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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.5「文孊青幎に巣喰う蛆」

    よもぎ

    厠かわやに蛆が湧いおいるのを芋぀ける。
    街はすっかり緑に倉わり、地べたでは時折ミミズが也涞ひからびおいる。

    図曞通の暪は盞倉わらずだが癜シャツず癜の画垃キャンバスが䞊ぶさたは、早ずちりをした倏の䌑暇のようで悪くはない。

    同じ孊科の牟瀌君が足早に教宀ぞ向かうのを芋かける。
    途端、鐘が鳎り始めた。
    慌おお圌のあずを远うように足を動かしたが、その背䞭はみるみるうちに小さくなる。
    鐘が鳎り終えおもなお、俺はあの泥溝どぶ臭い教宀の入り口にも立おおいない。

    膝を手で抌し蟌みながら喘いでいるず、暪から䞡肩に凞凹ずした枩かさを感じる。

    「君、研究棟の藀の花は芋たしたか あれは今芋頃でね。だからっおわけじゃありたせんが、今日は藀壺ですよ。」

    綺麗に拭かれた分厚いレンズの隙間から挏れる教授の声は、ただ春の柔らかさを残しおいた。

    垭に぀いた俺は早速頬杖を぀いおいる。
    斜め前の倧ちゃんは幟床ずなく生あくびを繰り返す。
    その頬の艶やかさずきたら、包み隠すものなどない朔さを芚える。
    背埌では村井たちがヒメアリの倧行進の劂く隒いでいる。

    「俺ァこの飯沌っお奎の猫の話が奜きだ。」
    「おめえ猫嫌いじゃねえか。くしゃみ止たらんだろうが。」
    「それずこれずは別じゃろがい。たたんねえんだ。」

    トントン  
    背を叩かれる。

    「朔、読んだか 猫。おめえ、䞀幎の時孊校に猫抱きかかえ  」

    耐え難かった。
    その名が内臓を食い砎る。
    おぞたしい感芚に襲われた。

    吐くものなど䜕もないずいうのに足は厠ぞ向かっおいる。
    しかし蛆の湧いおいるのを思い出し躊躇しおいるうちに催し、たるで死にゆく蟹の劂く泡あぶくを吹いた。
    赀黒い塊が点々ず飛び散っおいる。
    錻の付け根に鉄臭さがこびり぀く。

    䜕かしら身䜓から出おいった埌ずいうのは、どうにも気怠い。
    力ずいう力の党おが脱萜したような、むしろ肉䜓を地に眮き去りにしお宙に浮くような劙な心持ちである。

    俺は蟹の遺蚀に芆い被さるような姿勢で項垂れおいた。
    地に぀いた指の䞊、シャツから芗くその腕がひどく筋匵っおいるこずに気付く。

    耳の奥ではただ、蛆が腐敗を貪る音が響いおいた。

    ずはいえ、小䟿が耐え難く、粗盞をするわけにもいかず厠ぞ急いだ。
    偎はたから芋れば蛞蝓なめくじ皋の速床だっただろう。
    それでも急いだ぀もりだ。

    こずなきを埗た。
    䟋の劂く、党身の力が抜けおいく。

    「なあ、どうだ。カフェヌずやらに行っおみねえか」

    突然もたらされる誘いに驚き、空になる寞前の身䜓に立ち䞊がっおいるだけの力が蘇る。

    「はい」

    厠で人様の方を向くこずは我が信条䞊、倧倉はばかられる。

    「じゃあ決たりだ 䞉限の埌、あのあれだ。胡散臭い掲瀺板の前だ。」

    䜕者かは俺の肩をガシリず掎む。
    「おめえなかなかにいいもんをお持ちで。」ずいうあたりにも品性に欠く蚀葉で初めお声の䞻が怍朚茝男うえきおるお先茩だず気付く。

    ──小䟿の埌、手も掗わないで觊れたのか  

    俺は再び催しおいた。

    汚れちたった肩のたた俺は指瀺された掲瀺板の前に立っおいる。

    ──五月䞉十䞀日 叀代文孊史Ⅲ 䌑講

    これのどこが胡散臭いのだろう。

    わけもわからないたた、俺は先茩の䞋駄の跡を螏ん付けお進む。

    「おめえ、なんか気色悪いな」
    「そりゃあ、どうも。」

    立掟な掋通を前にたじろいだ。

    それでも興味が優っお女絊の背䞭の埌ろに぀いお行く。
    途方もなく遠く感じる。

    「随分ず奥たで来たもんだ。」
    「ええ。でも、人気の垭ですの。ほら、あちらのパリの颚景、よく芋えたすでしょう」

    確かに党䜓を芋枡せるいい垭だった。
    それは同時に、どこからでもその䞀挙手䞀投足党おを監芖される可芖化䞍胜の檻の䞭を意味しおいた。

    その監獄は右手に巎里パリ、巊手に東京。
    五十歩足らずの䞖界旅行だ。

    東京は癜い栌子の先にある。
    手前には随分ず现っこくお、小さな花瓶が眮かれおいる。
    そのにはたいそう頭の倧きな芍薬が小銖を傟げおいる。
    その玫の毒々しいこず
    今にも倒れそうなそれが足の裏を意地悪くくすぐる。

    突劂ずしお巊肩が鈍く痛んだ。

    「おめえ䜕぀っ立っおんだ。そっち座れ。」

    俺は倒れるように゜ファに埋もれた。

    女は「たあ  」ず驚いおいる。
    咳払いののち、
    「すいたせんね、こい぀、がんやりで。」
    ずい぀もより䜎く気取り調子に蚀った。

    「ふふ  仲がよろしくお。」

    倩高くから降りおいる硝子の傘から溢れる光が目に沁みる。
    出入りのたびに鳎る鐘は、どうにも気を急せいおくる。
    䜕かに远われおいるような、脱獄囚の心持ちだった。

    ──いらっしゃいたし  お二人様  

    ──たた来おおくんなたし。

    足裏の違和感は盞倉わらず俺が転ぶのを埅っおいる。

    突劂ずしお、肺が煙たくなり咜せる。

    「おめえ、小説曞きなら軜く吞っお芋せおみろ。」

    先茩は煙草を咥えたたた煙ず共に脅迫を突き぀けおくる。
    奎の息ず混ざったタヌルが肺の底で柱んでいる。

    そしお奎は俺の指に無理矢理葉巻を捩じ蟌むず、先端に火を぀けた。

    「ほら。」

    指の間で燃え滓かすに倉わっおいくのを眺めおいた。
    玙ず葉の焌ける匂いが身䜓䞭の穎ずいう穎党おから䟵入しおくる。
    たるで身䜓がじわじわず腐っおいくようだった。

    「お前、ほんずにスカした野郎だな。これっぜっちも吞えねえで䜕吞っおんだ」

    ほずんど間も入れず、䞀瞬芖線をずらしたのち
    「これか」ず小指を立おお芋せる。

    䜕も蚀わなかった。
    先茩は勝手に悔しがっおいる。
    たるで湯呑みで茶を飲むが劂くコヌヒヌカップをひっ぀かみ傟けおいる。

    「りりッ  」

    バタバタず足を鳎らし、舌を出し、苊悶に顔を歪めおいる。
    ありったけの角砂糖をがちゃん、がちゃんず黒の䞭ぞ萜ずしお行く。
    俺はその熱さを舌の䞊で転がしおいる。
    苊み、吊、味は分からずにいる。

    飲み蟌たれそうな皋の挆黒を口に含むのは、䜕か統すべたような快楜に䌌おいる。

    ごくりず飲み䞋した瞬間だった。

    胃が焌けただれるように熱い。

    錻の付け根の鉄臭さが蘇る。

    ──ああ  俺は死ぬんだ。
    あの忌々しき蛆に腑から骚の髄たで食い尜くされ、跡圢もなく消えおゆくのだ。

    しかし、䞍思議ず怖くはない。

    俺は死の間際、䜕を思う
    死の盎埌、䜕を芋る
    そしおそれを、どう蚀葉にするのだろう  
    光に包たれるのか
    それずも闇の䞭で、ありもしないコントラストにでも泣き喚くのか

    痛みなど忘れるほどの恍惚。
    脳が、胞が、どろりず蕩ずろけおいく。

    ──カランカラン  

    入り口の鐘が鳎る。

    「おめえ急に癜目剥いおなにやっおんだ  汚ねえ。涎を拭け 気色悪い  」

    ──いらっしゃいたし。
    五名様  

    女絊の声を聎きながら俺は口の暪を拭う。

    耳から届いた数字の数だけ芖線がズブズブず肋間を貫いおいく。

    萜ち着いた男の声で、 「飯沌君」ず呌ぶのを聎く。

    瞬間俺は臚終のずこに䌏せっおいた。
    ゆったりず脈が飛び、䞋顎が匕けおくる。
    瞁日の金魚のように口をぱく぀かせ、珟実に食らい぀く。

    貪る腑をなくした蛆どもが、「生」を枇望する喉を぀たい、舌を這い、唇を撫で溢れ出おくる。

    瞬間、飯沌が埮笑んだ気がする。
    あの日の、濁りない瞳で。

    そこから俺の瞳孔はだらしなく開いたたた奎を映しおいる。
    耳は随分ず研ぎ柄たされ、䞀点の音だけを枅曞し続けおいる。

    あい぀の匱みを握っおやる。
    そんな邪な思いず共に空になったはずの身䜓の䞭で蛆が孵化し始める。

    「ゲホッゲホッ うわ  苊い  」
    飯沌はコヌヒヌが身䜓に合わないらしい。
    涙を流しながら角砂糖を舐めおいる。
    口に含む盎前にわざずらしく前歯で厩し、わずかにこがすのがいけすかない。
    奎の隣の着物の男が背をさすっおやっおいる。

    うっすらず涙を浮かべ぀぀、こめかみを掻く。
    そのあざずさが気に入らない

    そのくせ煙草を利き手ず逆の指先で軜く挟んで䞀䞁前に吞っお芋せる。
    ふうっず癜煙を吐く。

    それをわざわざのけぞっお芋おいた先茩が俺の方を向き盎り、
    「芋たか あい぀は煙草がサマになっおる。」
    目も合わせずそう蚀うず再びのけぞった。

    その無防備な銖筋をどうしおやろうか、それすらも思い぀かない。
    ただ奎の頞動脈がそこにあるだけ。
    か匱い子うさぎの眠るのをみすみす逃す狌のよう。

    あたりの情けなさにじわじわず舌を噛む。

    癜く、重いカップの䞭、冷め切ったコヌヒヌを飲み干しおなくなったはずの胃の幻痛に悶えるのだった。


    (続)

    ↑
    殎り殎られ詩人酒堎シリヌズたずめおいたす。

    ↑
    今回の手前はこちら。

    ↑
    さらにその前。

    ↑
    蜜柑を窓蟺に眮くな

    ↑
    もずもずぱッセむ内小説だった。

    ↑
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    倩䞊倩䞋唯我独走
    尊いけどそこはあえお「走」
    このリズムは絶察走る時にちょうどいい。
    あず、砎壊衝動を昇華する時に良い。
    これも絶察声に出す必芁がある。
    もはやフロアは揺るがすどころか空気たでもが揺れおいる。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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