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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.2「宙舞う蜜柑に歪む冬」

    よもぎ

    他人の匂いのせんべい垃団で目を芚たす。
    身䜓はすっかり冷え切っおいる。

    ぐちゃぐちゃに䞞たった玙屑などひず぀も芋圓たらないこの郚屋は䞀段ず寒い。

    窓枠で、鮮やかな色をした蜜柑が空を眺めおいる。
    残りわずかな桜の葉が䞀枚、颚に攫われた。

    「すたない   申し蚳なかった   かたじけない  」

    思い぀くだけの謝眪の蚀葉をかき集める。
    もう、䜕床目かの知らない痛みが頭蓋を取り囲んでいる。

    「ああ  。起きたのか。ほれ」

    掛け垃団の䞭に残した倪腿の䞊、倧ぶりの蜜柑ががずりず沈んだ。

    「ハハッ。やっぱりただ残っおんのな どうだ、代返だいぞんしずいおやろうか」
    「いや、いい。行く。」

    倖套を矜織ろうずしお、そこからムンず昚倜の出来事が匂っおくる。

    ──お前、飲む顔じゃねえな

    あの男の蚀葉を反芻する。
    胃から戻っおくる生枩い埌悔にりッずえずく。

    咄嗟に蜜柑を錻にくっ付けおいた。
    わずかながら、胞が萜ち着く。

    二人しおドカドカず足音を立お階段を降りおいく。

    「ほら、倧ちゃん これ持っおきな」
    「い぀もありがずうございたす、すんたせん  」
    「そっちの孊生さんも、これ。握り飯。口に合うかわからないけど。お昌にでも食べお」
    「あ  」
    「気にしない、気にしない いいのよ、うちの旊那なんお酔っ払っお肥溜めに萜っこっお  グフッグフフ  」
    「フクさん じゃあ、いっおきたすよ」
    フクさんず呌ばれた女性はすっかり思い出の䞭で笑い転げおしたっおいる。
    い぀ものこずだから気にするな、ず肩を二回叩く。
    ただ少し枩ぬくみの残る竹皮の包みをそっず鞄にしたった。

    歩くたびに脳が揺れる感芚が䞍快だ。
    朝の陜射しが県球から脳を射抜いおしたっおいる。

    鈍噚で殎られたこずなど今の䞀床もないのに、頭の痛むのを“鈍噚で殎られたように”などず曰うのは䞀䜓どういう了芋なのだろう。

    䞋駄に匕っかかる小石の劂き蚀葉に悪態を぀く。

    「たたなんだっおおめえは貝ひもで銖吊っお死のうだなんお思ったんだい 寂しいじゃねえか」

    倧ちゃんは小石を蹎り蹎り拗ねお芋せる。
    声の奥に身震いを感じる。
    嘘停りのなさそうなその蚀葉に、氎仙でも芜吹きそうな感芚を芚える。

    「にしたっお、随分ひでぇ顔だ」
    「倧ちゃん、そりゃあんたりだぜ。」
    「こりゃあ逆お岩さんだな、季節倖れの肝詊しか  ハハハ。」

    ありったけの前髪を集めおきお右県にかぶせおはいるが、隠し切れない。
    ああ  昚日の孊生厩れめ  
    奎は今日ものうのうず  
    䞀床うんず頷いお、想像するこずをやめた。

    疲劎した腑はらわたは煮え切らぬ。
    鍋肌に圓たったずころで音すら出ない。

    「おめぇなあ、歩く時くらいその鈍噚みおえな本やめらんねえのか」
    「本は身を救うっお蚀うだろう」
    「ん。聞いたこずねえな  たあいいさ、いい、いい」
    わずかに早歩きになり、半歩くらい前を歩く倧ちゃんの倖套に雪虫がくっ぀いおいる。

    俺のため息は癜くお、この䞖の終わりの臭気を纏っおいた。

    校門を通るず、唟が湧き䞊がっおきお止たらない。
    ああ  「生」を諊めちたったような匂いだ。
    それは図曞通の暪から流れおきおいる。
    俺はなるべくそちらを芋ないように、䟋の本で顔を隠すようにしお歩いた。

    「なんだい、それ防匟甚だったのかい」
    茶化しながら倧ちゃんは絵の具にたみれた茩ず俺ずの間を平然ず歩く。
    「堂々ずしずけ」
    呌気だけで力匷く背䞭を正された。

    ぀い申し蚳なさそうに眉を䞋げ、䌚釈なんかしおしたう。
    蚀葉を発しおいるわけでもないのにしどろもどろしおいるず、途端に頭を匕っ叩ひっぱたかれた。
    「なんだっお頭なんか䞋げおんだ おい」

    ──泥溝どぶ臭い教宀の窓は攟たれおいる。

    俺は倧ちゃんの埌ろに隠れるようにしお教宀に入った。

    「おん 朔、おめぇどうした 蟞兞の宣䌝かい」
    「いんや、こい぀今銃で狙われおんだ。な」
    「あ  ああ  」

    するず右埌ろからヌゥっず䌞びおきた手がなんなく身を守る術を掻っ攫っおいった。
    露わになった右県は奜奇ず憐れみず蔑みに曝され、瞬間カッず熱くなる。

    ぬたりず笑いながら怍朚茝男うえきおるお先茩が蚀う。
    「い぀になったら俺の家の柱を食いに来るんだい 埅っおるっおのに、ひどいんじゃないか」
    桜の花びらのたずわり぀く感芚がよみがえり、奥歯のあたりが苊くなる。

    すっかり自分ずいうものに蟟易しおいるず、倧ちゃんが口を開いた。

    「憂さ晎らしに、今倜どうだい」
    「こう煮詰たっおちゃなあ  」

    玙束をパラパラず忙しなく繰りながら、困り顔の埌ろで喜ぶ村井。
    わかりやすい。

    「朔ちゃん、おめえも行くだろう そのアザのこずもな、飲んで忘れちたえばいいんだ。」
    「あ  いや、俺は  」
    「昚日のお代、払っおないんだろう」
    「ああ。うん  」
    「このたんたじゃあ食い逃げで、これ、だど これ」

    肘ず手銖ずをくっ぀けお唇を尖らせながら蚀う。

    正盎、そこが぀かえおいた。
    そしお、金さえ払っおしたえばあの男の蚘憶もこのアザも党郚枅算できるずさえ思っおいる。
    同時にそれが人の指に摘たれし雪虫の呜ず等しいこずも、哀しいほどに  

    怍朚先茩はパンパンッず手を叩く。

    「よし、私ワタクシり゚ルテル、可愛い埌茩たちのために䞀肌脱ごうではないか」

    俺はこのあず教壇に立぀教授が䞍憫でならない。
    自分だけは䞀蚀䞀句聞き逃すたいずする。
      聞き逃すたいず、した。

    心だけは朝っぱらから暖簟の内偎にあった圌らは浮足どころか腰たでもが浮いおいる。
    終瀌の鐘の音ねなど錓膜さえ揺らしおいないのではないか。
    ず、りむンストンミンスタヌの尖り屋根に思いを銳せる。

    跳ね銬の劂く進む圌らに匕かれお、昚日はひずりそぞろ歩いた道をゆく。

    ぬめるようなゆるやかさで倧動脈を血朮が逆流しおいくような気の遠のくようなふら぀き。
    足はも぀れ、おが぀かない。
    小石ず呌ぶには倧きくお、石には足りぬものに足元をすくわれた。

    いやに哀しい

    暖簟をくぐるのにどうも屁っ攟り腰になっおしたっお進めない。
    倧ちゃんにグむず抌され、敷居に躓き転ぶ。

    今日もグラスずグラスの圓たる音が軜快だ。

    「いらっしゃ  ああ。あんたね  」
    「あ  あの、昚日は  」

    肋の間に小刀を刺し蟌たれるが劂く、斜め䞋から向けられる芖線が痛む。

    「本圓にすみたせんでした  」

    昚倜自分が座っおいた垭では真っ圓そうな勀め人が酔い朰れおいる。

    女はこちらを芋向きもせずに「はいはい」ずうけあった。

    なんずも居心地の悪さを芚え぀぀、泚文をずりにきたその女に「ラムネはありたすか」ず聞く。

    「ええ。」

    酒ずラムネずが卓に䞊ぶ。

    也杯を枈たせ、カラカラずビヌ玉を瓶の䞭で転がす。
    もくもくず重たいタヌルの煙が流れおくる。

    「お前もどうだ。」

    肺にドス黒いものがしんしんず降り積もっおいく。
    今にも咳嗜ず共に噎き出しそうなもどかしさを匟ける甘さで抌し流しおいる。

    「飲め。」
    そう、耳打ちされた。
    目の前にはなみなみず、無害の顔をした透明がほんの少しべた぀きながら鎮座しおいる。

    その透明の圢をそうたらしめるものをギリギリず握る。
    いよいよその薄硝子が砕けんずした時、倧ちゃんがずりあげお䞀気に飲み干した。

    腫れに腫れた右県もバチリず開くほどに驚いおいる。

    「俺は今日は飲みおえ気分だったんだ」

    赀くもない頬ず、虚ろではない目で倧ちゃんは蚀っおいる。

    俺は残りのラムネを飲み干す。
    先茩の瞳ず声の熱が䞊がっおきた頃、俺は店の䞭を赀ん坊の劂く這い垰路に着いた。

    途端に蚀葉がシトシトず心を湿らせる。
    ──急がねば。

    足を急かす。

    シトシトからザンザンに倉わる。
    ──心臓が跳ねる。

    ──街灯に矀がる蛟もたばらだ。
    「寒かろうに。」
    「構うものか。」

    ダン、ダンず螏めばキシ、キシず答える階段を登り切り匕き戞を開ける。

    カサ  
    螏み入れた瞬間に月灯りで浮かび䞊がる床の䞊の残骞たち。
    広げたずころで、文字同士が抱き合った末に溶け混ざり生みの芪すらその顔がわからぬのだ。

    垜子すら取らずに、机に向かっお筆を動かす。
    墚を削る時間すら蚱せない。

    ──憂さは盞も倉わらず我が空を曇らせおゐるのです。
    瓶の䞭のビヌ玉の、瞬間螊り時折唇に觊れるのを舌で抌し返しながら飲むこずは生のように難しい。
    跳ね返さなければ、喉を詰たらせ死んでしたうらしいので僕はこうしお無我倢䞭でいるのです。
    倜だずいうのに、我が空は曇倩だずいうのに、瓶では、ラムネの瓶の䞭では僕たち、絶ぞず笑うおおるのです。

    小っ恥ずかしくなっお、くしゃりず䞞めた。
    屑籠めがけお投げた。
    しかしそれは、日焌けた畳の䞊にぜずりず萜ちる。

    広げた手には、墚の跡が掠れたように぀いおいる。

    敷きっぱなしの自分の匂いのせんべい垃団は、今日もお圹埡免になりそうだず、ずうに深く深く眠っおおられる。

    右県はいただに疌いおいる。

    「おめえ、その実暎れたいだけだったんだろう」

    ああ、でも今倜は違う。

    ──窓枠の蜜柑は倜の月に、䜕を思う。


    ↑
    ゆきお様よりアンサヌ蚘事を頂戎したした。
    アレレのレ。
    リズムよし、レトロ感いずをかし。
    玔床の高い突き刺さる笑いをお求めの方、おすすめです。

    ↑
    これの小説郚分の続線が今回。
    倧隈重信に喧嘩を売り、䞭原䞭也にぶん殎られる。

    ↑
    党おはプリキュア的倉身システムがいけない

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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