
3-5【子会社不祥事を読み解く】静かに始まり、静かじゃなくなる瞬間
アクティビスト対応がようやく一段落した、ほんの1か月後のことだった。 「今年は少し落ち着くかもしれない」——そんな淡い期待を抱いていた。
その矢先、子会社の勘定科目チェックで、不透明な外注費が見つかった。
この子会社は規模が大きくなってきており、もうすぐ J-SOX の範囲に入る。
その準備として内容精査を始めたところでの発見だった。
最初は、監査法人も私も、
「まあ、そこまで大ごとにはならないだろう」
という認識だった。
しかし、ここから空気が変わっていく。
■ 監査法人の“温度”が日に日に変わっていく
監査法人が本部に相談したあたりから、
彼らの表情と声のトーンが、少しずつ変わり始めた。
「調査委員会の設置が必要です」
「類似案件の調査も必要です」
「これは一従業員ではなく、子会社役員の不正です」
言葉の重さが、日に日に増していく。
ニュースで聞いたことはある。
第三者調査委員会、特別調査委員会——。
まさか自分の会社がその渦中に入るとは思っていなかった。
青天の霹靂とは、こういうことを言うのだろう。
■ 大手法律事務所に頼めば数千万円。現実的ではない
調査委員会を作るにしても、
大手法律事務所に依頼すれば、報酬がいくらになるかわからない。
弁護士、会計士、フォレンジック会社。
必要な専門家は多いが、予算には限りがある。
「どうしようか…」と頭を抱えていたとき、
ここでも “頼れる存在” が助けてくれた。
調査委員会経験のある弁護士を紹介してくれた
たまたまスケジュールが空いていて、リーズナブルな報酬で引き受けてくれた
別の頼れる存在が、不正調査経験のある会計士を紹介してくれた
その会計士が、デジタルフォレンジック会社まで紹介してくれた
(このとき初めて“フォレンジック”という言葉を知った)
こうして、弁護士である監査等委員を加え、
弁護士2名+会計士1名の特別調査委員会
を立ち上げることができた。
■ 初回打ち合わせで“別次元”を知る
監査法人・調査委員会との初回打ち合わせ。
Zoom に監査法人が十数人が現れた瞬間、事の重大さを理解した。
いつもの往査担当だけでなく、本部の人間がズラリと並ぶ。
往査担当は、どこか“会社側扱い”のような空気になっていた。
「調査範囲が足りていない」
「フォレンジックのキーワードが不足している」
普段の監査対応とは、まったく別次元の要求だった。
■ 調査報告書の舞台裏は書けないが、壮絶だった
調査報告書をまとめる舞台裏は、書けないことが多い。
ただ一つ言えるのは、
監査法人 × 調査委員会 × 当社コーポレート部門
この三者のやり取りは、壮絶だった。
夜な夜な作業が続き、
コーポレート部門が一丸となって対応した。
■ 決算発表延期。上場来初の経験
当初のスケジュールでは決算発表が間に合わず、
上場来初めての決算発表延期を開示した。
ただ、45日以内には発表でき、
四半期報告書も期限内に提出できた。
東証は四半期報告書の遅延に非常に敏感で、
ここが遅れるとまた別の“地獄のフェーズ”に入る。
それだけは避けたかった。
■ 損害額は全額回収できた
幸いだったのは、損害額が
D&O保険の調査委員会設置特約
本人からの弁済
により、全額回収できたことだ。
これは本当に運が良かった。
■ 不祥事は、起きた瞬間から“別世界”が始まる
不正が起きると、本当に大変な思いをする。
ただ、今回の件で、
不祥事発生時の一通りの対応を経験することができた。
もちろん、起きないに越したことはない。
しかし、コーポレート部門で働く者としては、
この経験は大きかった。
■ シリーズ3のまとめ:上場企業の“裏側”は、静かで、複雑で、そして人間的だ
シリーズ3では、
上場準備
IR
アクティビスト対応
M&A
子会社不祥事
という、上場企業のコーポレート部門が直面する“裏側”を書いてきた。
どれも教科書には載っていない。
どれも正解がない。
そしてどれも、人間関係と温度がすべてを左右する。
私自身、
右も左もわからないまま IR を始め
アクティビスト対応で胃が痛くなり
M&Aで誰が味方かわからなくなり
子会社不祥事で夜な夜な資料を作り
それでも会社を前に進めるために調整し続けてきた
そんな10数年だった。
上場企業のコーポレートは、
正しさだけでは動かない。
制度だけでも動かない。
人だけでも動かない。
その間にある“温度”を整えることが、
結局いちばん大事なのだと思う。
シリーズ3を読んでくださった方が、
少しでも「上場企業の裏側ってこうなっているのか」と感じていただけたなら嬉しい。
シリーズ3のサムネイル写真は、インドを旅した際の各地の観光地です。