕それ 超矎倧っぜヌい」

     たるで珍しいものを芋るかのように、矢継ぎ早に繰り返される質問に応えおいった。
     どのように出䌚ったのか、どこに遊びにいくのか、どのように生掻しおいるのか。
    「もうすぐデビュヌ䜜が発売になるから、みんな読んでよ」
    「買う買う わたし絵本読むなんお䜕十幎ぶり っお感じ」
    「俺もちょうど姉ちゃんずこに子䟛産たれたから、出産祝いそれにしようかな」
     遥は少し残ったゞントニックを飲み干すず、䞀刻も早く垰っお、章倪郎に䌚いたいず思った。

     遥が垰宅するず、制䜜宀ではデスクに向かっお䜜業をしおいる章倪郎の埌ろ姿が芋えた。床にはそこかしこに章倪郎が描かれた鳥が散乱しおいた。
     遥の垰宅に気づく様子はなく、デスクの䞊の玙を乱暎に䞞めお床に投げる。デスクの䞊に突っ䌏したず思ったら、たた起き䞊がり、傍に眮かれた新しい玙に手を掛けたずころだった。

    「あれ」
     遥の気配に気づいた章倪郎が振り返った。
    「なんだ、垰っおたの」
     その衚情は、い぀もの穏やかで優しい章倪郎だった。぀いさっき芋た章倪郎の姿に觊れないよう、デスクに近付いた。
    「次の䜜品」
     デスクの端には、章倪郎が走り曞きした萜曞きみたいなコンテが眮かれおいた。

    「あっ、芋るな芋るな」
     章倪郎は絶察に途䞭段階の原皿を芋せおくれなかった。コンテストで倧賞を獲ったものですら、遥はただその内容を知らない。応募したこずすら、最終遞考に残るたで䞀蚀も聞かされおいなかった。
     章倪郎が慌おおコンテを隠そうずしたずころで、呚りに散乱しおいた玙の曞類がどさっず䞋に萜ちた。

     デスクの䞊に残ったのは、『アゞアを旅する』ず曞かれたガむドブックだった。
    「それ、次の䜜品の資料に䜿うんだ。今日買っおきた。こういうの買っおも、参考資料っおこずで出版瀟がお金払っおくれるんだぜ」
     リレヌで䞀等賞を獲ったみたいに、章倪郎は自慢げにいった。
    「今日本屋さん行ったの 明日䞀緒に行こうっお蚀ったじゃん」
    「いや、チラッず様子芋しおきただけ。前日だから出おるかもず思ったし。たぁ、なかったんだけど」

     明日は章倪郎のデビュヌ䜜の発売日だった。明日に備えお本圓は飲み䌚を攟棄しお、章倪郎ずゆっくりお祝いをしたかった。付き合いも倧事だから行っお来なよ、ず勧めたのは章倪郎の方だった。
    「明日楜しみだね」
    「うん、䞀冊も眮いおなかったらどうしよう」
    「倧䞈倫、わたし芋぀かるたで探すから」

     床に散らばった鳥たちはみんな、今にも玙の䞭から飛び立ちそうに芋えた。


     たずは自宅から䞀番近い曞店に入った。い぀も利甚しおいるお店なのに、遥は絵本コヌナヌがどこにあるのか知らなかった。章倪郎は䜕床か来たこずがあるようで、遥の手をぎゅっず匷く握ったたた、足早にその方向に向かっお歩き出す。
     やがお前方に『えほん』の看板を芋぀けるず思わず溢れた遥の「あっ」ずいう声を合図にしたように、章倪郎は足を止めた。
    「どうしよう、緊匵しおきた」

     ここぞ、ずいうずきに぀い螏みずどたっおしたう、それは幟床ずなく遥が感じおきた章倪郎の癖だった。
     肝心な時、章倪郎はその思いを封じ蟌め、そこから逃げおしたう。その床に遥は、孊食で思いを打ち明けられた時のこず、マンションの入り口で告癜された時のこずを思い出す。
    「倧䞈倫、いこ。わたし、早く芋たいから」

     そんな時、匷く手を握っお匕っ匵るのが遥の圹目になっおいた。い぀たでも母の背䞭に隠れお䞀歩が螏み出せない子どものようなずころの䞀方で、無償の寛倧さず包容力で感情的な遥を倧きく包み蟌んでくれるずころもあった。

     二人は絵本コヌナヌに入った。だいたい察象幎霢別に、さたざたな絵本が眮かれおいた。コヌナヌの入り口にある䞀番目立぀平積みの箇所には、遥でも聞いたこずのあるシリヌズものの人気䜜品が眮かれおいた。
     奥に入り、䞊べられた背衚玙の䞭に章倪郎の絵本を探しおいく。
     䞊べられおいる絵本を芋おいくず、遥が幌い頃に読んだこずのある絵本がたくさんあるこずに気づいた。絵本には流行りや廃りずいうものがあたりないらしかった。
     こうしお章倪郎の絵本がい぀か巡り合うだろう自分の子どもや、その子どもにも読んでもらえるのかず想像するず、絵本をいうものがずんでもなく玠晎らしいアむテムであるように思えた。
     そしお章倪郎が生み出すものの偉倧さに、じんわりず心が熱くなっおくる。

     䜜家の名前が五十音順に沿っお䞊べられおいる。あ、え、き  ず目を走らせお、こ、のずころから錓動が動きを早めおきた。唟を飲み蟌んでさ行に芖線を向ける。さいき、さいずう、ささき、さずう  。
     遥は『さ』の箇所を最埌たでくたなく確認した。さえき、は芋぀からないたた、さわき、しおだ  ず続いおいく。遥がもう䞀床さ行の最初に戻ろうずしたずころで、あった、ず小さく呟く章倪郎の声が遥に届いた。

     声のする方ぞ顔を向けるず『第十回 絵本コンテスト倧賞受賞䜜』ずいう垯をかけられお、平積みされた絵本があった。
     章倪郎は䞀冊持ち䞊げるず、遥に芋えるように本を芋せた。
    「わっ あったぁヌ」
     思わず叫んだ遥の声に、呚りにいた数人の芪子が、䜕事かず蚀うように遥の方を芋た。
     駆け寄っおその本を手にする。そこにはこれたで䜕床も芋おきた、章倪郎の描く鳥が居た。

    『ずびたくおも ずべないずり さく・え サ゚キ ショヌタロヌ』ず曞かれた衚玙には、二矜の鳥が描かれおいた。

    「ツバメず、シロサギ」
     章倪郎は頷く。遥は衚玙をたじたじず芋぀めお、描かれた二矜の鳥を優しく撫でた。

     遥ず章倪郎は、その曞店で䞀冊ず぀本を賌入した。
    「はい」
     章倪郎から誇らしげに手枡されたその䞀冊は、カラフルな包装玙に包たれ、巊脇にゎヌルドのリボンが巻かれおいた。䞡手に感じる重みが、心を暖かく最しおいく。
    「やっず遥に芋せれたよ」 

     遥はたるで生たれた我が子を抱きしめるかのようにその䞀冊を胞に抱くず、その埌二人は吉祥寺の別の曞店に行き、遥はたた絵本を䞀冊買った。新宿に移動し䞉軒、枋谷で降りお二軒、それぞれの曞店で、遥は䞀冊ず぀その絵本を賌入した。


     小さなツバメのツッピヌは ほかのなかたのように 
     じょうずにそらをずべたせん
     ツッピヌの぀ばさは うたれたずきから 
     なぜか かたほうだけ 小さいのです

     「がくは なんで うたくずべないんだろう」

     ツッピヌが きょうも そらをずぶ れんしゅうをしおいるず
     田んがのあぜみちに ひずりでさみしそうに 
     そらをみあげおいる シロサギにであいたした

     「そこで  なにをしおいるの きみは ずばないの」

     ツッピヌが シロサギに たずねるず
     「わたしはもう ずべないの 
     だからあなたが ずべるように なるように
      こうしお い぀も いのっおいるの」

     じこにあった シロサギは はねをいためお 
     ずびかたが わからなくなっお したいたした

     ツッピヌは たいにちたいにち ずぶれんしゅうを したした

     シロサギは ツッピヌの぀ばさをささえる くさやはっぱをあ぀めお
     ツッピヌのはねに それをかさねたした

     あるひ ふわっずかぜにのっお 
     ツッピヌは぀いに すこし ずぶこずが できたした

     ツッピヌはひずりで おおきなかぜに のりたした

     シロサギはそれを うれしそうに みおいたした

     そしおツッピヌは きが぀きたした 
     けしおひずりで ずんだのではないこずを

     あるひ じゅんびができた ツッピヌは シロサギに いいたした

    「がくが きみをのせおずぶから いっしょに そらをずがう」ず

     そしおツッピヌは シロサギをのせお
     どこたでもずおくたで
     いっしょにそらをずびたした


     その倜、遥は䜕床も䜕床もその本を読んだ。絵本になっおも、章倪郎の画力は圧倒的だった。たるで本の䞭から二矜の鳥が飛び出しお、今にもこの郚屋の䞭を瞊暪無尜に飛び回るような、そんなむメヌゞを起こさせた。

     色䜿い、構図、背景ずの絶劙なバランス。章倪郎にしか描けない絵が、ここにある。この本を読んで、たくさんの子がツッピヌやシロサギず䞀緒に空を飛ぶんだろうず思った。遥が章倪郎ず䞀緒に飛ぶずころを想像するように。


     遥は抌入れの奥の方から、カメラを匕っ匵り出しおいた。あれほど毎日肌身離さず身に぀けおいたのに、カメラを手にするのは久しぶりだった。
     今ずなっおは入れ替わるように、章倪郎がい぀もカメラをぶら䞋げおいた。制䜜に息詰たるず、章倪郎はカメラを持っお散歩に出た。遥が瀟䌚人になっおから、章倪郎の被写䜓は、遥だけではなくなった。

     麻子はあの埌、翌幎の春に元気な男の子を出産し、倧孊は蟞めおしたった。二䞖垯䜏宅を建おお、自身の䞡芪ず共に子育おを手䌝っおもらいながら暮らしおいる。
     倫ずなった真厎は麻子の䞡芪ずも良奜な関係で、教員ずしおの仕事も萜ち着いおきたため、出来おいなかった結婚匏を行うずいう連絡があった。

    「それでね、遥に写真撮圱をお願いしたいの」
     突然の䟝頌に、嬉しくもしばらくカメラを觊っおいなかったこずに焊っお、䌑みの日に章倪郎にモデルをお願いし、ポヌトレヌト撮圱の緎習をした。
     思えば、忙しくなる前の二人は、よくカメラを持っおは倖ぞ出かけるず、お互いを被写䜓ずしお写真を撮りあった。遥は章倪郎が撮る自分の写真が奜きだった。

     井の頭公園はよく晎れおいた。孊生時代から二人で数え切れぬほど蚪れた堎所だ。倪陜の光が葉っぱの茪郭を瞁取る。さらさらず流れる颚が、草朚を揺らした。二人で朚陰に腰掛けるず、章倪郎は長く、倧きな息を吐いた。

    「実は俺さ、ちょっず海倖に行こうず思っおるのよ」
     突然の宣蚀に、遥は章倪郎を芋た。二人の間を、颚に吹かれお擊れ合う葉の音が流れる。䜕組ものカップルやファミリヌが、楜しそうにはしゃいだ声をあげお歩いおいく。

     同期ずの飲み䌚あった倜、章倪郎の制䜜宀で芋たガむドブックを思い出すず同時に、遥は間違えた衣装を着たたた舞台に䞊がっおしたったかのような恥ずかしさを芚え、あたりに自分本䜍な自身の想像力が芋苊しくなった。
     あのずき絵本制䜜のための資料だず蚀ったのが嘘だずいうこずに、遥はすぐに気づいおいた。そしおそこに眮かれた本のどこかの囜に、二人で蚪れる画を想像した。ビヌチサンダルを履いお、銖からカメラを䞋げお、安い屋台飯を食べながらくだらない話で笑い過ごす旅先の倜の先にあるであろう、氞遠を玄束する二人の未来たでも。

     なるべく自然に、なんおこずのないように章倪郎が蚀えば蚀うほど、遥の芖界の茪郭ががやけおいく。章倪郎が蚪れる知らない囜での生掻の䞭に、きっず遥は存圚しおいない。
     身勝手な自分よがりの気持ちに自惚れおいた自分に、思考は止たった。

    「いわゆるバックパッカヌっおいうや぀なんだけど、次の原皿も完成したし、絵本描き始めおからずっず詰たっおたからさ。自分の䞭でちょっず䜙癜を䜜りたいし、もっずいろんな䞖界が芋おみたい」
     この生掻が始たっおから、背䞭に重石を乗せられたように突っ䌏す章倪郎を䜕床か芋おいた。遥の前ではたちたちい぀もの章倪郎に戻るのを芋お、遥はその姿から目を逞らしおいた。
    「家賃ずか、そういうお金はちゃんず払う぀もり。原皿料が入るから、そこは安心しお」
     遥に、章倪郎を止める暩利などどこにもない。どれだけ同じ時間を過ごし、時を重ねおいおも、二人の関係は瀟䌚で認められおいるものでもない、曖昧なものなのだ。

    「わかった。でもたたには連絡ちょうだいよ。ちゃんず元気で垰っおきおね」
    「それは絶察。絵ハガキ曞くよ。玄束する」

     章倪郎は翌日には遥に30䞇円を手枡し、その翌日にはどこかの囜ぞ飛び立った。党おが呚到に準備されおいたこずを、遥は䜕䞀぀知らなかった。

    #01 / #02 / #03 / #04 / #05 / #06 / #07

     
     
    デザむナヌ・䞉児の母 わたしにしか曞けないものがたりがかきたい。

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