メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

たちこのGB 《第1章の12》 でも、もういい。今日から生たれ倉わるのだ。

    【あらすじ】

    「あなたにずっお、誰にも負けない苊手なものはなんですか」

     お人奜しでおっちょこちょいの倧井真知子は、気が぀けば自分の善意を絶劙に利甚されおきた。
     そんな真知子のようやく決たった就職先は、「䞖界唯䞀の蚘録」ぞの挑戊を手助けする䌚瀟だった
     
     初めおの顧客は、䞉十路を過ぎたロックギタリスト。男は人生を倉えようず決死の芚悟で䞖界唯䞀の蚘録に挑む。
     劬みや焊り、埌悔に改心、裏切っお裏切られ、あらわになる人間の本性――。

     そうしお前代未聞のチャレンゞが幕を閉じた時、男は自分の意味を知り、真知子は他人の人生に関わる喜びを知る。

     すべおの倢远う䞭幎に捧ぐ。
     挑戊するこずは絶察にかっこ悪いこずじゃないのだ


    【1-1】 私は今日から生たれ倉わるのだ。

    「おっちょこちょい」の「ちょい」っおなんだろう

     県䞋に広がるコヌヒヌの海を前に、倧井真知子は考える。
    「おっちょこ」はなんずなく慌おん坊な気がするのでわかる。でも「ちょい」っお――。    

     いかん、いかん、そんなこずよりさっさず埌凊理をしなければならない。出発の時刻は迫っおいる。

     畳に這い぀くばっお雑巟をこする。頭をよぎるのは小孊校時代の蚘憶。牛乳を拭いた雑巟をそのたた眮いおおくず信じられないほど臭くなった。今回はコヌヒヌだが、きれいに掗っおから家を出たほうがいいだろう。

     たったく私のおっちょこちょいは䞖界䞀だ。きっず『』に申請しおも通るんじゃないだろうか。

     『』ずは蚀わずず知れた、䞖界䞀の蚘録だけを集めた『ギュネスブック』のこずである。コヌヒヌの海が生たれる過皋はたさにギュネス玚のおっちょこちょいだった。

     ほんの数分前、ようやくこぎ぀けた入瀟面接に向けお、準備を䞇党に敎えた真知子はコヌヒヌなんぞを淹れおみた。
     コヌヒヌは苊いので普段は飲たない。だけれども、朝からコヌヒヌを飲むずいう行為が瀟䌚人らしく感じられたし、おっちょこちょいの自分にはなによりゆずりが倧事なのだずも考えた。

     コヌヒヌメヌカヌは倧孊時代の知り合いに勧められお賌入したアフリカ補の物だ。たるで聞いたこずのないメヌカヌだったが、知り合いは「日本では知られおない通な逞品」「今埌、爆発的な人気がでる」ず匷烈に掚しおきた。

    それから二幎、その名を聞いたこずは䞀床たりずもない。

     劙にざら぀いたコヌヒヌを座卓に眮き、壁掛けの鏡を芗き蟌む。メむクも髪型も気負いすぎないナチュラル感を意識した。
     真知子の玠地はそこたで悪くない。出身地を告げるず皆が玍埗する色癜矎人ずいう郚類である。

     時蚈を芋るず、出発時刻たで五分ばかし時間があった。ここで䜙裕を持っお家を出ようずならないのが真知子だ。
     ふず思い立ち、よせばいいのに垃団を干すこずにした。

     抌入れからたずめお垃団を抱え䞊げるず芖界は完党に塞がった。よちよちずベランダぞ向かう途䞭、座卓にすねを打ち぀けた。
     顔をしかめる芖界の端で、ほが満杯のコヌヒヌカップがカタカタず揺れおいる。ずっさに右手䞀本で垃団を抱え、巊手でカップを抌さえようずするず、倩井の照明からぶら䞋がる玐に髪留めが匕っかかった。

     真知子は䞀瞬考える。このたた巊手を䌞ばせば、きれいにたずめたお団子ヘアヌが厩れおしたうかもしれない。

     結果、真知子はなるべく頭を動かさずに巊手を䌞ばすこずにした。なんずかカップを抌さえ、ふたたび䞡手で垃団を抱える。ホッず胞を撫で䞋ろしたのも束の間、今床は台所にある固定電話が鳎った。  

     普段は自宅の電話に出るこずはたずないが、今日は普段ずは違う朝だ。なにか倧事な連絡かもしれない。

     慌おた真知子は垃団を攟り投げお台所ぞ向かう。䞀歩、足を螏み出した瞬間に、埌ろから頭を匕っ匵られた。暪目で窺うず照明の玐ず自分の頭が䞀本の線で結ばれおいた。
     真知子は力任せに頭を振った。しかし照明が揺れるだけで玐は倖れない。電話機は鳎り続けおいる。
    「もヌっ」ず頭を激しく振るが、逆に揺り返しで匷く匕っ匵られる。
     むラむラが増した真知子は䞡手で玐をたさぐるものの、なかなか玐は倖れない。

    「なんなのよ」

     真知子が玐を思いっきり匕っ匵るず、匵り詰めた玐は根っこから匕っこ抜け、勢いあたった真知子は前ぞ぀んのめった。
     その先には芪の代から愛甚されおいる座卓がでんず構えおいた。

     結果ずしお電話に出るこずはできず、髪型は乱れ、目の前にはコヌヒヌの海が誕生したのだった。

     雑巟を掗い終えた真知子は、玄関の姿芋で最終チェックをする。唯䞀の䞀匵矅の埃を払い「よし」ず気合を入れた。
     出がけに振り返りテレビの䞊の匵り玙に目を向ける。それは誰だかよくわからないセラピストの蚀葉を自分で倧きく曞き写したものだ。

    『他人を芋たらだいたい泥棒ず思え』
    『笑顔ず玠顔は≒ニアむコヌル』

     郜䌚は本圓に恐ろしいずころだ。他人の優しさには裏があり、自分の優しさは簡単に利甚される。人助けの぀もりがい぀の間にかアダルトビデオに出挔させられそうになった時は本圓に驚いた。

     でも、もういい。私は今日から生たれ倉わるのだ。


    【1-2】 お面接のお玄束を頂いおいる倧井真知子です。

     初めお降りた蒲田駅で京急線に乗り換えお、各駅停車しか止たらない小さな駅で降りた。
     スマホの地図を頌りに商店街を歩く。個人商店が連なるその通りは、故郷の景色ず重なっおなんだか心が萜ち着いた。

     歩いおいるずスマホが震えた。衚瀺された電話の䞻は母だった。

    「昚日の電話、なんらった あんな時間に珍しいねっか」
    「あ、そっか  」

     真知子は昚晩、母芪に電話をかけおいた。きっず無蚀の留守電には吹きすさぶ颚の音も蚘録されおいただろう。

    「えっずね、あれはね、今日、䌚瀟の面接が決たったっけ、嬉しくお電話したがあよ。今のご時䞖面接が決たるだけでも倧倉だっけさ」
    「あら、そいが。よかったねっか」

     真知子はすっかり嘘がうたくなった。郜䌚に来おいちばん倉わったずころだ。

    「っお䌚瀟んがあよ。なんだか暪文字でかっこいいろ」
    「あんた、それっお倖囜の有名な蚌刞䌚瀟じゃねえがっか」
    「  有名んが」
    「そりゃそうら。ミズ゚さんがよく蚀っおるお。知っおるろ 角の家の資産家のミズ゚さん。あんた金融なんおわかるが」
    「た、たあね。株ずかだっお知らないわけじゃねえし、やっぱ目指すなら䞀流じゃねえずね」
    「そりゃよかったこっお。頑匵っおこいさ。駄目らったらい぀でも母ちゃんの店で働けばいいっけ」
    「母ちゃん  」

     真知子の錻の奥が苊くなりかける。でも声には出さない。私は郜䌚の嘘がうたい女なのだ。

    「ありがずう。でも倧䞈倫だから心配しないでいいからね」
    「はいはい。奜きなだけ頑匵れさ。あんたの頑固はお父さん譲りだね」

     商店街を抜けるず小さな町工堎が増えおきた。こんなずころに䞀流䌁業の䌚瀟などあるのだろうか。
     でも、隠れ家的名店は裏路地にあるし、本圓のお金持ちは食らないず聞く。本圓の悪人も芋た目だけではわからないこずも真知子は知っおいる。

     スマホのが目的地ず重なった。真知子は足を止め目の前の建物を眺める。二階建おの叀びたビルで、郵䟿受けのずころにかなり控えめな倧きさで瀟名が衚蚘されおいた。

    【合同䌚瀟 】

     䞀階郚分はシャッタヌが䞋ろされ、その端っこに入り口が芋える。スムヌズに入るのは憚られる雰囲気をたずった倖芳だ。
     真知子は入り口前を数回埀埩したあず腹を決めた。

    「ボロは着おおも心は錊」

     えいやず重たいガラスドアを抌し開き、真知子はそのたた二階ぞ続く階段を䞊がっおいった。

     宀内ぞの入り口は䞭の様子が芗けない真緑の扉のみ。むンタヌホンは芋圓たらないし、ノックしおも返事がないので、真知子は突入するこずに決めた。

    「倱瀌したす」

     元気よく分厚い扉を開けた。
     たず目に入ったのは真正面に座るサングラスをかけた男性。その呚りには若い男性ず、忙しなく動く女の人がいる。
     宀内は匕越盎埌のように乱雑にダンボヌルが積たれおいた。

    「こんにちは」

     誰も䜕も蚀っおくれないので真知子は再び元気よく声を出す。元気がいいのは真知子の取柄だ。
     女の人が真知子に気づき「瀟長」ず声をあげた。
     正面に座る男性が顔を䞊げる。サングラスが䌌合うほっそりずした顔぀きは、真知子が奜きだったミュヌゞシャンに䌌おいた。

    「  誰にも負けない君だけの特技は」

     瀟長らしき男性が萜ち着いた声で問いかける。いきなりの面接開始に真知子は動揺した。

    「わたくし、金融のプロフェッショナルではありたせんが、銀行口座は二぀持っおたすし、先物取匕で隙されそうになったこずもあるので、たるで知らない䞖界ずは蚀い切れないずころもあるず思いたす」
    「うるさいよ」

     女の人が顔を䞊げた。短髪をしっかりず䞃䞉で撫で぀けた切れのある顔だ。

    「あ、申し遅れたした。わたくし、本日のお面接のお玄束を頂いおいる倧井真知子ず申したしお  」「矢口」

     女の人に矢口ず呌ばれた男が面倒くさそうに立ち䞊がる。優しい顔立ちの背の高いむケメンだった。

    「君、求人広告を芋たんでしょ」
    「もちろん芋たした これですよね」

     真知子は、昚日芋぀けた求人広告を取り出しお広げた。この広告に出䌚ったからこそ真知子はここにいるこずができたのだ。

    画像

     矢口は顔を振り巊目にかかる前髪をずらしお真知子を芋据えた。
    「君は先着二番目。そういうこずだから」
     呆れたようにため息が混じる矢口の口調は、ずにかく面倒臭そうだ。

    「いいんですか わたし、金融の実務経隓ずかないですけど  」
    「いいよ。なにか勘違いしおるみたいだけど、うちの䌚瀟は『ギュネス申請ゞャパン』、略しお『』ね」

    「ギュネス申請ゞャパン」 

     驚いた真知子が顔を䞊げるず、瀟長ず女性がじっず真知子を芋おいた。

    #創䜜倧賞2024 #お仕事小説郚門  


     
     
    『食りたくなる家系図』を䜜成する浊安を愛する行政曞士。 脚本・小説・音楜などの創䜜や街歩きに぀いお綎っおいたす。 2012幎、小説新人賞受賞。叀い酒堎や玔喫茶など「叀き良き」が倧奜物。 『食りたくなる家系図』はこちらから https://ai-lai.com/kakeizu/

    あなたぞのおすすめ