
【上司の鎧を脱ぐ⓪】失敗だらけの、最初の1年
いよいよ部下ができるというとき。
嬉しさより、圧倒的に怖さがあった。
部活のリーダーとは違う。目の前の人たちはみんな、生活が懸かっている。人によっては、家族もいる。
彼らの周りや、彼らの先にある未来を想像すると、途方もないプレッシャーに襲われる。
メンタルヘルスの問題で倒れる人が、身近にもいた。パワハラと思われたらどうしよう、という以前に、その人を壊してしまったらどうしよう、という怖さがあった。プレイヤーとして結果を出すことと、誰かに動いてもらうことは、まったく別のことだった。想像すらできなかった。
そして、私はパワハラの要素が自分にあることに、うっすら気づいていた。
「仕事だからしょうがない」で自分を納得させて突き進む。会議で意見が出なければ自分が出して引っ張っていく。周囲のペースに合わせるのが苦手。ポジティブで楽観的だから、慎重な人の気持ちがわからない。
プレイヤーとしては長所だったことが、そのまま危うさになる。
ビジネス書を読み漁った
人を育てた経験が、ほとんどないことに気が付いた私は、手始めにビジネス書を読むことにした。
「人を動かす」「人は聞き方が9割」。有名どころは一通り読んだと思う。
読めば読むほど、気づいてしまう。
ぜんぜん、できていない。
特に傾聴だ。聴いているつもりで、全然聴けていなかった。
このままではやばいと思った。
どうにかして変えなければ、そう思った。
そこで思いついたのが1on1だ。研修でもビジネス書でも、1対1で話す時間を設けた方がいいと書いてあった。
まずやってみることにした。
最初の失敗たち
「とりあえず」でやってみた1on1。
意外とできた。形だけは。
今振り返ると、「それっぽい1on1」だったが、失敗だらけだった。
最初の失敗は、進捗管理になっていたことだ。
前年度までプレイヤーだった私は、気づかないうちに「前任者」のような振る舞いをしていた。「あの件どうなった?」「この数字、どう見てる?」。会話はしている。でも、それは管理だった。
関係は悪くなかった。雑談もするし、笑いもあった。でも、1on1が終わったあとに気づく。相手は、どれだけ話しただろう? 私は、どれだけ聴いただろう?
二つ目の失敗は、時間を気にしすぎていたことだ。
時間内にまとめることが、いつの間にか目的になっていた。
ビジネスマンは、時間が大事。だから、相手の時間を意識することは大切だ。でも、何でも早く終わればいいというわけではない。
相手が思っていることを話して、少しでも楽になること。それが1on1の目的のはずだった。
三つ目の失敗は、仕事の話に絞りすぎていたことだ。
仕事中は仕事の話しかしちゃいけない、と思っていた。仲良しクラブじゃない。雑談してもしょうがない、と。
でも、あるカウンセリングの本を読んで、気づいた。
「一人の人間には、いろいろな役割がある」
目の前の人は、今は自分の部下かもしれない。でも、家に帰れば父であり、夫であり、ゴルフ仲間では達人級だったりする。仕事の顔だけが、その人のすべてじゃない。仕事以外の話だからと言って、即切り捨てる必要はなかったのだ。
このことを実際に1on1で実感したことがある。
相手は年上の女性だった。プレイヤー時代から、私のことを気にかけてくれたり、チームのことを一緒に悩んでくれたりする人だった。
あるとき、彼女がぽつりと言った。
「私、母業と妻業と嫁業をやってるんですよね」
旦那さんを支えながら、受験生の親として、義母への気遣いとして、毎日を過ごしている。仕事の役割以外にも、彼女には少なくとも3つの役割があるのだ。
次の1on1の冒頭で、私は言ってみた。
「いつも、母業と妻業と嫁業、おつかれさまです」
明らかに、反応が違った。そこに気付いてくれて嬉しい、といった表情だった。
その日、家庭のこと、お子さんのこと、仕事のことをいつも以上に話してくれた。
1on1のあと、25歳だったころの自分を思い出していた。
とにかく私生活がぐちゃぐちゃだった。頭の中はそのことでいっぱいで、集中できるわけがなかった。褒められた態度じゃないかもしれない。でも、人間ってそういうものだ。仕事を頑張りたい、頑張らなきゃと思いながら、できない。そういう人は、自分だけじゃないと思う。
年齢は関係ない。その人には、その人の悩みがある。自分の健康だったり、子どもの進路だったり、親の介護だったり。
そんなことを抱えながら、いつも職場で明るく頑張って過ごしているんだ。私の1on1が少し変わったのは、そのあとからかもしれない。
過去の自分へ、そしてこれを読んでいるあなたへ
失敗だらけの1年だった。進捗管理しかできなかった自分、時計ばかり見ていた自分、仕事の話しか引き出せなかった自分。
でも、その失敗があったから、気づけたことがある。
聴くとは、技術じゃない。目の前の人を「世界でたった一人のあなた」として見ることだ。
この記事を読んでいるあなたも、きっと悩んでいるのだと思う。うまくできない、どうすればいいかわからない。その気持ちは、よくわかる。
私も、そうだったから。
完璧な1on1なんて、たぶんない。でも、目の前の人に少し興味を持つことはできる。その人が今日、どんな気持ちで出勤してきたのか。どんなことを抱えているのか。それだけで、場は変わる。
失敗だらけの一年から始まった私が、試行錯誤の中で学んできたことを、このシリーズで書いてきた。
私の失敗が、あなたの一歩の、小さな勇気になれたら嬉しい。
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