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たちこのGB 《第1章の78》 泰平の眠りを芚たす再始動

    【1-】 倧䞈倫よ、哀れな子豚ちゃん

     笑い声で溢れおいたご婊人たちが䞀斉に垭を立った。皆がこれから倕飯の準備を始めるのかもしれない。
     静寂が蚪れた店内で、無蚀のたた芋぀め合う真知子ず朝霞がいた。

    「  俺、蚀ったよね」
    「䜕をですか」
    「面接の時に、高いずころだけは苊手だっお蚀ったじゃん」

     なかなかの圧を感じた。でも、ここで匕くわけにはいかない。私はコンサルタントなのだ。

    「これはもう決たったこずです。拒吊するようでしたら、さっさず私の目の前から消えおください。あくたでこれはビゞネスですから」
    「ねえ、高い所はホントにダメなんだよ。暜酒飲みながらラむブずか、掃陀しながらラむブずかじゃダメなの」

     さっきたでの自信はどこぞやら、朝霞は泣きそうな顔で懇願し始めた。

    「朝霞さん 昚日の朝霞さんはどこぞ行ったんですか 無理だずわかっおおも立ち向かうのがロックじゃないんですか」
    「  ロック」

     手銖にナむフを圓おおいた朝霞の動きが止たった。

    「やっおやりたしょうよ 朝霞さんの぀たらない人生、倉えおいきたしょうよ」
    「  ぀たらない人生」
    「毎日、あたしが手䌝いたすから。䞀緒に、苊手を克服しおいきたしょう」
    「  毎日」
    「はい。䞀日、䞀䞇円です」

    ※                         ※                         ※

     喫茶店を出た二人の姿は東京タワヌの麓にあった。
     
     目的は朝霞の高所恐怖症の床合いを枬るこずである。
     間近で芋䞊げる東京タワヌは、倕焌けに染たり荘厳のひず蚀に尜きた。

     実は真知子は東京タワヌに䞊ったこずがなかった。
     䞀人で行くず田舎ものだず思われそうだし、郜䌚かぶれの孊友たちには蚀い出せなかったからだ。

     ゚レベヌタヌを降り展望台の䞭ぞず進む。するず目の前に広倧な東京の颚景が広がった。

     遠くに山々をうかがえた時は思わず感嘆の声を䞊げおいた。
     真知子はずっず山のない空に違和感を芚えおいた。

     これが芪に意芋するほど憧れお、死にたいほど裏切られた東京の街。
     そしお今、私は東京をはるか飛び出しお䞖界を盞手にする仕事をしおいる。

    「あんたり窓際の方に行かないでくれよ」

     朝霞がオロオロず腰を匕いおいる。

    「さあ、朝霞さん。怖がっおる暇はないですよ」
    「そんなこず蚀っお、あんたも怖がっおんだろ」
    「怖がっおないですよ。歊者震いはしおるかもしれないですけど」
    「匷がるなっお。だっお、泣いおんじゃねえか」

     本圓だった。真知子が頬を拭うず、湿った流れを感じられた。
     悲しくも悔しくもないのに涙を流すこずなんおあるのか、ず思ったが、それ以倖の感情でも涙を流すこずくらいは知っおいた。
     ただ、今たでの人生でそんな瞬間がなかっただけだった。

    「ホントにダメなんだよ  」

     朝霞は窓際に近づいおは来るのだが、倖を芋䞋ろせるずころたでは来ない。

    「でも生理的にダメっお感じでもないですね」
    「ああ、゚ロいこず考えたりしお誀魔化すこずはできるんだけど、これだけはどうにもなんない」

     そう蚀っお、朝霞は䞡手を裏返した。
     手の平には滎らんばかりの手汗が茝いおいる。よく芋るず顔䞭にも汗が滲み出しおいる。

    「こんな状態でギタヌを匟くなんお無理だろ」

     確かにそうだ。こんな凄い手汗を真知子は今たで芋たこずがない。だからずいっお、諊めるずいう遞択肢はない。目の前には困りきった子豚のような朝霞がいる。

    「倧䞈倫よ、哀れな子豚ちゃん」

     ここからがコンサルタントずしおの腕の芋せ所だ。
    「豚はねえだろ  」ずいう朝霞の呟きも、未来を芋据えた真知子の耳には届かなかった。


    【1-8】倩孫降臚、泰平の眠りを芚たす再始動

     明埌日、再び朝霞ず䌚う玄束を取り付け真知子はオフィスぞ戻った。
     家以倖に戻る堎所があるずいう環境はなんず幞せなこずだろうか。

     オフィスにいたのは倧森だけだった。
     本日の業務報告をしおいる間も、倧森は手を組んで座ったたただった。

     瀟長の仕事がどういうものか知らないが、ここぞずいう時に動くのがトップずいうこずなのだろう。

     定時になり倧森が立ち䞊がる。食事にでも誘われるかず期埅したが、倧森は「お぀かれさた」ずだけ残しお出おいった。

     ほんずに謎が倚い人だ。ずいうより真知子は同僚のこずをただ䜕も知らない。どんな仕事をしおいるかもわからない。

     朝霞のプロゞェクトが終われば新人歓迎䌚があるだろう。真知子はその時が来るこずを楜しみに埅っおいる。

     ひずり残された真知子は残業するこずにした。
     朝霞の件ず平行しお『』に぀いおの勉匷もしなければならない。

    『』ずはゎルフ堎経営で有名なギュネスグルヌプが発行する曞籍であり、幎の歎史を誇る。
     過去幎のブックに目を通し、チャレンゞや蚘録を把握しおおく必芁がある。

     そこには、驚くような蚘録から笑えるような蚘録たでさたざたあった。ここに朝霞が加わるのかず思うず残業を頑匵る意欲が沞いおきた。

     小䞀時間ほど䜜業をしお、真知子も垰宅するこずにした。
     倖はもう暗く、電車は家路を急ぐ人たちで混み合っおいお、瀟䌚の䞀員ずなった実感が沞いた。

     シャワヌを济び髪を也かし終えるず、猶チュヌハむを開けた。
     今の私はちゃんず劎働をしおいる。誰の目も憚るこずなくお酒を飲むこずができる身分だ。

     パ゜コンを開き、ネットで朝霞のバンドを怜玢しおみるず、いく぀かの動画がヒットした。
     真知子は、その内のひず぀【Oh Food Ticketおしょくじけん】ずいうタむトルのラむブ映像を芋るこずにした。

     それほど広くはなさそうなラむブハりスは客でぎゅうぎゅうだ。ステヌゞ䞊の䞉人が挔奏を始めるず、客の党員が頭を振り出した。
     おそらくギタヌを持っおいる男が朝霞だろう。その暪では䞡目を絆創膏で塞いだ男が飛び跳ねながらベヌスを匟いおいる。ドラマヌは、小柄ながらもダむナミックにスティックを振っおいた。

     曲が終わるず、盛り䞊がりの䜙韻を匕きずったたた朝霞が火を噎き出した。客垭埌方から怒号ずずもに消火噚が噎霧される。
     ラむブは䞭断され、店員ず思しき匷面の男たちず朝霞たちがもみくちゃになっおいる。

     真知子は画面に釘付けのたた手蚱の猶が空になっおいるこずに気づいた。
     䞀秒でも芋逃すたいず倧急ぎでもう䞀本を取りに行き、戻っおきた時に䜕床でも芋られる映像なのだず気が぀いた。

     新たに猶チュヌハむを開け、ふたたび再生ボタンを抌した。
     近いうちにこの他のメンバヌにも䌚うのだず思うず、よりアルコヌルが䜓䞭に浞透しおいくのがわかった。

    ※                         ※                         ※

     同じ頃、朝霞も猶チュヌハむ片手にテレビの歌番組を芋ながら悪態を぀いおいた。

     この番組の出挔者の䞭で真のミュヌゞシャンず呌べる奎はどれほどいるのだろうか。
     アむドルが片手間で歌を出したり、ミュヌゞシャンを名乗っおいおもタレント同然の奎らばかりじゃないか。

     食べ終えたラヌメンのどんぶりを芋ながら朝霞は「ク゜ッ」ず吐き捚おた。
     今日のラヌメンは卵を切らしおいたので味気ないものだった。

     朝霞はこの前の興奮を思い出す。真知子は間違いなく自分の音にグルヌブしおいた。
     昔は、あんな興奮が毎週のようにあり、真知子のように興奮しおくれる人がすぐそばにいた。

     朝霞は流しに溜たった食噚を掗いながら決めた。今すぐバンド再始動のために動き出すこずを。

     すっかり疎遠になっおしたったメンバヌたちに電話をかけた。メヌルの方が気が楜だったが、わざわざ電話するこずで自分の決意を瀺したかった。
     二人ずも留守電だったので、朝霞は䞀蚀だけメッセヌゞを残した。

    「泰平のねむりをさたす再始動。レッツヘッドバンギング」

     この蚀葉を聞けば二人は喜んで連絡を返しおくるはずだ。
     二時間埌、留守電に気づかない可胜性もあるので、䌚合の日時堎所等の詳现をメヌルしおおいた。

     明日の倜、久しぶりに【Lucky Inter Hospital】の面々が顔を合わすこずになるはずだ。
     平日にも関わらず日付を明日にしたのは、䞀刻も早くずいう意気蟌みを瀺したかったこずもあるが、久々の友達に早く䌚いたかったこずもある。

     朝霞は久しぶりに自分のブログを曎新した。十数幎前、バンド結成を機に立ち䞊げたものの、自然ず曎新は滞りここ数幎は攟眮の状態だった。
     曞いたずころで誰からもリアクションはないだろうし、時代はなのもわかっおいる。

     だが今回は蚘さずにはいられない。だっお『倩神降臚、いよいよ䞖玀最埌の倧物バンドが動き出す』のだ。

     この蚘事だっお誰にも芋られないかもしれない。
     でも、い぀でも誰もが芋られるようにしおおくこずが重芁なのだ。

     もしも、誰かが、自分のこずを思い出しおくれた時のために。

    #創䜜倧賞2024 #お仕事小説郚門

     
     
    『食りたくなる家系図』を䜜成する浊安を愛する行政曞士。 脚本・小説・音楜などの創䜜や街歩きに぀いお綎っおいたす。 2012幎、小説新人賞受賞。叀い酒堎や玔喫茶など「叀き良き」が倧奜物。 『食りたくなる家系図』はこちらから https://ai-lai.com/kakeizu/

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