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【上司の鎧を脱ぐ④】自分の中にある壁

    前回は、1on1の現場で部下の反応に戸惑う場面を見てきた。正解を求めてくる、順調ですで終わる、愚痴が出てくる、特にないですと言われる、黙り込んでしまう。

    でも、読んでいて気づいた人もいるかもしれない。本当の壁は、部下の側にあるんじゃない。自分の中にあるんじゃないか、と。

    今回は、上司である自分自身の内側に目を向けてみたい。技術的な話もある。マインドセットの話もある。でも、どれも根っこは同じだ。自分が今、どんな鎧を着ているかに気づくこと。

    1. 雑談だけでいいの?と感じたとき

    1on1が雑談で終わってしまった。ペットの話、週末の過ごし方、最近ハマっているドラマ。楽しかったけど、「これでよかったのか?」という不安がよぎる。業務の課題を話し合うべきだったんじゃないか。成果に繋がらない時間を過ごしてしまったんじゃないか。

    まず、誤解を解いておきたい。私は、雑談でも随分いいと思っている。

    「なんでも聞きます」と言っておいて、いざ雑談が始まったら「それは1on1で話すことじゃない」という空気を出す。それでは「え、嘘じゃん」と思われる。やっぱり話さなきゃよかった、と。遠慮しながら話してくれている人もいる。否定しない空間を作ることが、何より大事だ。

    とはいえ、不安になる気持ちもわかる。そこで、場の設計で変えることもできる。私がお勧めするのは、最初に一言聞くことだ。

    「今日、話したいことは?」

    これだけで場が変わる。出てきた話は、たとえ業務と関係なくても、本人にとっては大事な話だ。「業務と関係ないんですけど……」と遠慮がちに切り出すトーンなら、なおさら。その遠慮の裏に、大切な何かが隠れていることが多い。逆に、純粋な世間話のときはトーンが違う。軽い。そういうときは「今日話したいことってなんでしたっけ?」と自然に戻せばいい。

    そして、朗報がある。たとえ雑談で終わったとしても、落ち込む必要はない。どんな話でも「その人が自ら話した」ものであれば、その人を知るヒントになるからだ。

    なぜその話を出そうと思ったのか。それはなんで好きなのか、嫌いなのか。どんなことに価値を感じているのか。ペットの話でも、ダイエットのことでも、昨日のちょっとしたニュースだって。その人が話すということは、理由がある。その理由から深掘りをしていくと、思いがけない発見があったりする。

    話してくれたこと自体が信頼の証だ。そしてその中に、その人を理解するための手がかりが、必ず含まれている。

    2. アドバイスしたくなったとき

    部下の話を聴いていると、「こうすればいいのに」が頭に浮かぶ。経験があるからこそ、解決策が見える。言いたい。教えてあげたい。

    これは自然な感情だし、悪いことでもない。ただ、一つ知っておいてほしいことがある。

    本当にアドバイスが必要なら、相手から言ってくる。

    部下が話しているとき、多くの場合、求めているのは正解じゃない。聴いてほしいのだ。話しながら自分で整理している。そこにアドバイスを挟むと、整理が中断される。「あ、答えを求められているんだ」と部下のモードが切り替わり、自分で考えることをやめてしまう。

    それでも気になるなら、こう聞いてみてほしい。

    「私に何かしてほしいことある?」

    私は実際にこれを聞いてきた。面白いことに、アドバイスを求められることはほとんどなかった。返ってくるのは、もっと具体的なことだ。

    「こういう仕事を振ってほしい」 「確認したかわかりづらいから、ここを確認したって言ってほしい」

    部下が上司に本当に求めているのは、正解ではなかった。自分が動きやすくなるための環境だったのだ。

    アドバイスを我慢するのはしんどいかもしれない。でも、「言わない」ことで生まれる余白がある。その余白の中で、部下は自分で答えにたどり着く。そしてそのとき、上司であるあなたが聴いてくれていたことが、一番の支えになっている。

    3. 厳しくしないと成長しないと思うとき

    「寄り添ってばかりじゃ成長しない。もっと厳しくしないと」

    あなたがそう思うなら、きっとストイックな方なのだと思う。それでうまくいっているのであれば、それも一つの正解なのかもしれない。相手がいきいきと働けているのであれば、あなたのやり方はきっと機能しているのだと思う。

    ただ、一つだけ言いたいことがある。寄り添うことは、甘やかすことではない。

    人間、誰しも自分の言っていることは正しいと思っている。厳しくすべきだとあなたが信じているように、部下もまた、自分なりに考えて行動している。それがあなたにとって理解しがたかったり、「レベルの低い」アイデアだったとしても、その人が考えたことだ。

    まず、受け止める。そして、その人の立場に立って、共感しながら聴く。

    その上で、必要であれば率直に伝える。
    寄り添った上での厳しさと、頭ごなしの厳しさは、まったく違うものだ。前者は届く。後者は、表面的には従うかもしれないが、心には届かない。

    よく「行動のミスは指摘するが、人格は否定しない」と言われる。これはそのとおりだ。でも、その前提がある。
    行動のミスが起きたときの背景をこちらがどれだけ理解しているか。
    なぜそうなったのか、そのときその人は何を考えていたのか。
    それをしっかり聞いたうえで「ここはこうした方がいい」と言うと、どうだろう。
    「ちゃんとこちらの言い分を聞いてくれた」「あの時の気持ちを理解してもらった」そんな風に思っていたら、こちらの話も素直に受け取ってもらえるのではないか。

    共感的理解は、甘さではない。むしろ、本当に厳しいことを伝えるための土台なのだ。

    4. 部下のことが正直好きじゃないとき


    こういうこと、あると思う。人間だから。好きにならなくていい。罪悪感も要らない。

    ただ、信じることは必要だ。
    「この人はできる」と思えるかどうか。それがなければ、どんな問いかけをしても届かない。

    やってみてほしいことがある。

    まず、その人に対して思っていることを、とにかく紙に書き出す。いいことも、そうでないことも全部。次に、相手が自分に対して思っていそうなことを書き出してみる。

    視点が変わる。「そりゃこう見えるよな」と思えることがある。完全に好きになれなくても、少し「わかる」が増えると、関係性が少しずつ変わる。

    「世界でたった一人のあなた」として向き合うというのは、好きな人にだけやることではない。むしろ、好きと思えない相手にこそ、この姿勢が試される。そして、その姿勢を持てたとき、自分自身が一番楽になったりする。

    5. 1on1の場で怒りを感じたとき

    その場では動かない。

    怒りを感じたまま場を続けると、言葉の端々に出る。部下はそれに気づいて、黙るか、合わせるかになる。どちらにしても、1on1は機能しなくなる。

    だから、怒りを感じたら「怒りを感じているな」と俯瞰する。
    もしどうしても感情が顔に出た場合は、「ごめん、今の話を聞いて少し感情的になってしまった」と正直に伝える。

    そのうえで、怒りはあとで冷静に振り返る。なぜ怒りを感じたのか。

    多くの場合、怒りの裏には「こうあってほしかった」という期待がある。その期待はどこから来ているのか。相手への期待なのか、自分自身への何かなのか。

    「もっと主体的に動いてほしかった」は、相手への期待だ。でも、その奥に「自分がちゃんと育てられていないんじゃないか」という不安が隠れていることもある。怒りの正体は、意外と自分自身に向いていたりする。

    怒りは情報だ。無視するのも、爆発させるのも、どちらももったいない。丁寧に紐解くことで、自分が本当に大事にしていることが見えてくる。それは、あなた自身の「世界でたった一人のあなた」を理解することでもある。

    6. アサーションとの線引き

    「こちらの要望も伝えるべきじゃないか」

    マネジメント研修でもよく出てくるアサーション。自分の意見や要望も率直に伝えるコミュニケーションのことだ。1on1でもアサーティブに関わるべきではないか、と考える人もいると思う。

    私のお勧めは、分けて考えることだ。

    1on1の時間は、基本的に相手の話を聴く時間にする。業務の話や依頼をしたい場合は、あらかじめ伝える。もっと言えば、許可を取る。

    「最後の10分で業務の話をしていい?」

    たったこれだけで、場の性質がまったく変わる。それまでの時間は完全に相手の時間だと保証される。部下は安心して自分の話ができる。

    許可を取らずに業務の話が混ざると、1on1が「依頼の場」になってしまう。そうなると、部下は次の1on1から身構える。「また何か頼まれるんじゃないか」と。せっかく作った安全な場が壊れてしまうのだ。

    アサーション自体は素晴らしい考え方だ。ただ、1on1という場においては、まず相手の話を聴く時間を守ることが優先だと私は思っている。

    結び

    6つの壁を見てきた。雑談への不安、アドバイスしたい衝動、厳しさへのこだわり、好きになれない部下、怒り、そしてこちらの要望との線引き。

    どれも、部下の問題ではない。自分の中にある鎧の話だ。

    ③で「部下をラベリングして可能性を閉じるか、一緒に成長していくか」と書いた。その選択をするためにまず必要なのは、自分が今どんな鎧を着ているかに気づくことだ。それが、導入で言った「根っこ」の話だ。

    鎧を脱ぐとは、相手を変えようとすることではない。自分の見方が変わることだ。

    ただ、誤解しないでほしい。これは自分を責めるための話ではない。

    「なんで自分はアドバイスしたくなるんだろう?」と気づいたとき、「だから自分はダメなんだ」と自分を責めてしまう人もいるかもしれない。
    しかし、一度受け止めた後、「じゃあ、次に部下が話してくれたとき、自分はどうしたい?」に進めばいい。

    「この部下のこと好きじゃないな」と気づいたときも同じだ。それを否定しなくていい。「じゃあ、この感情の正体は何だろう?」と覗いてみる。意外なことに、苦手だと思っていた相手への嫉妬や憧れが隠れていることもある。自分にないものを持っている人を、人は「好きじゃない」と片付けてしまうことがあるのだ。

    鎧に気づくことは、スタート地点だ。
    気づいて、向き合って、味わっていく。それは、「世界でたった一人のあなたの感情」を、あなた自身が大切にすることでもある。そして、「自分はどうしたいのか」に向かっていく。

    その一歩一歩が、1on1を変えていくのだと思う。


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    世界一HAPPYなおたく! 推しが卒業した。寂しかった。けど、言えなかった。再び向き合うきっかけをくれたのは、コーチング。 おたくで、コーチで、中間管理職。日々のちょっとした思考を綴ります。ハロプロが好き。 LCPコーチングアカデミー9期

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