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20代女性の転出が、止まらない理由:広島県は、若い女性の流出が全国ワースト1位。「選びたい職場」が地方にあるか、という問い【シリーズ第2回/全5回】

    20代女性の転出が、止まらない理由:「選びたい職場」が地方にあるか、という問い

    広島県は、4年連続で人口流出が全国ワースト1位です。

    総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2024年)によると、広島県の社会増減数(転出ー転入)は▲10,711人。47都道府県のなかで、人が出ていく数が一番多い県、それが広島県です。

    ※なお、この転出超過の約3分の1は、福山市を含む備後地域に登録された外国人労働者の県間移動という構造もあります。詳しくは別のnote記事「広島県転出超過育てた場所と、選ばれる場所が違う」にまとめました。

    そしてさらに重要なのは、その内訳です。
    広島県から出ていく日本人のうち、女性の社会減(▲3,904人)が最も大きく、中でも20〜30代半ばの女性(▲2,480人)が、女性全体の流出の63.5%を占めています。
    つまり、
    広島県の人口流出の最大の原因は、20〜30代の女性たち
    なのです。

    「20代女性の転出が、男性より多い」と聞いて、最初に何を思うでしょうか。

    「やっぱり地方は女性に厳しいんだ」と感じる人もいるかもしれません。「東京志向の若い女性が増えているからでしょ」と片付けてしまう人もいるかもしれません。

    私は、そのどちらにも、少し違和感を覚えています。

    女性が外に出ることを「問題」として語る論調には、私はあまり乗れません。選択肢を持って自由に動けるようになったこと自体は、社会の進歩だと思っているし、私自身、一度広島県福山市を出て横浜で進学、就職、結婚し、20代で福山市に戻ってきた一人として、その経験の価値を疑ったことはないからです。

    それよりも、私が気になっているのは、別のことです。

    「20代で出ていった女性たちが、その後、福山に戻ってきていない」──ここに、福山の構造的な課題が見えてくるのではないかと思っています。

    第1回の記事では、福山の高校生の約7割が、卒業と同時に地元を離れる、という出発点のデータをお伝えしました。今回は、その続きの話です。20代になって、特に女性が、なぜ戻ってこないのか。

    データを丁寧に追っていくと、これは「個人の選択」というよりも、「選びたい職場が、福山に十分にあるかどうか」という、もっと構造的な問いとして見えてきます。

    そして最後に、データには表れにくい、けれど決して避けて通れないもう一つの構造にも触れたいと思っています。

    20-24歳女性、年間316人の転出超過

    まずは、福山市の若年層の転出超過を、男女別・年代別に見てみます。


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    20-24歳の女性の転出超過は、2024年で▲316人。
    男性(▲205人)を、約100人も上回っています。

    15-19歳でも、女性は▲116人と、男性(▲86人)より多い。
    20代後半(25-29歳)も同様の傾向で、女性のほうが多く出ていきます。

    つまり、20代の女性は、男性以上に福山から出ていっている、というのが、福山のリアルです。

    「女性のほうが県外志向が強い」という言い方をされることがありますが、その背景にもっと構造的な理由があるのではないかと、私はずっと感じてきました。

    なぜ、20代の若者は外に出ていくのか?

    転出理由のデータを見てみます。

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    20代女性が福山を出る理由のトップは、「就職」が38%。男性も「就職」が35%でトップです。

    つまり、20代前半の人口移動の最大の原因は、仕事の選択です。これは、福山だけでなく、全国的な傾向だと思います。

    問題は、その先です。

    「どこへ就職しているか」を見ると、20代女性の転出先トップ5は、

    1. 広島県広島市

    2. 大阪府大阪市

    3. 東京都23区

    4. 岡山県岡山市

    5. 岡山県倉敷市

    ──と、広島・関西・東京・岡山に分散しています。これは第1回でお伝えした「福山の高校生の進学先が3方向に分散している」構造と、ほぼ重なります。

    進学で行った先で、そのまま就職する、という流れが見えてきます。

    「学べる場」と「働ける場」の、二重の不足

    第1回の記事で、福山の高校生の自市進学率は26.6%、約7割が市外へ進学する、という話をお伝えしました。

    その時、私はこう書きました

    「福山に大学が少ない」というだけでは説明できない数字。 備後圏域の地理的特性、産業構造、文化的背景など、複数の要因が絡んでいる。

    実は、進学の話と、就職の話は、同じ構造の問題の連続として捉えるべきだと、最近強く感じています。

    つまり、

    • 学びたい分野の大学が、福山にない → 進学で地元を離れる

    • 学んだ専門性を活かせる仕事が、福山にない → 就職でも戻ってこない

    この「学べる場と、働ける場の、二重の不足」が、福山の若者の流れを大きく規定しているのではないかと思っています。

    そしてこれは、女性だけの問題ではありません。男性にも、同じ構造が当てはまると思っています。

    福山の産業構造を見ると、構造の輪郭が見える

    ここからが、私が一番考えたいテーマです。

    福山の業種別事業所数のデータを見ると、興味深い構造が浮かび上がってきます。


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    製造業の特化係数(全国平均と比べて、その産業がどれだけ集積しているかを示す指標)は、福山では1.6前後。これは「全国平均よりも、製造業の集積度がかなり高い街」だということを意味します。

    一方で、若者に人気の業種である情報通信業の特化係数は0.4程度。全国平均の半分以下です。教育・学習支援、金融・保険、不動産業も、特化係数は低い水準にあります。

    業種別の就業者数を、男女別に見ると、もっとはっきりします。


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    男性の就業者数のトップは製造業で、31,233人。圧倒的な数字です。

    一方で、女性の就業者数のトップは小売業で、16,951人。次いで医療・社会福祉、製造業、と続きます。

    つまり、福山の産業構造は、

    • 製造業中心の街で、男性の就業先は豊富

    • 情報通信、教育、専門サービスなど、専門性を活かせる業種は手薄

    • 女性の主な就業先は、小売業やサービス業に偏っている

    という構造になっています。

    「専門性を活かせる仕事が少ない」という構造

    製造業を否定したいわけではありません。福山の製造業は、誇るべき産業基盤だと思っています。

    ただ、データから言えるのは、「大学で学んだ専門性を活かせる職場の選択肢が、福山には相対的に少ない」ということです。

    例えば、文系の若者が「マーケティング職に就きたい」「広報・PRの仕事をしたい」「ITサービスに携わりたい」と思った時、福山市内でその希望に合う企業を見つけるのは、東京や大阪と比べると、明らかに難しい。

    理系の若者が「研究開発職に就きたい」「医療系の専門職を活かしたい」「データサイエンスの仕事をしたい」と思っても、選択肢が限られる。

    これは「福山に魅力がないから若者が出ていく」のではなく、「専門性を活かせる仕事が、構造的に少ない」という問題なのではないかと感じています。

    そしてこれは、性別を問わず当てはまる課題だと思っています。男性も女性も、自分が学んできたこと、伸ばしたい力を活かせる場所があるかどうか──ここが、定住・移住の本質的な分岐点になっていると感じます。

    ただ、女性のほうがより顕著に転出が多いのは、後ほど触れる広島県の調査からも見える通り、女性のほうが「働き方の選択肢」を重視する傾向が強いということがあるのだと思います。

    「働き方の柔軟性」が、選ばれる地域の鍵になる

    専門性を活かせる仕事の少なさ、と並んで、もう一つ大きな構造があります。

    それは、働き方の柔軟性です。

    「リモートワークを増やせばいい」という話ではありません。実は、リモートワークは全国的に縮小傾向にあります。

    国土交通省の「テレワーク人口実態調査」(令和6年度)によると、

    • 全国の雇用型テレワーカーの割合:24.6%(前年度比0.2ポイント減)

    • 「毎日出社」率は、2020年5月の58.5%から2024年3月には79.8%へと過去最多

    東京でも、リモートを縮小して出社回帰している企業が増えています。コロナ禍を経て、**「やはり対面で働きたい」「同じ場所で顔を合わせて仕事をしたい」**という揺り戻しが起きているのが、いまの全国的な流れです。

    つまり、これからの地方の競争力は、「リモートワークがあるかどうか」ではなく、もっと別のところにあると思っています。

    鍵は「対面 × 柔軟性」の組み合わせ

    私が大切だと感じているのは、

    • やりたいと思える仕事が、対面で経験できること

    • それでいて、休暇や早退、時短勤務など、生活の事情に合わせて柔軟に働けること

    この組み合わせです。

    対面で働くことには、リモートにはない価値があります。

    • 先輩や上司から、現場で学べる

    • 同僚と日常的に対話することで、信頼関係が深まる

    • 地域の人たちと、自然なつながりが生まれる

    • 「この街で働いている」という実感を、肌で感じられる

    特に20代の若者にとって、社会人としての最初の数年間に対面で経験することは、キャリアの土台になる学びだと思います。

    問題は、その対面型の職場が、働き方の柔軟性をどれだけ許容しているかです。

    「休みやすい・早退しやすい」が、地域の競争力になる時代

    20代で外に出た若者が、結婚・出産を経て地元への帰還を考える時、最も重視するのは「子育てと仕事を両立できるか」です。

    ここで決め手になるのが、

    • 子供の急な発熱で、早退できるか

    • 学校行事で、半休が取りやすいか

    • 産休・育休から復帰した後も、時短勤務で働き続けられるか

    • 介護などの事情にも、柔軟に対応してもらえるか

    これらは、リモートワークの有無とは別の話です。対面型の職場でも、文化として「休暇や早退がしやすい」「時短勤務が当たり前」という環境を整えることはできます。

    東京の大企業がこの数年間で力を入れてきたのは、まさにこの「働き方の柔軟性」です。リモートワークだけでなく、

    • 子の看護休暇の有給化

    • フレックスタイム制の導入

    • 時間単位の有給休暇

    • ジョブ型雇用への移行(成果で評価する仕組み)

    • 男性育休の取得推進

    ──こうした取り組みが、進んでいます。

    地方の中小企業が、すべてを真似する必要はないと思います。ただ、「柔軟に働ける文化があるかどうか」は、これからの採用において、決定的な差になっていくと感じます。

    もう一つの新しい現実:通勤手段という、見過ごされている条件

    ここまで、「専門性を活かせる仕事の少なさ」と「働き方の柔軟性」という、二つの大きな構造を見てきました。

    実はもう一つ、地方の若者の働き方に大きな影響を与えている要素があります。それは、通勤手段です。

    地方では「車通勤が当たり前」という前提が、長く採用の常識でした。でも、その前提が、いま静かに崩れ始めています。

    20代の半数以上が、車を持たない時代

    ソニー損害保険の「20歳のカーライフ意識調査」(2025年)によると、

    • 20歳の運転免許保有率:53.5%(2023年61.2%から約8ポイント減)

    • 20歳のマイカー所有率:12.9%(2024年17.4%から、わずか1年で4.5ポイント減)

    地方であっても、20歳の約85%は自分の車を持っていません。

    ここで大切なのは、「車を買えない」のではなく「車を欲しくない」という価値観の変化です。

    調査では、車を購入しない理由として、

    • 「買わなくても生活できる」

    • 「駐車場代など維持費がかかる」

    • 「お金はクルマ以外に使いたい」

    が上位に挙がっています。「車のないライフスタイル」を、若者が積極的に選んでいるのです。

    都会で過ごした20代にとって、「通勤手段」は前提条件

    私が特に注目しているのは、福山を一度出て都会に進学した20代の感覚です。

    東京や大阪、福岡などで4年以上を過ごした若者にとって、「徒歩・自転車・バス・電車で通えること」は、通勤の前提条件になっています。

    「車がないと働けない場所」は、そもそも選択肢から外れてしまう。これが、大都市圏で学んだ若者のリアルな感覚だと感じています。

    実家のある福山に戻ろうかと考えた時、

    「通える範囲に、専門性を活かせる仕事はあるか」 「車がなくても通える企業はあるか」 「車を所有しなくても生活できるか」

    これらが、まず最初の検討事項になります。

    たとえ実家に戻っても、家族が所有する車を週末に借りる程度で十分。平日は徒歩・自転車・バス・電車で通勤する。たとえ片道10kmあっても、自転車通勤を選ぶ若者が増えています。

    地方の公共交通の不便さが、新しい採用障壁になっている

    問題は、地方の公共交通インフラが、こうした若者のニーズに応えられていないことです。

    • バスの便数が、年々減少している

    • 電車で近くの駅まで行けても、駅から勤務先までの接続が難しい

    • 工業団地や郊外のオフィスは、車がないとアクセスできない

    つまり、若者の側は「車のない生活」を望んでいるのに、地方の側がそれを受け入れる準備ができていない。この構造的なミスマッチが、新しい採用障壁になっています。

    実際、ミライゴト(人材紹介事業)で若者の相談を受けていても、通勤手段は最重要の条件として上がってくるようになりました。

    「車がないので、公共交通機関で通える範囲で働きたい」 「会社の近くに住める住宅手当はありますか?」 「駅から徒歩圏内の会社を教えてください」

    仕事内容や成長環境の前に、「通勤手段」が最初の選択基準になっているのです。

    このテーマについては、私が別のnote記事「20代の半数以上が車を持たない時代。地方企業の採用戦略で見直すべきこと」で、さらに詳しく書いています。地方企業の採用にとって、避けて通れないテーマだと思っています。

    「公共交通で通える企業」は、構造的に有利

    業種構造、働き方の柔軟性、通勤手段。

    この三つの構造が重なる場所に、地方の若者の働き方の現在地があります。

    逆に言えば、

    • 公共交通でアクセスできる場所にあって

    • 専門性を活かせる、やりがいのある仕事ができて

    • 休みやすく、早退しやすい、柔軟な働き方を許容している

    ──そういう企業は、これからの時代、構造的に有利になっていくのではないかと感じています。

    福山市の中心部、特にJR福山駅周辺は、こうした若者のニーズに応えられる立地です。けれど、福山の主要な雇用は、郊外の工業団地や事業所にあります。この立地のギャップを、どう埋めていくか。これも、大きなテーマだと思います。

    広島県の調査から見える、女性特有の課題

    ここからは、特に女性に関するデータを見ていきます。

    広島県が令和6年10月に公表した「若年層の社会減少要因調査分析」という資料があります。これは、広島県内の若者の進路選択を8つのクラスター(人物像)に分けて、なぜ県外に流出するのかを詳しく分析したものです。

    その中で、「県内大学の女性」のウエイトが大きい二つのクラスターが、私はとても気になりました。

    「安定・ワークライフバランス重視」の女性たち

    一つは、安定して働けて、ワークライフバランスが保てる職場を求めるクラスター。県内大学の女性が、このクラスターの約4割を占めるそうです。

    このクラスターの女性たちは、**「就職活動の途中で、広島県が選択肢から外れる」**というケースが多いとのこと。

    調査の中で、こんなヒアリング結果が紹介されていました:

    広島県内で就職したいと言っていた学生が、大阪と広島の企業に内定後、実際の職場環境を比較して、最終的に大阪の企業に即決していた事例もある。職場環境のハード面が決め手となっている事例が見られる。

    つまり、「最後の最後で、職場環境(立地・新しさ・快適さ)が決め手になって、大都市の企業を選んでいる」という構造です。

    意思としては「広島県内で働きたい」と思っていても、実際に働く場所を見比べた時に、「やっぱりこっちのほうが…」と感じてしまう。これは、福山にも同じことが起こっているのではないかと思います。

    「精神的なゆとり・多様性」を求める女性たち

    もう一つ気になったのは、生活の安心やゆとりを重視するクラスターです。こちらも県内大学の女性が7割以上を占めるとのこと。

    このクラスターの女性たちが、なぜ広島県を選ばないのか。調査ではこう分析されていました:

    • 「広島には多様性が低い」という課題感

    • 「精神的なゆとりが持てる」イメージが持てない

    • 「しがらみが少ない」イメージが持てない

    これらは、データではなく、女性たちが感じている「広島県への印象」です。

    「精神的なゆとり」「多様性」「しがらみのなさ」──これらは、目に見えにくい価値観です。けれど、女性たちが「住む場所」「働く場所」を選ぶ時に、これらの要素が大きな影響力を持っているということが、調査から見えてきます。

    そして、ここから先が、データには表れにくい、けれど私が最も丁寧に書きたい論点です。

    データには表れない、もう一つの構造

    ここまでの話は、「専門性を活かせる仕事の少なさ」「働き方の柔軟性」「通勤手段」「職場環境のハード面」という、目に見える構造でした。

    けれど、若者と12年関わってきて、3,000名の声を聞いてきて、私が一番伝えたいのは、ここからの話です。

    データには表れない、けれど決定的に若者を地域から遠ざけている構造があります。

    それは、ハラスメントが許される職場文化、声を上げられない組織の空気です。

    「能力があるから」で許される、地方の現実

    この一年以内に、福山市で実際に起きた話です。

    複数の女性が被害を受けた、コンプライアンス違反を繰り返した人物に対して、複数の男性がこう口を揃えました。

    「能力があるから、関わらせてあげてほしい」

    守られていたのは、その人物でした。 守られなかったのは、声を上げられなかった側でした。

    これは、特定の誰かを糾弾したい話ではありません。地方の中小企業のあちこちで、同じ構造が、いま起きているのだと思います。私が問題にしたいのは、個別の出来事ではなく、こういう判断が**「許されてしまう」構造**そのものです。

    「能力 vs 安全」の天秤が傾いていること

    「能力があるから多少のことは仕方ない」という論理は、無意識のうちに、被害者の痛みより加害者の能力を天秤の上に乗せているということです。

    その天秤の傾き方自体が、すでに一つのメッセージを発しています。

    そしてこのメッセージを、若者は驚くほど敏感に読み取ります。

    「ハラスメントをしても、能力があれば許されるんだ」 「声を上げるより黙っていた方が得なんだ」 「結局、力のある人が正しいんだ」

    言葉にしなくても、その空気は伝わります。そしてその空気を吸った若者たちは、静かにその場を、その組織を、その町を離れていきます。

    地方の若者の転出超過には、さまざまな要因があります。専門性を活かせる仕事の少なさ、働き方の柔軟性、通勤手段。ここまで書いてきた構造は、すべて重要です。

    けれど、その奥底に、**「ダメなことが許される文化」**が潜んでいるのではないかと、私は感じています。

    「お局文化」と「触らぬ神に祟りなし」

    もう一つ、地方の中小企業で温存されやすい構造があります。

    それは、特定の女性社員(いわゆる「お局」と呼ばれる存在)に対して、誰も声を上げないという構造です。

    これは、その女性が悪いわけではありません。「自分の領域を守ること」が最優先になってしまう人物が生まれる構造こそが、組織の問題だと思っています。

    そして、その振る舞いに対して、男性管理職の多くは「触らぬ神に祟りなし」という態度を取ります。同じ振る舞いをしているのが男性部下であれば、研修や人事的な対応が動くかもしれない。でも、「あの女性はそういう人だから」と静かに諦め、見なかったことにする。

    その結果、何が起きるか。

    • 黙認されている不公正な振る舞いを、若いスタッフは毎日目にして育つ

    • 「あの人はいいのに自分たちはだめなのか」という不満が、組織への信頼を削っていく

    • 知っている人は静かに離れていく

    • 辞める時、本当の理由は誰にも告げられない

    辞める理由を「人間関係」と書く人は、ほとんどいません。書いても状況が変わらないことを知っているし、書いた後の居心地の悪さを想像すれば、当たり障りのない言葉を選ぶほうが合理的です。

    でも、離職の本当の引き金は、多くの場合、こうした感情の蓄積です。

    「コンプライアンスが機能していない」という地方の課題

    地方の中小企業が抱える、もう一つの大きな課題があります。

    それは、ハラスメントを取り締まる仕組み(コンプライアンス機能)が、十分に整っていないことです。

    大企業であれば、

    • 通報窓口が独立して機能している

    • 第三者の調査が入る

    • 加害者への処分が、明確なルールで行われる

    • 被害者のキャリアが守られる

    けれど、地方の中小企業では、

    • 通報窓口がない、または形だけのものになっている

    • 経営者と加害者が同じ階層、または知り合いである

    • 「コンプライアンス」という言葉が、社内で機能していない

    • 声を上げた側が、結果的に居場所を失う

    ──こういう構造があります。

    そして、これは経営者だけの問題ではありません。周囲が「知っている」のに、何も言わないことで、構造は維持されていきます。

    「あの人はパワハラ気質だ」と認識している。「あの人は被害を受けた女性に問題があった」と思い込んでいる。「言い方がきついだけ」「昔のやり方についてこれない人がいるだけ」「根は悪い人じゃない」──無数の言い換えで問題を薄めていく。

    認識しているのに容認する。これは、無知よりもたちが悪い側面があると感じています。

    「次世代から選ばれる街」になるために

    ここまで書いてきたのは、告発でも、批判でもありません。

    私がずっと福山で活動してきて、たどり着いた一つの確信があります。

    若者が出ていくのが「ダメ」なのではない、ということです。

    若者は、選んでいるだけです。自分の人生にとって、健やかに生きられる場所を。学んできたことを活かせる場所を。声を上げても罰せられない場所を。

    問題は、選ばれていない今の街を作っているのは、誰なのかということです。

    それは、若者ではありません。

    若者を受け入れる側のおじさん、おばさん、つまり私たち世代なのではないかと思っています。

    「能力があるから」と擁護する大人。 「触らぬ神に祟りなし」と黙認する管理職。 「私たちの時代はこうだった」と価値観を押し付ける先輩。

    これらの態度が、ハラスメントを許す文化を作り、お局を温存し、若者と女性を静かに地域から押し出している。事実として、そういう構造が、いま、福山で動いていると感じます。

    私が黙っていることは、次世代に課題を押し付けることだと思っています。だからこそ、ここに書いています。

    そして、もう一つ大事な視点があります。

    変わるべきなのは、若者だけではないということです。

    若者に「選んでもらえる街」になるために、若者が変わる必要は、それほど多くありません。変わる必要があるのは、受け入れる側の私たちです。

    • ダメなことを、ダメと言える組織を作る

    • 「能力」と「安全」の天秤を、間違えない判断ができる

    • 性別や年齢に関わらず、同じ基準で評価できる管理職を育てる

    • 通報窓口や、第三者が機能する仕組みを整える

    • 沈黙が「問題なし」のサインではないことを、認識する

    これらは、すぐにできることばかりではないかもしれません。でも、「次世代から選ばれる街」になるために、避けて通れない論点だと思っています。

    このテーマについては、私が別のnote記事で詳しく書いています。

    シリーズ本編では、産業構造や働き方など、データから見える構造を中心に書いてきましたが、女性が地域を選ぶ・選ばない判断の核心には、こうした目に見えない要素も大きく関わっていると、私は感じています。

    30代女性の転入が、激減している

    もう一つ、私が気になっているデータがあります。

    それは、福山に「戻ってくる女性」「新たに移ってくる女性」が、激減しているということです。


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    • 30-34歳女性の転入数:▲24.0%減少(2018年→2024年)

    • 35-39歳女性の転入数:▲28.5%減少(同期間)

    7年間で、約4分の1から3分の1も減っています。男性も同年代で減少していますが、女性のほうが減少幅は大きい。

    これが意味することは、結婚・出産・子育て期に差し掛かった30代女性が、福山を「選ばなくなっている」ということです。

    20代で出ていって、30代で戻ってこない。

    この「出ていって、戻ってこない」構造こそが、福山の若年女性人口を継続的に減らしている、最大の要因なのではないかと考えています。

    「選びたくなる地域」とは何か

    ここまで読んでくださった方の中には、「では、どうすればいいのか」という問いが立ち上がっているかもしれません。

    この問いに対する私なりの答えは、別のnote記事で詳しく書いています。

    女性が地方を出ていくのは、「地元が嫌い」だからじゃない。地方が彼女たちに「選択肢を渡さなかった」

    この記事の核は、シンプルに一言にまとまります。

    「魅力がない」と「選択肢がない」は、似ているようで全く違う、ということです。

    前者は感情の問題で、後者は構造の問題。感情に訴えるアプローチと、構造を変えるアプローチとでは、必要な処方箋がまるで変わってきます。

    内閣府が令和6年度に実施した調査でも、地方から都会へ転出した女性が出身地を離れた理由のトップは、「希望する進学先が少なかったから」(35.0%)、次いで「やりたい仕事や就職先が少なかったから」(22.6%)でした。「地元から離れたかったから」という感情的な理由は3番目(20.7%)にすぎません。

    つまり、女性は「地方が嫌いだから」出ていくのではなく、「選べるものがないから」出ていくケースが圧倒的に多い。

    この前提に立つと、私が大切にしている考え方が、5つに整理できます。

    1. 「魅力発信」より「不安解消」が先

    地方の魅力を発信する取り組みは、どこの自治体でも盛んに行われています。けれど、現場で感じるのは、女性が地方への定着や回帰を躊躇するとき、「魅力が足りない」から迷っているのではなく、「不安が解消されていない」から動けないケースの方がずっと多い、ということです。

    「育児をしながら働き続けられるか」「転職したくなったとき、次の選択肢があるか」「夫や家族に合わせて自分のキャリアを諦めることになるのではないか」──こうした具体的な問いに答えられない限り、どれだけ「福山は素敵な街だよ」と発信しても、移住の決断には直結しないと感じています。

    観光PRと定住促進は、別の戦略で動かすべきだと思っています。

    2. 「知る機会」を作ることが、選択肢を渡すこと

    「感謝しなさい」「地元を大切にしなさい」という言葉で若者を引き止めようとしても、うまくいきません。それは押しつけであって、選択肢を渡すことにはならないからです。

    私が活動の根っこに置いている言葉は、「知れば変われる。でも知らなければ選べない」というものです。

    若い女性が地方を出ていくとき、多くのケースで「地元にそういう選択肢がある」ということ自体を知らないだけです。そこにある仕事、そこにいるロールモデル、そこで実現できる生き方の幅──それらが見えていなければ、「ない」と判断するしかない。

    知る機会を作ること。それは「地方に残れ」というメッセージを送ることとは、本質的に異なります。選ぶかどうかは、その人自身が決めること。こちらがやるべきは、「選べる状態」を作ることだと思っています。

    ミライゴトで12年間続けてきた就職支援、Sta-shという地域探究プロジェクト、フクヤマカイギという対話の場──どれも根っこは同じで、「知る機会を作ること」を大切にしています。

    3. 「介入ウィンドウ」を逃さないこと

    データを丁寧に見ていくと、25〜29歳の結婚・離婚イベントのタイミングは、地方にとって唯一の転入超過要因になっている時期です。つまり、この年代の生活変化のタイミングだけは、人が地方に「戻ってくる」流れが生まれている。

    これを私は「介入ウィンドウ」と呼んでいます。窓が開いている時間は限られていて、その前後、特に「結婚後・マイホーム購入前」の期間が、Uターンや移住を実質的に考えられる最後のチャンスになりやすい。

    この窓が閉じてしまう前に、「地元でこんな選択肢があるよ」と届けられるかどうかが、定着を大きく左右すると考えています。

    4. 「出ていった人とつながり続ける」発想

    「若者を戻したい」と願う前に、「一度出た人とどうつながり続けるか」を考えることが、実は最も効果的な施策になりうると感じています。

    同窓会の開催を行政が補助する取り組みがいくつかの自治体で始まっていますが、あの発想は理にかなっていると思います。「帰省するための理由」「地元とのつながりを感じる場」があるかどうかで、その後の選択が変わってくるからです。

    第1回でも書いた、「接点を作り続けることをやめた瞬間に関係は切れる」という言葉。これは、女性と地域の関係にも、まったく同じく当てはまります。

    5. 「離れても、残っても、戻っても。」を支える地域に

    若い女性が地方を出ていく理由は、「地元が嫌いだから」ではないと、私は感じています。知らなかったか、選べなかったか、そのどちらかです。

    だとすれば、私たちがやるべきことは見えてきます。

    「離れても、残っても、戻っても。」 そのどれもが正しい選択であれる地域を、一緒に作っていきたい。

    これが、私の答えです。

    「ダメなことをダメと言える組織」を作る。 「専門性を活かせる仕事」を増やす努力をする。 「休みやすい・早退しやすい」職場文化を、いまある会社の中で育てる。 「公共交通で通える」立地を、雇用の場として意識する。 そして、「一度出た人」との関係を、地域として絶やさない。

    これらは、すべて、いまここからできることだと思っています。

    つまり、若者が地域に残る・戻ってくるためには、

    • 大学で学んだ専門性を活かせる、やりがいのある仕事があること

    • 休暇や早退、時短勤務など、生活の事情に合わせて柔軟に働けること

    • 結婚・出産後もキャリアを続けられる職場文化があること

    • 多様な業種・職種の選択肢があること

    • 車がなくても、通勤・生活ができる環境があること

    • ハラスメントが許されない、声を上げられる組織文化があること

    • 離れた人と地域がつながり続ける接点があること

    これらが揃っていることが、必要条件なのではないかと思います。

    産業構造より先に、変えられること

    産業構造を変えるのは、簡単なことではありません。一朝一夕には進まないし、行政だけ・企業だけ・市民だけで動かせるものでもありません。

    ただ、「産業構造を変える」より先にできることがあると感じています。

    それは、いまある仕事を、もっと働きやすい仕事に変えていくことです。

    製造業中心という産業構造はすぐには変えられなくても、

    • 「子供の発熱で、堂々と早退できる職場」になることはできる

    • 「半休・時間休が、当たり前に取れる職場」になることはできる

    • 「育休から復帰した女性が、活躍できる職場」になることはできる

    • 「車がなくても通える、駅近のオフィス」を選ぶことはできる

    • 「ダメなことを、ダメと言える組織」になることはできる

    これらは、産業構造の問題ではなく、個別の企業の判断でできることです。

    第1回でも書いたことですが、私が大切にしている考え方は、「離れた瞬間に関係が切れるのではなく、接点を作り続けることをやめた瞬間に関係は切れる」というものです。

    これは、地域と若者の関係にも、同じく当てはまると思っています。

    進学で離れた人、就職で離れた人、結婚で離れた人──それぞれのライフステージで、「福山と関わり続けられる接点」が、地域の側からどれだけ用意されているか。

    「戻ってきてほしい」と願う前に、まずは「離れた人たちが、いま何を考え、どんな仕事をし、どんな人生を歩んでいるのか」を、地域として知ろうとすることが、最初の一歩なのではないかと感じています。

    そして、もう一つ。

    変わるべきは、若者ではなく、受け入れる側の私たちだということ。

    「今までの当たり前は、これからの当たり前じゃなくていい」──これは、私がずっと大切にしてきた言葉です。これは若者に向けた言葉であると同時に、私たち世代に向けた問いでもあります。

    ここから、どんな問いが立ち上がるか

    このデータから、次のような問いが立つのではないかと思っています。

    1. 大学で学んだ専門性を活かせる仕事が、福山にどれだけあるか?  情報通信、教育、専門サービスなど、専門性を活かしたい若者の希望が集中する業種の選択肢を、どう増やしていくか。

    2. 「職場環境」が、若者の最終決定にどれだけ影響しているか?  ハード面(立地・建物・快適さ)と、ソフト面(多様性・ゆとり・しがらみのなさ)の両方を、どう整えていくか。

    3. 「休みやすい・早退しやすい」職場文化が、福山にどれだけあるか?  子育てや介護など、生活の事情と仕事を両立できる柔軟性を、どう作っていくか。

    4. 車がなくても働ける環境が、福山にどれだけあるか?  公共交通でアクセスできる場所に雇用を増やしていけるか。

    5. 「ダメなことをダメと言える」組織文化が、福山の企業にあるか?  ハラスメントを許さない、声を上げられる、コンプライアンスが機能する仕組みを、どう作っていくか。

    6. 30代女性が「戻りたくない」理由は何か?  20代で出ていった女性たちの、いまの想いを、地域として把握できているか。

    7. 離れた若者たちと、地域はどうつながり続けられるか?  「戻ってきてほしい」と願う前に、関係を続ける仕組みを、どう作るか。

    8. 「福山にもこんな仕事がある」という情報は、外に届いているか?  離れた若者たちが知らないだけで、選ばれていないものがあるのではないか。

    これらの問いは、簡単に答えが出るものではありません。だからこそ、立場を超えて一緒に考えていけたらと思っています。

    次回予告:30代女性が、福山に戻ってこない

    第3回では、今回少し触れた「30代女性の転入激減」というテーマを、さらに深く掘り下げます。

    広島県の調査では、Uターン意向のあった女性が、ライフステージが進むほど「戻ることを諦めていく」というデータが出ています。

    結婚時に「戻りたい」と思っていた女性のうち、25.5%が諦める。 マイホーム購入時には、58.2%が諦める。

    つまり、結婚〜マイホーム購入の間に、Uターンの意思は急速にしぼんでいく。

    なぜ、結婚・出産期の女性は、福山を選ばなくなっていくのか。次回、丁寧に見ていきたいと思います。

    このシリーズが、福山に関わる方々が、それぞれの立場で考えるきっかけになれたらと思っています。


    ※出典・参考

    • 福山市公表資料「福山市のリアルな数字」(2026年3月)

    • 広島県「若年層の社会減少要因調査分析(概要資料)」(令和6年10月)

    • 総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2024年〔令和6年〕)

    • 広島県「広島県人口移動統計調査(乙調査)」(2024年〔令和6年〕)

    • 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」

    • 国土交通省「令和6年度 テレワーク人口実態調査」(2025年3月公表)

    • ソニー損害保険「2025年 20歳のカーライフ意識調査」

    • 内閣府「地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査」(令和6年度)

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    ※数字の解釈や、そこから引き出した問いは、筆者個人の見解です。

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    一般社団法人ミライゴト代表理事| 山陽不動産34 取締役副社長|㍿山陽管理 代表取締役|経済産業省中小企業庁創業機運醸成賞受賞| 0→1を実践する経営者|24歳で赤字会社を15年連続増益増収へ|起業支援|シェアオフィス5棟運営|学生創業イベント主催|新しい就活|人材紹介業許可取得

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