
『水曜どうでしょう』韓国グルメ旅は、なぜ企画発表が最高傑作になったのか|第47夜
前回の第46夜では、宮崎シーガイア編で大泉洋さんたちが「正しいレポート」を捨て、人と人との会話を選んだからこそ、『水曜どうでしょう』は普通の旅番組とは違う魅力を持つようになったことを考察しました。
豪華な施設よりも、その場で生まれる会話や空気こそが番組の主役だったのです。
そして、その延長線上で始まるのが「韓国食い道楽サイコロの旅」でした。タイトルだけを見ると、この企画の主役は韓国料理です。
しかし後年、藤村Dは「この企画は車の中が一番面白い」「企画発表だけで『水曜どうでしょう』のTOP5に入る名場面だった」と振り返っています。
実際、この第一夜で最も印象に残るのは料理ではなく、韓国へ向かうことを知らされるまでの車内のやり取りなのです。

(引用元:DVD「韓国食い道楽サイコロの旅」より)
普通の旅番組なら、旅は目的地に着いてから始まります。空港へ着き、街を歩き、名物を食べる。その土地の魅力を紹介することが番組の役割だからです。しかし、『水曜どうでしょう』は、その常識とはまったく逆でした。
この企画では、まだ韓国へ着いていないどころか、大泉さんはどこへ向かうのかさえ知りません。それにもかかわらず、この時間がシリーズ屈指の名場面として語り継がれています。
藤村Dは後の解説で、企画説明だけならHTBの会議室でもできたと語っています。それでも、あえて朝から車を走らせながら撮影したのは、「移動していること」が重要だったからです。
車が走り続けることで物語も進み、視聴者も「今日は何かが始まる」という期待を自然に抱くことができます。ただ説明するのではなく、動きの中で説明する。
その演出が、『水曜どうでしょう』らしい空気を生み出していました。
HTBを出て、今回の企画趣旨を車内でミスターが説明し始めます。ミスターはサングラスを掛け、ジャージ姿で話し始めます。大泉さんに怪しまれないようにという配慮でもありましたが、その姿そのものがどこか怪しく、何かを企んでいるようにも見えます。
こうした細かな演出が積み重なることで、まだ何も起きていないのに、画面には独特の緊張感が漂い始めます。
やがて車は大泉さんの自宅へ到着します。以前、第26話↗で書きましたが、私が偶然にも見つけてしまった大泉さんの自宅、まさにそこのことです。
大泉さんは外で靴ひもを結びながら待っていました。ふと顔を上げると車が近づいてきます。その何気ない日常の一場面から、この旅は始まりました。
車へ乗り込むと、すぐに走り出します。そして嬉野Dがカメラを向けます。
いつもなら運転している藤村Dは助手席に座り、運転席には別の運転手がいます。その違和感だけでも、大泉さんは「今日は何かがおかしい」と感じ始めます。

(引用元:DVD「韓国食い道楽サイコロの旅」より)
そこからミスターは、次々と質問を投げ掛けます。最近どうか、食べたいものは何かないのか、何度か繰り返して質問をします。
何気ない会話を重ねながら、少しずつ韓国という答えへ近づけていきます。藤村Dは、徐々に企画発表へ持っていくミスターのテンポの良さも、この企画の魅力だったと振り返っています。
そして何より印象的なのは、大泉さんの表情です。藤村Dは「大泉さんは不安で唇が震えていた」と語っています。何が起きるのか分からない、でも普通ではないことだけは分かる。
その本物の緊張が、カメラにはそのまま映っていました。
藤村Dは「生の表情はいろいろな情報を出してくれる。だから色褪せない」とも語っています。この言葉は、『水曜どうでしょう』という番組そのものを表しているように感じます。
演技ではなく、本当に知らされていないからこそ生まれる戸惑い、間、沈黙。その一つひとつが視聴者へ伝わり、一緒に企画を知っていく体験になります。
編集も見事でした。韓国という答えへ近づくにつれ、「どどん」「いよー」和太鼓の効果音が少しずつ重なっていきます。ちょうどこのころからこの効果音が使われ始めたと嬉野Dは語っていました。
静かだった車内が、真実へ近づくほど緊張感を帯び、ついには韓国へ行くことが明らかになります。
大泉さんは状況を理解しきれず、思わずカメラへ向かって助けを求めます。その姿を見て、ミスターさんは涙を流すほど笑っていたそうです。
ここには台本はありません。本当に驚いている一人の若者がいるだけです。だからこそ、30年経った今でも、この場面は色褪せないのでしょう。

(引用元:DVD「韓国食い道楽サイコロの旅」より)
その後、一行は新千歳空港から韓国へ向かいます。当時はまだ携帯電話が普及しておらず、大泉さんは空港の公衆電話から親へ連絡を入れます。
「日本を出るとは言ってきていない」という状況も、今では撮ることのできない時代の空気として映像に残っています。藤村Dは、こうした何気ない場面も含めて「今では撮れない情緒だった」と振り返っています。
韓国・金浦空港へ到着すると、ここで初めてサイコロ企画の説明が始まります。後年、藤村Dは「今思えば、金浦空港での説明は少しまどろっこしかった」と語っています。
しかし、それでも企画全体の印象が薄れなかったのは、その前の車内があまりにも面白かったからでした。旅はまだ始まっていません。料理も一口も食べていません。
それでも第一夜は、すでに一本の物語として完成していたのです。
『水曜どうでしょう』は、旅番組でありながら、旅そのものよりも「人がどう反応するか」を映してきました。韓国食い道楽サイコロの旅・第一夜は、その象徴とも言える回です。
目的地ではなく、そこへ向かうまでの時間。料理ではなく、企画を知らされた瞬間。だから私たちは、韓国の景色よりも、あの車内で戸惑い続ける大泉洋さんの姿を何度でも思い出すのではないでしょうか。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回、第48夜は「大泉洋、韓国でも深夜バス地獄から逃げられない」について考えていきます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:旅は目的地に着いてからが本番だと思う
B:旅は出発するまでの時間こそ、一番ワクワクすると思う
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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