
落下の王国|映画感想文
映画『落下の王国』4Kデジタルリマスター版を観てきました。
めちゃくちゃよかったです。わたしは大好き!
感想文ですが、ネタバレは特にないです。というかこの映画、ネタバレしてもな…という感じ。
あと画像の引用とかも特にないので、超絶かっこいい公式サイトを見てね↓
「物語」の語り手と聞き手
舞台は「ロサンゼルス、昔々」。といっても1910年代、映画が生まれたあとの世界です。
腕を骨折して入院していた5歳の少女アレクサンドリアは、同じく入院患者の青年ロイと出会います。
ロイは映画のスタントマン。撮影中の事故で大けがをし、ベッドから動けなくなっている様子です。
ロイはアレクサンドリアに「叙事詩」を聞かせてあげるといい、伝説の「黒山賊」と5人の仲間たちが繰り広げる復讐と恋の冒険譚を語り始めます。
アレクサンドリアはその物語を聞きたくて、毎日ロイの病室を訪ねるようになります。
わたしはこの構図、逆転版『千夜一夜物語』だなと思いました。
シェヘラザードは王の関心を引くために物語を語る。ロイの物語も、アレクサンドリアの興味をつなぐためのおとぎ話です。
シェヘラザードの目的は、自分の命をつなぎ、王が次々と妻を処刑するのをやめさせること。
ロイの目的は、それとは逆のものです。
語り手のロイの中には悲しみと絶望が巣くっている。
聞き手のアレクサンドリアにも、子どもなりに同じく悲しみやトラウマの記憶があります。
ロイがアレクサンドリアに求めたこと、アレクサンドリアが受け取ったこと、その帰結は、ロイの語る「叙事詩」にも影響を与えます。
何せロイが即興で語っているので、その場の状況や語り手・聞き手の都合で物語がすぐに揺らぐんですね。
カズオ・イシグロ的な「信頼できない語り手」とも違う揺らぎかただけど、語り手の意図が物語を「揺らす」、あるいは「歪める」ことのおもしろさがこの映画には強く表れています。
イマジネーションの王国
観終わってはじめて考えたのは、「人間は外から刺激を受けて、それを内的イマジネーションに変換しながら生きているんだよな…」ということでした。
自分以外の存在や、外の世界と関わることで生まれる喜びも悲しみも、自分の内的世界に再構築し、「解釈」して生きている。
芸術は、誰か他の人が心(あるいは頭)の中に描いた内的イマジネーションを受け取る媒体なんだと思います。
作品に触れて、誰かの主観世界と重なること。
その中でも映画は、「映像」と「音」と「時間」を使って、観客をどこかに「連れていく」作用が強い。トリップの感覚ですね。
どんな映画もそれぞれが一つの世界を構成しているものだけど、この映画の世界はまさに一つの「王国」です。
この映画は映像がとにかく美しいのですが、特にすごいのはロイが語る「叙事詩」の世界です。
パンフレットによると、ほとんどCGも使わず、世界のあちこちで撮影したものらしい。
そのせいなのか、幻想世界なのにリアル。やることがおかしい(誉めています)。
この「叙事詩」の世界は、ロイが語り、アレクサンドリアが思い描いた光景を映像化したもの…なのだと思います。
アレクサンドリアの内面に、ロイの主観が投影されている、というか。
聞き手がまだ5歳なので、「大人の語る冒険物語に子どもの想像力を掛け算したらこういう映像になりました」みたいになっている。
更に美しいのは、この映画が「他者に触れることで自分の内面世界が変質する姿を描いている」ことです。
ロイは利己的な意図をもってアレクサンドリアに物語を聞かせるけど、アレクサンドリアの反応や行動で、ロイの心境も変化するんですね。
「叙事詩」の主人公「黒山賊」の運命は、おそらくアレクサンドリアがいたことで変わりました。
ロイ自身の選択も、おそらく変わっていきます。
プロットとしてはありきたりの変化ともいえるけど、この普遍的なポジティブさというか…そこがいいんですよ。
少なくともこの映画のあいだ、作中世界では数日間、現実世界では2時間をこの「物語」を追って過ごしたわたしは、この変化に満足しました。
ネタバレ無力化映画
それにしても、最初のほうにも書きましたけど、こんなにネタバレが意味をなさない映画を久しぶりに観ました。
筋はごくシンプルで、目新しいことがあるわけじゃなくて…未見の人にオチを説明しても「ふーん?」で終わりそう。
筋立てがとにかくおもしろくて、読み解いてラストにたどり着くのが快楽になるタイプの映画もあるけど、『落下の王国』の場合はそうじゃないんですね。
ストーリーの「終点」とか、「ネタ」ではなく、二時間の「体験」が意味を持つタイプの映画。
わたしはといえば、この映画は「タイトルだけ聞いたことある、なんか映像がきれいな作品、リバイバルで評判がいいらしいから観てみるか」くらいのノリでほとんど事前情報を入れずにチケットを買ったクチです。
これは結果として大成功だったけど、もしあらすじを知ってから観たとしても同じくらいわくわくしながら観られた気がします。
だってとにかく映像の力が強い。
ところでスランドゥイル様やんけ
映画本編を観ていたあいだはまったく気づいていなかったのですが、エンドロールでLee Paceの名前を見た途端、ハッ!となったんですよね。
スランドゥイル様やんけ!!!(『ホビット』の)
2時間分あのキュートな太眉といい声と長身を浴びたあとで名前を見たことでやっと脳内のシナプスがつながったらしい。
ついでにリー・ペイスはZEGNAのウィンターコレクションのキャラクターをしているらしく、映画を観て数日後にわたしのインスタに流れてきました。めっちゃいいねした🫶
その他好きなところ
オープニングシーケンス。コントラストの強いモノクロ映像+ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章、最高。もうこの時点で勝ってる。
アレクサンドロス大王のシーン。人物を中心にカメラが360度回転すると背景が変化している映像マジック、めっちゃうるさい音響。わたしはここぞという場面で音響がジャーン!と鳴る映画が大好き。
謎の技ありトランジション。わたしは司祭のニヤリ顔→砂漠の処刑場の切り替えが好きです。パンフレットにも載っている。
ラストのオールドスタントモンタージュ。『ニュー・シネマ・パラダイス』に通ずる、映画から映画へのラブレターですね。こういうの大好き。
邦題がすごい。"The Fall"を『落下の王国』と翻案するのは素敵すぎる。偉すぎる! 昨今のカタカナ邦題みんな見習ってくれ。
おわりに
いや~やっぱり映画を映画館で観るって最高!と思いました。
新年一本目の映画がこの作品でよかった。
今年もいい映画を観られますように🌙

カレンダーみたいに飾れということか…?