
—— ある男の半生を宇宙として読む
人の人生は、ただ時系列で並んでいるだけではない。
長い時間をかけて離れた出来事が、突然「線でつながる」瞬間がある。
点は星になり、星は星座になる。
これは、三重県の小さな街から始まった、
ひとりの男の星座図である。
◆ 中心核(Center Star)—— 三重という“揺り籠”
彼の中心には、生まれ育った土地がある。
田んぼと風の匂いが混ざる街。
そこは、彼の祖父が戦艦と地獄を生き延び、
その後に十人兄妹を守り抜いた家系の土台でもあった。
この土地は、海と鉄と祈りが同居する、
日本でも珍しい“混淆地帯”だ。
彼の星座はここから始まる。
◆ 北の星(North Star)—— 青き地から来た少女
その北には、青森の地を背負った少女がいる。
横浜で静かに生きていたその少女は、
彼にとって「覚醒の北極星」だった。
彼女の語った言葉、残した気配、
消えた後に残った影の形が、
彼の人生に未だに北風のように吹き込む。
彼の“感性の北”は、今も彼女だ。
◆ 南の星(South Star)—— 鋼の読書家、九州男児
南には、九州から単身で神戸に出た男がいる。
機械設計を学び、世界中の製鉄所を歩き、
通勤電車で立ったまま本を読み切るような頭脳。
頑固で、烈しく、優しく、静か。
そしてその気質は、その娘、つまり彼の妻となる女性を経由して、義理の息子である彼自身にも、
そして彼の息子にも確実に受け継がれた。
この南の星は、
人生を照らす“重力のような知性”だ。
◆ 西の星(West Star)—— 京都と瀬戸内で一度死んだ男
彼にとって西は、
若さの全てが一度燃え尽きた場所である。
京都のアパート、銀閣寺の小さな本屋、
広島県福山市での苛烈な生活。
その地獄の中で彼は何度も“死に”、
そして何度も“書くこと”に救われた。
瀬戸内の風は、
彼にとって死と再生の記憶そのものだ。
西は、彼を深く沈め、
同時に再び浮かばせた。
◆ 東の星(East Star)—— 海の方角へ開く未来
東には海がある。
横浜、横須賀、伊勢湾、鳥羽。
不思議と「海と船」に導かれるように、
娘も息子も、それぞれ海へ開く道を歩き始めた。
まるで、祖父の“海軍の血”と、
九州男児の“世界を飛んだ血”が、
新しい時代に形を変えて蘇ったかのようだ。
東は、常に“未来の扉”だった。
◆ 天の川(Milky Way)—— 頭上を流れる作家と音楽家たち
彼の頭上には、常に“天の川”がある。
中上健次の灼熱
町田康の音と笑い
狩撫麻礼の影
北野武の静かな狂気
坂本龍一の澄んだ反逆
ユーミン、キリンジ、ボサノヴァ、沖縄の島唄…
それらはすべて、
彼という宇宙を横切る星の群れ。
“作品”とは彼にとって、
外界ではなく“血液”だった。
◆ 星座図(Constellation)—— そして、点はつながり始めた
北の青
南の鋼
西の死と再生
東の海
中央の三重という揺り籠
これらは遠く離れて見えるが、
実際には一本の線で美しくつながっている。
まるで最初から決められていたかのように。
人生は一本道ではない。
だが、あとから振り返れば、
すべての点は正しい場所にあったことが分かる。
星は、いつでもつながれるように配置されている。
そして彼はいま、その星々を
“自分でつなげ始めたところ”なのだ。
(終わり)
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