
六ハタレと六将守の秘密:11王族と新渡来王オオトシ|ホツマツタヱを暗号文として読む #22
前回まで、「出雲八重垣」という称号と、その称号を含む「八雲立つ歌」を手がかりに、オオナムチの正体に迫ってきました。
その中で、「八雲立つ」の「八」が「諸王族」の数を示している可能性が見えてきました。
その解釈は、九州王権連合を構成する王族の総数を「11」とすると、女王制・三大王連立制における大王の座にある「三大王族」以外の「諸王族」の数が「八」になる、という計算にもとづくものでした。
実は、この「11」という王族の総数は、この時すでに渡来していたオオトシを除外した数字です。
もしも、オオトシを含めれば、王族の総数は「12」になります。そして、この「12」という数字と関連がありそうな説話があるのです。
「八雲立つ」と同じ局面に属する説話である、六つの反乱者「六ハタレ」を「六将守(むまさかみ)」が討伐する「ハタレ説話」です。
今回から二回にわたって、記紀には記されなかった「ハタレ説話」を取り上げて、九州王権連合を構成する王族の総数と、「3+8=11」の構図をめぐる暗号群の全体像に迫っていきます。
系譜の復元:九州王権連合の構成王族
まず、九州王権連合を構成する王族の系譜の復元に関する仮説を提示しておきます。
九州王権連合の構成王族は、天七代の最終段階では、「七代」の数も知らせるように、三大王連立の三王族に加えて、先住王族のカンミムスビとタカミムスビ、舟運王族の宗像と住吉の合計七王族でした。
そのうち、剣臣ミナカヌシの系譜が四代オモタルで、カンミムスビの系譜が五代ヤソキネで断絶しました。そして、その二つの系譜の傍系であるクラキネが剣臣を継承しました。この段階で、六王族となります。
その後、天君イサナギにアマテルとソサノヲが生まれ、その二人に二人ずつ男子が生まれました。また、鏡臣サクナギにもオモイカネとツキヨミが生まれ、四王族増えて十王族となりました。
日高見のタカキネには、住吉カナサキの娘ハヤアキツ姫との間にアマツヒコネが生まれましたが、追放されて日高見の後継者としての地位を失い、タカキネは再婚します。そのことで、系譜が一つ増えた形になりました。これで、合計11王族となったのです。
そこへ、オオトシが新たに渡来しました。すでに述べたように、九州王権連合は、そのオオトシを三大王連立の一角に迎え入れました。このオオトシを加えると、王族の総数は12王族ということになります。
以上の変遷を、天七代以降の系図に落とし込むと、次のようになります。
丸数字はアワ歌の即位リストに示された大王即位の順位を示しています。
オモイカネにつけた「〇」は、アワ歌の歌い手であるワカ姫による、いわばゼロ番目の即位を示します。
▼は新たに渡来したことを、▲は系譜が断絶したことを示します。
鹿島の系譜は、タケミカツチに男子がなく最終的には断絶しますが、この段階では女王との再婚による剣臣即位の可能性を残していたため△をつけてあります。
また、▲をつけたアメワカヒコには、先妻との間に男子ホノススミがありました。その扱いについては後述します。

この系図では、「八雲立つ」の局面に属する、セオリツ姫によるアマテルの天君再即位(⑤)から、タナコによるイフキトヌシの鏡臣即位(⑬)までの代を揃えた上で、濃い字で示しています。
そして、この代の系譜の数を数えると、新たに渡来したオオトシを含めた場合は合計で12王族、含めない場合は11王族となることがおわかりいただけるでしょう。
六ハタレと六将守:「6+6=12」の裏にあるもの
ハタレ説話における、六つの反乱者「六ハタレ」を「六将守(むまさかみ)」が討伐する、という構図は、単純に考えれば「6+6=12」の構図を示すもののように思えます。
しかし、その中身に一歩踏み込めば、それほど単純な話ではないことがわかります。
というのも、六ハタレを討伐した六将守には、ともに討伐に参加した人物と命令者がおり、その二人を合わせると八人となることが示されているからです。
後にハタレが 乱る時 カナサキおよび 六将守 剣賜り ハタレ討ち 八民治むる 勢いも 枯れは枯らして 生きを得る
ハタレ君 … 国を乱れば 住吉 香取鹿島や イフキヌシ 荷田タチカラヲ クスヒ守 みな器得て これを討つ 時に六ハタレ 皆降る これ皇神の 詔 御子オシヒトも
23-71のカナサキと28-21の住吉は同一で、八雲立つの局面に属する人物としてはアマツヒコネ、そして、28-21の皇神とはアマテルのことです。
つまり、六将守はその「六」という表層の数字とは裏腹に、その深層に「八」という数字を隠しているのです。
八民:八雲や奴(八つ子)と同じ「3+8=11」の構図
六将守の一節には、ほかにも「八」に関わる表現があります。
「八民治むる勢いも」の八民です。
民とは、「君臣民」という身分制度を装って記される王族の分類において、天君と、その天君とともに連立を構成する鏡臣と剣臣に対して、大王位継承権を持たない諸王族のことです。
したがって、この「八民」は、「八雲」や「奴=八つ子」の「八」と同じ「3+8=11」の構図、すなわち、「三大王族と八つの諸王族」という構図の、もっとも直接的な表現であるといえるのです。
六将守が示す八王族:もう一つの「3+8=11」
一方、六将守が示す八王族の内訳を見ていくと、興味深い事実に行き当たります。
28-21の六将守のリストのうち、香取、鹿島については、その称号を与えられた理由とともに実名が記されています。
またフツヌシは 香具山を 司れとて 香取守
またミカツチは 鹿島立ち 稜威を現す 物部の 涙柔らに 戻すより 賜う神部は 鹿島守
ただし、「香取」の理由として記される「香具山を司れ」という文言は、フツヌシの父カグヤマツミ(香具山住み)の事績ととらえるほうが整合的です。八雲立つの局面に属するという意味でも、カナサキの名で記されるのがその孫アマツヒコネだったように、香取と記されるのはフツヌシの父カグヤマツミのことだとみなすべきでしょう。
一方、荷田やクスヒ守が何者であるかは、直接は明記されていません。
しかし、荷田はオオナムチ、クスヒ守はタカヒコネに比定できます。
たとえば、次の一節には荷田がカンミムスビの子孫であることが示されています。
クニトコタチの 天祀る 御食は木の実か クニサツチ 生むウケモチの 八代の孫 今の荷田なり
カンミムスビの六代王がクラキネであることはすでに論じたとおりです(第6回参照)。オオナムチはクラキネの孫であり、カンミムスビの八代王にあたります。
また、次の一節のクスヒがタカヒコネであることについても、すでに論じました(第19回参照)。
奏で枯らせる 過ちと 喪に慎むを 聞し召し 御子のクスヒに 訪わしむる
ここで重要なことは、この比定によって、「住吉および六将守」と、その命令者「皇神」の八王族は、上の系図のオオトシ以外の11王族から、▲をつけた三つの断絶王族を除いた八王族と一致するという事実です。
つまり、六将守が示す八王族は、「三大王族と八つの諸王族」とは異なる、もう一つの「3+8=11」の構図、すなわち「三つの断絶王族と八つの存続王族」の「八」を示している可能性があるのです。
総数からオオトシを除外する理由:三つ目の「3+8=11」
この二つ目の「3+8=11」の構図の存在に気づくと、王族の総数からオオトシを除外する最大の理由が見えてきます。
というのも、次の局面で、いよいよアマノコヤネ(徐福)と、その航海を支えた舟運王サルタヒコが渡来します。この二つの王族に、その13年前に渡来していたオオトシを加えると新渡来王族は三つとなります。
オオトシを八雲立つの局面に含めず、アマノコヤネ渡来の局面に移し替えれば、この「三つの断絶王族と八つの存続王族」という構図から、そのまま「三つの新渡来王族と八つの既存王族」という三つ目の「3+8=11」の構図につなげることができるというわけです。
つまり、オオトシは実際には前の局面ですでに存在しながら、暗号上では、次の局面の構造を成立させるための必須要素となっていることになります。
六ハタレと六将守による「6+6=12」の構図も、オオトシを含めたこの局面固有の王族数を示すと同時に、そのオオトシを暗号上どの局面に置くかという操作を示唆していると考えれば、納得がいきます。
剣賜り:オオトシ除外の暗号
このオオトシの扱いに関しては、ほかにも暗号が組み込まれています。
六将守の名が登場する一節には「剣賜り」という言葉があります。
後にハタレが 乱る時 カナサキおよび 六将守 剣賜り ハタレ討ち 八民治むる 勢いも 枯れは枯らして 生きを得る
すでに考察してきた通り、新たに渡来したオオトシは、最初鏡臣として連立に迎え入れられた後、旧鏡臣傍系イフキトヌシの鏡臣即位時の再編で、剣臣となりました。
この一節の「剣賜り」の「剣」を剣臣オオトシと読めば、「六将守」の背後にある11王族がオオトシを迎え入れた、と読むことになります。
つまり、オオトシは11王族に含まれないこと、そして、11王族にオオトシを加えれば12王族になることが、ここに記されていると考えられるのです。
生きを得る:復権王族による三大王連立
この一節の最後には、「枯れは枯らして 生きを得る」とあります。
「枯らす」は系譜の断絶を意味します。
また、「生きる」は、国外追放を意味する「命去る」に対応する「死ぬ」の対義語です。したがって、「国外追放からの復権」を意味すると考えられます。
そして、ホツマツタヱの暗号の傾向から見て、「枯れは枯らして 生きを得る」という句が示唆するのは、「枯れ」が示す断絶王族と同じように、「生き」が示す国外追放から復権を果たした王族もまた三王族である、ということです。
このことは、国外追放された王族の総数が「3」である、ということを意味するものではありません。むしろ、三つの復権王族が三大王連立を成立させた、ということを知らせていると考えられます。
重要なことは、この局面において三大王連立を成立させた組み合わせは、実際には以下の二つに限られるという点です。
・⑥オオナムチ、⑦カグヤマツミ、⑨アメワカヒコ
・⑧オオトシ、⑫タカヒコネ、⑬イフキトヌシ
ただし、後者はオオトシを含む連立です。オオトシは暗号上、この局面の11王族から除外され、次の新渡来王族の局面へ移されています。したがって、11王族内部で完結する三大王連立としては、前者だけが残ることになります。
つまり、「生きを得る」は、この局面における「三大王族」が「復権した三王族」であることを伝えているとみなせるのです。
断絶王族と存続王族の境界事例
ホノススミの扱い
大王の座をめぐる対立の中で殺害されたアメワカヒコには、先妻との間に男子ホノススミが生まれていました。
しかし、この八雲立つの局面では、ホノススミには王位継承権がないとみなされていたと考えられます。なぜなら、アメワカヒコの後継者として、アメワカヒコの双子の弟タカヒコネがすでに大王位についていたからです。
ただし、その後、タカヒコネには男子が生まれず、その王位継承者として、ホノススミが指名されることになります。
そのことを示す一節が、ハタレ説話の中にあります。
時にクスヒが 熊野守 招けば烏 八つ来たる
クスヒはすでに述べた通りタカヒコネです。
また、熊野守とは四国居住の王という意味です。
クマノクスヒの名の通り、タカヒコネ自身も四国で育ちました。この一節における熊野守は、双子の兄アメワカヒコの先妻との子ホノススミのことであると考えられます。
つまり、この一節は、「タカヒコネの王位継承者にホノススミが指名された」ということを、「タカヒコネがホノススミを招いた」という形で伝えているとみなせるのです。
そのような事情を踏まえた上で、アメワカヒコの系譜は断絶王族側に整理されたものと考えられます。
なお、「烏」は「枯らす」と同音で、断絶を招いた王の隠語です。
一度断絶した系譜を復活させたホノススミですが、結局再び断絶することになったので、ここで烏とされるのです。
そして、その烏の数を「八つ」とするのは、ホノススミが大王候補の地位にあった期間が「八年」で終わったことを、そして、ホツマツタヱ前編が記す、いわゆる「神武東征」の前夜までに、合計八王族が断絶したことを知らせるためです。これらについては、この連載がその局面に至った時点で、あらためて検証します。
タケミカツチの扱い
一方、鹿島(住吉嫡系)のタケミカツチにも男子がなく、娘のアサカ姫を宗像フツヌシに娶らせて断絶しました。
しかし、八雲立つの最終局面であるフツヌシ即位の段階では、タケミカツチには剣臣即位を実現するための女王との再婚の可能性が残っていたために、存続王族側に整理されたものと考えられます。
タケミカツチに男子がなかったこと、娘アサカ姫がフツヌシと結婚したことは、次の一節に明記されています。
鹿島の宮の 一人姫 男子なければ 鹿島君 香取の宮に 行き到る フツヌシ迎え 戸言終え 入ります後に
「戸言(とこと)」は「門前の会話」を装いますが、「妹琴」で三つ子の中子タナコの女王即位のことと読めます。
実は、アワ歌の13番目と14番目は「ふ」と「ぬ」で、イフキトヌシ・タナコと、フツヌシ・アサカ姫のどちらが先か、その音からは決められないのですが、この一節にその順序が示されていると考えます。
「剣賜り」の別解と「みな器得て」
最後に、「剣賜り」の別解について触れておきます。
すでに述べたように、カナサキと六将守が賜った「剣」は、第一義的にはオオトシを指すとみなしていいでしょう。
しかし、そこには別解もあります。
カナサキと六将守はみな、剣臣そのものとなるか、剣臣を含む三大王連立の一角を占めたことがあり、そのことをまとめて「剣賜り」と表現した可能性もあるのです。
そうだとすると、28-21の「みな器得て」も同じことを示していると読めます。つまり、「器」とは「三大王連立」という枠組みそのものを指す隠語であると考えられるのです。
上の系図で、八つの存続王族のうち、その系譜に大王即位を示す丸数字がついていないのは、アマツヒコネとタケミカツチです。
このうち、剣臣タカキネの子であるアマツヒコネは、最終的には、住吉の系譜とみなされますが、当初は、日高見の後継者として次期剣臣候補であったと考えられます。したがって、そのことをもって「剣を賜った」一人であるとみなすことができそうです。
一方、タケミカツチについては、二度にわたって剣臣即位を企てていたことは前回指摘した通りです。しかも、その二度の剣臣擁立は、「拉げば賜う二剣」と記されていました。
そこでは、「競合相手を退けることができれば、二度剣臣になる機会があった」という事実を、あたかも「競合相手を退け、二度剣臣となった」かのように記しています。
そうであれば、この「賜う二剣」という表現自体が、単なる攪乱ではなく、六将守の「剣賜り」にタケミカツチを含めるための仕掛けである可能性もありそうです。
おわりに
今回は、王族の総数が12であることを示唆する「ハタレ説話」の「六ハタレ」と「六将守」のうち、「六将守」には、表層に示された「6+6=12」という構図とは裏腹に、三つの「3+8=11」の構図が埋め込まれていることを見てきました。
次回は、もうひとつの「六」である「六ハタレ」にもまた、「3+8=11」の構図が組み込まれていることを見ていきます。