メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ばらつきの原因を5M1Eで整理する——σ²で分解すると、直す順番が決まる

    「ばらつきが大きいので、設備を更新したい」

    稟議を出したら、こう返されます。「本当に設備が原因なの?」

    答えられません。ばらつきが大きいのは事実ですが、そのうち何割が設備のせいなのかは、誰も測っていないからです。

    この記事では、ばらつきを5M1Eで分解し、どこを直せばいちばん効くかを数字で出す方法を書きます。

    ⚠ 先に結論を1つ。分解するときに足すのは σ ではなく σ²(分散)です。 ここを間違えると、全部が合わなくなります。

    5M1Eとは

    ばらつきの原因を探すときの、探す場所のリストです。

    • Man(人):作業者の違い、熟練度、日による調子

    • Machine(設備):機械の精度、経時変化、刃物の摩耗

    • Material(材料):ロット差、メーカー差、保管状態

    • Method(方法):手順の違い、条件設定、段取りのやり方

    • Measurement(測定):測定器の精度、測る人、測る場所

    • Environment(環境):温度、湿度、振動、電源

    4M(人・設備・材料・方法)に、測定と環境を足したものです。

    ⚠ 後から足された「測定」が、実務ではいちばん見落とされます。 そして、いちばん効くことがあります。

    実例:Cp 1.19の工程を分解する

    記事210で調べた工程を使います。

    • 規格 2.50±0.03(公差幅0.06)

    • 実測の標準偏差 σ = 0.0084

    • Cp = 1.19

    「1.33に届かないので、設備を更新したい」——ここで止まらずに、まず測定のばらつきを切り分けます。

    GR&R(測定システム解析)で測ったところ、測定のばらつきは σ = 0.0045 でした。

    分解のしかた——足すのはσ²

    ここが今回の核心です。ばらつきは、σのまま足し引きできません。

    正しくはこうです。

    σ全体² = σ工程² + σ測定²

    数字を入れます。

    • 0.0084² = 0.00007056

    • 0.0045² = 0.00002025

    • 差 = 0.00005031

    • σ工程 = √0.00005031 = 0.0071

    工程の本当のばらつきは 0.0071 でした。0.0084ではありません。

    ⚠ もし σ のまま引いていたら 0.0084 − 0.0045 = 0.0039 となり、まったく違う答えになります。

    何が変わるか

    この0.0071で、工程能力を計算し直します。

                  見かけ    実力
    σ            0.0084   0.0071
    Cp            1.19     1.41
    Cpk           1.04     1.23

    Cpは1.19から1.41へ。1.33の合格ラインを超えています。

    つまり、この工程の設備は、すでに十分な実力を持っていたということです。足を引っ張っていたのは測定でした。

    設備更新の稟議は不要でした。やるべきは測定器の見直しです。

    測定はどれくらい効いていたのか

    寄与率は分散(σ²)の比で見ます。

    • 測定の寄与 = 0.00002025 ÷ 0.00007056 = 29%

    **ばらつきの29%は「測り方」**でした。設備をいくらいじっても、この29%は減りません。

    ⚠ σの比で見ると 0.0045÷0.0084=54% となり、実態より大きく見えます。寄与率は必ず分散で計算してください。

    複数の要因に分けるとき

    要因が3つ以上でも同じです。全部σ²で足します。

    σ全体² = σ設備² + σ材料² + σ測定²

    たとえば、実験や層別で次のように分かったとします。

    要因      σ        分散        寄与
    設備    0.0055   0.0000302     51%
    測定    0.0045   0.0000202     34%
    材料    0.0030   0.0000090     15%
    合計    0.0077   0.0000595    100%

    直す順番は、寄与率の大きい順です。この例なら設備 → 測定 → 材料。

    ⚠ σの大きさで順番を決めないでください。 σでは 0.0055 : 0.0045 : 0.0030 と差が小さく見えますが、分散で見ると51%対15%で3倍以上の開きがあります。

    そして材料(15%)をゼロにしても、全体のσは0.0077→0.0071にしか減りません。寄与の小さいものを直しても、ほとんど変わらないのです。

    現場での進め方

    1. まず測定を切り分ける(GR&Rを実施する)

    2. 残りを層別する(設備別・作業者別・ロット別にデータを分けて分散を比べる)

    3. 分散で寄与率を出す

    4. 寄与の大きいものから手を打つ

    5. 手を打ったら測り直す(本当に減ったか確認する)

    ⚠ 1番を飛ばさないでください。 測定のばらつきを含んだまま層別すると、どの層にも測定のばらつきが乗るので、差が見えにくくなります。

    層別のやり方は、記事204で扱いました。まず分ける、それから分散を比べるという順番です。

    まとめ

    • 5M1E=人・設備・材料・方法・測定・環境。 測定と環境が4Mに足されたもの

    • 分解で足すのは σ ではなく σ²(分散)。ここを間違えると答えが変わる

    • 実例:σ全体0.0084、測定0.0045 → 工程の実力 σ = 0.0071

    • 工程能力は Cp 1.19 → 1.41/Cpk 1.04 → 1.23。設備更新は不要だった

    • 測定の寄与は29%(分散で計算)。σの比で見ると54%に見えてしまう

    • 直す順番は寄与率の大きい順。 σの大きさで決めない

    • まずGR&Rで測定を切り分ける。 これを飛ばすと層別しても差が見えない

    「ばらつきが大きいので設備を更新したい」を「ばらつきの29%は測定です。まず測定器を見直します」に変えられると、通らない稟議を書かずに済みます。


    あわせて読みたい

    ▼ 測定システム分析(GR&R)入門——その差、測定のばらつきかも

    ▼ 工程能力調査の進め方——いつ・何個・どう測るか、Cp1.19とCpk1.04の読み方

    ▼ 4Mとは何か——製造業の変化点管理で使う4つの要素を現場で解説



    品質管理を体系的に学びたい方へ

    この記事を含む40記事を、現場で使う順に並べた学習ロードマップにまとめました。

    ▼ 品質管理は何から学べばいい?——現場で使う順に並べた学習ロードマップ【40記事】



    Excelテンプレートを作っています

    層別や変化点の管理に使えるテンプレートをBOOTHで公開しています。マクロは使っていないので、会社のPCでも動きます。

    ▶ 品質管理テンプレート集【不良分析・変化点・8D対応】¥1,200

    ▶ QC7つ道具テンプレート(ヒストグラム・管理図・散布図など全8シート)¥900

    ▶ 品質管理3点セット【QC7つ道具+なぜなぜ分析+FMEA】¥2,000



    実データで最初から最後まで通した完全版を書きました(有料)

    この記事では考え方までを書きました。実際の現場では、データの取り方から計算、ヒストグラムでの分布確認、上司に出す報告書の文例まで、一連の流れが必要です。その全工程を実データで解説した完全版があります。

    ▼ 【実践完全版】標準偏差・Cp・Cpkを現場データで使いこなす——Excel手順から上司への報告書まで(¥300)



    続きは本にまとめました(Kindle)

    平均・ばらつき・正規分布・工程能力(Cp・Cpk)・管理図・サンプリングを、ピン外径30個の実測データで最初から最後まで追いかける1冊です。この記事で扱った測定のばらつきの切り分けも、本の中で通しで扱っています。

    ▼ 現場で使う統計入門——製造現場の数字に強くなる8つのステップ

    ※ Kindle Unlimited をご利用の方は追加料金なしで読めます。


    このnoteの歩き方

    記事が増えてきたので、どこから読めばいいかの案内を作りました。
    連載シリーズの入口、Kindleの既刊、Excelテンプレートの一覧もここにまとめています。

    ▼ はじめまして、MKM_techです——生産技術20年、このnoteの歩き方


    💬 記事の内容で質問・疑問があれば、コメント欄へどうぞ。よくいただく質問は、記事にして詳しくお答えしています。

     
     
    生産技術20年。noteで読む→Kindleで学ぶ→BOOTHのExcelテンプレートで使う。現場で使える「型」を3つの形でお届けします👉 https://mkm-tech.booth.pm/

    あなたへのおすすめ