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今月読んだ児童文学を語る【2026年3月】



今月もやっていきます





濱野京子『バンドガール!』

2016年、偕成社

もっとも愛している漫画家のひとり、志村貴子が絵を担当しているので読みました。ジャケ借りです

志村貴子モクだったんですが、内容もおもしろかったです!
ドラム初心者の小学生が主人公。ボカロも作中で登場します。

ベタなバンドもの児童文学かと思いきや、不穏な近未来の舞台設定が小出しにされ、後半でそれらが結実して見事なアナーキー小説にまとまるのが痛快で感動しました。素敵でした。

そうなんだよな、志村貴子ってアナーキーなんだよな……


森川成美『恋愛相談「好き」だけじゃやっていけません』

2023年、静山社

恋愛脳なので読んでみました。
読む前に想像していたものよりも変な小説でした。かなり治安が悪い!

周りよりも初心で自立性のない語り手・美鳩。アメリカ育ちのミックスであるアイ。建設会社の後継を期待されてきたトランス女性のゆき。高校生の彼女たち(仲のいい友達というわけではない3人)が、親の英語塾を間借りして恋愛相談室を始めるおはなし。

アイは典型的な欧米リベラルって感じで、途中「マチズモ」の解説なんかも入る。そうしたフェミニズム的に進んでいる2人と読者のあいだを取り持つ役割の主人公・美鳩の成長譚でも一応あった。

メインの筋が未成年のストーカー誘拐未遂被害という犯罪沙汰だからか、それとバランスを取るように配置された夢見る少女・千代乃のぶっ飛び具合がおもしろかった。(構成として別に上手くはないが、これでバランスを取ろうとしているアンバランスさがいい)

恋愛相談をする(うけたまわる)話なので、メイン3人自身の恋愛模様はほとんど描かれないのは残念だったかな~(いちおう描かれはするが、進展が見たいので続編ないのかな)




『児童文学10の冒険 自分からのぬけ道』

2018年、偕成社

日本児童文学者協会が編纂しているアンソロジーです。「過去20年の日本児童文学のなかから、時代を反映した作品、文学賞を受賞した作品を精選した」のだそう。

10冊くらいシリーズが出ているんですが、なかでもテーマにビビっときて選びました。「自分からのぬけ道」──なんていいタイトル!

1作ずつ簡単に感想かきます。

きどのりこ「パジャマガール」

2006年の新美南吉児童文学賞。さすが傑作選というべきか、舞台の演出も、文章表現も、抜群にうまい。

自分の思いどおりにふるまっているアッコは、風景のなかの、一本のねじ曲がった木のようで、駅の地下道に横たわっているホームレスの人のわきを通る時のように、わざと気にとめずに通りすぎていた。
けれども、今はちがう。自分とアッコとのあいだに、見えない一本の線がはりつめている。

『児童文学 10の冒険 自分からのぬけ道』pp.7-8

幼い弟の手術、不登校と被虐待児、外国籍の人が搾取される労働環境と、そこからの避難所。
身の回りの生命のふるえを感じるようになり、そして「脱皮」してゆく子どもたち。

ミナはマヤを抱いて階段をのぼっていった。今ごろ、孝雄の小さな体には、カテーテルがさしこまれているかもしれない。そしてアッコの青紫の内出血。まだミナの腕のなかで思い出したように体をふるわせているマヤ。まわりの生命が、みんなふるえている感じ。階段の近くのポプラも、若い葉がちらちらとたえまなくゆれている。

同書 p.11

お手本のような、古典の風格のある児童文学の傑作短篇だった。


さとうまきこ「初めてのブラジャー」

あたしは絶対、あたしは絶対……と、心の中で、綾子はくりかえした。こんなことはしない。娘の初めてのブラジャーと鶏肉をいっしょに買ったりはしない。いくら自分のかごがいっぱいだからって、買ったばかりのブラジャーの上に、肉やちくわの入った袋をおいたりしない。

『児童文学 10の冒険 自分からのぬけ道』p.59

小6の綾子が自身の胸の小ささに悩んで、こっそり買ったブラジャーが母親に見つかってショックを受ける。

「自分からのぬけ道」ってこういうテーマも扱うのか~なるほど~~と思いました。「脱皮」と考えたらわかりやすい。

娘にとってはデリカシーがないと感じられる母親と、最後にしっかり和解するのではなく、母の気持ちにも少し思いを馳せながらも、乗り越えて抜き去っていく、という締めがよかった。いい親離れの話だった。


李慶子「バイバイ。」

十四歳になったら、十四歳になったら、わたしも犯罪者になる。

『児童文学 10の冒険 自分からのぬけ道』p.176

舞台は福井の敦賀市、1960年代。在日朝鮮人の家庭に生まれた、三姉妹の次女「和」の小5の頃からのおはなしです。

これだけ180ページと長く、扱われている内容が、とても、とてもしんどかったです。ぽろぽろと泣きました。
でも、読めてよかった。こういう作品に出会わせてくれるからアンソロジーはいいですね。

語りや文章は児童文学だけれど、扱っている内容はそのまま白水社エクス・リブリスとかにありそうな現代文学だとも思いました。

これを「自分からのぬけ道」がテーマのアンソロジーのなかで読むということが、より一層読み味を重く苦しくしていると感じます。というのも、これまでの話はポジティブな「脱皮」の側面が大きかったが、朝鮮人差別と歴史を主題とした本作において、和やスナちゃんたち子どもは、その境遇から、しなくてもいい、あるいはあまりに早すぎる「自分からの脱皮」を社会から強いられているように感じるから。

それでも彼女たちは大人になっていく。いろんなしんどいことを経験しながら。どうか幸せになってほしい。お父ちゃんが祖母(母)の遺影の前で言った「おまえらがおとなになるころには、いつでもすきなときに故郷に帰れて、アメリカでもどこでも、すきなところへ行けるようにしてやる。父さんもがんばるさけ、和もがんばれ」という言葉を考える。実際に自分に何かできることがあるのかは置いても、子どもにこの言葉をかけてやれるのが大人なのだろう。


次良丸忍「銀色の手錠」

買ってもらった自慢のクロノグラフをめぐる、己の卑怯で嫌な部分のおはなし。

道徳の授業とか、国語のテストに教材として使われそうな短篇小説でした。こういう質感の児童文学久しぶりに読んだかも。

最後の一文「それは、ひどく安っぽい音だった。だが、ぼくのクロノグラフの音にも、似ていると思った。」に傍線が引かれて、「なぜ自分のクロノグラフの音にも似ていると語り手は感じたのか、30字以内で答えよ」みたいな問題が容易に想像できます。


〈児童文学 10の冒険〉シリーズ、ぜひとも制覇したいです。



トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』

1945年、フィンランド、講談社

昨年、母に誘われて飯能のムーミンバレーパークに行くなどしたんですが、シリーズ未読でした。そういえばトーベヤンソンって海外児童文学のレジェンドなのでは?とも思い当たり、講談社文庫の新版のやつを買いました。

シリーズのはじめから3冊を買ってみたのですが、どうやら最初に刊行されたのは「ムーミン」とタイトルにつかないこちらのようです。ムーミンたちがムーミン谷に辿り着くまでの遍歴を描いた、シリーズ第0巻的な位置づけの短めのお話。

とても読みやすかったです。

「ここにいるのは、ぼくのママだよ。ぼくたち、きみのじゃまをしてしまったかなあ」
(ママがムーミントロールに礼儀をちゃんと教えていることが、これでわかりますね)

トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』(講談社文庫)p.12

こうした、三人称の語り手の、やさしくおもしろい語りがいい。

「もうすぐ嵐はおさまると思うな」
スニフが口をはさみました。みんなの気をそらしたかったのです(スニフは自分がこの救助活動の役に立てなかったことで、気まずい思いをしていたのですね)。

同書 p.76

ここ笑いました

チューリップのなかに住んでいた光る髪の少女「チューリッパ」←すばらしいネーミング!

人間の家の「ストーブのうしろ」に住んでいる家住みトロールもいる、ということで、そもそもムーミン世界って人間が存在したんだ、と驚きました。完全なハイファンタジーではなく、現実世界と繋がっている。エリン・ハンター『ウォーリアーズ』みたいなものだと理解。(でもかなりファンタジーだけど)

作者本人の描いた挿絵もすごくよかったです。カラーで見たらもっと素敵なんだろうな~~


知念実希人『放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件』

2023年、ライツ社

なんやかんやで毎月1冊ずつ読んでいる、ここまでnote皆勤賞のシリーズ。
2巻→4巻 と読んできましたが、ようやく1巻が借りれました!

夜のプールに鮮やかに泳ぐ金魚たちの見開きや、夜のお祭り屋台など、まずイラストで児童を物語の世界に引き込もうという明確な目的意識が感じられてとても良いな~と思います。

第1巻といっても、メイン3人の出会いなどの所謂「エピソード0」ではなく、すでにミステリクラブが結成されている設定。
今回はwhoもwhyもわかりませんでした。

児童ミステリとしてよく出来てはいるが、どうにもメイン3人の造形が形式的に思えてしまうのは引き続き・・・。



濱野京子『マスクと黒板』

2022年、講談社

『バンドガール!』がかなり好みだったので濱野京子2冊目です。

ただ本作は正直うーむ……という感触でした。
とてもささやかな、淡々とした物語だからでしょうか。

コロナ禍流行り始めの2020年。もともと潔癖気味でマスクを好んでいた中2美術部の輝(てる)が、ある日学校の昇降口に描かれた作者不明の黒板アートに衝撃を受ける……という導入。

主題がコロナ禍とマスクの時点でかなり息が詰まり、加えて輝くんの性格がとても控えめなので、盛り上がりやエンタメ性には乏しかったです。
もう5, 6年前になりますか。こういう時期もあったな~というノスタルジー的な読み方しかできませんでした。

意外と登場人物が多くて誰が誰だか最後まであんまり覚えられなかったのもあります。4人くらい女子キャラがいて・・・

あと、小説にこれを言うのは酷なんだけれど、作中の黒板アートを実際に挿絵とかで見たかったな〜と思っちゃいました。そうすれば少しは物語に入り込みやすくなったのでは?と。



3月は6冊でした。順調に減ってますね~~4月は今のところ0冊です どうなることやら~~~

それではまた来月!




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