
3-2【IRを読み解く】私は“逆走”でIRを覚えた
IRについては、世の中に実務情報が山ほどある。
「こう説明すべき」「この資料を作るべき」「投資家はこう見る」——
そういう“正しい IR のやり方”は、検索すればいくらでも出てくる。
ただ、私は見様見真似で IR を覚えた人間なので、
教科書的なことを語れる立場ではない。
だからここでは、
私が IR とどう向き合ってきたか、という経験談を書きたい。
■ IRとの最初の出会いは「裏方の裏方」だった
初めて IR に触れたのは、28歳のとき。
HUDSON で経理をしていた頃だ。
すでに上場していた会社だったので、私が担当したのは
原価計算
セグメント情報
キャッシュフロー計算書
といった、IR の“材料”を作る側の仕事だった。
この頃から、なんとなく
「30代のうちに、自分の手で上場と IR を経験したい」
と思っていた。
そして2011年、38歳で、それが叶うことになる。
■ 上場後、突然やってくる“IRの洗礼”
上場までは、証券会社が手厚くサポートしてくれる。
ロードショーも、証券会社が段取りしてくれる。
ところが——
上場した瞬間、容赦なく IR 面談の申し込みが入ってくる。
しかも機関投資家から。
当時、社内に IR 経験者はゼロ。
管理部長だった私がやるしかない。
幸いだったのは、
当時の社長が別会社で CFO をしていた経験があり、
上場前のロードショーでずっと横に付いて歩き、
“機関投資家対応の空気”を肌で感じられたことだ。
上場後、社長が全部の面談をやるわけにはいかない。
だから私は、見よう見まねで IR を始めた。
■ 年間150件。気づけば“IR漬け”の日々
最初は緊張したが、
だんだん聞かれることもわかってくる。
創業経緯
ビジネスモデル
市場環境、競合他社、競争優位性
成長性
足元の業績
業績が順調だったこともあり、
気づけば年間150件ほど IR 面談をしていた。
2010年代、当社は小型株のわりに
機関投資家比率が40%近く、時価総額も500億円を超えたことがある。
完全に“機関投資家向け IR の会社”だった。
■ そして2020年代。状況は一変する
事業再編費用、投資損失などが続き、 時価総額は減少傾向。
機関投資家比率も下がり、
個人投資家向け IR が必要なフェーズに入った。
ところが私は、
個人投資家向け IR をやったことがない。
普通は、
個人投資家対応→機関投資家対応
と経験していくのだが、
私はその逆を経験している。
機関投資家対応 → 個人投資家対応
なかなか珍しいキャリアだと思う。
幸い、個人投資家 IR の経験者が入社してくれた。
私自身も改めて勉強しているところだ。
■ 私にとっての IR は、“会社の中と外をつなぐ作業”に近い
IR を続けていて強く感じるのは、
会社の中でどれだけいいことをやっていても、開示しない限り、投資家には一切伝わらないということだ。
だから私は、社内を見渡しながらよく考える。
何か発信できることはないか
投資家に知ってもらった方がいいことはないか
どういう言葉なら、会社の“温度”まで伝わるか
この センテンスやワーディングを考える時間が、けっこう好きだ。
文章を整えるというより、会社の輪郭を少しずつ形にしていくような感覚に近い。
上場準備でロードショーの資料を作っていたとき、
証券会社の担当者に「乾坤一擲」の思いで作るように言われたことが、
今でも印象に残っている。
そして、投資家と話していると、
自社がどう見られているかがよくわかる。
その“外からの視点”と、
社内で起きている“内側の現実”の間に立って、
どう会社を見せるかを調整していく作業も、私は嫌いではない。
上場準備が“翻訳と調整”の連続だったように、
IR もまた、
会社と投資家の温度差を少しずつ整えていく仕事だと感じている。
偉そうに語れるほど洗練された IR をしてきたわけではないが、
少なくとも私は、そんなふうに向き合ってきた。
■ 再成長に向けて、もう一度 IR を学び直している
今、当社は再成長に向けた施策を進めている。
その中で、私はもう一度 IR を学び直している。
個人投資家の視点
長期投資家の視点
成長営ストーリーの再構築
IR は、会社の“今”を伝えるだけではなく、
会社の“未来”を一緒に描く作業だと感じている。
次回は、
【アクティビスト対応を読み解く】知らない世界の扉が突然開く
について書いていきたいと思います。