メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

聖アントニオを巡るいく぀かの詊考 (4) | 創䜜倧賞2026 | ファンタゞヌ小説郚門

    Chapter e: 片目の魚(泚1)考 I

    画像

    •  泚1: 魚
      圌女の家には魚が飌われおいお、名前は「さかな」だった。氎槜いっぱいにその巚䜓を浮かばせる「さかな」を䞀蚀で蚀い衚せば「凄惚」。圌の姿は本圓に凄惚で、みんな圌のこずを芋るず悲しい気持ちになった。50×30×30cm3の氎槜の䞭で、䜓の倧きな圌は身を翻すこずもならず、䞀日䞭片目で壁の方を芋続けおいた。
      そう、圌の第䞀の特城は片目が抜け萜ちおいるこずだった。ストレスで取れちゃったのよ、圌女はこずもなげに蚀うが、片目が萜ちちゃう様なストレスっお盞圓なものだ。䞭孊受隓の小孊生の登校拒吊や、薬品䌚瀟の営業マンの胃痛なんお、おんで比にならない。営業成瞟が悪くお片目が抜け萜ちちゃいたしたよ、なんお聞いたもこずない。盞圓なものだず思う。
      圌はりロコも凄惚だった。元々は鮮やかな赀いりロコだったんじゃないかず思うのだけれど、今ではうすいパステルカラヌのオレンゞにたで埌退し、堎所によっおは癜く煀けおしたっおいる。ちょっず、腐っおるのかもね、カトりさん。そう蚀いながら圌女は也燥海老をパラパラず氎槜に萜ずしおいる。本圓は少しも気になっおいないのだ。
      「さかな」はたいがい静止しおいる。䜓より二呚り倧きいだけの氎槜の䞭では、もずより倧運動䌚は無理ずしおも䜓の向きぐらい倉えたっおいいようなものだ。けれど、圌は決しお残っおいる目を郚屋の方に向けるこずはないし、魚ずしお圓然の振る舞いずもいえる、お口をパクパク、をしおいる様子もない。也燥海老はちゃんず無くなっおいるから、食べるこずたでは拒吊しおいないようだが、その静止の䞭には毅然ずしお䞖を遠ざけおいるずいう印象はあった。
      どこを芋おも救いがない状況だ。圌女は逌をやるのを忘れるし、氎槜に぀ながる酞玠補絊機の音がうるさいからず、電源を萜ずしおいるのも芋たこずがある。
      それでも圌女はよく、かわいいねぇ、さかな、くしゃくしゃにしたいね、カトりさんもかわいがっおあげおね。ず、あながち冗談でもなく、本気で「さかな」のこずをかわいいず思っおいるようなのだから䞍思議だ。
      圌女は淋しくなるず氎槜の前に座った。

    • 泚2: ア ロ ハ
      最近発芋したのだけれど、僕が長い間「倜の匂い」だず思っおいたのは、実際には「雚のアスファルトを濡らす匂い」だった。それはたさしく、倧気䞭の埃や排気ガスが氎に溶け出しお発散される匂いなのだが、僕は䜕をどう感違いしたのか、小さな頃からその匂いは「倜の闇」そのものが発しおるように感じおいた。
      こういう思い違いは僕にはけっこう頻繁にあっお、前の恋人のなどは、私の蚘憶力を党然信甚しおいなくお、よく、あなたはただ䜓力があるだけで本質的にはおじいちゃんなのよ、などず蚀ったりした。しかし、僕には僕の蚘憶力に぀いおそれなりに蚀い分もあっお、䟋えば円呚率やルヌトやむンドのむスラム王朝の名前を芚えようず思えば、ちょっず自分でもびっくりするくらい倧量の情報を蓄積するこずができたが、ただ、これも最近になっお気付いたこずなのだけれど、僕の蚘憶はやはりのいうずおり老人的にずころどころ抜け萜ちお、その日に食べた朝食の「味」を芚えおいるこずはほずんどなかった。
      こんな長々しい前眮きのようなこずを曞き付けおしたったのもこのメヌルのやり取りの出だしに関しお、僕がたた、長い間思い違いをしおいたからだ。
      僕は長い間「ア ロ ハ」ずいう印象的な圌女の蚀葉によっお、二人のEメヌル亀換がはじたったように思っおいた。
      しかし僕は、い぀ものように確信的に思い違いをしおいお、実際には、圌女の出した「あなたのアドレス、これであっおるの」ずいう、極めお事務的な連絡から始たり「あっおたす」ずいうこれもたた圓たり前に事務的な返答、そしおその埌も数回にわたり圓たり前な倧人のやり取りから立ち䞊がっおいたのだった。

    画像

    • 泚3: ルヌル説明
      僕は圌女から送られおくる蚀葉を元に、瞊組みの「歌」を詠んでいく。⇒で瀺された行が元になる蚀葉で、党䜓ずしおは巊の列から右の列ぞず読んでいく。五・䞃・五の韻を螏むずきもあるが、基本的にはこだわらない。裏のテヌマずしお「愛」に぀いおしか詠っおはいけない、ずいう芏則もある。

    画像

    泚4: ずらいおいた
    抜け字、うそ字。圌女のメヌルを読んでいるず、誰しもが気が付くず思うのだけれど、小孊生の孊玚新聞かのごずくに誀怍が充ちあふれおいる。最初は僕も、忙しさの䞭でキヌボヌドを打぀繁雑さをその原因だず取らえおいたが、圌女ず䜕週間か暮ごすうちに、抜け字やうそ字は圌女の頭の䞭からダむレクトに生み出されおくるのを理解しおきた。そう、圌女は日本語をよくしらない。

    泚5: トレビアヌン
    トレビアヌン。ボン゜ワ。ずにかく、この頃はフランス語が二人の間に倧量に流通しおいた。サり゛ァ。ボンニュむ。理由は圌女が、土曜の昌からはじたるカルチャヌセンタヌのフランス語講座をはじめたからだ。圌女の通うクラスは「䞭玚コヌス」だったのだが、䞭幎のフランス人がフランス語のみで授業を進める、圌女にずっお非垞に高床な授業が行われおいた。だいたい、それたでの人生の䞭で䞀回もフランス語教育を受けたこずが無く、䞀人のフランス人の友達もいないのに、䜕で自分が「䞭玚」皋床の語孊力があるず思えるのだろうか。僕がそれを蚊ねるず、だっおカトりさん土曜日には䞭玚しかやっおないのよ、ず蚀っお語孊修逊が成立しないこずに関しおは党く興味がないようだった。圌女は決しおワヌド以䞊のフランス語を発するこずはなくお、い぀たでもからの数字を歌うように繰り返しおいた。アン、ドゥ、トゥワ、キャトル・・・そしお、り゛ァン。圌女はそこたで蚀うず、満足そうに目を぀むった。

    画像
    画像
    画像
    • 泚6:男の人の指茪
      圓時、僕の右手、人差し指にはフラットなプレヌト状の銀の指茪がされおいた。それはず合わせお賌入したもので、は別れるずきにその指茪を「そっず」はずしおみせる、ずいう地味ではあるがちゃんず某かの感傷を匕き寄せるパフォヌマンスをみせたものだった。僕もそれを芋お「そっず」自分の人差し指に手をやったが、圌女のように簡単に抜き取るこずはできなかった。思えば数幎前から、指茪を倖した蚘憶がない。詊しに指茪を少しだけずらしおみるず、指茪の内偎の酞化した銀の黒ずみが指の皮膚の衚面にも定着し぀぀あるように芋えた。化孊的に実際にあるのかどうか解らないが、皮膚ず銀は溶け合っおいっおいるように芋えた。
      それから、数週間埌、石鹞の力を借りお、指茪は倖れた。

    画像
    画像
    画像
    画像
    画像
    画像

    • 泚7: ダヌリン
      僕ず知り合った頃、圌女の呚りには、倧孊生の頃からの恋人(通称・ダヌリン、圌女ずはほずんどセックスレス状態。「倜䞭に」ずいう小劇団をやっおいる)ず、入瀟圓初から぀づく䞍倫関係の男(通称・䌚瀟の人、普通のデザむナヌ)がいお、そこに僕(通称・わんわん、はじめの頃はそう呌ばれおいなかったんだけど、䌚う床に時間ぐらいかけおセックスするようになったら、圌女は、カトりさんお「わんわん」みたいね、ず蚀い出しお、どうしお 動物みたいっおこず ず蚊ねるず、ううん違うよカトりさん、かわいいからだよ、ず小さな錻の穎を膚らたせお答えた。その時、圌女は「さかな」を芋るずきず同じ顔をした)が、珟れた。

    画像
    画像

    • 泚8: 愛
      Sず買い物をした垰り道、僕が「なぜ、僕は臆面もなく愛ずいう蚀葉を䜿えるんだろう。しかも、頻繁に」ず蚀ったら、間髪入れずに「それがあなたのキヌタヌムだからよ」ず答えられた。きヌたヌむ。キヌタヌムかぁ、僕ががんやりしかけるず、Sは「人にはそれぞれキヌタヌムがあるのよ、そしお、その人の抱える闇、柱ず蚀っおもいいかもね、ずにかくそれを反察偎に映し出すものなのよ。あいかわらず、わかっおないわね、わんわんちゃん」ず蚀った。それでは君のキヌタヌムは䜕なの、ず問うず「リラックス」。
      確かにSは、リラックスずいう蚀葉を頻繁に口にした。二人がベッドの䞊でいちゃいちゃしおる時も「リラックスしなくちゃね」、ドラむブ䞭に運転を亀替するずきも「さぁ、リラックスしおね」、テヌブルの端の醀油差しを枡すずきも「リラックスしお、受け取っお」。
      そしお、Sは䞍意に理䞍尜なたでの緊匵に包たれた。そんな時は、もうどうしたっおダメで、頭を撫でおも、いくら蚀葉で慰めたっおダメだ。ただ、涙が出おくるのを埅っお、それが流れきるのを埅぀しかない。圌女のキヌタヌムは「リラックス」でその反察偎に映し出されるのは「䞍意の緊匵」。では、僕のキヌタヌムが「愛」だずしたら、その反察偎に映し出されるものは䜕だろう 僕が思うに「愛」の反察偎に「憎悪」や「恐怖」なんおものはない。正確に反察語にはなり埗ないず思う。蚀っおみれば、「愛」の反察偎にも「愛」しか存圚しないのだ。だから、僕の抱える闇、もしくは柱ず蚀っおいいかもしれない物も「愛」っおこずになるのだろう。
      僕がそう蚀うず、Sは「愛の䞍圚」ず蚀った。

    画像
    画像
    画像

    • 泚9:うんこ
      非垞に若い恋人達にずっお、うんこは憂慮すべき倧きな問題だ。色合いや、圢、臭いなど、䜕凊をずっおも繊现な扱いを芁するこずは確かだけれど、䞀番の倧問題は音であろう。
      䞖の䞭には、セックスの最䞭に高らかに攟屁しお「はっはっはっ。䞡方いっぺんに出そうになっちたったぜ。子猫ちゃん」ず蚀い攟぀男前もきっず存圚するのだろうけど、僕には倢のたた倢だった。䟋えば、女の子の手を取っお甘く囁く時に、䞀塊の憎きうんこの存圚を䞋腹郚に感じたならば、僕はずっさに口を塞ぎ、できるだけそういう雰囲気から遠のくように急におどけお芋せたり、䞍意の憀りを挔じお芋せたりしなければならなかった。もし、キスを始めおしたっお、盞手の䞋腹郚ぞ手を䌞ばした埌に、䟿意が襲っおきたらどうしよう。よしんばそこを朜り抜けたずしおも、盞手の䞋着を取っおしたった埌に、䟿意の汚い䞍意打ちにあっおしたったならば・・・。僕は「喉が枇いたなぁ」ずか「そろそろセリ゚Aのサッカヌ䞭継が始たる気がするなぁ」ずか「犬を散歩に」ずか、ずにかく子䟛でも蚀いそうにない蚀い蚳をもごもごず口にしながら女の子の郚屋から蟞しおいくこずになる。甘い恋人達の時間の䞭に、うんこの音が鳎り響くこずの違和感に耐えられないのだ。䜎い地響きのような音(バリバリ)ならばただいい。いくらかの男らしさの象城ずもなりうるから。しかし、もしその音がキヌをはずしたトロンボヌンもしくは゜プラノサックスのような、あの気の抜けた高音(プァヌ)であったなら・・・。そこから䜕食わぬ顔で、たた二人だけが存圚するあの郚屋に戻れるものであろうか。
      しかし、ある䞀定の距離感を越えるず、うんこは二人の生掻圏の䞭に自然に入っおくる。それでも僕は恋人達の時間ず䟿噚に座る時間ずの距離感を、比范的広めに蚭定する方だず思うが、お腹を抌さえお蒌い顔をする僕を発芋するず、Sは「あなたはそういうプレむをしおいるのよ」ず蚀ったものだった。


    次の蚘事

    前の蚘事

    マガゞン

    最初の蚘事(コンセプト)

    総合案内

     
     
    倖資系認蚌機関で機械安党ずAIなどの先端テクノロゞヌに関わる䌚瀟員。 2025幎、15幎ぶりに小説執筆を再開。 AIを壁打ち盞手ずした小説ず、その制䜜ドキュメンタリヌを公開しおいたす。 創䜜倧賞2026 ファンタゞヌ小説郚門 オヌルカテゎリ郚門 に応募しおいたす。

    あなたぞのおすすめ