
手乗り文鳥ポワロの事件簿①ポアロとコーヒー【エピローグ 春の気配】
数日後の午後、喫茶ポエム。
カウンターの向こうで、岡田が豆を挽く。ミルの歯の擦れる音が、いつもの午後を連れてくる。
「終わったらしいな」
岡田が一杯を差し出す。
「やっとだ」
「まったくだ。元刑事のオレが逮捕されるなんて、笑い話にもならん」
「でも、あの時の表情は名演技だった」
「演技じゃねぇ。呆れてただけだ」
扉のベルが鳴り、長谷部が駆け込んだ。
「先輩ー、ここにいた! 捜しましたよ!」
「報告書は?」
「提出済みですっ。ついでにコーヒーも済ませますっ」
「〝ついで〞の順番が逆だ」
岡田が吹き出す。
「いい後輩だな」
「判断は保留だ」
「ひどいっ。でも……〝香りで真実が漏れる〞って、ホントにあるんですね」
「ある。人間もコーヒーも、ごまかせないってことだ」
香川は残りを飲み干し、立ち上がる。
「行くぞ、長谷部」
「えー、もう? 先輩ってば、コーヒーは一杯なのに、仕事は何杯でもいけるんですね」
「やかましい」
長谷部が立ち上がり、カウンターの書類の束を抱えて扉へ向かう。
「あ」
香川が振り返る。
長谷部が手帳を差し出した。
「置き忘れてましたよ。中村さんの手帳です」
手帳をテーブルに置き、長谷部は先に店を出た。
店内に、香川だけが残った。
肩の上のポワロが、ふわりと机へ降りた。
くちばしで、中村信吾の手帳をつつく。
こつ、こつ、と。
香川がふと手帳を開いた。
——沙織 取材 金虎
香川の手が止まった。
「……なんだよ、沙織」
「チチッ」
香川は窓の外を見た。
外気は少しだけ春めいていた。
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手乗り文鳥ポワロの事件簿
志賀県日子根市を舞台にした、ご当地連作ミステリー。
* ①ポワロとコーヒー
* ②ポワロとキャラクター祭
* ③ポワロと皿屋敷
* ④ポワロとゲーム機展
* ⑤ ポワロと世界記録(2026年9月公開予定)
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