
【上司の鎧を脱ぐ①】なぜ「話を聴こう」とする「いい上司」ほど、1on1に失敗するのか
「1on1の時間は、とにかく部下の話を聴くことに徹しましょう。アドバイスをしてはいけません」
マネジメント本を開けば、必ずと言っていいほどそう書かれている。
研修に出れば、講師から口酸っぱく「傾聴」の重要性を説かれる。
プレイヤーとしての実績を認められ、マネージャーという役割を与えられたあなたは、きっと真面目で、責任感が強くて、「良い上司になろう」と思っているはずだ。だからこそ、教科書通りに実践しようとする。
「最近、仕事はどう?」
「そうですね、特に問題なく順調です」
「……そっか。何か困っていることとか、相談したいことはない?」
「今のところは大丈夫です。ありがとうございます」
「……」
沈黙。時計の針が進む音がやけに大きく聞こえる。
何か質問をしなければ、この時間を有意義なものにしなければ。焦ったあなたは、結局こう切り出してしまう。
「あ、そういえば、あのプロジェクトの進捗なんだけどさ、進み具合はどうなってる?」
気がつけば、いつもの「業務報告会」が始まっている。部下からのたわいもない悩みに「だったら、こうしてみたら?」と、良かれと思ってアドバイスを喋る。あるいは、沈黙に耐えられなくなって、話題を変える。
そしていつの間にか、1on1が上司の自己開示タイムになっている。時計が30分を指し、「じゃあ、また次回」と面談を終える。
部下が部屋を出て行ったあと、あなたはどっと押し寄せる疲労感の中で、こう思う。
「なぜ私は、これだけ『聴こう』と思っているのに、部下の話が聴けないんだろう?」
私もかつて、同じことで悩んでいたからこの気持ちは痛いほどわかる。
ただ、ひとつ言えることがあるとするなら、部下の話を聞けないのは、あなたの人間性や、スキルが足りないからではない。
実は、「良い上司になろう」とすればするほど、1on1が失敗するようにできている。
なぜなら、「良い上司」という役割を演じようとするほど、目の前の相手ではなく「理想の上司像」ばかりを見てしまうからだ。 理想の上司像とは、いうなれば「上司の鎧」だ。 その中身は「正解を知っているべきだ」というプライドや、「チームを完璧にコントロールしなければならない」というプレッシャーだったりする。
上司になりたての頃の私は、とにかく気を張っていた。「スマートに返事をして、部下を導かなければ」と自分を縛っていたのだ。
相手の反応を見ながら「次に何を言うべきか」ばかりを考えてしまい、目の前の相手の話が全く耳に入らなくなっていた。
また、1on1をうまくやろうとするあまり、頭の中で「次はこれを話して、その次は……」と流れを組み立てることに必死になり、肝心の相手の表情を見落としていたこともある。
今ならわかる。気の利いた返事も、よどみない会話も必要ない。
そうではなく、役割や肩書きという鎧を脱ぎ、一人の人間として、軽やかで等身大な自分でそこにいる。それが、対話のスタートラインになる。
本論に入る前に、あなたに一つ問いかけたい。
「あなたは、良い1on1を一度でも受けたことがあるだろうか?」
1on1の本を読んだことがある。やり方も知っている。でも、なぜかうまくいかない。そういうマネージャーに何人も会ってきたが、話を聴くと、ほぼ全員に共通しているのがここだ。
良い1on1を、自分自身が一度も受けたことがない。
正直、これに尽きる。
やり方を知識として持っていても、体験として持っていない。料理のレシピを読んだことはあっても、「その料理を実際に食べたことがない状態で、同じ味を出そうとしている」ようなものだ。
どうするべきか。理想は、コーチングを受けることだ。
「聴かれる」という体験が身体に入って初めて、部屋の空気の変わり方が分かる。それが1on1の質を上げる、最短ルートだと思っている。(SNSで「コーチング 無料モニター」と検索すれば、練習相手を探しているコーチがすぐに見つかるはずだ。)
ただ、「今すぐそこまでは難しい」「まず明日の1on1をなんとかしたい」という人もいるだろう。
そういう人のために、この先を書いた。私は現役のマネージャーであり、コーチングを受けた経験があり、今はコーチという顔も持つ。
かつて1on1を「業務把握の場」にしてしまい、自分が喋るだけで何も聞けず失敗した。その経験から少しずつ学んできたことを、ここで共有したい。
部下に「鎧」を脱いでほしいなら、先に脱ぐのは自分だ。相手に素顔を見せてほしいと願うなら、まずはこちらが「上司」という役割を脇に置き、一人の人間としてそこに座ることが必要である。ではどうすればいいか。
1on1には、3つの層がある。
多くの人は「実践」の層だけを見ているが、その下には「思想」があり、また前提として「重力」がある。重力を無視したまま実践を積み上げても、土台が歪んでしまう。
この先では、3つの層を順番に説明していく。
第1層:重力を知る
事実、上司と部下は、フラットではない。
上司が「なんでも話してください」と言っても、部下の側には見えない力がかかっている。
「評価する側/される側」という目に見えない権力差。これを私は「重力」と呼んでいる。
部下が心を開かないのは、そもそも構造的に、心を開きにくい場所に立っているからだ。 銃を構えたままの相手に、裸の心をさらけ出せるわけがない。
一番の問題は、この重力に無自覚な上司が「なぜ話してくれないのか」と首をかしげることにある。
「フラットと思われていない関係を、いかにフラットにするかが大切である」。そう自覚し、意識的に安全をつくるための3つのポイントを共有したい。
① 誰にも言わない
当たり前に聞こえるかもしれないが、これが最も基本的で、意外と見落とされがちだ。
私は1on1の冒頭で必ず伝える。「ここで話したことは絶対に口外しません」と。
部下の弱音を、一度でも他の管理職との雑談や会議で漏らしてしまえば、信頼は一瞬で消える。
そして実際に、絶対に、誰にも言わない。
その誠実さの積み重ねが、重力に抗う最初の一歩だ。
② 「上司」という役割から降りる
1on1を「評価の場」だと思っているなら、その認識をまず脇に置こう。ここは「ジャッジする場」ではなく「聴く場」だ。だからこそ、シンプルに「ここでの話は評価に直結させない」と言葉で伝える。最初にはっきり宣言することで、相手の警戒心を解く。
そして自分自身も、この30分間だけは「上司」という役割から降りる意識を持つ。「導かなければ」という余計な力みが、その意識一つで消えていく。
※言葉を変えるのも効果的だ。この記事でも、ここから先は「上司」をマネージャー、「部下」をメンバーと呼ぶ。読んでいるあなたの頭の中でも、少しだけ景色が変わるかもしれない。
③ 「仕事の話をしなければ」という重力
評価の重力とは別に、1on1にはもう一つの重力がある。「真面目にしなければ」「仕事の話をしなければ」という無意識の圧だ。
これはマネージャー側にも、メンバー側にも同時にかかっている。自然と業務報告会になるのはそのためだ。
ただ、業務報告が悪いわけではない。相手が話したいなら、それでいい。大切なのは情報の伝達ではなく、その奥にある感情を聴けるかどうかだ。なぜ感情なのかは、次の層で話す。
この重力を崩すために何ができるか。
マネージャーが先にたわいもない話をする。
「息子のこと怒っちゃってさ…」でもいい。「昨日遅くまでゲームやっちゃって」でもいい。最初の数分で仕事と関係ない話をすると、場の空気が変わる。「この場はそういう話をしていいんだ」という認識が、メンバーの中にできる。
鎧を脱ぐのは、いつも先にやる側からだ。
第2層:思想を持つ
重力を知った上で、次に問われるのは「あなたの思想」だ。1on1の質は、スキルより思想で決まる。
①「仕事が一番」という無意識のブロックを外す
25歳の頃、私は私生活が本当にぐちゃぐちゃで、仕事に全く集中できない時期があった。体調管理はできないし、突発的に休んだりもした。これを聞いて、「なんてダメな奴だ」と思ったかもしれない。確かに、社会人として褒められることではないかもしれない。
でも思い出してほしい。あなたにも、きっとあるはずだ。
大事な人との関係がうまくいっていないとか、体調が崩れているとか、家族のことで頭がいっぱいだとか。そういう時期が、誰にだってあるし、これからあるかもしれない。
なのにマネージャーになった瞬間、私たちはそれを忘れる。「職場では仕事の話をするべきだ。仕事以外の感情をここに持ち込んではいけない」という、無意識のブロックをいつの間にかかけてしまう。そして「メンバーにとっても、仕事が人生の一番であるはずだ」という前提を押し付ける。
仕事は、その人の人生のほんの一部分にすぎない。
「お金のために、生活のために働いています」と公言するメンバーがいてもいい。それを「やる気がない」とジャッジした瞬間、1on1の関係性は冷める。まず「それでいいじゃないか」と全肯定すること。仕事に対するスタンスは人それぞれであっていいと、上司の側が本気で腹を括ることだ。
② 課題はその人のもの―「答え」ではなく「信頼」を渡す
マネージャーがやりがちなのは、相手の課題を「自分が解決すべき問題」として受け取ってしまうことだ。
「最近、仕事のモチベーションが上がらなくて」と言われると、すかさず「じゃあこうしてみよう」と返す。 善意だ。
でも、その瞬間に課題の所有権は、マネージャー側に移動している。
所有権が移動すると、どうなるか。ここで二つの問題が生まれる。まず、メンバーから「自分で考える」という主体性が失われていく。マネージャーが解決してくれる構造に慣れてしまうと、無意識のうちに思考を放棄し、当事者意識が薄れてしまうからだ。
そしてもう一つは、1on1の場が「忖度の場」に変質し、本音が見えなくなることだ。メンバーは自分の言葉ではなく、「この人はどんな答えを求めているか」という、マネージャーにとっての正解を必死に探すようになる。
相手の課題は相手のものだ。マネージャーの役割は、代わりに答えを用意することではなく、課題の所有権をちゃんと相手に戻し、本音のプロセスに伴走することだ。
そして、課題を相手に手渡すには、一つだけ条件がある。 それは、マネージャー側が「この人は自分で解決できる」と本気で信じていることだ。
こちらが「どうせ無理だろう」と少しでも疑っていれば、その空気は態度や目線、沈黙の「間」に滲み出て、相手の思考を止めてしまう。
だからこそ、マネージャー側はお世辞や無責任な励ましではなく、「あなたなら答えを見つけられる」という前提で関わる。
「自分で解決できる存在」として扱われ、信頼して委ねられていると実感するからこそ、メンバーの中に本来の主体性が戻ってくる。自分の言葉で考え、こちらが指示を出すまでもなく、自ら勝手に動き出すようになるのだ。
③ 感情がなければ、人は動かない
なぜ感情を聴くことがそこまで重要なのか。
感情がなければ、人は行動しないからだ。
どんなに正確な指示も、的確なフィードバックも、感情が置いてけぼりになっていると人は動かない。「分かった」と頭では理解しても、腹が落ちていないから行動が変わらない。頭と感情がかみ合った瞬間に、人は初めて動き出す。感情を聴くということは、その起点に触れることだ。
もう一つ言うと、感情的な問題を論理で解こうとすると、多くの場合うまくいかない。むしろ悪化することさえある。
「モチベーションが上がらない」という悩みに対して、「タスクを整理しよう」「目標を明確にしよう」と返しても、的外れになることが多い。なぜなら、その人が本当に抱えているのは、論理の問題ではなく感情の問題だからだ。
人間の悩みは突き詰めると、ある出来事をどう解釈したか、という感情の話だ。
傷ついてしまって、動くのが怖くなっている人もいる。失敗して、また同じことが起きるんじゃないかと思っている人もいる。そのままでは、何をアドバイスしても届かない。
だから私は、悩みが出たとき、解決策を探すのではなく、傷ついた時点に一緒に戻っていく。
「その時、どんな気持ちだったんですか」と聴き、「確かに、そんな風に感じたなら、この仕事をやるとき怖くなってしまうよね」と、相手の感情の動きに一緒に乗る。
ただそれだけだ。アドバイスはいらない。解決もしなくていい。感情に寄り添われた人は、自分でそこから動き出せる。
③「知らないでいること(ノットノーイング)」を力にする
もう一つ、厄介な罠がある。「この人はこういう人だ」というラベルを、マネージャーはいつの間にか持つ。「彼はプレッシャーに弱い」「あいつはやる気がない」などだ。
カウンセリングやコーチングの現場では、相手こそが自身の専門家であるという前提のもと、この「無知の姿勢(ノットノーイング・スタンス)」が非常に重要視されている。知っているふりをしない、という意味ではなく、「私はあなたのことを実はまだ何も知らない」という前提を力にする姿勢だ。
特に、仕事ができる優秀な上司ほど陥りがちなのが「1を聞いて10を知る」という罠だ。
部下が話し始めた最初の1の段階で、有能なマネージャーは「あ、そういうことでしょ。じゃあ解決策はこれだね」と、先回りして10の結論を出してしまう。そして「こういうことでしょ?」と答え合わせにいってしまうのだ。
善意かもしれないし、効率的かもしれない。けれど、マネージャーが10の結論を言った瞬間、メンバーは「あ、まあ、そうです……」と口を閉ざす。
メンバーの頭の中にあった、残り9の本当に言いたかったこと、彼ら固有のユニークな視点や感情は、すべてそこで闇に葬られてしまう。
だからこそ、1on1の場においては「10を『知る』」は封印する。
代わりに「1を聞いて、10を『聴く』」。
「私にはまだ1しか見えていないからわからない。あなたの頭の中にある10の景色を、もっと教えてほしい」というスタンスで臨む。答えを知っているマネージャーより、10を聴こうと一緒に並んで考えてくれるマネージャーのほうが、メンバーは深く考えるようになる。
「知らない」と「知りたい」は、表裏一体だ。「私はあなたのことをまだ知らない」という姿勢は、相手への純粋な好奇心そのものでもある。
ある日の1on1での出来事。たとえば、私はメンバーの「好きなポケモン」を知っている。 業務には直接関係ない雑談かもしれない。でも、私はあえて聴いてみた。
「へえ、ポケモンやるんだ。どんなところが好き?」
「コツコツ図鑑を埋めていくのが好き」なのか。「対戦で勝つための戦略を練るのが好き」なのか。どこに楽しさを感じているか知りたかったのだ。
ちなみに、相手から帰ってきた言葉は、「だって〇〇ってキャラクター、かわいいじゃないですか」だった。それはそれでいい。「そっかそっか」と笑えばいいのだ。
相手を分析してやろうと構えるのではなく、相手の感情の世界をただ「知りたい」と純粋に面白がる。一見、業務には無関係に思える「ポケモンの好み」のような些細な対話の積み重ねが、相手との心理的な距離を縮め、やがて「この人になら話してもいい」という安心感の土壌を耕していく。
そうやって「知らないでいること」をベースに関わっていると、かつて「お金のため」と割り切っていたはずのメンバーが、あるとき突然、特定の仕事のジャンルに対して熱い想いを語り出す瞬間に出会うことができる。小さな興味の入り口が、結果として相手の深い価値観、つまり「自己実現の種火」に触れるきっかけになるのだ。
第3層:実践に降りる
重力を知り、思想を持った。では、具体的にどうするか。明日から使えるちょっとしたコツに絞って、3つのステップで紹介する。
① 感情を聴く、3つの入り口
いきなり感情を聞けと言われてもどうすれば?と思う人もいるかもしれない。コツを3つ紹介したい。
1)ストレートに聞く
まず、そのまま聞いてみる。
「そのとき、あなたはどう思いましたか?」
「◯◯さん的には実際どう?」
といった具合だ。これだけ?と思うかもしれないが、これだけだ。感情に関心があることを示すだけで、相手は「ここは気持ちを話していい場所だ」と感じる。
2) 「一番」を聞く
とはいえ、感情を普段言葉にしない人はなかなか聞かれても答えに迷う場合がある。
そんなときは「一番◯◯は?」を聞くのをおすすめしたい。「一番」をつけるだけで、相手は無意識に感情が動いた瞬間を探し始める。
そこから「なんでそれが一番なんですかね」と深掘りしていく。感情のピークを捉えてから掘ると、話が核心に向かいやすい。
3)非言語を拾う
「うーん……」とためらっている。言いかけて止まった。そういう非言語情報に気づいたら、見逃さず、そのまま言葉にする。
「…眉間に皺が寄ってました」
「言い切るまでちょっと時間かかってましたね。引っかかることとかありますか?」
ポイントは、解釈を挟まないことだ。「不満そうですね」は解釈で、相手はそれを否定しようとする。「眉間に皺が寄ってました」は観察で、相手は「え、そうですか。実は…」と続けやすくなる。
見たままを言う。解釈は相手がする。
② 沈黙を味方につける
「沈黙しても、矢継ぎ早に質問しなくていい」
1on1のノウハウ本には必ずそう書かれているが、いざ沈黙が訪れるとどうしても居心地が悪くなるものだ。実際、私自身も沈黙が苦手なタイプなので相当苦労したが、考え方と行動を少し変えるだけで、驚くほどシンプルに解決できた。
1)沈黙を「内省」と捉え直す
そもそも、なぜ沈黙すると焦るのか。
それは「場が止まった」と感じるからだ。 しかし実際には、相手は黙っているのではなく「内省」している。頭の中で言葉を探し、整理し、何かを掘り起こそうとしている。こちらには見えないだけで、相手の思考は確実に前に進んでいるのだ。
本気で考えている最中なのだから、相手に気まずさを感じる余裕はない。気まずいと勝手に焦っているのは、実はマネージャーの側だけなのである。
2)「考えていい時間」を事前に約束する
沈黙で怖いのは、マネージャーが焦ることだ。マネージャーが焦ると、その「なんかいい答えを言わないといけない」というプレッシャーは確実に伝わる。そうなると、メンバーは内省を諦め、「上司が喜ぶ答え」を手っ取り早く探すようになってしまう。
これを防ぐため、私は1on1の冒頭で必ず「沈黙する時間も、大切にしていきましょうね」と、一言伝えるようにしている。
沈黙は「気まずい時間」ではなく「意味のある時間」であるという共通認識を作るのが目的だ。
3)一緒に「目線を逸らす」
そして、実際に沈黙が訪れたときのちょっとしたコツがある。
それは目線を逸らすことだ。
人が深く考えているとき、目線はたいていどこか遠くに向いたりしている。そのとき、自分も一緒に視線を外してみる。窓の外でも、テーブルの上でもいい。
目が合ったままだと、相手はどうしても「見られている」「早く何か言わなければ」と感じてしまう。一緒に視線を外してあげるだけで、相手の思考はぐっと深くなるのだ。
③ 「当事者意識」を引き出し、「行動」で締める
1)当事者意識を渡す問い
どんな話題であっても、会話の終盤には「メンバー自身が自律的に選択できる問い」を投げかける視点を持つ。 ここでよくあるのは「あなたの意見は?」という問い。日常でもよく使われるのではないか?しかし、意見と言われると、相手は仕事モードになり、警戒する。なので、相手に合わせて多少チューニングが必要だ。
「〇〇さん的には、実際のところどうなの?」
「〇〇さんにできそうなことって、何かありそう?」
「何から手をつけたら、一番動きやすそうかな?」
これらはすべて、「あなたの人生はあなたが決める」というリスペクトのメッセージを、形を変えて静かに渡すための問いだ。この視点がある1on1とない1on1では、メンバーの中に残る当事者意識が全然違う。
2)「24時間以内」の行動でクロージングする
そして私は、どんな1on1でも、必ず最後にはこう問いかけるようにしている。
「じゃあ、24時間以内に何をする?」
せっかく芽生えた当事者意識も、行動(=アウトプット)が伴わなければ現実は変わらない。そして、すぐに動くという小さな成功体験が、結果として本人の自信につながっていく。
この問いのミソは2つある。
一つ目は、「24時間以内」という極端な制約を設けることで、ハードルが下がり、すぐに着手できる具体的なアクションを引き出せること。
二つ目は、1on1を「締めやすくなる」ことだ。
正直なところ、序盤から中盤にかけて「今日はうまく聴けなかったな」と反省するような日もある。綺麗にまとまる1on1なんて、そうそうあるものではない。しかし、最後にこの問いがあるおかげで、どんなに散らかった対話でも、未来に向けた具体的な一歩へと「着地」させることができるのだ。 マネージャー側としても「確実にクロージングができる」という安心感を持っておけるのは、非常に大きい。
何より大事なのは、「打席に立ち続ける」こと
ここまで3つのコツを紹介したが、これらを最初から完璧にこなそうとする必要はない。何より大切なのは、打席に立ち続けること、つまり「全員と等しく、この時間を確保し続けること」だ。
「今日の1on1、相手に『だるいな』って思われたらどうしよう」
正直なところ、未だに不安がある。毎回かすかに緊張が走り、そのたびにリラックスしようと自分に言い聞かせている。人間だから、メンバーとの「相性」だってある。
それでも、私は全員とやる。
そういうルールがあるわけではないし、上からやれと命令されているわけでもない。
チームの最小単位である「個人」の味方になり、相手と自分自身を信頼するための手段だと知っているからだ。
ある時、ふとメンバーから「最近、この1on1の時間、だんだん慣れてきました」と少し照れたような表情で言われたことがある。あの時の嬉しさは、今でも忘れられない。
小手先のテクニックではなく、ただ積み重ねていくという愚直な姿勢そのものが、重力を超える信頼を生んでいく。
結び:職場に一人、味方がいること
1on1の目的はなんだろうと、ときどき考える。
パフォーマンスを上げること。離職を防ぐこと。どれも間違いではない。
でも、一番シンプルに言うと、「この職場に、自分の話を聴いてくれる人が一人いる」という感覚をメンバーに持ってもらうことだと思っている。それだけで、人はかなりのことに耐えられる。折れずにいられる。
あるメンバーの話をしたい。
普段は淡々としていて、その日も、いつも通りのやりとりが続いていた。そこへ、ぽろっと出た。
「実は、転職を考えていまして」
意を決して話したというよりは、ふとした瞬間に漏れ出た感じだった。
引き止めもせず、否定もせず、そのまま聴いていく。すると、彼はその先の夢について話してくれた。それに関連して、関心のあるニュース、読んでいる本、彼女とはどのくらい付き合っていて、彼の夢についてどう思っているか。堰を切ったように、生き生きと話していた。
こちらが鎧を脱いでいたら、相手も脱いだ。そういう瞬間だった。
その日から、彼は少し変わった。
仕事で嬉しかったことを話してくれるようになった。お客さんに対して積極的に提案するようになった。
まだ夢を持ち続けているのかもしれない。転職も、まだ考えているかもしれない。それでも、楽しそうに仕事をする彼の笑顔は、とびきり素敵だった。
受け止めてくれる場所があると知っているから、人は安心して前に進めると、身をもって知った体験だった。
難しい技術は要らない。重力を知り、思想を持ち、まず打席に立つ。
あなたがもし、毎月の1on1にプレッシャーを感じ、緊張し、足が重くなっているなら、どうかその緊張を愛してほしい。「良い上司の鎧」を脱ごうと葛藤しているその姿が、メンバーの心を動かす何よりの原動力になっているのだから。
さあ、次の1on1の部屋には、鎧を脱ぎ捨てたあなたで入っていこう。
そこから、あなたとメンバーの、本当の対話が始まる。
なお、次の記事では「アドバイスって本当にしなくていいの?」「話したいことがないと言われたら?」など、1on1でよくある質問について個別に答えていきたい。