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今月読んだ児童文学を語る【2026年4月】


なんとか続いています



梨屋アリエ『真昼にも星が光ると知ったのは』

2025年、ポプラ社

昨年10月に出版されたばかりのYA(ヤングアダルト)向け小説。
色んな人から推されていたので読んでみました。
↑の帯文の通り、盲ろう者(目と耳にディスアドバンテージのある人)が出てくる話ですが、それだけではなく、重度の身体障害で寝たきりながら機械音声を使って喋り、ネットに短歌を投稿しているひとや、ASD(自閉症スペクトラム)のひと、それから同性愛者など、さまざまなマイノリティが登場します。

主人公である中学2年生の夏鈴の語りがかなり特徴的で、ぐんぐん読ませる力があります。とても読み易い。かつ、非常に学びのある、啓発されるおはなしです。

障害は個々人にあるものではなく、そういう人に不自由をさせてしまう社会じたいが作り出しているものだ、という障害の社会モデルをしっかり描いていてよかったです。

ただ、いろんなマイノリティを次々と登場させ、パズルのように組み合わせてドラマを作っている感じにも少し思えてしまい(茉白のトラウマ設定とか)、完全には乗り切れませんでした。作者が勉強した成果をそのまま小説にしている風にも読めました。

しかしまぁ、この素晴らしい作品を味わいきれないのも自分の至らなさというか、わたしの差別意識が露わにされるようで、なんとも居心地が悪く、申し訳なくなりました……。



神戸遥真『25センチの恋とヒミツ』

2022年、偕成社

はやくもお気に入りレーベルになっている「偕成社ノベルフリーク」の1冊。(この叢書はどれも読み易くて好きです)

表紙のぱっと見の印象から、『放浪息子』や『ふたごチャレンジ!』的な、ジェンダーアイデンティティに悩む男女ふたりの異性装のお話かと想像していたんですが、そんなことはなく、もっとストレートに、男子が王子様を、女子がお姫様をやる王道の少女マンガっぽいお話でした。

身長による周囲からの見られ方とコンプレックスに悩む中学生たちがお互いの呪いを少しずつ解き合いながら近づいていく初々しいさまに悶絶しながら読みました。こういうのがいっちゃん好きや・・・

男子と女子のダブル主人公制で、1章ずつ交代でそれぞれの視点で物語が進んでいく構成も、その瑞々しさを増していました。

かなり保守的なヘテロ譚なんですが、だからこそ、その異性愛規範に虐げられているマイノリティの存在も少しだけ描いており、ハッとさせられました。



石川宏千花 他『もし、自分を平凡だと感じたら』

2025年、偕成社

こちらも偕成社で、人間関係の悩みによりそうアンソロジー" と銘打たれた「人とのつながり こんなときは」シリーズの1冊。5名の作家による、テーマに沿った短編が収められています。
わたしはよく自分を平凡だと感じて夜に泣きながらちぢこまっているので、この巻に興味を惹かれて読んでみました。

目次はこんな感じ。

もし、ぽつんとしてしまったら 石川宏千花
もし、緊張感のない女子校に入ったら おおぎやなぎちか
もし、伴奏を断ったなら 杉成恵佳
もし、自分が平凡だと感じたら イノウエミホコ
もし、早く大人になりたいと思ったら 工藤純子

最初の「もし、ぽつんとしてしまったら」は、1月に読んで大好きになった『保健室には魔女が必要』シリーズの石川宏千花さんの作品。
めちゃくちゃ良かったです。やっぱりこのひとの描く児童文学が好きだ~~とおもいました。

現実では物語のように悩みから都合よく救われるわけではないけれど、物語を安心できる居場所として逃げ込むことでなんとか息ができる、やり過ごせることもある。とても現実的で誠実な、アンソロジーのテーマに的確に応えている短編でした。

2つ目の、おおやなぎちか「もし、緊張感のない女子校に入ったら」は、タイトル=テーマ設定からしてどゆこと???という感じでしたが、いざ読んでみても、この問いにどのように応答しているのかよく分からず、アンソロジーの1作としては疑問が残りました。単なる短編としてはそこそこ良かったです。
初めて読む作家さんでしたが、文体がかなりラフ・素朴で、特徴的だったのが好感持てました。

のこりの3作も、どれも小品ながらよくまとまった児童文学の短編でしたが、工藤純子「もし、早く大人になりたいと思ったら」は、トリを飾るのにふさわしい、非常にエモーショナルな作品だったので、アンソロジー全体の読後感が良かったです。

全5巻、5×5で計25編が読めるようなので制覇したいっすねぇ~~



さて、YA向け小説3冊をご紹介しましたが、今月はここからが本番です。

今月の最大のトピック、それは……


五味太郎から絵本にハマった

ということです。
(wikiで調べたら、絵本だって「児童文学」に含まれるようなので、このnoteで紹介してもいいよね いいよ)

4月11日に、このようなnoteを投稿しました。

ツイッターで話題になっていた絵本『たべていいよね』をきっかけにして、題の通りメタフィクション的な絵本を調べて何冊か読んでみました。

年を重ねてから絵本なんてめったに読まないものですから、久々にふれる絵本はどれも新鮮で面白く読めました。

そして、そのなかでも、五味太郎『きみは しっている』に衝撃を受けました。さすが絵本界のレジェンドでした。

『きみはしっている』

1979年、岩崎書店

今月のベスト児童文学

なにがすごかったのか、詳しくは ↑ のnoteに書いてあります。

この本から「五味太郎の絵本をいろいろ読んでみようかな~」と思い、図書館の絵本コーナーに通うようになりました。

すると、図書館の新刊コーナーで、こんな本を見つけました。

『五味太郎絵本クロニクル 1973-2025完全版』

2025年、アノニマ・スタジオ

これから読んでいこうと思っていた作家の作品をまとめた本が、ちょうど昨年12月に出版されていて、それが最寄りの図書館にちょうど今月、入ってきたようなのです。二度見しました。即借りました。

中身は、こういう↑感じに各作品の表紙が載っていて、詳細情報と、五味太郎さんの「一言」が付いている図鑑のようなものです。
巻末のインタビューがとても面白かったです。

すごい迫力です

* * *


ところで、4月の週末に、おいしいものを食べようと友達に誘われて、千葉県の佐倉市まで足を運ぶことがありました。

待ち合わせ場所に向かう佐倉駅の構内で、わたしの視界にひとつのポスターが飛び込んできました。

・・・・ん?

ええっ!!

たまたま初めて来た片田舎で、ちょうどハマりかけていた絵本作家の企画展やってんの!????

しかもちょうど1週間前に始まってるじゃん!!!

ポスターを2度見、いや3度見はしました。

ここまでくるとさすがに怖くなるくらい運命を感じました。
友達との用事が終わったあと、急遽ひとりで市立美術館にも寄ることにしました。

わたしは導かれている……絵本の神様的なナニカに!


五味太郎 絵本クロニクル展に行った(偶然)

展示室のなかは撮影禁止でしたが、入口前には、代表作『きんぎょが にげた』の多言語版などが飾られていました。

展示内容は、というと、まず『みんなうんち』『むかしのこども』などの計6作の原画が、展示室の壁をめぐるかたちで飾られていました。なかでも、新しめの作品『りょこうにいこう!』が原画で読んで気に入りました。

『りょこうにいこう!』

2024年、偕成社

住人がりょこうに出かけているあいだに、いえ(一軒家)もりょこうに出かける、という楽しいお話です。

ページの端っこにある、文字や記号っぽいものが描かれた四角いアイコンみたいなの、なんだろう……と気になっていましたが、どうやらここ数年の五味太郎はこういう意匠にはまっているようです。

なぜわかったのか。それは、企画展の各部屋の中央にある長テーブルに五味太郎がデビューした1973年から2025年までの52年間に手掛けた、400冊近くの絵本が置かれていて、読み放題だったからです。

ちょうど五味太郎作品を読み漁りたいと思っていたので本当に助かりました(←この構文でガチなことってあるんだ……)

しかも、1973年の作品はここ、1974年の作品はそのとなり……というふうに、一年ごとにスペースが区切られていて、五味太郎の52年間の絵本作家としてのあゆみそのものが "展示" されているかのようでした。
とちゅう1年でも休んでいる年があったら空白になってしまうのですから、すさまじいことです。

そこで読んだ本のすべてを紹介はしませんが、なかでも気に入った作品をいくつかピックアップいたします。

『うみのむこうは』

1979年、絵本館

これね~~ 傑作です。
シンプルな構図と構成・コンセプトが、「絵本」という形式に見事にマッチしていると思います。

こういうのをキャリアの初期から描いてるんだからすごい。

絵本などのフィクションを読んで想像をめぐらすという営みが、うみのむこうの他者に思いをはせる行為に重ね合わされて、この絵本をよんでいる "わたし" に迫ってきます。

他民族や他者への差別、虐殺や戦争がはびこる現代だから、みんなにもっと読んでほしいです。


『がいこつさん』

1982年、文化出版局

ベッドのうえでふと、なにか大事なことを忘れているような気がする……という『君の名は。』的な感覚に突き動かされて、がいこつさんは外へ出かけます。果たしてがいこつさんは、自分が何を忘れているのか、思い出せるのでしょうか。そして忘れていたものとは……??

これもねぇ…… いいんですよ。
ユーモラスで、全体の色調が青系統にまとめられているイラストがしゃれていて、「がいこつ」と「忘れ物」というモチーフから、どこか虚しさ・寂しさもある・・・・。
これはブルースです。ブルースって何かしらんけど。

「大人も楽しめる絵本」というフレーズには、もともと絵本が「子ども向け」だという前提がひそんでいて嫌らしいですが、五味太郎の絵本って、子どもとか大人とかをはなから気にしていないんですよね。
「子ども向け」でもないし「大人向け」でもない。ただ、フラットに子どもも大人も、好きなひとは好きだろうし、好きになれない人だっていて当然。

……企画展にも行ったし、ロングインタビューも読んだので、作家本人が「子ども向け」絵本など大嫌いだ、とことあるごとに発言しているのも知っています。
「子ども向け絵本」じゃなくて「子どもでも楽しめる絵本」というだけだ。五味太郎のこうした発言がよく表れている作品だなぁと、『がいこつさん』を読んで思います。



企画展には、五味太郎の絵本だけでなく、自伝やエッセイまで置かれていました。そのなかにあった『絵本をよんでみる』という対談?評論?本をパラ読みして、よさげだったので帰宅してから注文しました。


五味太郎, 小野明『絵本をよんでみる』

1988年、リブロポート(→1999年に平凡社ライブラリー版)

これは五味太郎の「絵本論」が語られています。
児童書の編集者であり盟友である小野明さんとの対談形式で、『うさこちゃんとうみ』『ふたりはともだち』などの13冊の名作を一つひとつ、じっくりよんでいく。

五味さんは、「インテリ」という感じではないが、昔ながらの「教養のある大人」ってかんじで、私にとってドンピシャの質感でモノを考え、喋ってくれるなぁと思います。

五味太郎本人は嫌がるかもしれませんが、これは評論であり、まぎれもない名-批評だと思います。絵本作家としてもすごいのに、絵本批評家としてもすさまじく好みでした。
わたしがこれまで読んできた、両手で数えられるほどの「文芸批評」本のなかで、いちばん好きだといってもいいほどに。

優れた作者は、なによりもまず優れた読者である、という言葉を地で行くひとだなぁと思います。
五味さんの絵本観や物語観、読者観などのどれもが、非常に共感でき、刺さりました。
五味さんの作品解釈がよすぎて、何度も泣きそうになりました。
ここで語られている絵本をすべて、めちゃくちゃ読みたくなりました。

わたしも、本やアニメなどを鑑賞した感想文を、もう10年近くインターネットに投稿していますが、そんな自分の領分においてまで、この絵本作家がめちゃくちゃ憧れる人物になろうとは。

五味太郎のような本の読み方、作品との向き合い方はわたしの理想だと感じました。

『絵本をよんでみる』で行われていることは、わたしがここ10年やってきた行為の、超-上位互換です。
こういうふうに作品を読んでいきたいし、こういう風に作品について楽しそうに語りたい。好きも嫌いも、自分の解釈も「わからなかった」も、ぜんぶ率直にあっけらかんと、それでいて真剣に喋りたい。そう思います。
この本は、絵本論とかそういう枠を超えて、わたしの人生の1冊になりました。

絵本に興味がなくても、ない人にこそ、お薦めしたいです。

10年後に出た続編『絵本をよみつづけてみる』も一昨日届いたので、読み始めています。



『絵本をよんでみる』で紹介されていた本をいっぱい読んだのですが……それらの紹介までし始めると長くなりすぎるし疲れたので、それぞれの短評が読みたいひとは↓でどうぞ!!

気が向いたら、よかった絵本について、またnoteでも語ります……気力が沸いたら……


今年1月に始めた「今月読んだ児童文学を語る」企画ですが、まさか4か月目にして絵本に舵を切ることになろうとは、思ってもいませんでした。これだから人生はおもしろい!

来月も、絵本とか、それ以外の児童文学とか、気が向いたものを、読みたいものを読んでいきまーす(とりあえず今は専門家が書いた絵本論の教科書を読んでます)

あ、そうだ! 佐倉市の五味太郎展は7月までやってるみたいなので、千葉に行けるひとは是非!! 五味太郎が読み放題ですよ!!!


それでは。






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