
修士課程修了と3本の論文。採択と不採択のあいだで学んだことー査読への挑戦②
先生方から厳しく本質的な質問をいただき、早くも鼻をへし折られた修士論文の最終試験。その手痛い洗礼に焦りと危機感を抱きながらも、書き直しの修正に追われる中で、私は無事に大学院の修了式を迎えることとなりました。
自己紹介はこちら
やりきった安堵感と、アカデミアの壁の厚さを知った緊張感が同居する中、式の後に行われた打ち上げの席。私は指導教員の先生の前に立ち、改めて自らの覚悟を伝えました。
「先生、私は1年間の準備期間を空けて、必ず博士後期課程に挑戦します」
先生は私の言葉を静かに受け止めてくださいました。さらにその席で、先生から「今年も一緒に学会で共同発表をやりますか?」という、願ってもない温かいお誘いをいただいたのです。
この恩師との誓い、そして再びいただいた大きな打席を胸に、私は修士修了という一つの区切りに浸る間もなく、次なる戦いへと身を投じることになります。目指すは、修士論文をベースにしながら、学会・学術誌でも通用する複数の論文へと磨き直すことでした。
1. 2026年3月、3本の論文の完成
ここからの私は、ほとんど執筆に取り憑かれたような日々を過ごしていました。 これまでの失敗と先生からの教訓を片時も忘れず、論文の命綱である「先行研究の網羅性」「リサーチ・デザイン(方法論)の厳密さ」「事例選定の妥当性」「理論的根拠の積み上げ」に対し、細心の注意を払いながら文字通り机にかじりつきました。
先生と今年も共同発表するための共著論文の準備を進めつつ、単著のアウトプットにも全力を注いだ結果、修了の月である3月までに3本の論文原稿を仕上げることができました。
割り振りは、1本を査読付きの「学術誌」への投稿用。残りの2本を「学会発表」のエントリー用。前回の挫折から這い上がり、短期間でこれだけのアウトプットを揃えられたことで、私の中には「これならいけるはずだ」という確かな手応えが戻りつつありました。
しかし、アカデミアの審査は、実務の論理やスピード感とは異なる基準で動く、一筋縄ではいかない世界でした。
2. 明暗
新年度を迎えた4月。投稿していた学会発表の採択結果が相次いで届きました。その結果は、まさに「明」と「暗」が分かれる展開となりました。
まず届いたのは、日本の経営学分野でも大きな学会の一つからの通知でした。予定稿を準備して送付し、結果は、【採択】。 口頭発表段階とはいえ、発表を終えれば論文投稿の権利も得られる大きな一歩であり、全国の研究者たちが集う舞台の入り口には立てた。ひとまずは、ホッとしました。
ところが、その余韻に浸る間もなく届いたもう1本の通知に、私は文字通り呆然とすることになります。もう一つエントリーしていた別の学会は、要旨段階での審査でした。こちらは少ない文字制限の要旨段階での審査でしたが、結果は不採択でした。
「なぜ、大きな学会の一つには発表予定原稿で通って、一方で、別の学会では要旨段階で落とされるのか?」
実務の世界であれば、実績や論理の規模で整合性が取れるはずです。しかし、評価者の視点や学会ごとのコンテキストによってこれほどまでに結果が反転する。アカデミアが持つある種の洗礼を、私は身を以て知ることになりました。
ただ、少し時間を置いて考えると、この経験は単なる不条理ではなく、学会ごとに求められる文脈や問題設定が異なるという、当たり前でありながら重要な事実を突きつけるものだった。研究は、良い内容を書けばどこでも同じように評価されるわけではない。どの場で、どの読者に、どの理論的会話として差し出すのか。その設計まで含めて論文なのだと、私はこのとき痛感した。
3. 終わらない洗礼。再びの嫌な予感
一瞬、結果を受け入れがたい気持ちが私を突き動かしました。しかし、ビジネスの修羅場で培ってきた私のマインドは、ただ落ち込んだり愚痴を言ったりすることを許しません。届かなかったのなら、別の場で、より磨いた形にして出すしかないと、私は不採択の通知を受け取ったその日のうちに、まだどこにも投稿していなかった3本目の手元の論文を開き、3日間で大修正を敢行。方向を変え、学術誌への投稿に挑戦することにしました。
これで4月の嵐は一息つくかと思われました。しかし、そこで一息つけるほど、研究の道は甘くありませんでした。
4月中旬。私は打ち上げの席で約束していた、先生との今年の共同発表に向けた論文の原稿を、満を持して先生へと送付しました。
数日後、返ってきた先生からのフィードバックは、修了前にも増して厳しいものでした。
「前回よりもさらに厳しく言わざるを得ない」 「先行研究との対話、ここをどれだけ丁寧にやれるかがすべてだ」 「これが抜けてしまうと、どんなに貴重なデータであっても、ただのあなたの『経験談』で終わってしまう」
チャレンジで挑んだ学会に採択され、少し安堵し、手応えを感じ始めていた自分の甘さを一気に引き戻されるような衝撃でした。どこまでいっても突きつけられる「先行研究との対話」という壁。
せっかく3日の猛集中で別の学術誌へと送付した論文の存在も頭をよぎり、私の胸の内に、またしてもあの「嫌な予感」がじわじわと広がってきました。
ただ、採択も不採択も、単なる結果ではなく、自分の研究がどの読者に、どの文脈で、どの程度届いているのかを知るための重要なフィードバックなのだと、少しずつ受け止められるようになってきました。
実務では、結果が出れば一定の説得力を持ちます。しかし研究では、結果だけでなく、その問いがどの先行研究と接続し、どの読者に向けて、どのような貢献として提示されるのかが問われる。その違いを、私はこの時期に何度も突きつけられました。
しかし、この圧倒的な壁の高さ、そして知的なヒリヒリ感こそが、今、私を最高に突き動かしています。 迫りくる予感と戦いながら、論文たちをいかに「本物の学術論理」へと磨き上げていくか。1年後の博士後期課程への挑戦に向け、私の格闘のタイムラインはまだまだ続いていきます。
(つづく)
査読への挑戦①
査読への挑戦③
査読への挑戦④
査読への挑戦⑤
査読への挑戦⑥