
何を測るかを決める——図面の公差と管理項目
図面には、寸法が何十個も書かれています。
これを全部測っていたら、検査だけで一日が終わります。かといって勝手に減らせば、「なぜそこを測っていなかったのか」とあとで言われる。
「何を測ればいいのか」を決めるのは、実は検査の担当者ではありません。生産技術の仕事です。そして、その根拠は図面にあります。
この記事では、図面のどこを見て測る項目を選ぶのか、選んだ理由をどう残すのかを整理します。
考え方:測るべきものは、図面が教えてくれる
図面の寸法は、すべてが同じ重みではありません。公差が教えてくれます。
公差が厳しい寸法=設計が「ここは大事」と言っている
20 ± 0.5 → 普通の寸法
20 ± 0.05 → 設計が意図して厳しくした寸法公差を厳しくすると、コストが上がります。それを承知で厳しくしているということは、機能上そこが効くという意思表示です。まずここを測ってください。
個別の指示がない寸法=普通公差
図面のすべての寸法に公差が書いてあるわけではありません。書かれていない寸法には、普通公差が適用されます。
図面の表題欄の近くに、こう書かれているはずです。
指示なき公差 JIS B 0405 - m(中級)等級は f(精級)/m(中級)/c(粗級)/v(極粗級)。多くの機械部品は m(中級)です。
寸法区分 f 精級 m 中級 c 粗級
6超〜30以下 ±0.1 ±0.2 ±0.5
30超〜120以下 ±0.15 ±0.3 ±0.8(目安です。実際の値は規格の最新版で確認してください。)
等級を確認しないまま加工を頼むと、思っていたより粗いものが来ます。表題欄の読み方や、普通公差の考え方は、こちらでも書いています。
▼ 図面の読み方の基本——表題欄・寸法・公差・はめあいを6ステップで
カッコ付きの寸法は測らない
(20) ← 参考寸法カッコ付きは検査の対象ではありません。計算で出る寸法や、理解を助けるために書かれた寸法です。
ここを管理項目に入れてしまうと、測る必要のないもので不合格を出すことになり、現場が混乱します。
進め方:3つの目で選ぶ
測る項目は、次の3つの観点で拾います。
① 客先・法規で決まっているもの
契約や仕様書で「この項目は全数検査」と決まっているなら、議論の余地はありません。まずここを押さえます。
② 機能に直結するもの
はまらない、動かない、漏れる。不具合が出る寸法です。公差が厳しい寸法は、たいていここに入ります。
③ 後工程で困るもの
自工程では問題なくても、次の工程で組めない・治具に載らない、という寸法があります。後工程に聞くのがいちばん早いです。
この3つに当てはまらない寸法は、初品と終品だけという運用で十分なことが多くあります。
データムを必ず確認する
幾何公差の枠の右にある A や B がデータム、つまり測定の基準面です。
ここが生産技術にとって決定的に重要です。なぜなら、次の2つがデータムで決まるからです。
▪ 加工のときに、どこをつかむか
▪ 検査のときに、どこを基準に測るか
加工の基準と図面のデータムがずれていると、図面どおりに作っても検査で落ちます。図面を見たら、必ずデータムの位置を確認し、そこを治具でつかめるかを考えてください。幾何公差とデータムの読み方は、こちらで書いています。
▼ 幾何公差の読み方入門——寸法公差との違いと、なぜ公差域が57%広がるのか
記録に落とす:管理項目一覧を作る
決めた内容は、必ず表にします。これがQC工程図の骨格になります。
No 管理項目 規格値 選定理由 測定方法 頻度
1 板厚 2.50±0.03 機能(勘合) マイクロメータ 初終物+n=5
2 外形長さ 80±0.3(普通公差m) ― ノギス 初終物
3 取付穴位置 位置度φ0.2(データムA・B) 後工程で組めない 三次元測定機 ロット初
4 導通 導通あり 客先要求 検査治具 全数「選定理由」の列を作ってください。
これがあると、あとから「なぜこの項目を測っているのか」「なぜこの項目は測っていないのか」に答えられます。担当が代わっても引き継げます。
Excelで作るなら、規格値と実測値から合否を自動で判定させておくと、そのまま記録表として使えます。
=IF(AND(実測>=下限, 実測<=上限), "OK", "NG")決めた項目を何で測るかは、こちらで整理しています。
▼ 測定器の選び方——「とりあえずノギス」が危ない理由
まとめ
▪ 何を測るかを決めるのは生産技術の仕事。根拠は図面にある
▪ 公差が厳しい寸法は、設計が「ここが大事」と言っている印
▪ 指示のない寸法は普通公差(JIS B 0405)。表題欄で等級を確認する
▪ カッコ付きの参考寸法は測らない(検査対象ではない)
▪ 選ぶ観点は3つ:客先・法規/機能に直結/後工程で困る
▪ データム=測定の基準面。加工の基準とずれていると、作っても落ちる
▪ 管理項目一覧には「選定理由」の列を作る
手元の図面で、公差がいちばん厳しい寸法と、データムの位置を1つずつ確かめてみてください。
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