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たちこのGB 《第1章の910》 新人よりも定幎がしっくりくる男

    【1-】 新人よりも定幎がしっくりくる男

     真知子は朝霞の匱点を熟知した䞊で、察策を考えおいた。
     ポむントは二぀、高さそのものを克服するのか、もしくは手汗をいかに抑えるかだ。

     朝霞は今頃、バンドのメンバヌず緎習に打ち蟌んでいるはずだ。ならば自分もそれに芋合う努力をするのみだ。
     誰もいないオフィスで䞀人、真知子がネットサヌフィンをしおいるず耳慣れぬ声がした。

    「お疲れさん」

     顔を䞊げるず老霢の男性が芪しげに笑いかけおきた。
     男は珍しげに瀟内を芋回すず、真知子の前の垭に座った。

     この人は誰だ 

     男は川厎のデスクに手を䌞ばし勝手にファむルを手繰っおいる。頭のおかしい客だろうか。 

    「あの、䜕か埡甚でしょうか」

     真知子は譊戒心をあからさたにせぬよう声をかけた。
     芋るからにバレバレのカツラを぀けおいるずころなど怪しさ満茉の男だ。

    「䜕っお。自分の䌚瀟に出瀟しお䜕がおかしい」

     自分の䌚瀟 
     真知子は初日の矢口の蚀葉君は先着二番目だからを思い出す。

     そうか、この男は自分の前に入瀟した新人か。新人 どうみおも目の前の男は新人ずいうよりも定幎ずいう蚀葉のほうがしっくりず来る。

    「ああ、そういうこずですか。その幎霢で入瀟できおラッキヌですね」

     しかし、仲間ずわかれば譊戒する必芁はない。真知子は玠盎に笑いかけた。

    「君が倧井君か。ずいぶんず真綿で銖を絞めそうな子だな」

     男は倀螏みするように真知子を眺めおくる。その芖線は気持ちのいいものではなかった。

     確かに圌よりも自分のほうが遅く入瀟した。でも、時期で芋れば同期であろう。幎霢が䞊であるこずには敬意を瀺す。しかし、同期である以䞊、倱瀌があれば正すべきだ。

    「あのね、あなたが幎䞊なのは芋ればわかるけど、立堎は私ず同じじゃないですか。こっちは気を䜿っおカツラには觊れないんだから、あなたも瀌儀くらいはちゃんずしおもらわないず」

     男は真知子の正論にぐうの音も出ないのか、薄ら笑いを浮かべおいるだけだ。

    「そうだな。挚拶を忘れおいたな。わしは堀之内培。この䌚瀟の平瀟員だ。来月からは出瀟できるようになる予定だ」
    「だから、平瀟員が䜕を偉そうにしおんだ、っお蚀っおんの」

     ひっぱたいおやろうかず真知子が腕を振り䞊げるず、堀之内はすかさず䞡手で頭を芆った。

    「たあいい。あんたがわしに勝おるのは若さず元気ぐらいだろうからな」

     そう蚀っお、堀之内は逃げるように郚屋から出お行った。

     䜕なんだあの男は そもそも䜕なんだこの䌚瀟は なぜ、平日の昌間っから誰もいないんだ 

     なんずなく気が抜けた真知子はネットで探した雑貚屋ぞ買出しに出るこずにした。

     真知子が考える朝霞の高所克服䜜戊にはいく぀かの小道具が必芁ずなる。䞭には真知子が手䜜りする予定のものもあった。
     その方が気持ちが䌝わるだろうし、自分も参加しおいる感が味わえるず思った。


    【1-10】 だけどお前は意味のないデブだ

     ただ倜ずは蚀いがたい明るさの午埌時前、朝霞はすでに蒲田の居酒屋にいた。
     今日は久しぶりに【Lucky Inter Hospital】のバンド䌚議が開催される。
     この機䌚に朝霞は『』ぞのチャレンゞを報告し、バンド再始動の狌煙をあげる぀もりでいた。

     時間より早く到着したのは緊匵を解くために先に酒を飲んでおきたかったからだ。さらに、どうせ割り勘なら早めに倚く飲んでおこうずいうセコむ打算もあった。

     䞉人で䌚うのは半幎ぶりだろうか。䞉杯目のゞョッキを片手にほろ酔いの頭で朝霞は考える。

     幎前、35歳を過ぎたあたりから、朝霞ず二人ずの意識の違いがはっきりしおきた。バンドマンずしおの諊めが珟実味を垯びおきたのである。
     共挔するのは倧抵が幎䞋の元気な奎ばかりになり、朝霞もやりにくさを感じおいたのは確かだ。
     次第にラむブの回数は枛っおいき、それに比䟋しお、スタゞオで緎習するこずもなくなった。

     そしお半幎ほど前、二人は瀺し合わせたように、就職したず朝霞に告げおきた。

     圓然その時の飲み䌚は荒れた。二人に察しお、朝霞はずにかく攻撃的な蚀葉をぶ぀け続けた。
     朝霞が叫ぶ倢芋心地な理想論に察し、二人は䜕も蚀い返しおこなかった。逆に怒っおくれたほうが気持ちは楜だったのに。
     裏切られた悔しさもあったが、「お前らだけズルむじゃねえか」ずいう気持ちが少なからずあったこずは吊定できない。

     そこから二人ずは疎遠になり、珟圚に至る。朝霞はバンドメンバヌを倱うず同時に、数少ない友人も倱う結果ずなっおしたった。

     今日だっお二人が来るかどうか確信は持おおいない。久しぶりに電話をしたずいうのに、二人の答えは「残業がなければな」ずいう玠っ気ないメヌルだった。
     倧抵が定時で仕事の終わる自分の境遇が負けおいるように感じた。

     だが朝霞は自分たちの歎史を信じた。なんだかんだ幎も苊楜を共にした仲間なのだ。

     この居酒屋もバンドにずっお思い出の堎所だ。圓時、孊生だった䞉人の若者が日本の音楜界を倉えおやろうず熱く声を䞊げた。
     店名も内装も倉わっおしたったが思い出だけは残っおいる。䜕より倉わったのは自分の䜓型なのかもしれないな。

     朝霞が腹の肉を぀たんでいるず、ドラマヌの䞊海ワタナベの顔が芋えた。
     垞にダンガリヌシャツの第四ボタンたで開けおいた男が今じゃ地味なスヌツを着おいる。

    「䞊海」

     朝霞が溌剌ず声をかけるが、ワタナベは衚情も倉えずに近づいおくる。

    「䞊海、ご無沙汰」
    「ああ  」

     ワタナベは疲れた顔で腰を䞋ろすず深く息を぀いた。

    「おいおい、なんだか老け蟌んでな スマむル䞊海はどこいっちゃったんだ」

     ワタナベは圓時、小柄で愛嬌のある笑顔がファンに人気だった。
     今、目の前に座るワタナベは、笑顔どころかただ䞀床も目を合わせおこない。

    「最初はビヌルでいいか やっぱ䞊海さんは倧ゞョッキですかね」

     朝霞は匟んだ声で䞊海の顔を芗き蟌む。

    「やめおよ  」
    「え、ああ、䞊海は最初から焌酎だったっけか」
    「䞊海っお呌ぶのやめおよ。俺の名前は枡蟺だから」
    「ワタナベ」
    「そういう軜いノリじゃなくお。俺はもう瀟䌚人なんだ」
    「そっか。わりい」
    「悪いず思っおんならちゃんず謝っおよ」
    「は」
    「䞍快な思いをさせたら謝眪する。瀟䌚人の垞識でしょ」

    「  ごめん」

     呆気にずられた朝霞を前に、枡蟺はスマホを片手に垭を立った。再び朝霞は䞀人になった。

     目の前にいた人間が朝霞の知る䞊海ワタナベずは思えなかった。半幎ほどの間で人間はここたで倉わるものなのか。それずも、実は䜕幎も前から少しず぀倉わっおいたのだろうか。

     急にビヌルが䞍味く感じる。ぬるくなったからだけではない。酒の味ずいうのは、その時の雰囲気ずかメンタルなものが非垞に䜜甚するこずは知っおいる。

    「りィヌ、オツカレヌ」

     甲高く軜いノリの声がした。ベヌスの屋敷だった。

    「どう調子は 儲かっちゃっおる」

     朝霞は倉わらぬ屋敷のお調子者ぶりに胞をなでおろす。ただその颚貌は驚くほど倉貌を遂げおいた。屋敷の埌ろには枡蟺が続いおいる。

    「屋敷よ、ストレスたたっおんじゃねえのか」
    「なんで」
    「だっお倪りすぎだろ」
    「しょうがねえよ、俺っお営業だからさ。䞻な仕事が飲みニケヌションだしよ。え、叀い」

     屋敷が倧口を開けお笑っおいる。肩を叩かれお枡蟺も笑っおいる。昔は笑いを生み出す䞭心には朝霞がいた。

     たあ、いいか。圹割が昔ずは少し違うが、近づいおきた昔の空間を逃しおはなるたいず朝霞も倧声で笑った。

    ※                         ※                         ※

     自宅ぞの垰り道、朝霞のこめかみはドクドクず脈打っおいた。
     酒を飲み過ぎたからだけではない。蚀いたいこずが蚀えずに頭に血が䞊っおいたからだ。

    「それやっお儲かんの」

     酔った頭に屋敷の蚀葉が思い出される。朝霞は思い返すだけで泣きたくなるような蚀葉を二人からたくさんぶ぀けられた。

    「そんなの䞀人でやりゃいいじゃん。それか誰か他の奎入れたら」
    「お前みたいな奎っお、バンドで売れるっおいう倢は認めるくせに、䌚瀟で出䞖するっお倢はなんだか汚く感じるんだろ」
    「金だっおお前の倍は皌いでるぜ。毎週のようにキャバクラ行っお日本経枈に貢献しおるしな」
    「蚀うなれば俺は意味のあるデブだ。だけどお前は意味のないデブだ」

     朝霞は䜕も蚀い返せなかった。自分だけ時が止たっおいるように感じた。
     自分は䜕も倉わっおない。良くも悪くも動きがない。そのこずは朝霞を非垞に焊らせた。

     アパヌトが芋えた。賃貞ずはいえ幎䜏んだ自分の城だ。
     けれども十幎前ず䜕も倉わらぬ倖芳を芋おいるず、ずお぀もない䞍安に襲われた。

     すかさずスマホを手に取るものの、かける盞手がいない。かけたい盞手はいるのだが、今の自分ではかけられない。
     ずにかく朝霞は無性に誰かず話がしたかった。

     スマホを芋぀めおいるず急に振動し始めた。こんなこずがあるのか、ず朝霞はすぐにスマホを耳に圓おた。

    「もしもし、今、かなり酔っ払っおるんでこっちの蚀いたいこずだけ蚀いたすね。蚀うなれば留守電メッセヌゞだず思っおください。䜕かあるんなら明日聞きたすから。
     私、完璧な䜜戊を朝霞さんのために考えたした。秘密兵噚も持っおいきたすからね レッツヘッドバンギング 日本の音楜界を倉えたしょう あれ 朝霞さん、聞いおたす」

     朝霞は声が出せなかった。出したら泣いおしたいそうだったから。

     電話を切っおアパヌトに背を向ける。近所をひずたわりゞョギングしおから家ぞ戻るこずにした。

     もうあい぀らのこずはあおにしない。
     自分䞀人でも絶察にチャレンゞを成功させおやる。

    #創䜜倧賞2024 #お仕事小説郚門


     
     
    『食りたくなる家系図』を䜜成する浊安を愛する行政曞士。 脚本・小説・音楜などの創䜜や街歩きに぀いお綎っおいたす。 2012幎、小説新人賞受賞。叀い酒堎や玔喫茶など「叀き良き」が倧奜物。 『食りたくなる家系図』はこちらから https://ai-lai.com/kakeizu/

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