
福山の若者の進学・就職データ:「自市進学率26.6%」が示す備後圏域の構造【シリーズ第1回/全5回】
福山の若者の進学・就職データ:「自市進学率26.6%」が示す備後圏域の構造【シリーズ第1回/全5回】
福山の高校生のうち、約7割が、卒業と同時に地元を離れます。 市内に残るのは、たった30.4%。

ただ、この数字を私は「流出」とは捉えていません。
むしろ、チャレンジしたい若者が多いことの表れであり、福山の高校生が望む進学先が市内にないという、ごく自然な現状を示しているだけだと思っています。
外に出ることは、いいことだと感じています。視野が広がるし、選択肢も増える。私自身、外に出て戻ってきた一人として、その経験の価値を疑ったことはありません。
それよりも、私が気になっているのは別のことです。「外に出た若者と、地域の側に接点が残っているか」──ここからが、福山の話を始めたいポイントだと思っています。
「県単位」で語られがちな地方創生の議論は、もしかしたら本質を見落としているのかもしれない──そう感じたのが、福山市の進学・就職データをじっくり眺めた時でした。
前回のおさらいと、今回の問題提起
前回の記事「広島県の大学進学率と自県進学率:全国データから見える、若者の地域移動のいま」では、広島県全体のマクロな構造を整理しました。
広島県の大学進学率は55.1%(全国平均とほぼ同じ)、自県進学率は53.3%(全国7位)。中国地方の大学集積地として、周辺県から学生を集める役割も担っています。
ところが、福山市から見ると、まったく違う景色が見えてきます。同じ県内でも、自治体単位に解像度を一段下げると、別の構造が浮かび上がってくる。これが今回の記事でお伝えしたい、一番のポイントです。
「自市進学率26.6%」という、新しい視点
最近、福山市の若者の進学・就職に関するデータをじっくり見る機会がありました。その中で、私が何度もメモを取り直した数字があります。
「自市進学率26.6%」
「自県大学進学率」(県内に残る割合)と同じように、「自市進学率」(市内の大学に進学する割合)を計算すると、福山市の数字は26.6%。広島県全体の自県進学率53.3%と比べると、半分以下の水準です。
これは「福山に大学が少ない」というだけでは説明できない数字だと感じています。備後圏域の地理的特性、産業構造、文化的背景など、複数の要因が絡んでいるのではないかと考えています。
そして、市町村単位でこういう数字を把握している自治体は、全国でもあまり多くないと聞きます。福山市が独自にこのデータを把握しているということ自体、政策立案の基礎として価値のある取り組みなのではないかと感じました。
福山の高校生は、卒業後どこへ?
進路の全体像を見てみます。

進学する人が約8割(市内+市外)。そのうち、市外への進学が58.0%です。
この数字を見て、私は改めて「進学で外に出ること」が、福山では完全に「前提」になっているのだと感じました。
広島県全体の自県進学率53.3%と比べると、福山の構造がいかに「外向き」かが見えてきます。
進学先の内訳が示す、福山の地理的特性
進学する人の進学先を見ると、福山特有の地理的な構造がはっきり出ます。
ここで注目したいのは、福山市の高校生にとって、岡山県(19.4%)と関西圏(18.1%)への進学が、広島県の他の地域(14.6%)への進学よりも多い、という事実です。
これは、地理的に納得できる構造だと思います。
福山→岡山市:新幹線で約15分
福山→広島市:新幹線で約30分
福山→神戸・大阪:新幹線で約1時間
時間距離で見ると、広島市は遠く感じる。
岡山市はとても近い。関西も思ったより近い。福山の高校生にとって、広島市は「県内」というより、むしろ「やや遠い場所」なのかもしれません。
「3つの方向への分散」が示すこと
福山の高校生の進学先は、
広島県(福山+県内他):41.2%
岡山県:19.4%
関西:18.1%
広島・岡山・関西の3つの方向に、それぞれ一定の規模で分散しています。
これは、Uターン政策を考える上でも重要な示唆を与えてくれると感じています。広島県内だけを見ていては、福山に縁のある若者の半数以上を取りこぼすことになる。岡山や関西に進学した若者と、いかに福山との関係を継続してもらうかという視点が必要なのではないかと考えます。
もう一つ気になる数字:市内就職9.4%
進学だけでなく、就職データにも目を向けてみます。
高校卒業後すぐに福山市内で就職する人は9.4%。市外就職(4.0%)と合わせても、卒業時点で就職する人は13.4%です。
つまり、福山市内に高校卒業時点で「残る」のは、
市内進学(21.0%)+ 市内就職(9.4%)= 30.4%
ということになります。
約7割の若者が、高校卒業のタイミングで福山を離れている。これが、福山の「若者の流れ」の出発点なのだと思います。
「7割が出ていく」と聞くと衝撃的に響きますが、進学が中心とはいえ、これは事実として受け止める必要があると感じています。
政策の前に、もっと手前にある課題
「Uターン政策」という言葉を、よく耳にします。けれど、福山の現場で感じているのは、政策の枠組みを議論する以前に、もっと手前にある課題のような気がしています。
それは、一度福山を出た若者と、地域の側に接点がほとんど残っていない、ということです。
進学で岡山に行った人、関西に行った人が、いま何を考えているのか。Uターンしたいのか、そうでないのか。戻る可能性があるとして、何を求めているのか。こうした「相手の声」が、地域側にほとんど届いていない。それが正直な現状だと感じています。
接点がなければ、相手のことを知ることができない。知らなければ、何を届ければいいか、設計のしようがない。私がずっと活動の根っこに置いてきた「知れば変われる、知らなければ選べない」という言葉は、若者側だけでなく、地域側にも同じように当てはまる構造だと、データを眺めながら改めて思いました。
12年間で見えてきたこと
ミライゴトとして、約3,000名の若者と12年間関わってきて見えてきたことがあります。
関係は「離れた瞬間」に切れるのではなく、「接点を作り続けることをやめた瞬間」に切れる、ということです。逆に言えば、離れても関わり続けられる仕組みさえあれば、距離はそれほど問題にならないのかもしれません。
その「仕組み」を、私自身も次の一歩として準備しているところです。詳しくは、また別の機会にお伝えできればと思っています。
大学進学後、彼らはどこへ就職するのか
ここからは少し補足的な視点ですが、第4回で詳しく取り上げる予定の「市内大学生の動向」にも触れておきます。
福山市内の大学に通う学生の半数以上(64%)は、市外から来ているそうです。県外出身者が4割を占めます。
これは「福山市が学生を集める力を持っている」とも言える一方で、「集めた学生を、地域に留めることができているか」という別の問いも生まれます。
福山市内大学生の市内就職率は、近年下がっているとのこと。せっかく集めた学生が、卒業後は市外へ流れている、という構造があるそうです。このテーマは、第5回で詳しく取り上げる予定です。
ここから、どんな問いが立ち上がるか
このデータから、次のような問いが立つのではないかと思っています。
「外に出ること」が前提なら、いつ・どう戻ってくるのか?──卒業後すぐに7割が出ていく構造の中で、戻ってくるタイミングや経路をどう設計するか。
進学で外に出た若者と、福山はどうつながり続けられるのか?──離れていても関わり続けられる関係性を、地域として、どう作るか。
進学先が3方向(広島・岡山・関西)に分散していることを、どう活かすか?──広島県内だけでなく、岡山・関西に進学した若者との関係構築は、どうするか。
市内に残る30.4%の若者に、どんな機会が提供されているのか?──「残った若者」への支援は、十分なのか。
市内大学に「集まってくる」県外の若者は、福山の財産にできているか?──福山市内大学生の64%が市外出身という事実を、地域として、どう活かすか。
これらの問いは、簡単に答えが出るものではありません。だからこそ、立場を超えて一緒に考えていけたらと思っています。
次回予告:20代女性の転出が、止まらない理由
第2回では、若年層の中でも特に深刻な「20代女性の転出」を取り上げます。
20〜24歳の女性の転出超過は、2024年で▲316人。男性(▲205人)よりも、女性のほうが、福山から出ていく数が多いというデータがあります。
なぜ、女性のほうが顕著に転出するのか? 背景には、福山の産業構造との関係があるのではないか、というデータも見えてきました。
このシリーズが、福山に関わる方々が、それぞれの立場で考えるきっかけになれたらと思っています。
※出典・参考
福山市公表資料「福山市のリアルな数字」(2026年3月) 広島県「若年層の社会減少要因調査分析(概要資料)」(令和6年10月)
※数字の解釈や、そこから引き出した問いは、筆者個人の見解です。
角田千鶴(つのだ・ちづる)/地域若者共創プロデューサー
有限会社山陽不動産 取締役副社長
一般社団法人ミライゴト 代表理事
山陽管理株式会社 代表取締役。
広島県福山市を拠点に、若者と地域の接点をつくる活動を12年。DioPorteを皮切りに、起業体験プログラムSta-sh修了生360名超、中高生の居場所STUily年間1,000名超の運営をサポート。「知れば変われる。でも知らなければ選べない。」をすべての活動の根っこに置く。