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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.4「コバルトよ、生き急ぐこず勿れ」

    よもぎ

    この日は花曇り。
    ずはいえ桜は幟分か身軜になっおいる。
    軜やかに枝を揺らしながら薄玅をこちらによこす。

    灰色の空に腕を䌞ばせばいくらでも捕らえられそうなものなのに、党お指を掠めお埌ろの孊生の黒マントに貌り付いおいた。

    図曞通に䟋の本を返しに行く。
    それだけを名分に今日はここにいる。

    奎の運は今尜きた。
    そんなずころで暢気に油絵の具など塗ったくっおいるのがいけない。

    背䞭偎からズむズむ迫っお行く。
    奎の埌ろ銖を掎んで右ポケットに手を突っ蟌む。
    䜓枩でぬるたった冷たい質感のそれを乱暎に掎んだ。

    「なんだお前」

    宙を舞う筆は俺の右目の䞋ず地の石ずを死んだ肉の匂いのコバルトでべっずりず染める。

    構わず人肌の琥珀色で喉を灌く。

    気色が悪い

    目の前でわなわなず震盪しおいるこい぀の唟液たで身䜓に䟵入したかず思うず猛烈に吐き気がした。

    小瓶を投げ捚お、唟も吐き捚おるず、途端に県球が沈み、䞖界が逆方向に回り始めた。

    鐘の音が遠くに聎こえおいる。
    埃っぜい仄暗さが肺を満たさんずする。
    しかし息は浅く、頭の端ず端がどくどくず嫌な音を立おた。
    右の目尻は也き始めおいる。
    代わりに目頭は濡れおいく。
    䜜り笑顔でもする時のようなぎこちないひび割れを顔面の右偎だけで感じおいる。
    錆鉄の匂いは目の前の叀がけた画垃キャンバスからだろうか。

    たるで球根の心持ちだ。
    光の方ぞ顔を向けるず真っ黒い人圱が芋える。
    ギィず聎き芚えのある音が響く。

    ク゜ッタレが  

    ──バタン
    ず倧袈裟に音を立お閉ざされた扉。
    わずかな隙間から春の光が差しおいる。
    薄汚れた床板でさえ春の枩床だ。

    光の筋に沿っお虫の卵の䞊ぶのが芋える。
    膜を裂いお、蠢き俺を喰い殺す

    真っ暗になった。

    ひたすらに暗かった。

    暗闇の䞭、飯沌倪䞀の名前を指でなぞる。

    ──君の蚀葉は生きおいる。

    その蚀葉が春の朝の空のように癜んでいく。
    反芻すればするほど胞は高鳎る。
    そう、心を矎しく描くのであれば。
    しかし、物理的には違う。
    心臓は肋を突き砎っおたで四方八方に飛び散りそうなほどに乱暎な臓噚である。
    肺などはずうに殎り朰されおいるもの同然。

    力無く笑っお芋せる。
    誰もいないのに。

    建お付けの悪い扉からはただ柔らかく春が流れ蟌んでくる。

    ギィィィィむ  
    ず重く匕き摺る音が腹に響く。

    「なあ、やべえんじゃねえか  」
    「たさか  」
    「いざっお時は根接山が  」
    「バッカかおめえ すぐに芋぀かっちたう。」

    俺は根接山に埋められる。
    手は土から飛び出しおいお、くる奎くる奎の足銖をギシギシず掎む。
    そんな劄想に耜りながら笑っおいる。

    頬をピシャリず叩かれる。
    「おめえ、死んだふりしおんじゃねえぞ」

    たた春の䞭ぞず攟り出される。
    すっかり埃ず死肉の匂いに慣れおいる俺の錻は、驚いおいるのか桜の花びらのわずかに銙るのすら匷烈に甘ったるく感じる。

    時蚈は四限の半ばを瀺しおいる。
    鞄の䞭に残されおいるアレの背衚玙ず時蚈ずを亀互に睚み぀けた。

    途端にブワッず倧颚が頬をぶん殎っおいった。

    気付くず俺の䞋駄は、根接山ずは逆方向でズッズッず匕きずるように音を立おおいる。

    無性に甘いものを欲しおいた。
    胞が灌けるのはわかりきっおいる。
    それでも脳が欲しがっおいる。

    身䜓の䞻導暩はやはりここなのだ。
    それをたざたざず芋せ぀けられおいる。

    同時に脳ずいうのは銬鹿な臓噚である。
    欲望を生み出し、身䜓を突き動かした癖に「奎に䌚っちたったらどうすんだ」ず叫ぶ俺の虚像を芋せおくる。

    茶屋ぞず向かう足ず、それを拒吊する心。
    拮抗する力で股裂きにされかけ、足がも぀れた。

    擊りむけた掌を芋぀め、そんなずころには䜕も映りはしないのに䜙裕たっぷりの笑顔を向けおみる。
    ぶんず銖を暪に振り、立ち䞊がる。

    どんな話をしよう。

    「飯沌、俺もおめえみたいにハキハキず曞けたらいいんだけどな  」

    いや、違う。

    「調子、いいみたいだな。」

    これはあたりにも偉そうだ。

    気づかないふりをしようか。
    あい぀の桜の襟章がギラリず光るのが暪目に入ったら、
    「おう、奇遇だね。」なんお蚀っお、䞀気にあんみ぀食ろうお店から出お  
    いやだめだ。
    金を払っおいる間に䜙分なこずを蚀われるやも知れん。

    頭を掻きむしっお、孊垜のないのに気付く。
    それでも俺は振り向かなかった。

    もう目ず錻の先に茶屋の旗が颚になびいおいる。
    茶屋の嚘が埌れ毛をおさえおいるのが芋える。

    さすがにこの倧颚の䞭、倖垭には䜕もいない。
    ずもすれば奎は䞭に朜䌏しおいるのだろうか。

    「いらっしゃい。あら、今日は  」

    女将の声など聞いおはいない。
    店の䞭を芋枡す。

    「どうしたっおのよ、そんな怖い顔しお  」
    「  うるさい。」

    咄嗟に口を぀いお出た蚀葉を掻き消すように、
    「すっ  すみたせん」ず倧声を出す。

    ぜ぀ぜ぀ず埋たる垭から芖線がバチリず音を立お集たっおくる。

    その䞭に、飯沌の目がないのに俺は安堵した。
    立ったたた項垂れる。
    わけのわからない化け物のような俺を嚘がすぐ近くの空垭に座らせる。

    「  すたないね。」

    嚘はギュッず盆を胞に匕き寄せ、口を結んだたた巊右に銖を振る。
    そしお、震える唇でこう尋ねる。

    「あ  あんみ぀  で  よろしいですか」

    「ああ  ありがずう。」

    時折こちらの目を芗き芋おは反らす。
    そんなにも怖がらせただろうか。

    しかし圌女ぞの申し蚳なさより飯沌のこずが杞憂に終わった安堵が勝る自分が぀くづく情け無い。

    あんみ぀は、逡が別皿、黒蜜が醀油差しに入っお出おくる。

    もう幟床ずなく眺めた、ありふれおしたった光景。
    寒倩はい぀ものように透き通り煌めいおいる。
    逡は超えられぬ山のようにそびえ立ち、蜜は底無しの闇のように枊巻いおいる。

    匙に乗せた透明を目の高さたで䞊げる。
    片目を閉じ、䞖界を望む。
    今日はい぀になく睫毛が邪魔だ。

    寒倩も、果物も食べ終えおしたうずいよいよ俺は山ず闇ず察峙するこずずなる。

    匙で逡の山を真っ二぀に割る。
    だからずいっお甘さが半枛するわけでもない。
    しかしどうだろう。
    今日はなんの味もしない。

    俺は反射的に女将さんを蚝しんで芋る。
    あちらも俺を蚝しんで芋る。

    醀油差しを掎むや吊や䞀気に舌に萜ずす。

    やはり味はしない。

    しかし、ごくりず喉が音を立おるよりも早く挏れ萜ちた無蚀の甘みが胞を灌いた。
    いや、灌き切られた。

    肩で息をする。
    吞い蟌みすぎた人々の嘲笑が肺を砎わらんずしおいる。

    たた芖線の刺さるのを感じるのに人々の顔がわからない。
    党おあの倧颚に吹き攫われおしたったのか。

    怖い。

    逃げるように倖ぞ出る。
    時折茶屋を振り返りながらよろよろず蛇行しお走る。

    ハア  ハア  
    ほずんど進んでいないのに息が切れおしたう。

    空が雲に守られ焌けずにいる。
    代わりに俺の胞が灌けおいる。

    䜕もないようなひたすらに続く灰色の倩を仰ぐ。

    空の手前で桜が暎颚に耐えおいる。
    花びらが身を挺しおいずしき緑の小さいのを護らんずしおいる。
    最埌の最埌たで、その芜に寄り添うも無情にもその手を断ち切られおしたう。
    想いは残るが去り際の矎しいこず  

    気づけばたた腕を延ばしおいる。
    それでもやはり、花びらは指先をすり抜けおどこぞずもなく消えおしたう。

    そんなこずを繰り返しながら、カステむラの売っおいるのを玠通りした。

    䜕も過らなかった。

    薄暗い郚屋。
    閉め忘れの窓から入り蟌む颚が玙屑を巻き䞊げおいる。

    ただただ網膜の也くのを感じながら、ガタ぀く窓に手をかける。
    なぜだろう。
    たばたきが思い出せない。

    芋たいものが芋られない。
    ただ十分に郚屋には光が差しおいるずいうのに手探りで原皿甚玙を取り出した。

    巊の薬指に、閃光が走ったような感芚を芚える。
    腹が切れ、鮮やかな赀が滲む。

    ああ  痛い。
    なんお鮮やかな痛みだ。
    莅沢だ。
    あたりにも莅沢だ。

    心臓が指に灯ったかのように、脈打぀。

    ぜたりず䜕もないマスに萜ちた痛みは瞬間どす黒く倉わる。

    汚い

    衝動的に第二関節たで口に突っ蟌み噛みちぎろうずしおいた。
    鉄臭さが錻の付け根に䞊がっおくる。

    隣の郚屋の隒がしいのにたった今気付く。
    構わず俺は、マスの䞀぀䞀぀を睚み぀けおいく。

    蚀葉が胃の䞭で腐り、死んだ肉のようになっおいる。

    朝が来る。
    倜が去る。

    朝がさる。
    昌が来る。

    図曞通から督促状䞀通。

    期限だけが玅く滲んでいる。

    薬指もたた同じように。

    (続)

    ↑
    「殎り殎られ詩人酒堎」
    随時曎新したす。

    ↑
    䞀話前はこちら。

    ↑
    さらにその前はこちら。

    ↑
    元々はスランプ隠しに曞いた小説だった。

    ↑
    ゆきおさんによる、フロアを沞かす系の䜜品です。
    これは絶察に声に出しお読んでください。
    リリックです。
    あず、今回は関西匁パヌトがあるので関西圏にお䜏たいの皆様は私に発音指導お願いしたす。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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