
なぜ「測ったつもり」が起きるのか——測定のばらつきという落とし穴
工程能力を計算したら、Cpkが1.04でした。合格ラインの1.33に届きません。
そこで現場は動き出します。工具を疑い、材料ロットを疑い、加工条件を見直す。何日もかけて原因を探し、それでも数字が良くならない。
このとき、多くの現場が最後まで疑わないものがあります。測定器と、測り方です。
同じ部品を3人が測ったら、3つの違う値が出た。同じ人が3回測っても、毎回違う。現場では珍しくない光景です。それなのに、出てきた数字は「工程のばらつき」として扱われます。
この記事では、測定のばらつきが工程の数字をどれだけ悪く見せるかを、実際の数字で確かめます。記事の後半には、測定を一つずつ整えていくための記事を順番に並べています。
考え方:見えているばらつきは、2つの合計
測定データに現れるばらつきは、工程のばらつきだけではありません。
見えているばらつき = 工程のばらつき + 測定のばらつき正確には、ばらつき(標準偏差)は単純に足せないので、二乗して足します。
σ全体² = σ工程² + σ測定²式は難しく見えますが、言いたいことは1つです。
測定がばらつくと、工程が実際より悪く見える逆に言えば、測定を良くするだけで数字が改善することがあります。工程は少しも変えていないのに、です。
二乗して足す考え方で、ばらつきの原因を順番に分けていく方法は、こちらで書いています。
▼ ばらつきの原因を5M1Eで整理する——σ²で分解すると、直す順番が決まる
実例:Cpk 1.04 の正体
ある部品の板厚を30個測りました。規格は 2.50 ± 0.03 mm です。
平均 2.5039 mm
標準偏差(見えている) 0.0084
Cpk 1.04 ← 合格ライン1.33に届かないここで測定のばらつきを測るGR&R(測定システム分析)をやったところ、測定のばらつきが 0.0045 あることが分かりました。
工程だけのばらつきを計算し直します。
σ工程 = √(0.0084² − 0.0045²) = 0.00709この値でCpkを出すと、こうなります。
標準偏差 Cpk
いま見えている値(測定込み) 0.0084 1.04
工程だけの実力 0.00709 1.23工程の実力は1.23ありました。1.04に見えていたのは、測定のばらつきが上乗せされていたからです。
工具を変えても、材料を変えても、この差は埋まりません。測定を直さないかぎり、1.04のままです。
GR&Rのやり方は、こちらで手順を書いています。
▼ GR&Rとは——測定のばらつきを測る方法
記録に落とす:まず「誰が測ったか」を残す
測定を疑えるようにするために、今日からできることが1つあります。測定記録に「測定者」の欄を作ってください。
日付 ロット 測定値 測定者 測定器No
4/1 A-01 2.503 山田 M-012
4/1 A-01 2.512 佐藤 M-012これだけで、あとから次のことを確かめられるようになります。
▪ 人によって傾向が違わないか
▪ 特定の測定器だけ値がずれていないか
Excelならピボットテーブルで、測定者別の平均を数秒で出せます。
▼ Excelピボットテーブル入門——不良データを一瞬で集計する
測定者名のない記録は、あとから何も調べられません。これは記録様式の問題なので、今日から直せます。
測定を整える順番と、それぞれの記事
測定は、次の順番で整えていくと、「何を・何で・どう・何個測るか」が一通りそろいます。気になるところから読んでください。
▪ 何を測るか:図面の公差から管理項目を決める
▼ 何を測るかを決める——図面の公差と管理項目
▪ 何で測るか:1/10ルールで測定器を選ぶ
▼ 測定器の選び方——「とりあえずノギス」が危ない理由
▪ どう測るか:値がばらつく5つの原因と測定手順書
▼ 測定値がばらつく5つの原因——正しく測るための基本
▪ 測定器を保つ:校正と点検の違い
▼ 測定器の校正と点検——信頼できる状態に保つ管理の進め方
▪ 何個測るか:目的ごとのサンプル数と抜取検査
▼ 測定は何個測ればいいか——「とりあえず5個」に根拠はありますか
▪ 仕組みにする:QC工程図と限度見本
▼ 検査を工程に組み込む——QC工程図と限度見本の使い方
まとめ
▪ Cpkが低いとき、工程より先に測定を疑うという選択肢がある
▪ 見えているばらつき = 工程のばらつき + 測定のばらつき(二乗して足す)
▪ 実例では、Cpk 1.04 の工程が、測定を除くと実力1.23だった
▪ 工具を変えても材料を変えても、測定を直さないと数字は動かない
▪ 今日からできること:測定記録に「測定者」と「測定器No」の欄を作る
数字が悪いとき、工程を疑う前に、測定を疑ってみてください。
あわせて読みたい
▼ 工程能力指数(Cp・Cpk)の計算と判断基準——1.33はなぜ合格ラインか
▼ 精度・確度・精密度の違い——かたよりとばらつきで測定用語を整理する
▼ 測定システム分析(GR&R)入門——その差、測定のばらつきかも
品質管理を、まとめて学びたい方へ
品質管理の記事を、現場で使う順に並べた学習ロードマップを作りました。
▼ 品質管理は何から学べばいい?——現場で使う順に並べた学習ロードマップ【40記事】
Excelテンプレートを作っています
測定データを記録し、ヒストグラムや管理図でばらつきを確かめるための書式をBOOTHに置いています。マクロは使っていないので、会社のPCでも動きます。
▶ QC7つ道具テンプレート(ヒストグラム・管理図・散布図など全8シート)¥900
▶ 品質管理テンプレート集【不良分析・変化点・8D対応】¥1,200
▶ 品質管理3点セット【QC7つ道具+なぜなぜ分析+FMEA】¥2,000
工程能力を上司に報告するまでの手順を書きました(有料)
測定データ30個から標準偏差・Cp・Cpkを出し、分布を確かめて判定し、上司への報告書にまとめるまでを、Excelの手順で通して書きました。
▼ 【実践完全版】標準偏差・Cp・Cpkを現場データで使いこなす——Excel手順から上司への報告書まで(¥300)
本にまとめました(Kindle)
工程設計・設備導入・現場改善という3本柱を、1つのセンサユニット組立設備(552個/日・タクト50.0秒・設備予算2,000万円)で最初から最後まで追いかける1冊です。第9章「品質を作り込む」で、測定器の管理(校正と点検の違い、QC工程図との対応)を扱っています。
▼ 生産技術の教科書——工程設計・設備導入・現場改善、20年分の実務を1冊に
※ Kindle Unlimited をご利用の方は追加料金なしで読めます。
このnoteの歩き方
記事が増えてきたので、どこから読めばいいかの案内を作りました。
連載シリーズの入口、Kindleの既刊、Excelテンプレートの一覧もここにまとめています。
▼ はじめまして、MKM_techです——生産技術20年、このnoteの歩き方
💬 記事の内容で質問・疑問があれば、コメント欄へどうぞ。よくいただく質問は、記事にして詳しくお答えしています。