
『感情の国ーシロとエモノスたちー』①
第1話 無色の世界
僕の世界には、色がない。
空も、地面も、人も、
ぜんぶ透明で、透けていて、息が詰まりそうだった。
「感情を持ってはいけません」
学校ではそう教わった。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、すべて禁止された。
なぜなら、それが争いや混乱を生むと、誰かが決めたからだ。
でも――僕の中には、なぜか感情があった。
笑いそうになると、慌てて唇を噛んだ。
涙が出そうになると、目をぎゅっと閉じて我慢した。
それでも、胸の奥にはいつも、“何か”が生きていた。
僕だけが、心を持って生まれた子ども。
でも、名前なんてなかった。
この国では、名前よりも“無感情”であることの方が大事だった。
今日もまた、無色の街を歩く。
透明な人たちに紛れて、自分の“違い”を隠しながら。
だけどその日――風が吹いた。
世界が静止しているような街角で、
僕の胸の奥から、何かがそっと囁いた。
「ここじゃない、どこかへ行こう」
それは、“風の声”だった。