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【上司の鎧を脱ぐ③】1on1で出会う、5つの壁

    前回の記事で、「共感的理解」の本質について書いた。相手の目から世界がどう見えているかを確認すること。「わからないから教えて」という、ノットノーイングの姿勢。そして、心の中で「何があったんだろう?」と自分に問いかけることの大切さ。

    さて、理屈はわかった。
    でも、いざ現場で目の前の部下と対峙すると、さまざまな「壁」が立ちはだかる。

    「〇〇すればいいんですよね」と正解ばかりを求めてくる。
    「すべて順調です」の一言で終わる。
    「〇〇部署が動いてくれなくて」と愚痴が止まらない。
    「特にないです」で話が始まらない。
    問いかけても、黙り込んでしまう。

    マネージャーはただでさえ忙しいのに、いろいろな場面に向き合わなければならず苦労が多い。つい「あいつは主体性がないから」「あの子は愚痴ばかりで」とラベルを貼りたくなることもあるだろう。

    でも、1on1で部下に「あなたならどうする?」と問うのなら、まず自分に問わなきゃいけない。「あなたは、どうする?」と。

    現場でよくある5つのシチュエーションを通して、一緒に考えてみたい。

    1. 正解を求めてきたとき

    「これ、〇〇すればいいんですよね?」
    「〇〇ってことですよね?」

    1on1の場で、そんなふうに「正解のタスク」ばかりを欲しがる瞬間がある。あなたはどう感じるだろうか。「指示通りやってくれてやりやすい」と感じる人もいるかもしれない。「主体性がない」と感じる人もいると思う。

    ただ、一つ言えることがある。
    実はこういう発言が出るとき、その人は仕事ができて、空気が読めて、失敗したくない「優秀な優等生」だったりする。
    そして、1on1の場を「自分の気持ちを話していい場所」だと思っていない可能性がある。1on1は業務報告の延長線にあり、上司の「合格点」をサーチする場所になってしまっているのだ、

    こういうときは、「あなたはどう思う?」と、軽く聴いてみることをおすすめしたい。
    軽くというのが結構大事で。
    真っ正面から真顔で聞くと、「試されている、さらに正しい答えを言わなきゃ」と身構えてしまう。だからこそ、重くなく、カジュアルにパスを出す。

    「あなたが、本当はこうなったらいいなって思うことってある?」
    「今は、遊びだと思って言ってみようか」

    そうやって、「正解・不正解」の重苦しい世界から、相手を脱力させて連れ出してあげるのだ。

    そして、何より大切なのは、あなた自身が「評価の目」で相手を見ていないか、ということだ。上司が「こいつは優秀か」「主体性があるか」という評価軸の鎧を着て相手を見ている限り、敏感な部下はそれを一瞬で見抜く。
    正解を探してしまうのは、実は上司である自分が「評価する人間」の顔をしたままだからかもしれない。


    2. 「順調です」で終わったとき

    こんなこともある。
    「進捗どう?」と聞くと、「問題ないです、すべて順調です」。
    そんなとき、上司の心には「本当に大丈夫か?」という疑いの目が疼き出す。これが上司の鎧だ。

    「すべて順調」という言葉に対しては、鵜呑みにするのでもなく、疑ってかかるのでもない。一緒に中身を紐解いて、分解するのがいい。

    まずは課題のハードルを極限まで下げてあげることだ。
    「超些末なことでいいから、なんか気になることある?」
    「今日、パソコンの起動がちょっと遅い、とかでもいいよ」

    そう言われると、「上司の時間を奪ってまで相談すべきではない」と封印していた小さなモヤモヤを、安心して口にできるようになる。
    もしくは、「お、順調?もうちょっと聞いていい?」とざっくり入ることもある。
    要するに「順調って言ってるけどどういうこと?」を聞くのだ。これが分解だ。

    数字に変換してもらうのも効果的である。
    「お、順調なんだ。じゃあ、今の状態って100点満点中、何点くらい?」

    なんとなく想像がつくと思うが、こういうとき、なかなか100点とは答えられない。「うーん、85点ですかね」などと返ってきたら、引き算された「残りの15点の中身」を一緒に眺めにいけばいい。

    そして、聴いてみて「本当に順調」なのだとしたら?
    その勢いをそのまま活用すればいい。
    「確かに順調だね。じゃあ、次なにかやりたいことある?」
    「予算いくらでも使っていいなら、何したい?」

    恥ずかしがらず、あなたもぜひノってみてほしい。疑って詰めるのではなく、相手を100%信頼して未来へポジティブなレバレッジをかける。「順調」と言ってくれた相手の前向きなエンジンを、もっと生かしていこう。


    3. 愚痴が出てきたとき

    「〇〇部署が全然動いてくれなくて」「会社の方針が急に変わるから……」

    主語がいつも環境や他組織になる場合はどうだろう?
    これを聴いていると、「愚痴を言うな」「文句があるなら自分で動け」と正論で論破したくなる。

    だが、愚痴が来たら大チャンスだ。心の中でガッツポーズをしていい。
    なぜなら、どうでもいいことに人はわざわざエネルギーを使って愚痴なんて言わないからだ。本当にどうでもよければ無関心になる。
    愚痴を言うということは、言い換えれば関心や理想、熱量が不完全燃焼を起こしている。つまり、そこには絶対、その人だけの「何か」がある。

    まずは、止めずに聴く。
    相手は聴いてもらえると思っているから話していてるので、それ自体信頼の表れと思っていい。

    ただ、グルグルと同じところを回り始めたら、少し舵を切る。例えばこう絞り込んでいく。
    「そっか。その出来事の、どこに一番怒りを覚える?」

    期日を守らないルーズさにか。現場を無視した冷たさにか。それとも、もっと良くできるはずなのに妥協している怠慢にか。
    怒りの沸点を特定することで、その人が一番大切にしている「ピュアな価値観」があぶり出される。部下自身も、「あ、自分はこういうふうに仕事を進めたい人間なんだ」と気づくことができるのである。

    価値観が見えたら、主語を本人に戻す問いを投げる。
    「あなたが大切にしたいことはよくわかった。じゃあ、そこに向けて、今あなたにできそうなことって何かある?」

    正論で突き放されると心を引き裂かれるが、自分の持つ怒り(つまり、熱量)を信頼された上でのパスだからこそ、すんなりと当事者意識のスイッチを入れることができる。

    そしてもう一つ。愚痴の空気はつい戻ってきがちだ。だから、雲行きが怪しくなったら問いを一つ足してみてほしい。
    「今、できているって思えることって何かある?」
    相手は「今できていること」を探し出す。できるだけたくさん言ってもらって、「〇〇も、××もできてるんだね」と承認する。それだけで、前向きな空気を醸成することができる。


    4. 「特にないです」と言われたとき

    これも、相手が1on1に慣れていない場合特にありそうだ。

    「特にない」は、本当に何もないのかもしれないし、何を話していいかわからないのかもしれない。あるいは、「上司の時間を使ってまで話すことじゃない」と遠慮しているのかもしれない。
    どれであっても、否定せずにまず受け止めることが大事だ。

    ではどう切り出すか。
    使えそうなのが、相手の言葉や行動だ。
    前回の1on1で出てきた話、廊下でふと出たため息などだ。
    「特にない」と言う人も、自分の言葉や行動について話を始められると乗ってきやすい。

    「さっき電話のあと、ため息ついてましたけど何かありました?」

    用意した質問より、相手にある事実(言葉や行動)のほうが場が動く。日頃から少しメモしておく習慣があると、ここで活きてくる。

    それでも「特にないです」が続くとき、もう一つ試してみてほしいことがある。
    「言いたいけど、言えてないことってある?」

    「言いたくないこと」は言わなくていい。「言いたいけど言えていないこと」だけを対象にしているから、この問いかけは圧迫にならない。言葉にしてみたら楽になる、ということは多い。その入口を、開けておく。

    そして最も大事なことは、深追いしすぎないこと。
    深追いをし始めた時、おそらくこんな気持ちになっている。
    「何か話してもらわないと」
    これでは、誰のための時間なのかわからなくなる。
    あくまでも相手の時間であることをここに書いてこきたい。


    5. 黙り込んでしまったとき

    問いかけたとき、部下が黙り込んでしまう。
    あるいは、沈黙の末に「わかりません」「なにもありません」と言われる。
    正直、つらい。しんどさを感じたり、自分の問いかけが悪かったのかと無力感を覚えたりするものだ。

    でも、黙っている側はそれほど長く感じていない。なぜなら、考えているからだ。言葉を探している。整理している。その時間を奪うと、表面的な言葉しか返ってこなくなる。

    だから、まずは一緒に「そっかあ……」と黙ってみる。じっと見つめているとプレッシャーになるから、少し目線を外して、「考えていていいですよ」という空気をつくる。沈黙は場が壊れているサインではない。場が機能しているサインだと思っていい。

    「わかりません」が来たら、詰まりの現在地を一緒に優しく紐解いていく。
    「どこにハードルを感じてる?」
    「どのへんでつまってそう?」
    「逆に、ここまではわかってるっていうのある?」

    問いの「どこ」に引っかかっているのかを一緒に探す。それだけで、「わからないと言ってもいいんだ」と安心する。

    そして、何より知っておいてほしいことがある。
    1on1のその場で、綺麗に答えが出る必要なんてまったくないのだ。答えを出すことが大事じゃない。問いを持ち続けることが大事なのだ。

    部下の脳内に「これまで考えたこともなかった良質な問い」という種が植え付けられたということ。その場で「わかりません」で終わったとしても、夜お風呂に入っているときや、帰り道を歩いているときに、問いは部下の中で育ち、ふと答えが芽吹く。

    だから、沈黙の末に「わかりません」で終わっても、しんどくなる必要は一切ない。考えたこともない問いを置いてみたあなた自身もナイスだし、一生懸命考えた部下もナイスだ。
    その時間には、目に見えない圧倒的な価値がある。

    「考えてくれてありがとう」
    この気持ちが一番大事だと思う。


    結び

    5つのシチュエーションを見てきて、どうだっただろうか?

    どのシチュエーションでは、徹底的しているのは相手の気持ちを聴くことだ。
    しかし、相手に「あなたならどうする?」と問うのなら、まず自分に問わなきゃいけない。

    私は今、目の前の人をどんな目で見ているだろう?
    私は、なにができるだろう?

    部下をラベリングして、可能性を閉じるか。
    分からないことすら、一緒に楽しめるか。

    その選択は、いつだってあなたの中にある。



    次回は上司側の中にある壁について話していこうと思う。


     
     
    世界一HAPPYなおたく! 推しが卒業した。寂しかった。けど、言えなかった。再び向き合うきっかけをくれたのは、コーチング。 おたくで、コーチで、中間管理職。日々のちょっとした思考を綴ります。ハロプロが好き。 LCPコーチングアカデミー9期

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