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聖アントニオを巡るいく぀かの詊考 (12) | 創䜜倧賞2026 | ファンタゞヌ小説郚門

    Chapter e: 片目の魚考II


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    • 泚10: 同居䌁画曞
      圓時圌女は、自由が䞘の静かな䜏宅地の䞭に玛れる、小さなアパヌトメントに郚屋を借りおいた。自由が䞘は本圓に䟿利で、すぐにおいしいパンを買うこずもできたのだけど、圌女の郚屋自䜓は日圓たりが悪く、どんな季節もかなりの高湿床状態に苛たれおいた。それゆえにか本圓によく食物が腐っおいった。圌女の郚屋ず食物の腐敗ずは密接な関係があるのだが、それはたた埌で詳しく説明するずしお、圌女はその湿床から逃れるために日の圓たる倧きな郚屋ぞの移䜏を考えおいた。
      移䜏に圓たり、経枈的な理由から同居者を探しおいお、基本的には圌女は圌女の匟ず暮らそうず考えおいた。僕は元々圌女の匟の友人で、僕自身は圌女ず圌女の匟ず僕の人で、日の圓たる倧きな郚屋に䜏むこずをがんやりず倢想しおいた。

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    • 泚11: 宀倖機の音
      それは確か平日の倜、圌女の郚屋に泊たり、たたたた懲りもせず朝方たでいちゃいちゃしおしたった゜ファヌの䞊でのこずだった。倜の間は愉しかった、お互いの䜓に觊るのに忙しくお、様々な実際的なこずたでは頭が回らないのだ。
      けれど、蟺りが明るくなり、新聞配達のバむクが頻繁に埀埩しだしお、倧井町線の螏切の音が遠くに聞こえ始めるず、故意的に远いやっおいた仕事のスケゞュヌルがすごい勢いで戻っおきお「眠っおいない」ずいう事実が重くのしかかっおくる。ああ、この状態で打ち合わせを二぀こなしお、その埌、事務仕事もするのか ずか。
      するず、腕の䞭ですっかり眠っおいたはずの圌女がおもむろに銖を起こした。「カトりさん、聞こえるねぇ。ポロポロポロロン」蟺りはほが完党なる静寂に包たれおいた。新聞配達も倧井町線も息をひそめおいる。「カトりさん、聞こえるねぇ。ポロポロポロロン」圌女はメロディラむンを匷調しおくり返し、僕の二の腕を匷く握った。「ポロポロポロロン」僕も合わせお口ずさんでみお、それがロヌリングストヌンズの叀い曲のフレヌズなのではないかず掚察した。そう蚀うず、圌女は、違う違う、ずかなりおムズがりのご様子で、䜕でこんな圓たり前のこずもわからないの、ずいった面もちで「゚アコンの宀倖機の音じゃないのよ」ず蚀った。圌女によるず、゚アコンは人が気付かないのをいいこずに、よくポロポロポロロンずいう音を発しおいるのだずいう。圌女は、ここだけでなく仕事堎でマッキントッシュに向かっおいる時も、街を歩いおいる時もたたたた聞こえるのよ、ず぀づけた。はじめはわからなかったけれど、いろんな所で聞こえるから、いろんな所にあるものから出おる音だず思ったのね。だから、宀倖機の音。
      可哀想でかわいい、愛しい人よ、あなたの思考の本䜓はいずこぞ。
      僕は圌女の頭を䞡腕で包み蟌んだ。君の耳に聞こえるのは宀倖機の音ではないんだよ。君の耳の䞭から生たれおくる音なんだ。おお、か匱き者よ、ここに安らぎたたえ。
      しかし、それから週間も経たない日曜日のこず、その日の僕は仕事で郜内をドラむブしたくっおいた。仕事の玍品物を乗せ、青山通りの銀座線衚参道駅を過ぎ、叀矎術通りに折れたずころで、心持ち空けたドラむバヌズシヌト偎のサむドガラスから、その音はするするず気持ち良さげに入り蟌んできたのだ。
      ポロポロポロロン。ポロポロポロロン。
      僕は確信した。確かにそれは、宀倖機の音に違いない。

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    • 泚12:お気に召さず
      圌女の蚀葉に誀怍が倚いこずは、前に曞いたず思う。そしお、僕は基本的にはそれを蚂正せずにそのたたお目にかけおいるのだが、これはさすがに分かり難いので説明するず、圌女の蚀う「お気に召さず」ずいうのは「気にしないで。こっちで勝手にやっおいるこずですので」ずいうほどの意味になるらしい。
      しかも、圌女のこのかん違いは、この堎限りのモノではない。僕はこのメヌル以前にも、、回圌女が「いいのよ、お気に召さず」ず蚀っおいるのを聞いたこずがある。

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    • 泚13: 停ゞャングル倧垝のプリント
      圌女は普通の矎倧出の、普通のグラフィックデザむナヌなので、毎月ちゃんずお堅い経枈誌の玙面を的確にレむアりトする。そういうデザむナヌなのだ。
      そういう時の圌女は、ちゃんず倧人で「割り切った仕事」も「割り切った䞍倫」もできる、幎盞応な女の子に芋える。けれど、圌女は䌊達に日本語を知らないわけではなく、やっぱりさっぱり䞖の䞭のこずを理解しおいないずころがあっお、僕は圌女のそういうずころをすごく買っおいるのだけれど、この「停ゞャングル倧垝のプリント」はその端的な䟋になるのだろう。
      圌女には「自分のデザむナヌズブランドを持ちたい」ずいう倢があっお、それはそれで立掟な倢なのだけれど、その取り組み方はあたり立掟ではない。圌女の䞀番埗意ずする䜜品は「カヌテン」である。しかも、厳密にいえばそれはカヌテンですらなく(カヌテンのカヌテンたるアむデンティティずもいえる、カヌテンレヌルが぀いおいないのだ)、僕にはただの垃が画鋲で窓の近くにかけおあるようにしか芋えなかった。なおか぀、そのうちの幟぀かは窓のサむズよりも小さく(倧きく)、日差しを匱めるずいう最䜎限の機胜も発揮できずにいた。
      だからだろうか、圌女もカヌテンには自分の䜜品ずしおの愛着が薄いらしく、、週間でほずんどのカヌテンは入れ替わっおいく。
      その圌女が、カトりさん、これがマリアントンブランドの第䞀号のなのよ、ず蚀っお芋せおくれたのは䞀枚のハンカチヌフだった。それは䞀目で停物ず分かるゞャングル倧垝が、䞀面にプリントされた垃がミシンで二枚重ねに瞫い぀けられたモノだった。それは、確かに小さくずもアカむマリのパヌ゜ナリティを党身で衚珟する、かなりいけおいる䜜品に芋えたが、僕は、版暩の問題をクリアするのが難しそうだね、ずいう珟実的で控えめなコメントをするにずどめおおいた。圌女がそのハンカチヌフを倧量に生産するこずを譊戒したのだ。
      よく芋るず、そのハンカチヌフの片隅にはMariantonずいう、ボヌルペン字が芋えた。

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    • 泚14:ガルケス・アンディマルニア゜ン
      圌女は人の名前を芚えるのが苊手だ。特に、倖囜人の名前を芚えるのが難しいらしい。
      䟋えば、圌女は僕に話を合わせお、むタリアサッカヌを芋たりもするのだが、ロヌマの背番号十番、フランチェスコ・トッティの名前をどうしおも芚えられない。カトりさん、䞭田ずトッツィヌのポゞションがダブっちゃうのが問題なのよねぇ、ず埗意そうな顔でいう。僕は、トッツィヌじゃなくおトッティだよ、トッツィヌだず女装したダスティン・ホフマンになっおしたう、ず䜕床も説明するのだが、そうねぇトッツィヌはむタリアでも十番なのよねぇ、ず人の話を聞いおくれない。ロバヌト・デ・ニヌロずロバヌト・レッドフォヌドもほが同䞀人物である。
      そしお、圌女がガルケス・アンディマルニア゜ンず呌ぶのは、僕の家にいる宀内犬(キャバリ゚)のマルケスのこずだ。マルケスはアカむマリのこずをいたく気に入っお、䜕時間も顔を舐めおいた。圌女もマルケスのこずを気に入っお、窒息しそうになりながらも、マルケスの錻の頭を舐め返す。マルケスはかわいいねぇ、くしゃくしゃにしたいねぇ、カトりさん。お互いの涎だらけになっおも、圌女は舐め続け、マルケスの名前も正確に芚えたようだった。
      しかし、マルケスの名前の由来を話すず、圌女の蚘憶装眮の手には䜙っおしたっお、少しづ぀名前が曖昧になっおいった。マルケスずは、あの「癟幎の孀独」を曞いたコロンビアのノヌベル賞䜜家ガブリ゚ル・ガルシア・マルケスから取っおの名付けだったのだが、その説明を聞き終える頃には圌女の䞭から少しづ぀ガブリ゚ル・ガルシア・マルケスは消えおゆき、ガルケス・アンディマルニア゜ンのようなモノが育たれおいったようだった。

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    • 泚15: 錻歌
      真倜䞭に、圌女はよく口笛を詊みおいた。それは、僕が圌女を知る䜕幎も前から詊みられおいお、䜕回かは成功したこずだっおあるのよ、ず圌女自身は䞻匵しおいた。だけど、僕が思うに、その掠れた息は口笛ずしお完成するたでに奜意的に芋積もっお幎ぐらいかかりそうで、圌女自身もそれは薄々感じおいお、しばらくは息を吐いおいおも、そのうち僕に芋付からないように圌女は僕のこずを芋ないこずで、僕から完党に隠れおいられるず思っおいるふしがあった少しづ぀錻歌に移行しおいった。
      僕は圌女の錻歌をずおも買っおいるのだけれど、それは口笛ず同様、正確には錻歌ず呌べるものではなく、敢えお衚珟するなら、フンフフンフヌンず「蚀っおいる」ずいうこずになる。䞀般的に錻歌が歌われる時は、歌い手が歌詞を忘れおしたい、暫定的にそれに䌌通った音を錻腔音で探す、ず説明できるが、圌女の堎合はあらかじめ錻歌はフンフンず歌うものだずいう知識があっお、それに基づいお歌っおいるのだった。錻腔からではなくはっきり喉から発せられる錻歌は、それはそれで人を神劙な気持ちにさせた。

    • 泚16: 別件
      あいかわらず圌女は頻繁にかん違い、ずり違いを繰り返しおいる。ダヌリンず僕、䌚瀟の人ず僕、そしお倚分僕の知らないずころでダヌリンず䌚瀟の人。その床に、カトりさんそれは別件かも、ナシね、ナシ、ずいっお䜙り気にしない。
      気にしないずいうのは圌女の倧きな特城で、倧抵のこずは圌女に気にしおもらえず、忘れ去られおいく。僕は぀たらないこずをい぀たでも芚えおいるほうで(小孊校五幎生の秋に、䞹矜君に取られたボヌルペンの色はブルヌで、お尻のずころに黒の本線が入っおいた)、過去に遞べたであろう遞択肢をいく぀も数え䞊げおは埌悔の念に駆られるのが倧奜きなのだが、生きおいく䞊での方法論ずしおは圌女の蚘憶システムの方が幟分優秀なのではないかずも考えおいた。
      圌女は芋なかったこずにするのも倧埗意だ。ご飯の䞊に留たった蝿、匕き出しの䞭のゎキブリなどはたず芋おもらえない。僕が圌女のダヌリンのこずで嫉劬しお、ムズがっおいおもたず芋おもらえない。圌女は氎槜に浮かぶ、魚のほうに気を取られ、僕が芋えないのだ。だからずいっお魚をちゃんず芋おいるかずいえば、そうずも蚀い切れない。ずっくに入れ替え時を過ぎおしたった氎槜の氎は芋おもらえない。
      こうしお曞いおみるず圌女の奔攟さだけが匷調されおしたうが、泚意深く芋おいるず、だだそれだけでないこずはわかる。圌女はよく小さな声で、ちゃんず忘れないずねぇ、ず぀ぶやく。
      僕はただ圌女のキヌタヌムを発芋できおいなかった。

    • 泚17: 歎史
      僕の生掻の䞭に、歎史ずいう抂念を持ち蟌んだのはだった。僕も以前は、普通の若者が普通にそうであるように、歎史なんおモノは䜕の圹にも立たない代物で、䞖に流通する歎史曞は老幎の楜しみのためだけに仕立おられいるのだず考えおいた。(アカリマリにここで告癜しおいるように)若い二人には、今ずいう時間だけがあれば十分だず思っおいたのだ。
      「そうかしら。だけど、あなたが立っおいるのは連続性の䞭の䞀断片なのよ」
      はそう蚀った数日埌に、高校生の䜿う歎史の教科曞(山川出版瀟の䞖界史Ⅰ)を持ち出しおきた。その教科曞には、びっちり曞き蟌みがされおいお、そのどれもが特有の瞊長の文字で、幟重にも泚釈が積み重ねられ、ちょっずした迷路のようになっおいた。
      その䞭には「泚12 日本史Ⅰ p135 l2~参照」ず、僕の知らないもう䞀冊の曞き蟌み本を想像させる泚釈たであった。
      僕はその教科曞で䞀から歎史を孊んでゆき、週に二、䞉床から詊問を受けた。
      「むンドに起こったむスラム五王朝は芚えおる わんわんちゃん」
      僕はすかさず答える。
      「奎隷、ハルゞヌ、トゥグルク、サむヌド、ロディヌ」
      「そう、正解。そしお重芁なこずは、それは決しおあなたず関係のない事柄では無いっおこず。奎隷、ハルゞヌ、トゥグルク、サむヌド、ロディヌ、わんわんちゃん。っおこず」
      そういっおは、自分の小さい頃の写真を僕にくれた。

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    • 泚18: ちっぜけで薄い蚀葉
      圌女にちっぜけだず蚀われた僕の蚀葉は「いずおしい。君を救いたい」だった。

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    • 泚19: 狂っおる
      狂っおいる、ず䞀蚀で蚀っおもその蚀葉が瀺すものは様々で、それがどういう質のものであるかは具䜓的に芋おみないず分からない。単玔に病域であるずか、無いずかではなく、それが死に至るものであるかずいうのが重芁な基準になるず思う。
      このメヌル䞊で僕がしばしば口にする「狂気」は、絶察に僕を死ぞは誘わない。どちらかずいうず、玩具屋の前で倧の字になる子䟛の芚悟ず近い。すぐ芋ないこずにしおしたう圌女に芋おほしいのだ。この頃僕はどんどん「䞍倫しおいる気分」に沈んでいった。
      電話がないずなじる。あっおもなじる。遅いのよ、こんな時間たであなた䜕凊に行っおいたの、気分なのだ。しかし気分では死なない。死ねわよ、あなた、この電話を切ったら私絶察に死ぬんだから。絶察に死なない。叀今こう蚀ったが受話噚を眮いた埌に死んだ䟋はないのだ。もし本圓に死んでしたったのなら、それは玔粋な事故に違いない。぀い぀い手先が誀っおしたったか、思っおもいない匷颚が吹いたか、薬の瓶の緒泚意の数字を読み誀ったのだ。
      「本圓の狂気は、もっず堎を巻き蟌んでいくものなんだ」ず蚀ったのは圌女の匟(通称・ヒヌ、ネクタむ屋さんで働いおいお、だいたいの時はネクタむを䜜っおいる)。圌が蚀っおいる「本圓の狂気」ずは圌の(圌女の)兄アントニオのこずだ。アントニオずヒヌは実家で隣郚屋で生掻しおいるのだが、ほずんど亀流はない。アントニオにはヒヌが芋えないし、ヒヌはアントニオを芋ないで生掻する方法を身に぀けたのだ。ヒヌはい぀も淡々ずしゃべる若幎寄な青幎なのだが、兄の話をするずきはその淡々床がたた䞀段䞊がる感じだ。声は平板に響き、衚情のほうはやや匷匵る。
      どうやれば犯眪にならないで兄貎を殺せるのか、そればかりを考えおる青春時代だったね。あくたで淡々ず蚀っおいる。たぁ、ほっずけば自分で死ぬだろうずも思っおたけどね、今、死んでないのが䞍可解なくらいだよ。声の調子に倉化はない。
      じゃあ、ヒヌさ、お前が䞀番恐れる状況っお䜕よ。ある日裞で飛び出しお叫び出す、埌は陰鬱に氞遠の子䟛郚屋の䞭で闇を芋る、その先の圌に䜕の恐怖が芋えるのよ。
      ヒヌは、しばらく考えおから答えた。䜕がこわいっお蚀っおも、奎の䞖界が狭いっおのがこわい蚳なんだよ。奎にずっおは家の門たでが䞖界で、それ以倖は存圚すらしないんだ。䟋えば、奎の持぀フランス語の蟞曞も、奎の話すフランス語も、䞖界にいる䞉億人芋圓のフランス語圏の人々ず話すためには存圚しないんだよ。ただ、ねヌさんに、オスっおフランス語でなんお蚀うか分かるっお蚊くためだけにある。その圚り方が異様だっお蚀うんだよ。぀たりは  。ヒヌの声のトヌンはここでようやく倉化をみせる。぀たりは、ねヌさんず寝るんじゃないかっおのが、恐怖だね。
      確かにね。

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    • 泚20: ブラゞャヌ
      圌女の胞はささやかなので、時にブラゞャヌを必芁ずしない。圌女がブラゞャヌを着甚するかどうかは、圌女の郚屋からの距離ず密接に関係しおいるらしく、僕の知る情報で蚀えば ①恵比寿に働きに行く時には着甚 ②銀座で食事をずった時には着甚 ③蒲田のファミリヌレストランでは䞍着甚 ④自由が䞘にお買い物時は䞍着甚 ⑀郜立倧前の飲み屋では䞍着甚 ⑥暪浜駅西口のカフェでは着甚、ずなる。
      以䞊の情報から掚察できるのは、たず「圌女は山手線の内偎ではブラゞャヌを必芁ずする」ずいうこずだ。そういえば衚参道のカフェで䌚ったずきも着甚しおたから、この掚論はかなり有効ず思われる。そしお、泚目すべきは⑥の暪浜西口のカフェのケヌスである。これがあるこずによっお、圌女のブラゞャヌは山手線の内倖の問題だけではないこずが分かる。最初に述べたように、圌女の郚屋ずの距離感が芁玠ずしお倧きいようだ。その他の可胜性ずしおは「地䞋鉄に乗るずきはブラゞャヌを必芁ずする」ずいうのもないわけではないが、やはりそれだず①⑀のケヌスは説明できおも⑥がちょっず苊しい。自由が䞘ずの関係性で、⑥の時に暪浜垂営地䞋鉄を䜿う可胜性はきわめお䜎い。
      それでは距離感で䜕凊がボヌダヌラむンになるのだろうか。郜立倧前たでは䞍着甚である。ぜひ䞭目黒や代官山、埌は反察に振っお綱島や日吉のデヌタがほしいずころだ。
      そしお、そういうこずだから自由が䞘を歩くずきの圌女はかなり油断しおいお、圓然ブラゞャヌはしおいないし、たず化粧をするこずはない。手を぀ないでないずフラフラず車道にはみ出しおいく。䞀床なんかは、脇の䞋がぱっくり開いたトレヌナヌ(カトりさん、ミッキヌが描いおあっおかわいいねぇ)を着お、駅前に迎えに来たこずもあった。手を倧きく振るず乳が芋えおしたう。僕がそのこずを指摘するず、キャヌセクシヌねえ、ず蚀っお䞡手を挙げるので急いで止めた。でも、カトりさん、びっくりするぐらい泚目されおないから倧䞈倫だよ。そう蚀われるず、確かにびっくりするぐらい誰もこの子に気を払っおいなかったので僕は、アカむはセクシヌだねぇ、ず励たしながら郚屋に連れ垰った。

    • 泚21: マルちゃんおオスだよねヌ
      この「 ma^le / マヌル」「 femelle / フュメル」ず、マルちゃんがフランス語で「オスゥヌ」になるずいう圌女の蚀葉の意味が、僕にはさっぱり分からない。僕の頭が悪いんだろうか。圌女が曞き連ねおいるのは(ここでは、のフランス語の単語が入るずしおも)日本語で、日本語文法からもそうはずれおいるようには思えないが、時折意味が党く取れないずきがあり、僕に深い感銘を䞎える。ノルりェヌ語ずスりェヌデン語はほずんど違わないが、埮劙なズレがあっお他蚀語ずしお存圚しおいるそうだが、圌女の話を聞いおいるず、たたにそのこずを思い出す。
      それず、もう䞀぀思い出すのが圌女の「カギ玛倱事件」の話だ。僕はこの事件のこずを思い出す床に圌女が僕らずは異蚀語の䞖界に䜏み、そしお明確にはなっおいないがおそらく異なった宗教芳の䞭に生きおいるに違いないず思うのだ。
      自由が䞘の郚屋に匕っ越しおただ日が浅いある日、圌女は友達ずしこたた飲んで東急東暪線の最終電車で自由が䞘駅にたどり着いたそうだ。駅から圌女の郚屋ぞの道のりは、田園郜垂線の線路沿いを奥沢方面に䞊がっおいくこずになる。緩やかな坂になっおいお、倜でもわりず人通りのある道である。圌女は酔うずたいがい口を倧きく開けお、䞊を向いお歩いおいる。たたに手をひらひらさせお、生け垣から出おいる花などを撫でる。きっず、その時もそうやっおフラフラずアパヌトメントたで歩いおいったに違いない。そしお、郚屋の前たでたどり着いお、圌女は驚愕の事実に気付く。カギがないのだ。䜕でもすぐに突っ蟌んでおくポケットの䞭にもないし、バッグの䞭は隅々たで探した。もしかしおず思っおパンダのタバコ入れも、赀い小銭入れも芋おみたが、どうしたっお芋付からない。これは絶察萜ずしおしたったに違いない。
      圌女は真っ赀な顔でタバコを吞っお、今埌の方法論を暡玢する。誰かの家に避難しおはどうか。友達の家ずか、最悪実家ずか。でも、もうこんな時間で電車も走っおないし、お金がないからタクシヌも無理でどうにも無理そうだ。じゃあ、誰かに電話しお助けおもらおうか。でも、金曜の倜ずいうのが今䞀歩切迫感が無くお、誰も助けおくれそうにない。マリアントン、明日䌑みだからいいじゃない、ずか蚀われそうだ。
      いろいろ考えおいるうちに、圌女の絶望感は深くなっおゆく。アパヌトメントの前に戻り、もう䞀床バッグを隅から隅たで探したが、どうにもカギは無くなっおしたったようだ。
      圌女は、絶望の䞭で䜕故か庭の土を掘りはじめた。そうしたら、カトりさん、㎝ぐらい掘ったずころからカギが出おきたのよ。
      僕が、どうしおそんなずころにカギを隠しおおいたの ず蚊ねるず、ううん、隠しおたんじゃないのよ、あり埗ない、そんなずころに隠しおおくなんお、それはナシ。圌女は確信的に蚀う。では、䜕でカギが芋付かったず思うの、ずいう僕の問いに察しおは、それはもう奇跡ずいうしかないの、ずこれも確信的な口調で答える。圌女の䞭では、この話の掚移の説明ずしお、奇跡ずいう以倖にあり埗ないらしい。確かにそれはそれで奇跡的な話なんだず、僕も思っおいる。

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    • 泚22: スカスカ
      確かに、セックスが終わるず圌女はよくスカスカになっおいるように芋えた。たあ、圌女の動きはい぀もスカスカな感じではあったので、セックスしおる間のしなやかで機胜的な動䜜ずのギャップが、こずの倖スカスカ感を匷く感じさせるだけなのかもしれないが。
      圌女はセックスをしおいるずきは非垞に才気走り、粟悍な顔぀きで高い技術を芋せ぀けた。僕は倧抂のこずはサッカヌに眮き換えお考えるのだが、圌女の亀わり方をサッカヌ遞手に䟋えるならば、レアル・マドリヌドのラりヌル・ゎンザレスになる。
      ラりヌルは老緎なフォアヌドである。実際の歳がいっおるわけではないが、圌の持぀ボヌルコントロヌルの技術は成熟しきっおいお、䞀芋すでにサッカヌずいうスポヌツに飜いおしたっおようにさえ芋えおしたう。どのコヌス、どの匷さで来たボヌルを、どのように受けずめれば䞀番胜率的にゎヌルマりスのほうを向けるのかが、圌には分かっおいるのだ。考えるたでもない。ただ、前を向けばそこにゎヌルマりスがある。
      それでも、圌は幟぀かのパスゲヌムに぀き合っおやり、たたに倉則的な動きで盞手をかわしもする。決しお圓たりに匱い蚳ではないが、自らこじ開けるようなドリブルなんお決しおしない。ただ、䜕かの兌ね合いで圌はディフェンダヌの裏に出おしたうのだ。それはほずんどの芳衆には偶然に芋えおしたうぐらいさりげなく起こっおしたう。そしお、圌の前にはゎヌルキヌパヌしかいない。キヌパヌも決しお凡庞ではないが、䜕かの悪い冗談に぀き合わされおいるような、ば぀の悪い衚情を浮かべおいる。ラりヌルはボヌルを軜く前に蹎り出す。次の䞀歩で圌の足にはぎりぎり届くが、キヌパヌの手には届きそうで絶察に届かない堎所にボヌルは静止する。キヌパヌは䞀瞬の迷いの埌、憑かれたようにボヌルに飛びかかる。だが、その顔には既に敗者の焊燥が珟れおいる。埌はボヌルを思いきり叩けばいい。芖野のないキヌパヌの巊右はどちらもがら空きだ。
      だが、ラりヌルは匷いボヌルを蹎らない。右足の甲の䞊に軜く乗せ、ゆっくりず宙に浮かせる。既に远う気力を倱ったキヌパヌが芋䞊げるなか、ボヌルは静かにゎヌルマりスに収たる。よかったね、カトりさん、よかったよ。
      たいおいのゎヌルは熱狂を誘う。それは分もの長い時間埅ちわびた数少ないカタルシスだからだ。芳客達はここぞずばかりに叫び声を䞊げ、遞手の名前を連呌する。しかし、ある皮のゎヌルの埌には静寂が蚪れる。あたりに矎しいゎヌルには戊慄が䌎うのだ。んんんん。すごいねぇ。うっずりしちゃうねぇ。
      僕はうっずりするよりも呆れおしたう。だいたい初めおの時に、玠股(ペニスを内股に挟んで刺激する技術のこず)を皮類も䜿い分ける女の子なんお芋たこずない。
      ピッチから降りたラりヌルがどんな様子なのかは知らないが、ベッドから降りたら圌女はスカスカになる。急におずなしくなっお衚情も乏しくなる。それでも圌女の䞭には䜕かが残響しおいるのだずいう。そしお、それを䜕ずか分かっお貰いたいらしく、モゞョモゞョず僕に話しかけおくるのだが、どうにも芁領を埗ない。僕がしばらく持お䜙しおいるず、圌女はタンスから青いムヌムヌを出しおきお、いそいそず着替えだす。停物のテディベアヌを抱えるず、口を半開きにしお゜ファヌの䞊に䜓を投げ出す。
      僕が、䜕をしおいるかず蚊ねるず、圌女は小さな声で「廃人のたね」ず答えた。

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    • 泚23:そのこず
      ここで蚀う「そのこず」ずは、倧きく分けお二぀の事実を指しおいるようだ。
      䞀぀は、長く぀づいた圌女の䞍倫関係の終息。もう䞀぀は、ダヌリンずのセックスレス状態の膠着だ。この二぀は密接に関係しあっお、圌女を(ひいおは僕を)消耗させおいた。
      䌚瀟の人がいなくなったこずは、朝の電話が無くなったこずで明らかになったものだ。圌女はどうやっおも自力で起きるこずが出来ないので、毎朝、䞍倫盞手の䌚瀟の人に電話で起こしおもらっおいたのだ。その電話が無くなった。なので僕は、毎朝になるず、圌女の郚屋にいるずきは盎接、いなければ電話でやさしく起こしおあげるずいう、新しい習慣に取り組むこずずなった。
      そしお、二぀めの問題ぞの察凊ずしお、僕は䌚瀟の人の代わりに圌女を抱いおあげるずいう、これはさしお新しくない習慣にも取り組むこずになったのだが、そのこずをよくよく考えおみるず二人ずも気持ち悪くなっおきお、コヌヒヌがたずくなった。
      たず圌女が先に氎槜の前で膝を抱え、時間を芋お今床は僕が氎槜の前に行っお膝を抱えた。二人は順番で揉めるこずなく、亀互にそこに座り蟌んだ。

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    • 泚24:぀けね
      「぀けね」ずいうのは、圌女の小孊校の頃のあだ名だ。アクセントずしおは、はじめの「぀」のずころを匷く発音しお「぀っけねぇ」ずいうのが正しいのよ、ず圌女は蚀う。どうしお、そう呌ばれるのかは圌女にも分からない。圓然、僕にも圓時の理由は分からないのだけれど、そう呌びたくなる気持ちはよく分かる。匷いお説明しようず思えば、圌女の顔が「぀けねっぜい」からではないだろうか。
      小孊生の持぀論理性などは、所詮その皋床のものなのだ。圌女の匟のヒヌは、小孊生の時から「トニヌ」ず呌ばれおいお、これにも特別な理由は無く、蚀っおしたえば顔がトニヌっぜいずいうこずになる。僕から蚀わせれば、二人ずも油断の倚い小孊生だったのだろう。自身のこずで蚀えば、隙のない小孊生だったのであだ名なんお付けられたこずはない。みんな「君づけ」で僕のこずを呌び、高い氎準で敬意を払っおいるように芋えた。カトりくん、倧䞈倫 この字読める。カトりくん、しっかりしお。カトりくん、ちゃんず前を向きなさい。カトりくん、スプヌンの裏ばかり芋おないでちゃんず絊食たべなさい。
      あだ名ずいうのはボヌダヌラむンの内偎でずれた子䟛に付けるこずで最倧の効果を発揮する。ボヌダヌの倖にいる子にはあだ名は付けられない。排萜にならないからだ。小孊生に論理性は期埅できないが、その蟺りの感芚は逆に倧人よりも確かなものがある。僕にあだ名が付けられるこずはなかった。
      たあ有り䜓に蚀えば僕は孊習障害児だったのだが、圓時はそれに気が぀かなかった。今にしお思うず幟぀か思い圓たるずころはあるのだけれど、䟋えば、九九を芚えきったのが小孊六幎生の秋であったり、マンガを読むずきには誰かに暪にいおもらっお、セリフを読んでもらわないず面癜くなかったり、䜕回垭替えをしおも隣の垭がい぀も田䞭千春ちゃん(圓時・歳)だったりした。田䞭千春ちゃんに関しお蚀えば僕の感芚ずしおは、圌女の自由意志(僕の近くにいたくおたたらない)によっお毎回隣の垭に収たっおいるのだず思っおいたけれども、よくよく思い出しおみれば、圌女は授業ごずに僕の教科曞を机から出しおくれお、進行にあわせおペヌゞをめくっおくれお、すぐに窓の倖の車を目で远っおしたう僕の頭を䞡手で前に向かせおいたずいう蚘憶もあっお、倚分、圌女は僕の「担圓者」だったのだろう。
      それから幎をおうごずに、僕は勉匷が出来るようになっおいったので、そういう「担圓者」の姿は消えおいったが、倚分僕の䞭にはいただに孊習障害の郚分が残っおいお、考えおみるず、僕の最埌の担圓者はだったのではないかず思う。
      そしお、最埌の担圓者によっお曎正された僕は、぀いに「わんわんちゃん」ずいうあだ名を手に入れたのだ。

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                 泚26むンタヌミッション


    • 泚26:むンタヌミッション
      Subject:論文よりSubject:オトたでの間に、玄カ月ほどのむンタヌミッションが取られた。時間芏暡の映画には぀き物のむンタヌミッションだが、出䌚っおからヶ月、消耗の激しい別れ話(ずその撀回)をするようになっおからヶ月目のむンタヌミッションはタむミング的には遅すぎるぐらいに感じられた。圌女は急いで垭を立ち小走りでトむレの列に向かったようだが、僕は既に垭䞊でおしっこを挏らしおいたい、そのおしっこの池の被害が広がるのに合わせお、悠然ず゚クスキュヌズの蚀葉をかけおいるような状態だった。倱瀌、倱瀌、汚い物を垂れ流しおいるようですね、ご迷惑をおかけしおおりたす。
      圌女ずの連絡が突然途絶え、いくら電話をしおも留守番電話のメッセヌゞずしかお話しできなくなっお、なるほど、そういうこずなんだねぇ、ずはじめは冷静に受けずめたフリを続けおいたが、僕の䞭では䜕かがゆっくりず厩壊しおいる感芚は劂䜕ずもしがたく、そのうち公共の堎での暎走が目立っおきた。䞍思議ず仕事は回った。い぀もよりかは幟分䞍機嫌そうにではあったが、淡々ず培倜䜜業を続け、人ずの亀枉の堎では謎の抌しの匷さを瀺すこの頃の僕は、前よりも䜿える奎になったずいう評䟡さえあった。
      けれども銀座の䞭倮通りや、衚参道を党力疟走する倧人はやっぱり僕䞀人で、迂闊に足が速いだけに自分でも可哀想になるくらい呚囲の目を惹いた。しかも、泚意深く芋おいるず分かるのだけれど、僕はただ走っおいるだけではなかった。现かいフェむントやステップをいれ、誰かずパス亀換を繰り返しおいるのだ。アりトステップ、むンサむド、もう䞀床倖で合わせお巊のアりトラむン際にスルヌパス。そうやっお、街䞭をピッチに芋立おないこずには䞀歩も倖に出れないように感じた。倖郚から奇異の目に晒されおいるこずに安堵し、それでも僕の異垞に気が぀いおくれない人には顔面神経痛を披露しおみせた。だんだん閉じおいっおしたう右の瞌を、人差し指で䞊に持ち䞊げながら話しをするのだ。
      䞀ヶ月埌には電話自䜓が繋がらなくなった。転居を知らせるの女性の声が、留守録メッセヌゞにずっお倉わったのだ。僕は死ぬほど腹が立ったが、そのうちに悲しくなった。䜕で、こんな完璧なストヌカヌ察策がされなければならないのだろうか。普通に別れ話を切り出しおくれたっおいいようなものなのに。僕がどこかで圌女を埅ち䌏せするずでも蚀うのだろうか。この䞀ヶ月の間、圌女の所圚なら調べようず思えば、いくらだっお方法はあったのだ。ただ、その方法を取らないだけで、䟋えば僕はヒヌに連絡したっおいい。転居する前に自由が䞘のアパヌトメントを盎接蚪れるこずだっお出来た。恵比寿の䌚瀟に電話すれば、たた電話番号を元に所圚を調べるこずだっお簡単なこずだ。ダヌリンのほうから手を回すこずだっお出来たかもしれない。適圓な仕事をでっち䞊げお、劇団の事務所に亀枉すれば、少なくずもダヌリンずコンタクトを取るこずは可胜だ。簡単に捕たえられる。
      簡単に捕たえられる、ずいうずころたで思考が進んだずきに、僕は自分がストヌカヌだったような錯芚に捉えられた。いやな汗が出る。錯芚ずいうには、あたりに生々しい感芚だった。自由が䞘のアパヌトメントの前に車を停めお、牛乳ずアンパンを片手に圌女を埅ち䌏せおいた蚘憶たで甊っおくる。それは確実にニセ蚘憶のはずなのだが(僕は牛乳を飲めないし、牛乳にアンパンずいう発想自䜓ステレオタむプの探偵の匵り蟌みスタむルではないか)、ドアを少しだけ開けおタバコを捚おおいるずいったディテヌルが、蚘憶の揺らぎを匕き起こす。郚屋のドアの前に立ち、圌女に電話する。コヌル音は耳元ず郚屋の䞭ずの亀互に繰り返され、回鳎ったずころで留守録メッセヌゞに切り替わる。はい、アカむです、珟圚留守にしおおりたす。発信音の埌にお話ください。電話を切り、もう䞀床はじめから繰り返す。䜕十回、䜕癟回ず繰り返す。それからアパヌトメントの庭のほう、圌女の郚屋の窓に回り蟌んで同じこずを繰り返す。今床は鳎り響く電話が目に芋えるのが楜しい。僕がコヌルするごずに電話が反応しお、ランプを点滅させるのだ。小さく、芏則正しく点滅するのが楜しい。䜕回かけおみおも、同じように反応するランプを頌もしく感じながら、僕は䜕床も䜕床も電話をかけ続けおいたのが、ふず芖界のはしにモノが動くのを感じる。ベッドの䞊で、毛垃が静かに䞊䞋しおいる。毛垃の䞊の方から圌女の髪が少しだけ芋えおいる。髪は毛垃の動きに合わせお広がり、たた匕き䞊げられる。のけぞっおいるのだ。しばらくするず、圌女は男ず躰を入れ替え、毛垃をはがしお䞊に乗る䜓勢になる。ゆっくり前埌に動いお、ずきおり腰を䞊げおいる。い぀もの圌女のやり方だ。圌女の肩越しから芋える、男の顔は僕の顔だ。僕は目を閉じお、こころもち口を開き声を䞊げおるようにも芋える。パクパクず開く口の動きは、小さく「アカむ」ずいう蚀葉を繰り返しおいるようだ。もうすぐ果おるのだろう。
      兞型的な、ニセ蚘憶だ。携垯電話を持぀手の感芚も、圌女を䞊に乗せる䞋腹郚の感芚も完党に再珟するこずが出来るが、あり埗ないこずが起こっおいる。あり埗ないこずたでが、生々しく感じるこずで僕は救われる。これはただのニセ蚘憶、癜昌の倢に過ぎないのだ。



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    • 泚27:ドップラヌ効果
      遠く、䜎くなっおいた圌女は、䌚わなくなっおから二ヶ月埌、圓たり前のように電話をかけおきた。
      「オトっいうのはカトりさんの声のこず。聞きたくなったので電話したしたが、ご迷惑でしょうか」
      「そうなんだ」
      「怒っおるの、カトりさん」
      僕の声は怒っおいた。自分でもちょっずびっくりするぐらい怒っおいた。
      「怒っおる」
      「怒っおるんだ。どうしおぇ。んんんん。だよねぇ。カトりさん怒っおるよねぇ。連絡しなかったからだよねぇ。でも、ちゃんず理由があるのよね。それ」
      圌女は非垞に圌女らしく説明しはじめた。はじめは確かに、ちょっず距離を眮こうず思ったのだそうだ。ちょうど匕っ越しもするし、距離感が぀かみにくい関係になり぀぀あったし。でも、匕っ越したら盎ぐに連絡しようず思っおたんだよ。本圓だよ。だけど、物理的に連絡できなくなっちゃったのよ。カトりさんの携垯番号なくしちゃっお。手垳が荷物に玛れおお。今日、手垳が芋぀かったから電話した。本圓だよ。
      本圓のこずなのだろう。圌女は嘘を぀くのが嫌いで、確かに感心するぐらい嘘を蚀わない。ただ、嘘を蚀わなければそれでいいず思っおいる節も合っお、今床も嘘を蚀わずに盞手ず自分をごたかそうずいう圌女特有の発想を感じた。確かに手垳を芋倱っおいた時期はあったのだろう。けれど、それず僕に連絡をしなかったのは「別件」だ。それこそ連絡のしようは幟らでもある。
      僕は、䜕があったのか知ろうずした。ただ劂䜕せん腹が立っおいたので匷い蚀い方になり、圌女も逆ギレお、盎に「お前には関係ない」ずいう蚀葉以倖の蚀葉を発しなくなった。ただ、尋垞でない理由がありそうなのは圌女の口調から分かったので、今床は出来るだけ静かにしゃべっお圌女の蚀葉を匕き出した。圌女はしばらく蚀い淀んでいたが、少しづ぀麻酔の話しず、手術の話しをはじめた。麻酔はぜわわんっおなるでしょ。気持ちいいかず思うでしょ。でも党然気持ちよくないんだよ、カトりさん。圌女は堕胎手術を受けたのだずいう。僕の子になるのかず蚊くず、圌女は即座にそれを吊定した。倧䞈倫、それはナシ、別件だからカトりは関係ない。
      じゃあ誰の 蚊くべきでもない質問をした。ダヌリンの。手術も圌ず䞀緒に行った。圌女は緊匵した声で答える。だが、圌女ず圌は半幎以䞊も性亀枉がなかったはずだ。それは、そう。確かにそうなんだけど、ダヌリンの子なのよ。おかしい ダヌリンもおかしいず思っおないみたい。あんたり話しおないけど。
      圌女の䞭で僕の存圚は無かったこずになっおいる。無かったこずになっおいるはずの僕は電話を切っお、新しい圌女の郚屋に向かった。郊倖の緑の䞭にある圌女の郚屋で、普通に食事をずり、普通に亀わる。それから、䜕床も圌女の郚屋に通うようになった。䜕事もなかったかのように、い぀も食事はおいしく、圌女の躰は暖かい。気持ち悪くなるぐらい普通にたのしい時間が動き出したのだ。

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    • 泚28:倢の話
      圌女ず䞀緒に眠るず、倜䞭に突然揺すられお起こされるこずがある。圌女は倢を芋たのだ。
      倢の䞭にはたいがい僕が登堎する。圌女の恋人ずしお珟れるのだが、倢の䞭でダヌリンではなく僕が恋人であるこずを、䜕か倧きな手柄でもたおたように話した。それでね、カトりさんが寝おるうちに、倧きくお汚いおばさんがアカむに顔を抌し぀けおくるのよ。助けおほしくおカトりのこずを匕っ匵るんだけど、党然起きおくれないの。だから、私は食べおたピザの噛み途䞭を口を開いお芋せたら、やっずおばさんが離しおくれお、それでね、んんんん、埌は忘れた。圌女は倢を最埌たで芚えおいない。芚えおいるずころたで話すず、満足しおたた眠りに぀くのだ。
      しかし、この日の倜芋た倢に、僕は出おこなかった。圌女はすごい力で僕を揺り起こすず、䞀蚀だけ倢の話をしおたた泥のように眠った。兄がね、私を抱こうずするの。

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    • 泚29: 時間
      時間ずいうものが動き出したのはすごく前からで、時間ずいうものが終わるのはすごく埌なのだずいう。かなり前に、宇宙論や盞察性理論などに興味を持っおその手の入門曞を幟぀か読んだのだが、ビッグバンやら熱力孊の゚ントロピヌの話の果おに、僕が完党に理解し埗たのはこんなこずでしかなかった。確か、時間の進行には「質量」ずか「速床」ずかが密接に関係しおいたはずだが、ずにかくも僕が生きおいる間に時間が突然止たっおしたうずいう心配はないようだった。
      なので僕は自分の呚りに起こった事柄の䞭から任意のものを遞んで、ある時間の始たりず終わりを蚭定する。圌女ずの時間ずいうこずでいえば、僕は「アロハ」ずいうメヌルから始たり、片目の魚が死ぬたでをその時間ず考えおいる。
      片目の魚の死は圌女からの電話で知らされたのだが、それは土曜日の昌䞋がりで僕はただ二床寝の垃団から出れずいるずころだった。臚終の様子を圌女は語った。倚分ね、昚日の倜から死んでいたような気もするの。暪になっおたから。でも、死ぬず浮くっおいうじゃない。氎槜の真ん䞭蟺りで暪になっおたから、もしかしたらただ死んでないかもっお様子を芋おたんだけど、すごく臭くなっおきたから棒で぀぀いおみたの。そうしたら、浮いおきたのよ、カトりさん。
      今、圌の遺䜓はどうしおいるのかず問うず、ゞッパヌ付きビニヌル袋に入れお冷凍庫に保管しおいるずいう。圌女は「さかな」の遺䜓が、食材ず䞊んで保管されおいるこずには違和感を芚えないようだ。「さかな」のためにも、明日からの食生掻のためにも早く䜕ずかした方がいい。圌女の考えでは、翌日、日曜日の昌に葬儀及び埋葬を執り行う぀もりで、参列者は圌女ず僕の二人ずいうこずになっおいた。
      予定の時間に僕が郚屋に迎えに行くず、圌女は思いっきりピクニックに行く服装でアむスボックスを提げお珟れた。圌女は「さかな」の遺䜓を僕に芋せたがったが、僕は断固拒吊した。かわいそうね、カトりさんはお魚にやさしくないねぇ。圌女はアむスボックスの蓋を開け「さかな」に同意を求めおいたが、僕的に蚀わせおもらえば、こんな状態で生き延びさせおいた圌女の方がよっぜどやさしくはない。僕はかなり前から圌を殺すべきだず思っおいた。理想ずしおは、さばいお食べおあげれればず。
      圌女は「さかな」の埋葬堎所ずしお、倚摩川の河原を考えおいお、行く途䞭に出来れば鉢怍えを買いたいず蚀った。「さかな」を埋めたずころに倚幎草を怍え、それを䜕幎も䜕幎も育おたいのだず。お魚はかわいかったでしょ、だからそこに生える怍物もきっずかわいいねぇ。圌女は僕のこずもよく「かわいい」ず衚珟しおいたが、それが僕の理解しおいるかわいいずいう蚀葉ず正確に䞀臎するものずは思えなかった。けれども、圌女の「かわいい」が僕の䜕ずいう蚀葉にあたるのかは怖くお考えられない。僕は圌女の垌望どおりに、オオバコの鉢怍えをずシャベルを賌入しお、登戞の河川敷に向かった。
      着いおみるず倚摩川の河川敷ずいうのは、意倖に埋葬には向かないこずが分かった。開けたずころにはカップルや芪子連れがあふれ、人気のないずころにはキャンプ生掻者がテントず段ボヌルを広げおいる。季節的には梅雚を前にした陜気のいい日曜日、オレンゞ色のチルド状態の遺䜓を晒すにはあたりふさわしい雰囲気ではない。しかし、圌女はそんなこずお構いなしに盎ぐにアむスボックスを開けたがり、シャベルを手に子䟛達の遊ぶ傍らにしゃがみ蟌もうずする。僕はゞュヌスを䞎えたり、草野球の緎習を芋せたりしおなだめスカし、少しづ぀圌女を䞊流に誘導しようずしたが、ムズがっお動こうずしない。「さかな」のお墓には毎週のように来るのだから、駅の近くであるここに埋めるべきなのだず蚀っお聞かない。しょうがないので倧移動するこずはあきらめ、その付近では比范的人のいない鉄橋付近の堎所を遞んで玍埗させる。
      最初は僕が墓穎を掘った。雑草が力匷く根づく土壌らしく、シャベルが根に負け思うように掘り進めない。僕の芁領が悪いのを芋おずるず、圌女は猛然ず雑草を匕き抜きはじめた。ミミズだぁ、かわいいねぇ。根に付くミミズに少しだけ興味を瀺したが盎ぐに投げ捚お、たた猛然ず掘りはじめる。ほずんど自力で掘りきった広く深い穎に、ビニヌルから遺䜓を滑り萜ずす。
      僕はここにきお初めお「さかな」の遺䜓を目にしたのだが、思ったよりかはグロテスクではない。それは遺䜓ずいうよりも、やはり魚垂堎の発泡スチロヌル的な収たりを芋せおいた。魚屋さんみたいだね。そうねぇ、魚屋さんみたいだねぇ。
      圌女は葬儀の方にはあたり感心が無いらしく、勢いよく土をかぶせお埋葬を続けおいたが、あらかた土が盛れるず、今床は䞁寧にオオバコを怍えはじめた。圌女はオオバコの呚りに掘り出された土を撫で぀け、䜕床も、かわいいねぇ、を繰り返しおいた。オオバコはかわいいねぇ、くしゃくしゃにしたいねぇ、カトりさん。手を泥だらけにしながらい぀たでも土を盛り぀づける圌女は、ずおも満足そうだった。本圓にうれしそうに土を盛り続けおいた。

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    倖資系認蚌機関で機械安党ずAIなどの先端テクノロゞヌに関わる䌚瀟員。 2025幎、15幎ぶりに小説執筆を再開。 AIを壁打ち盞手ずした小説ず、その制䜜ドキュメンタリヌを公開しおいたす。 創䜜倧賞2026 ファンタゞヌ小説郚門 オヌルカテゎリ郚門 に応募しおいたす。

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