
バック・トゥ・ザ・シアターズ|映画と映画館とわたし
5月は4度映画館に行った。
内訳は新作ロードショーとリバイバルが2回ずつ。
映画館に通う習慣のある人にとっては、たかが4度くらい大した回数ではないだろう。
でも、わたしにとっては大きな変化だった。
もともと映画が大好きだ。
子どもの頃に観ていたディズニーに始まり、中学生になる頃には洋画をよく観るようになっていた。
人生で最も映画をよく観ていたのは社会人2~3年目の頃。
定時後の時間や土日には、かなりの確率で映画館にいた。
劇場のみで年間200本くらい観ていた、わたしの人生における映画狂時代だ。
これだけの本数を劇場で観るというのは、東京で暮らしていたからこそできたことだと思う。
その半分はおそらく名画座や、ミニシアターの特集上映だ。
たとえば早稲田松竹の2本立て、新文芸坐のオールナイト。
社会人になって数年のわたしにとって、手頃な値段で2本以上の映画を観られるというのはとてもありがたいシステムだった。
よく言われるように、若者にはお金がない代わりに時間と体力があるのだ。
土曜の夜から日曜にかけてオールナイトで4本観たあと、明け方のマクドナルドで数時間本を読み、別の劇場で2本立て上映を観てから帰る、なんていうこともできた。
それから数年のあいだに転職をしたり、仕事が忙しくなったり、身体を壊して関西に戻ったりと人生が動いた。
劇場に通う習慣は、いつの間にかなくなってしまった。
ちょうど配信サービスが台頭してきて、Amazon Prime VideoやNetflixで映画を観ることが増えた時期でもある。
古今東西の名作に気軽にアクセスできるのはありがたいことだ。
それでも心のどこかに映画館への憧れがくすぶったまま消えなかった。
実態が伴わないまま、「わたしは映画館で映画を観るのが好きな人間のはずなのに」と首をかしげていたのだ。
わたしの職場は大阪の街中にある。
週の半分はリモートワークとはいえ、出社ついでに映画館に行くくらいたやすい。
そのはずだけれど、まったく足が向かないまま時間が流れていった。
一度失った習慣を取り戻すのは難しい。
ここ数年は、年に1~2度、家族に誘われてハリウッドの最新アクション映画を観るのがせいぜいだった。
そんな生活をしながらでも、「趣味は映画鑑賞」と言うのはなぜかやめられなかった。
昨年末、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』IMAXリバイバルというイベントがあった。
子どもの頃から観ていた大好きな映画だけれど、劇場で観る機会はなかなかない。
しかもIMAX。
クリストファー・ノーラン作品の影響もあり、この数年でわたしはすっかりIMAXが好きになっていた。
映画館で観ることの良さは、一つには一時停止も巻き戻しもできない状況で半強制的に作品を体験する他ないという「状況」だけれど、大スクリーンや音響という「環境」もすごく大きい。
IMAXはスクリーンが大きくて、音響がいい。それって最高だ。
年末の仕事の地獄進行の合間を縫ってチケットをとった。
平日夕方の回。シアターはほぼ満席だった。
通しで観るのは数年ぶりだっただろうか。
知らないシーンなど一つもないのに、すべてのカット、すべての台詞にわくわくする。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はやっぱり最高の映画だ。
それに、映画館で映画を観るというのも、やっぱり最高だった。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の熱が覚めやらぬまま作った今年のウィッシュリストには、「映画館で新作を観る」という項目を入れた。
なのに、狙いどおりにはいかないもので、年が明けて最初に観たのは『落下の王国』4Kリバイバル版だった。
しかしこれがまたよかった。劇場で観る意味が大ありの映画だ。
3月には、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でウィッシュリストをクリアすることができた。
このあたりから助走が始まり、5月はとうとう毎週映画館に通う生活が実現したというわけだ。
何なら4月には出張先のジャカルタでわざわざ映画館に行くなんていう特殊イベントも発生したくらいだけれど、これはまた別の話。
昔に比べて映画鑑賞料金は高くなった。
サービスデイを選べば千円ポッキリで新作を観られた時代が懐かしい。
だいたい疲れたアラフォー社会人なので、週に何度も映画館に通うということも難しい。たぶん体力が保たない。
でも、今のわたしには、その代わりになる楽しみ方があるみたいだ。
たとえばIMAXや、4Kリバイバルのような、付加価値のある上映に参加する。
新作を観るにしても、はしごをするとかサービスデイを気にせず、じっくり選んだものを週に1本。
こういうのは「大人の楽しみ方」と言ってもいいのではないだろうか。
昔みたいながむしゃらなやり方は「若者の特権」だけれど、もうその時代には戻れないし、今の楽しみ方も悪くない。
約10年ぶりに映画館に戻ってきたという気がしている。
ふかふかの椅子に座り、優しい暗闇にうずもれて、見知らぬ人たちと同じ方向を見て息を詰める時間。
劇場に入るだけで、かつて知っていた時間が当たり前のように戻ってきてくれた。
ブランクがあっても、わたしは映画が好きなまま、映画館が好きなままだった。
6月もきっと映画館に行くだろう。
でも、もし行けなくてもそれはそれでいい。
わたしはいつでもここに戻ってこられる。
映画館は、待っていてくれる。
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