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Photo byaki_ashibi

Pluto-教授と、彼の恋人と、私。④

    ④ 最先端という空き箱

    私が働いているのは、小さな新興インターナショナルスクールだ。

    「インターの先生なんですね。」

    そう言われると、たいてい少し羨ましそうな顔をされる。

    自由そうですね。

    英語ばかり話しているんでしょう。

    生徒さんも優秀なんでしょう。

    そんなふうに言われるたび、私は曖昧に笑う。

    間違いではないからだ。

    校舎は新しい。

    ガラス張りの教室。

    一人一台のパソコン。

    廊下には英語と日本語が半分ずつ流れている。

    見学に来た保護者は、決まって感心する。

    「未来的な学校ですね。」

    未来的。

    わくわくする言葉だ。

    学校も、その言葉が好きだった。

    探究。

    STEAM。

    ウェルビーイング。

    グローバルシチズンシップ。

    去年まで毎日のように聞いていた言葉が、一年後には誰も口にしなくなる。

    新しい言葉が来るたびに、前の言葉は静かに消えていく。

    流行色や新しいダイエットみたいだ、と私は時々思う。

    もちろん、この学校には好きなところもたくさんある。

    国籍なんて気にしない。

    失敗した子を笑わない。

    「やってみよう。」

    その一言を、大人も子どもも自然に口にする。

    そういう空気は、日本の学校より少し上手かもしれない。

    でも、時々、立ち止まりたくなる。

    ある日の授業で、一人の男の子が手を挙げた。

    「先生。」

    「はい。」

    「日本語って、将来使います?」

    教室が少し静かになった。

    悪気なんて、まったくない。

    純粋な質問だった。

    私は少し考えてから笑った。

    「そうねえ。どうなんでしょうねぇ。」

    教室に笑いが広がった。

    その子も笑った。

    それで授業は終わった。

    でも、私は帰り道まで、その言葉を考えていた。

    役に立つから学ぶ。

    役に立たないなら学ばない。

    それは、とても合理的な考え方だ。

    AIは英語を一瞬で日本語に訳す。

    日本語を英語にも訳す。

    そのうち、外国語を覚える意味さえ変わっていくのかもしれない。

    そう考えると、「日本語って将来使います?」というあの子の質問は、案外まっとうだった。

    私だって、答えを持っているわけじゃない。

    でも、それでも思う。

    言葉は、伝えるためだけにあるんだろうか。

    誰かを好きになったとき。

    悲しくて眠れない夜。

    夕焼けを見て、きれいだと思った瞬間。

    そんな気持ちまで、AIが代わりに感じてくれるわけじゃない。

    だから私は、日本語を教えているというより、自分の言葉を探す時間を教えたいのかもしれない。


    その頃、職員会議では新しい言葉が飛び交っていた。

    「生成AIをもっと授業に取り入れましょう。」

    誰も反対しない。

    私もしない。

    便利なのは、本当だから。

    でも、その言葉を聞くたびに、胸の奥が少しだけざわつく。

    そのざわつきが何なのか、このときの私は、まだ言葉にできなかった。

    はじめに https://note.com/pluto369/n/nd9a991f49352

    1 https://note.com/pluto369/n/n70ff91570b14

    2 https://note.com/pluto369/n/na487963d6b1b

    3 https://note.com/pluto369/n/n7fc35833181c

    4 https://note.com/pluto369/n/nfc1f077e5f59

    5 https://note.com/pluto369/n/nb99f5b50e8ab

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