
初恋 vol.5 -完-|from 24 to 29 :残像と、残熱と。或る断面のエッセイ
彼は、完全に酔っ払っていた。
友人二人は、彼のために飲み物を買いに行った。
酔い果てているくせに、
二人きりになったのはわかるらしく、
彼は私の額に唇を寄せた。
キスのお返しは、しなかった。
肩を貸してやっと辿り着いた私の家。
まだ、お酒の飲み方を知るには若すぎた。
酔っ払った彼は、
介抱する私の手を求める。
他の二人の手前、
仕方なく、を装い彼の手を握り返す。
気がつくと、みんな眠っていた。
私は、彼の手を握ったままだった。
起こさないように、そっと手を離そうかとも思う。
でも、
私は朝までその手を離すことはできなかった。
一本の細いロープの、
ギリギリの所をつたっているようだった。
突き放すことはしたくない。
でもすべてを受け入れることもできない。
どちら側にも、落ちたくなかった。
一夜の、仮初の恋。
初恋は、
本棚の片隅に飾られたガラスの貯金箱のように、
触れずにそっと心の奥に眠らせておきたい。