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Summer Wool ― 倢を远う君が奜き ―《6》【創䜜倧賞2026】

    《》《》《》《》《》《》《》《》



    しばらく䌚わないうちに颚銬くんは、氞井さんの助蚀もあっお、父芪ず兄に自分の本心を打ち明けおいた。これたで二人には理解しおもらえないず思っおいたらしいが、実際には予想以䞊に前向きな反応が返っおきたずいう。
    その話を聞いお、わたしもほっず胞を撫で䞋ろした。
    陞人さんが颚銬くんを芋盎したきっかけは、圌がパシトヌルに足繁く通っおいたず知ったこずだったらしい。

    それもそのはず。
    氞井さんはパシトヌル開業前から䜕床も関牧堎ぞ足を運び、矊の飌育環境を自ら確かめに行ったほど熱心な人だ。陞人さんにずっおは、最も信頌を寄せる盞手の䞀人なのだろう。
    そんな氞井さんず匟が芪しく亀流しおいたこずがよほど嬉しかったのか、颚銬くんが本心を打ち明けおから十日も経たないうちに、陞人さんは北海道からやっお来た。

    ◇

    久しぶりに陞人さんず氞井さんが顔を合わせるこずになったその日、颚銬くんから「぀いでに戞塚さんのこずも兄に玹介したい」ず同垭を頌たれた。
    “぀いで”ずいう蚀葉を䜿ったのは、わたしが身構えないようにずの配慮だったのだろう。
    だからわたしもその気遣いを台無しにしないよう、できるだけ気楜な顔をしおパシトヌルぞ向かった。
    けれど内心は少し萜ち着かなかった。

    採甚面接を受けるような緊匵を抱えたたた、陞人さんの真向かいに腰を䞋ろした。
    しかし、初めおきちんず向き合っお話す陞人さんは、想像しおいたよりずっず穏やかな人だった。
    わたしが関牧堎に宿泊し、あの日レストランで兄匟喧嘩を目撃しおいた客だず知るず、圌は驚いた様子だった。
    しかも珟圹の看護垫だず䌝えるず、さらに目を䞞くした。
    「看護垫さんも倧倉なお仕事だろうけど、うちの仕事もなかなか䜓力勝負ですよ。それでも興味を持っおくださったんですか」
    陞人さんは、少し探るような目でわたしを芋た。
    返事に困っおいるず、
    「兄貎、戞塚さんには牧堎の実務じゃなくお、広報的な仕事を䞭心にお願いするのはどうかな」
    ず、颚銬くんが間に入っおくれた。
    けれど陞人さんは、圌を諭すように蚀った。
    「商品の魅力を䌝えるには、実際に珟堎を把握したりスタッフずの連携が必芁䞍可欠だろ」

    どうやら陞人さんは、経歎やスキルを確認するずいうより、“本圓にこの䞖界に足を螏み入れる芚悟があるのか”を確かめおいるように芋えた。

    自分たちは矊の呜を扱っおいる。
    蟲業は、倩候や家畜の䜓調ひず぀で予定通りにはいかなくなるこず。
    可愛いずか癒やされるだけでは、絶察に続けられないこず。
    陞人さんは真剣な衚情のたた、仕事の珟実を䞀぀ず぀淡々ず話しおいった。
    その姿は、「憧れだけで来る堎所ではない」ず無蚀で䌝えおいるようにも思えた。
    けれど話を聞けば聞くほど、わたしの䞭では逆に芚悟みたいなものが静かに固たっおいく気がした。

    陞人さんの話が䞀区切り぀くず、それたで黙っお耳を傟けおいた颚銬くんがゆっくりず顔を䞊げた。
    「僕の意芋だけど、いきなり珟堎䞭心にする必芁はないず思う」
    厳しい話を聞いたあずだからこそ、その蚀葉は颚銬くんなりの気遣いのようにも思えた。
    たずはWeb担圓ずしお圚宅勀務を基本にし、牧堎スタッフが撮圱した写真や動画を䜿っお、ホヌムペヌゞやSNSの運営を任せる圢はどうかず提案しおくれた。
    それに察しお陞人さんは、「それじゃあ、倖泚しおるみたいなもんだろう」ず譲らない。
    次第に二人はわたしを挟んだたた、「お前の考えは珟実性がない」「もっず広い芖点で考えるべきだ」ず意芋を戊わせ始めた。
    どうやら、わたしの面接そっちのけでずっくに兄匟䌚議ぞ移行しおいたらしい。
    互いに譲らず声に熱がこもり始めたずころで、氞井さんがワむングラスをテヌブルに䞊べ、「はいはい、その蟺にしずきなさい」ず苊笑混じりに割っお入る。
    その䞀蚀で匵り぀めおいた空気がふっず緩み、わたしは思わず小さく息を吐いた。

    「これは、副業ずしお関わるのか、本業ずしお飛び蟌むのかでだいぶ話が倉わっおくるんじゃないかな」
    氞井さんは、わたしたちを順番に芋ながら続けた。
    「戞塚さんを正瀟員ずしお迎えるなら、拠点は北海道に眮くべきだろうね。もちろんご本人の気持ち次第だけど。逆に、副業にするずかフリヌランスずしお仕事を請け負う圢なら、必芁なずきに牧堎ぞおじゃたするやり方だっおある」
    氞井さんが蚀い終えるず、兄匟はそろっおわたしを芋た。

    顔は䌌おいないず思っおいたのに、こうしお䞊ぶず空気感はよく䌌おいる。
    やっぱり兄匟なんだな  なんお、肝心な話の最䞭で、わたしは呑気にそんなこずを考えおいた。

    「戞塚さん」
    陞人さんが、ぐっず衚情を匕き締める。
    「先ほどもお䌝えしたしたけど、牧堎の仕事は決しお楜ではありたせん。自然ず動物が盞手なので、人の力だけではどうにもならないこずもありたす。なかなか採甚もうたくいかず、長く続けおくれる人を芋぀けるのも簡単ではないんです。正盎に蚀えば、うちはずっず人手䞍足です」
    䞀床蚀葉を切っおから、真っ盎ぐわたしを芋た。
    「だからこそ、自分から若い女性が飛び蟌んでくるような䞖界だずは、僕は思っおいたせん」
    穏やかな口調なのに、その蚀葉には重みがあった。

    「ぜひ䞀床北海道ぞ来おください。䞀週間でもいいので、実際に僕らの仕事を䜓隓しおみおほしいんです。その䞊で、最終的に刀断しおもらえたらず思っおいたす」

    「雇甚のミスマッチを防ぐずいう目的の、いわゆるむンタヌンずいうこずですが、いかがでしょうか」
    颚銬くんが補足するず、兄匟は䞀瞬顔を芋合わせたあず、息を合わせるように頷いた。
    さっきたであれほど意芋が割れおいたはずなのに、その瞬間、二人が芋えない堎所でそっず手を結んだような気がした。
    ようやく、ここから䜕かが始たるのだず思えた。

    「わかりたした」
    わたしは迷うこずなく頷いた。
    「むンタヌンの機䌚をいただけるのは、本圓にありがたいです。転職に぀いおは前向きに考えおいたんですけど、今日お話を聞いお、副業ずかフリヌランスみたいな関わり方もあるんだなっお芖野が広がりたした。正盎、自分では思い぀かなかったので  。たずは䜓隓させおもらっお、その䞊で改めお自分がどうしたいのか考えおみたいず思いたす」

    正盎、未知の䞖界にいきなり飛び蟌むのは怖かった。けれど、“蟞めるか蟞めないか”だけじゃない道もあるのだず思うず、少し肩の力が抜けた。

    そうやっお自分の気持ちが敎理できおくるず、い぀の間にか母の顔が頭に浮かんでいた。
    「  実は、わたしの実家も病院を経営しおいお。今はもう半分諊めおいるずは思うんですけど、母はい぀かわたしが実家に戻るかもしれないず思っお埅っおくれおいたす。たずは北海道でお仕事を䜓隓させおもらっお、自分の気持ちをはっきりさせようず思いたす。
    本圓に看護垫を蟞めるのであれば、母にも䞀床ちゃんず話をしなきゃいけないなっお。陞人さんず颚銬くんを芋おいお、そう思いたした」

    わたしの蚀葉を聞いた二人は顔を芋合わせ、どこか気恥ずかしそうに埮笑んだ。
    ようやく堎の空気が萜ち着いたのを芋蚈らったように、氞井さんが「じゃあ、今日はこれ開けちゃおうか」ず、ずっおおきだずいうワむンを取り出した。
    グラスに泚がれた深い赀色を眺めながら、これでようやく話も䞀区切り぀いたのだろうず思った。

    けれど、二人の議論はそう簡単には終わらなかった。
    「たあ、陞人さんの蚀うこずもわかるんだよ。新しい食文化を根付かせるっお簡単じゃないからね」
    倧事そうにグラスを揺らし、立ち䞊る銙りにそっず目を现めおから、氞井さんが口を開く。

    「そうなんですよ」
    陞人さんはすかさず話を匕き取った。
    「時代の流れずしお、販路を広げるために新しい販売方法を取り入れる必芁があるのはわかるんです。でも、颚銬が蚀うほど簡単な話じゃない。どれだけ手間やコストをかけおも採算が取れる保蚌はないし、商品の䟡倀をどれだけの人が正しく理解しおくれるのか。そこが䞍安なんですよ」

    「だからこそ、たずは詊しおみるべきなんじゃないかな」
    颚銬くんもすぐに蚀葉を返す。
    「今は“觊れる機䌚が少ない”から需芁が芋えにくいだけで、入口を増やせば倉わる可胜性は倧いにあるず思うんだ」
    「可胜性だけで投資はできないだろ。それに、倧衆受けする商品ではないからこその䟡倀もあるず思うんだよ、俺は」
    陞人さんは譲らない。

    わたしも黙っおはいられなかった。
    「陞人さんの考えっお、わかりやすく蚀うずサブカルの良さみたいなこずですよね わたしはそういう考え方、結構奜きですよ。流行りに乗っかるのもあたり奜きじゃないですし。
    そういう人っお、自分の奜きなものが流行ったり䞀般受けし始めるず、途端に冷めちゃう傟向があるんですよね。自分だけが知っおいるものに䟡倀を感じおいたりするから。でも今は、サブカルだったものも倧衆に芋぀かりやすくお、メむンカルチャヌずの差別化が難しい時代になっおきた気がしたす。
    たあ、畜産業ず゚ンタメを䞊べお考えるのも倉ですけどね」
    わたしの蚀葉に、陞人さんが䜕か蚀いかけお、口を閉じた。偉そうに聞こえおしたっただろうか。

    「面癜い捉え方だね」
    氞井さんが楜しそうに笑った。
    「確かに、䞀昔前ず違っお䞀般人がトレンドを生み出したり気軜に発信できるようになっおから、みんなが垞に新しいものを探しおいるような感じだもんね。蟲業だっお食ず盎結しおいるんだから、カルチャヌの䞀぀だず考えおもいいんじゃないかな。
    こんな時代だからこそ、䟡倀がわかる人の手によっお、正しく発信しおいくこずが倧切になっおくるず思うよ」
    「そうでしょう、だから僕はそこに慎重なんです。䟡倀が䌝わる前に、䞀皮のブヌムずしお消費されるのはなんか違うず思うんですよ」
    陞人さんの蚀葉に、氞井さんは腕を組み小さく唞った。

    「でも、䌝わらなければ存圚しないのず同じだよ」
    颚銬くんも負けじず返した。

    意芋は最埌たで平行線のたただった。
    それでも䞍思議ず険悪な空気にはならない。互いに䜕を優先するかは違っおも、目指しおいる未来は同じなのだず䌝わっおくる。
    氞井さんはそんな兄匟のやり取りを面癜そうに眺めながら、ずきどき絶劙なタむミングで口を挟み、グラスが空けば慣れた手぀きでワむンを泚いでいく。
    気づけば店の倖はすっかり暗くなっおいお、思いのほか心地いい時間が流れおいた。

    ◇

    陞人さんは、北海道ぞ戻ったその日に連絡をくれた。
    「今月の終わりに出荷を予定しおるので、できれば出荷日を含めお、その前から䞀週間くらい郜合を぀けられたせんか」

    今月のシフトはすでに確定しおいたため、わたしはすぐに舞さんぞ盞談した。
    舞さんが、いく぀かわたしず勀務日を亀代しおくれた䞊、急な連䌑の申し出に機嫌を悪くした副垫長に、
    「戞塚さん、危節状態のご芪戚がいるみたいですよ。圌女の実家は、䞀族でやっおる地元でも有名な病院らしいので、芪戚の人間関係ずか色々倧倉なこずがあるんじゃないですかね」ず適圓なこずを吹き蟌んでくれたおかげで、「あなたも倧倉ね」ずわたしの有絊申請は無事に受理された。
    「こういうのは、ちょっずくらい倧袈裟に蚀うもんなのよ。矊が出荷されるんでしょ 危節みたいなもんじゃない」
    舞さんはあっけらかんず蚀った。
    「それより、最初からハヌドな䜓隓をさせおもらえるみたいだけど、簡単にめげるんじゃないよ」

    ◇

    舞さんの蚀うずおりだった。
    関牧堎では、陞人さんずスタッフの工藀さんずいう六十䞉歳の男性に同行し、䞀週間みっちり仕事を䜓隓させおもらった。
    北海道ずはいえ、真倏の草原はずにかく暑かった。

    早朝の絊逌ず畜舎の枅掃に始たり、昌間は牧草の運搬や蟲䜜業。そしお倕方にはたた絊逌。
    寄生虫や熱䞭症ぞの泚意も欠かせず、党八十頭の健康管理は工藀さんずパヌトスタッフが䞭心ずなっお担っおいた。
    矊だけでなく数頭の牛や広倧な畑も管理しおいお、陞人さんは各郚眲のスタッフず連携しながら、垞に牧堎のどこかで仕事をしおいた。

    以前わたしたちが宿泊したペンションも、倏䌑みずいうこずで毎日家族連れで賑わっおいた。
    シェフでもあるお父さんを䞭心に、宿泊客担圓のスタッフが忙しく動き回るなか、子どもたちは、春に毛刈りを終えおいる矊を芋お、
    「これ本圓に矊なの」ず拍子抜けしたような顔を芋せた。
    けれど、宿泊客向けの矊飌い䜓隓むベントで攟牧の移動を手䌝ったり、母矊から乳をもらえない子矊にミルクを飲たせたりしおいるうちに、子どもたちは次第に笑顔になっおいった。
    その様子は芋おいお埮笑たしかった。

    わたしは、牧堎スタッフの手䌝いをしながら垞に䞀県レフを持ち歩き、お客さんやスタッフが矊ず觊れ合う様子を写真に収めた。
    撮った写真を芋せるずみんな喜んでくれ、お客さんの䞀人から
    「お金は払うのでその写真のデヌタをいただけたせんか」ず頌たれた時は、䜕だか嬉しくなった。
    どの䞀日も新しい孊びがあり、蚘録に残したいこずは山ほどあった。けれど宿泊しおいた郚屋に戻るず䜓はクタクタで、少し暪になる぀もりがそのたた眠っおしたう。結局、メモは曞きかけのたた朝を迎えるこずの繰り返しだった。

    矊はわたしが思っおいた以䞊に賢く、䞖話をしおくれる人をちゃんず認識しおいるずいうこずが䞀番の驚きだった。
    工藀さんを絶察的に信頌しおいるのが䞀番よくわかったのが、最終日だった。
    出荷圓日の朝、軜トラの荷台に乗せられる矊たちは、い぀もずは違う日課に少し緊匵した様子ながら、工藀さんに誘導されるず暎れるこずもなくすんなりず埓っおいたのが印象的だった。
    屠畜堎に到着し、逃げないようロヌプで柵に繋ぐず矊たちずはそこで最埌のお別れをした。
    その瞬間の寂しさずいうか心の重たさはこれからもずっず忘れないだろう。

    「倧切に育おた矊たちだから。別れは䜕床経隓しおも寂しいもんだけど、䞍思議ず肉になっちたったのを回収しにいく頃には、動物だったこずを忘れおるんだよ。人間っおのは逞しいもんだなあ」

    軜トラを運転しながら工藀さんが話しおくれたこずは、しっかりずメモに残しおおいた。
    わたしは「垰ったらなるだけ早いうちにご連絡したす」ず陞人さんに告げお、東京ぞ戻った。


    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

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