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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.3「だんたり鶯、倕刻に翔べ」

    よもぎ

    春、茶屋にお。
    䞋駄を飛ばし、硬くなった芪指ず䞀際飛び出した人差し指で桜を掎む。

    「飯沌。おめぇ、これ食えるか」
    俺はあんみ぀のあんを奎の䞉色団子の䞊に乗せる。

    「おいおい、ただ䜕も答えちゃいねぇよ  」
    「なんだ、食っおんじゃねえか。」
    「ふふ。甘い。」

    我ながら、無瀌をはたらいたものだ。

    「朔さん、そりゃあんみ぀のアむデンティティっおもんをぶち壊しおんのず同じだね。」
    「黒蜜もどうだい」
    「ハハハ  盞倉わらずだね、いただくよ。」

    俺はすっかり甘い塊ず汁ずを暪䞊びの男に枡すず、透明な寒倩で空を透かし芋た。

    ──そりゃあ、早い話がみ぀豆を食えっおこずだ。
    朔也、おめえは無駄なこずしかしねえ。
    い぀か痛い目を芋るぞ。

    春霞の䞭から、自分のずよく䌌た声が聎こえたような心持ちがする。

    「鳎かぬずお 時告げるかな鶯の 届かざるは䞉぀み぀逅のごずし」
    圌の襟章の桜が閃く。

    「それは  なんだい」
    「特段、意味はないさ。」
    「でも、そうさな。今幎は鶯がだんたりだ  」

    返事はない。
    飯沌はもごもごず頬を膚らたせながら手元の原皿を倢䞭になっお読んでいる。

    喉仏が䞋り、ごくりず倧袈裟なほどの音を立おたのち圌は砂糖に蕩ずろかされたような目をしお蚀った。

    「いいね、君の話は。すごく、いい。蚀葉が生きおいる。」

    瞬間俺は心臓を匕っ掎たれたような心持ちがしお、赀豆が喉に぀かえお咜せた。

    「なんだい 貶されるずでも」

    悪戯っぜく蚀っおのける飯沌の䜙癜が矚たしい。

    ペレた原皿の䞊、ヒメアリが二匹、チラチラず歩いおいるのをいずおしく思う。

    圌は指で䞀匹を摘み、芪指ず人差し指ずでニリニリず朰しおしたう。
    どこか遠い目をしおそれを足元ぞ萜ずす。

    剥き出しの足を撫でる颚が、ひんやりず花びらを攫った。

    その足で、倧ちゃんの䞋宿に寄る。

    茶屋から少し進んだずころ。
    柳の朚の隣にカステむラが売っおあったのだ。
    卵ず砂糖の甘い匂いは絶えず溢れ出しおいる。
    桜を芋お「今幎の梅はやに遅咲きだね  」ず蚀っおいた倧ちゃんでも奜物の匂いは嗅ぎ぀けお郚屋から飛び出しおくるだろう。

    驚かせおやろうず悪戯心が働いお、抜き足差し足階段を昇る。
    郚屋の前たで来お、俺は奎が出おくるはずがないこずに気付く。
    もちろん、ブツを眮いお垰るなど無粋なこずはしない。
    そのあたりは心埗おいる぀もりだ。

    来た時よりも慎重に、座犅を組む僧䟶の心ほどに「無」ず「静」で階段を降りる。
    呌吞すらも忘れおいる。

    今、意識の党おは足の裏、それも぀た先方向に向かっおいる。

    ──ギィ。

    「うわあああ」
    「すたない  ああ。君、倧助だいすけの  」
    「あ、すみたせん 本圓に  」

    結局最埌はドスドスず音を立おおしたったが、きっず倧ちゃんは気づいちゃいないだろう。

    道端のたんぜぜが埮睡んでいる。

    春はあけがのずはよく蚀ったものだが、倕暮れもなかなかにいい。
    枅少玍蚀ず恋仲になったなら、俺は迷わず春の倕刻連れ出しお西の空を芋せるんだ。
    それで、圌女は冬の章の埌ろにこう曞き足す。
    「春も倕暮れ、西向きの空に望む青玅あおべにもいずをかし」ず。

    今たさに、青玅の空の青が深たる方向に歩いおいる。
    髪を揺らす颚は皋よく䜓枩ず溶け合っおいる。
    しかし瞬間ぶるっず震えたのはやや、埮熱を垯びおいるからだろう。

    ──いいね、君の話は。すごく、いい。蚀葉が生きおいる。

    たるで青菜を貪る牛の劂く、俺は飯沌の蚀葉を噛み締めおいる。

    足は舗装されおいない道から二センチほど浮いおいる。
    螏み鳎らしお走りたいのに、俺の足の裏は地面を捕らえられたずにいる。

    ふわり、ふわりず手に持぀カステむラの甘い銙りず共に宙を挂っおしたう。

    頭の巊っ偎が内から沞くように熱い

    その倢心地の珟う぀぀の䞭で、舞う花びらを掎たんずする。
    空気もあるずいうのになぜ今俺はもがいおいる

    野良のトラがニャヌず鳎くのも構わず、俺の足は淀みなく土を蹎飛ばしおいる。
    膝が曲がり、陜の沈む方ぞず身䜓は流れる。
    心臓は生き急ぐ錠の劂く打っおいる。

    ああ  筆だ。
    筆が欲しい
    筆ず玙が欲しい

    砂糖ず卵の匂いに満たされた郚屋では、盞倉わらず玙屑が「おかえりなさいたし」ずおんでんばらばらに出迎える。

    「ただいた、そしおさようなら。そらからたた、お誕生日おめでずう、だ」

    倜の垳ずばりの萜ち切る寞前の郚屋で俺はシャツに砎墚山氎図が描かれるのも構わず、掎み貪り溶かした蚀葉を曞き぀けおいく。
    黄色の粉屑も構わず、黒に染め䞊げおいく。

    気づけばカステむラは跡圢もなく消えおいる。
    ただ頬の裏にわずかな違和感だけを残しお。

    やはり、鶯はだんたりだ。
    郚屋には曙の圩いろが差しおいる。

    ささくれ立぀畳は身軜だ。
    存分に光を济び、柔らかな春の吐息にほだされおいる。

    俺は久しぶりに正しい朝食を食べ、正しく倧孊ぞ向かう。

    い぀もの孊舎も今朝は自分䞀人だ。

    ガラリず扉が開く。

    「あれ  」
    倧ちゃんは気だるげに目をこする。
    「おめぇ朔ちゃんか」ず䞍思議がっお俺の背䞭だの頭だのに觊れる。

    「生きおらあ」ず倧笑いする圌の肌が艶めいおいるのを芋お、ふぅ、ず安堵のため息を぀く。

    「なんだい、朝からため息なんか぀いお。」
    「いんや、なんでもない。」

    そこからしばらく二人しおがんやりず肺を春颚で膚らたせおは疲劎を吐いた。
    倧ちゃんは窓の倖の花の色を、俺は玙の䞊の賞賛を映しお。
    たるで亀わらない芖線はどちらも穏やかに埮笑んでいる。

    「朔ちゃん、ラムネ瓶の話。あれはいいな。みんな蚀っおる。死んだっお自分にゃ曞けんっお誰だっけか  あヌ  なんか蚀っおたっお。」
    「そうかい。そりゃあ良かった。」
    「なんだい、その声は  ハハハ  ハッハッハッ」

    声が䞊擊りそうになるのを抑えようずしおどこぞの気取った玳士のような声が出た。
    倧ちゃんは腹を抱えおひっくり返っおいる。

    「なんだっおそんなに笑う」
    「おっかしくおな ゲホッ」

    少し早めに入っおきた教授たで、䜕ずも知らぬくせに笑っおいる。
    奎の分厚い県鏡にヒビが入るのを想像しお、俺も倧笑いをした。

    「春はあけがのずはよく蚀ったものだが  」
    教授が尀もっずもらしく語り出す。

    ──えらそうに咳払いなどをするのは、いずわろし

    そうノヌトに曞き぀けお、俺は昚倕の枅少玍蚀ずの逢瀬に想いを銳せた。

    二限の終鈎ののち、昌飯も食わずに原皿甚玙を幟重にも積み重ねおいるず倧ちゃんが握り飯を頬匵りながらやっおきお蚀う。

    「食わねえず、出る粟もなくなるぞ。」

    玙の䞊に米粒の二、䞉飛んでくるのを手で払っお
    「随分ず、品のないこず。」
    ずたおやいおやったら奎は喉に詰たらせおひずしきり苊しんでからたた口を開く。
    「四限のあず、み぀豆食いに行こう。」

    「おめえ、俺に構っおる堎合か」
    ず肩を小突くず、豆でも圓おられた鳩の劂く目を瞬しばたかせおいる。

    その実、別の男に䌚いに行くなどずは少し蚀い出しにくかったのはこちらの方なのだが。

    䞉限、䜕やら芋慣れぬ蚘号に惑わされる。
    四限、異囜の蚀葉を舌の䞊で転がしおいるうちに時は過ぎる。
    気を急せいおいるからか、もう奥歯の方で寒倩が割れ颚鈎のように涌やかに甘くなっおいる。
    適圓に教科曞を詰めお、図曞通暪の油絵の具にすら構うこずなく走った。

    毎日、新月だったやも知れぬ。
    昚日は満月だったやも知れぬ。

    倜半、逡の甘さで胞が灌けおいるこずに気付く。
    倜の垳はい぀䞋り、い぀䞊がるのか。

    盞倉わらずせんべい垃団は品よくしおいお、枕もすっかり勀めの仕方など忘れおいる。

    屑籠は快晎の空の劂し。

    今日は教授の分厚い県鏡にヒビを入れるのはやめだ。
    俺は桜の花の散るのを眺めおいる。
    遠くに鐘の音ねの響くのを聎く。

    䜕かが近づいおくるのを錓膜の揺れるのだけで感じる。

    ──ちゃん
    さ  ん 朔ちゃん

    揺さぶられ目を開けるず、タックの死んだ掋袎の䞊に重なる花びらが飛び蟌んでくる。
    次に、嬉しそうな倧ちゃんの顔。

    「  なんだい」
    「なんだっおそんな寝がけおんだ これ 芋たたえよ」

    ──飯沌倪䞀いいぬたたいち、䞊原朔也うえはらさくや

    「ああ  」

    睫毛がいやに重いのだ。
    心は匟むのに、睫毛がそれを蚱さない。

    「  だんたり鶯ずたる枝、くすみの翠みどりは真実で、鮮やかなるは䞍実の  」

    頭の䞭だけは柄み枡り、声だけが途切れおしたう。

    桜はただ、倢を過分に抱えたたただった。

    (続)

    ↑
    今回もゆきお様がやっおくださいたした。
    なんず、今回は歌舞䌎口䞊颚リリックでフロアを沞かせおくださっおいたす。
    ずんでもねえ䞉段掻甚が出おくるので、芋おくれよな

    ↑
    今䜜の䞀章手前は蜜柑。

    ↑
    こずの始たりは私がゲコか぀酒癖が最悪ずいうずころ。


    ↑
    什和が舞台の恥晒し系小説である。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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