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今月読んだ児童文学を語る【2026年2月】


今月もやっていきます





長谷川まりる『お絵かき禁止の国』

2019年、講談社

1月のベストに長谷川まりるさんの『杉森くんを殺すには』を選びましたが、今月のベストは同著者のデビュー作『お絵かき禁止の国』です。

ほんとうに傑作でした。これでもう完全にこの作家を信頼するようになり、「これからの児童文学は任せたッ……長谷川まりる!!!」になってしまいました。安泰すぎる

ディストピアSFっぽいタイトルですが、何のことはない現代の中学生青春モノです。(タイトル回収がまた見事なんだ……)

真摯なレズビアン文学です。通勤中に丸ノ内線で読んで号泣しました。全人類必読レベルですが、特に「百合」フィクションが好きなひとは、自戒を込めて、絶対に読んでおいたほうがいいです。

「みんな、口では『なにをしてもいいんだよ』って言ってくれるんだ。犯罪でさえなければ。でも本当は、お絵かき禁止の国に住んでるの。だからだれにも見られないように、必死で隠してなきゃいけないの。堂々と人前でお絵かきしている人を見て、すごいなあって思っても、やっぱり自分にそんな勇気はなくてさ。絵を見られたらどうしようって、不安で仕方ない」

長谷川まりる『お絵かき禁止の国』p.150

長谷川まりるさんは本当に文章が上手い。
一人称叙述で主人公(中学生)の気持ちを巧みに表現し、これだけ切実な内容なのにコミカルさも忘れずに軽やかに読んでいける。

本作を読んで、長谷川まりる作品は必ずすべて読もうと決意したのでした。



松素めぐり『保健室経由、かねやま本館。2』

2020年、講談社

1月に1巻を読んだ「かねやま本館」シリーズの第2巻。といっても「悩みのある中学生が迷い込む不思議な湯治場」の基本設定だけ共有して、主人公は変わっているのでこの巻からも読めます。

1巻では女子主人公だったので、今回は男子ふたりが主人公のおはなし。正反対のふたりが湯治場で出会い、漫才を始めます。湯治場の絶対に破ってはいけないルールを破ってしまった衝撃的な始まりから、彼の遺したメモ帳を読んで回想して物語っていく、やや凝った構成でした。

やっぱり最近は児童文学でも漫才モノがとても多い気がします。実際に小中高生のあいだでどれくらい流行っているのかはわかりませんが、定番ネタになりつつあります。

相変わらず細やかな文章には今一つノれないな~と感じるのですが、それでも後半にかけての盛り上がりには退勤時のバス内で号泣しちゃいました。

ただ、お笑い・漫才モノの難しいところといいますか、終盤で実際に披露されるネタが正直、それ単体としてはマジで冷静になってしまうほどつまならくて、勿論そういう "こなれていなさ" も織り込み済みの物語ではあるんですが、ちょーっと最終盤のせわしない(激アツな)展開には冷めてしまった部分が否めませんでした。残念!




長谷川まりる『呼人は旅をする』

2024年、偕成社

長谷川まりる3冊目はこちら。長編だと思っていたら、連作短編集でした。

動物や虫、植物、自然現象など、なにかを寄せてしまう「呼人(よびと)」という特性をもつ人たちがいる社会を舞台にした、現代ファンタジー連作です。長谷川まりるさんもファンタジー書くんだ!と思いました。

呼び寄せてしまうのは、雨だったり、タンポポだったり、鹿だったりします。

呼人は明らかに、現実に存在する、偏見と抑圧と差別に晒されるいろんなマイノリティのファンタジックな比喩として読めます。
他の作品でも一貫して、周縁的な立場の人々、特に子どもたちに寄り添った物語を紡いできた作者だから、なおさらです。

その上で、第5話「男を寄せる」はなかなかに凄かったです。人間の「男」を引き寄せてしまう呼人であり、かつ、トランス(ヘテロ)男性でもある慧正と、おそらく被虐待児である未成年の少女が出会って共に過ごすはなし。マイノリティ属性全部盛りみたいな短編で、流石に図式的な設定ありきで作りすぎだろうとも少し思いましたが、しかしながら、こうした「設定てんこ盛り」だからこそ描ける境地にしっかりと至っていて見事でした。

本作における呼人は、わたしが大好きな国シリーズにおける「天狗」であり、『ヒラヒラヒヒル』における「ひひる」のようなものだと理解しました。

被差別民のファンタジックな表象を扱う現代ローファンタジーが好みなのだと気付きました。類例あったら知りたいです。



長谷川まりる『花売り姫』

2025年、PHP研究所

昨年12月に出版された、現時点での長谷川まりる最新作です。
まっったくあらすじを知らずに読み始めたのですが、驚愕しました。問題作すぎる。

これまで4作読んできて初めて、「好き」とはいえない長谷川まりる作品になりました。

ちょっとこれはなるべく事前情報ナシで読んでみてほしい。そしていろんな人の感想を聞きたい。……これどうなん????(ちなみにわたしの場合は、事前にネタバレされていたら読まなかったまであります)

ただ、偉そうながら「やりたいことはわかる」というか、振り返れば『杉森くんを殺すには』でわたしが唯一苦手だった要素をメインテーマとして掘り下げたのがこの長編だと感じたので、わたしは長谷川まりるをまだまだ全面的に好きだとはいえず、理解しきれていないな……と背筋が伸びました。

まだまだ読んでいくからな……長谷川まりる!!!



いとうみく『つくしちゃんとおねえちゃん』

2021年、福音館書店

先月も短い話を4冊くらい読んだいとうみくさん。カテゴリとしては「幼年童話」と呼ばれるようです。「福音館創作童話」シリーズのなかのひとつ。いつか制覇したいですね。

おねえちゃんがめちゃくちゃ優しくて泣いちゃいました。
丹地陽子さんの絵もすばらしかったです。


いとうみく『つくしちゃんとながれぼし』

2025年、福音館書店

つくしちゃんシリーズ2作目。
3篇の短いおはなしが収録されています。

どれも良いですが、特に最後の表題作は単純な「いい話」に回収されない深みがあって好きでした。
川辺でトランペットを吹く真似をしている「ふえおとこ」の素性が一切明かされないのがいい。理解不能な他者の存在に想いを馳せること。そうして子どもの世界観、社会的なまなざしが培われてゆくことを端的に描いていました。



知念実希人『放課後ミステリクラブ4 密室のウサギ小屋事件』

2024年、ライツ社

先月に第2巻を読んだ「放課後ミステリクラブ」シリーズの第4巻。わたしが読むのは2冊目(他は借りられていた)。

ハウダニットはわかったけどフーダニットは外れました。いい感じの難易度だと思います。

↑こういう、児童書ならではの挿絵が、入門ミステリとしての分かりやすさと、臨場感の演出に一役も二役も買っていると思います。

なんやかんやで、巻末おまけページの、ミステリ用語解説と、作中で言及された有名ミステリ紹介がいちばんテンション上がります。



長谷川まりる 他『YA!ジェンダーフリーアンソロジー TRUE Colors』

2023年、講談社

多様なジェンダー/セクシャリティの在り方を描いた短編小説6つと、それぞれのイラストを担当した漫画家が書いた短編マンガ1つが収録されたアンソロジー。
長谷川まりる目当てで読みました。

その長谷川まりる「チキンとプラム」は、思春期の娘にとって不快な距離感の言動(セクハラ)をしてくる「いいお父さん」と仲の良い家族に悩む中学生と、もっと深刻な家庭環境のクラスメイトが出会うシスターフッド短編。扱うテーマの目の付け所がさすがというべきか、斬新かつめっちゃ大事なことを描いていて良かったです。

トランス女性かつ同性愛者が主人公の、にかいどう青「チョコレートの香りがするね」も非常に切なくて素晴らしかった。

ただ、アンソロジーの末尾に置かれた菅野雪虫「いつかアニワの灯台に」がわたしには白眉でした。大傑作

他の作品と比べて明確に対象読者の年齢が高いというか、文章が技巧的でちょっと読みにくさも感じるほど。三人称叙述と一人称焦点化を混ぜた異様な視点操作や、精緻なモチーフとレトリックで、まるでフローベール『ボヴァリー夫人』かと思いました。

その語り方だけでなく、女子校の不安定で繊細な友人コミュニティと「家族」のはなしということもあり、松浦理恵子『最愛の子ども』っぽさもある短編でした。

栞は理解した。安珠は廃墟が好きなのではなく、廃墟になりたかったのだ。 

『YA!ジェンダーフリーアンソロジー TRUE Colors』p.235「いつかアニワの灯台に」

本アンソロジーのなかで、ジェンダーやセクシュアリティのマイノリティをもっとも前面には押し出してはいないのに、迫力がすさまじかったです。「女」というものが晒されている絶望的な抑圧と、シスターフッド。たとえ「子ども」であっても/子どもだからこそ。

羽が動かせなくなった蜂、アニワの灯台、スノードーム、海辺に打ち捨てられた舟の砂底…… こうしたモチーフの使い方もちゃんと上手かった。

本作はアンソロジーに置くとしたら確かに最後か……と納得する、そんな傑作でした。

著者の菅野雪虫さんの他作品をぜひ読んでみたいと強く思いました。




・・・というわけで、2月は「幼年童話」2冊を含む、計8冊の児童文学を読みました~~ 長谷川まりる漬けの月でした。
来月もぼちぼち読んでいきます。




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