
『水曜どうでしょう』大泉洋は、なぜ宮崎シーガイアで「レポート」を捨てたのか|第46夜
前回の第45夜では、宮崎リゾート満喫の旅が『水曜どうでしょう』の中でも珍しいパブリシティ企画であり、豪華なホテルやレジャー施設を前にして、スタッフが「見せ場がない」と苦しんでいたことを考察しました。
快適な旅ほど番組を作るのが難しいという、一見矛盾した状況こそが、この企画の特徴だったと言えます。
今回は、その苦しさの中で大泉洋さんたちが何を選んだのかを考えていきます。施設を紹介する仕事だったはずなのに、なぜ『水曜どうでしょう』は普通の旅番組にならなかったのでしょうか。

(引用元:DVD「宮崎リゾート満喫の旅」より)
宮崎シーガイア編は、本来であればホテルやレジャー施設の魅力を伝えることが目的の企画でした。広い客室、豪華なスイートルーム、オーシャンドーム、レストラン、動物園など、紹介する題材はいくらでもあります。
一般的な旅番組なら、「広いですね」「景色がきれいですね」「料理がおいしいですね」とレポートを重ねることで番組が成立します。
ところが、『水曜どうでしょう』では、最初からその流れを崩してしまいます。
キングスイートルームの取材では、広々としたリビングへ案内される前に、玄関だけを見て「ここがスイートですが狭いですね」と真顔で言い放ちます。
豪華さを伝えるべき場面で、あえて期待を裏切るコメントをする。この一言だけで、その場の空気は「施設紹介」から「大泉洋の世界」へ変わってしまいます。
後年、大泉さんは「ああいうコメントは小学校6年生くらいから言えていたと思う」と笑いながら振り返っています。
つまり、その場で必死に考えたギャグではなく、昔から持っていた物事の見方が、そのまま番組に表れていたのです。
ここに、大泉洋という人の面白さがあります。
普通なら「正しく伝える」ことを優先する場面で、「どうしたら少しずらせるだろう」と考えてしまう。その発想こそが、後に全国の視聴者を惹きつける武器になっていきました。
さらに、この頃はホテルや美術館などで飾られている絵画を勝手に品評する「絵画ネタ」が定番になっていました。本来は何気ない室内の風景も、大泉さんの一言で笑いの舞台へ変わっていきます。
つまり、『水曜どうでしょう』は施設を紹介していたのではありません。施設をきっかけに、人が何を話し始めるのかを記録していたのです。

(引用元:DVD「宮崎リゾート満喫の旅」より)
それを象徴するのが、ホテルでのディナーでした。料理は豪華でした。しかし、そこで繰り広げられたのは、グルメ番組らしい食レポではありません。
「これはブルゴーニュ風ですか?」
大泉さんは何とかコメントしようとします。しかし、その問い掛けにホテルスタッフは反応せず、誰もフォローしません。静かな空気だけが流れます。
普通の旅番組なら、編集で真っ先にカットされる場面でしょう。しかし、『水曜どうでしょう』では、その気まずさがそのまま放送されます。
後年、大泉さんは「あの頃は、とにかく何か面白いことを言わなければいけないと必死だった」と語っています。
ただ施設を紹介するだけでは、自分たちの番組ではなくなってしまう。だから何でもいいから笑いを作ろうとしていたのです。
一方で、料理は出演者の2人分しか用意されておらず、藤村ディレクターと嬉野ディレクターにはありませんでした。嬉野ディレクターがパンを勝手に持っていったという裏話も残っています。
この何気ない出来事も、『水曜どうでしょう』らしい場面です。出演者だけではなく、スタッフまで同じ旅をしている。
後に四国八十八か所で、大泉さんが嬉野ディレクターのパンを勝手に食べる名場面がありますが、その原点がここにあったと語られています。
番組は、こうした小さな出来事を積み重ねながら、4人だけの関係を育てていったのでした。
宮崎シーガイア編は、映像の作り方にも変化が見られます。
オーシャンドームでは、カメラが濡れると壊れてしまうため、ビニール袋をかぶせて撮影を続けました。最初は声が大きすぎて音が割れてしまい、午後にもう一度、声だけ録り直して編集で合わせたというエピソードも残っています。
映像よりも会話を大切にする。
この頃から、『水曜どうでしょう』は景色を見せる番組ではなく、人の声を楽しむ番組へ少しずつ変わり始めていました。
そして、この企画でもう一つ大きな変化がありました。藤村忠寿ディレクターが、少しずつ番組の中で話し始めたのです。
それまでは、言いたいことがあってもカメラの後ろで我慢していました。しかし、この頃から出演者とのやり取りに自然と参加するようになります。
後の解説で、「しゃべりすぎたかなと反省した時期もあった」と語っていますが、その試行錯誤があったからこそ、後の『水曜どうでしょう』には欠かせない"藤村Dの声"が生まれました。
番組は、出演者だけが作るものではなくなっていきます。
話しかけるディレクター、笑うカメラマン、それに反応する出演者。その掛け合いこそが、『水曜どうでしょう』の本当の魅力になっていったのです。

(引用元:DVD「宮崎リゾート満喫の旅」より)
旅の最後には、宮崎名物の日向夏を味わいます。
皮をむいてくれる方から「しょうゆを付けるとおいしいですよ」と勧められ、食べてみるものの、藤村ディレクターは「おいしいですかね、これ?」と率直な感想を漏らします。
さらに、大泉さんが日向夏を力いっぱい絞りながら「おおー!」と声を上げる姿を見て、藤村ディレクターは大笑いしたそうです。
何十年も経ってから、その声を別の企画(カントリーサインの旅で登別の鬼を見たシーン)の「おおー!」と重ねて思い出し、笑ってしまう。
(『どうでしょう解説ゼミ』潜入レポート|#38↗参照)
これこそ、『水曜どうでしょう』が「記録映像」だと言われる理由なのではないでしょうか。
大泉さんは、『水曜どうでしょう』を「記録映像」と表現しています。ホテルの設備や料理を記録しているのではありません。
何を話したのか、何に笑ったのか、誰がパンを持っていったのか。そんな小さな出来事まで残しているからこそ、30年後の私たちは、4人と一緒に旅をしているような気持ちになれます。
宮崎シーガイア編は、施設紹介の企画として始まりました。
しかし、その途中で大泉さんたちは「正しいレポート」を捨て、「自分たちらしい会話」を選びました。
その選択が、『水曜どうでしょう』を普通の旅番組ではなく、4人の人間関係を楽しむ番組へと変えていったのです。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第47夜は「韓国グルメ旅は、なぜ企画発表が最高傑作になったのか」について考えていきます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:番組は情報を正確に伝えることが一番大切だと思う
B:情報よりも、その場で生まれる人間同士のやり取りが一番面白いと思う
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
--
■運営者(ユウナ)について
このnoteでは『水曜どうでしょう』をテーマに執筆しています。以下の別アカウントでは、普通の会社員だった私が、FIREを達成するまでの資産形成の実体験を記録しています。