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『感情の国ーシロとエモノスたちー⑤』

    第5話 風と影と少年

     

    その日、ナミと別れたあと、僕は一人で風のあとを追って歩いた。

    静まり返った森の中に、確かに“音”があった。
    木々のざわめき。小枝を踏む音。どこか遠くで鳥の声。
    だけど、それはただの自然の音ではなかった。

    “心の音”が混ざっていた。

     

    (……だれか、泣いている?)

    胸の奥で、何かがキュッと鳴った。
    そのときだった。

    「動くな」

    背後から、低い声。
    振り向くと、黒いフードをかぶった少年がいた。
    目だけが光っていた。

    「お前……白いな」
    「……え?」
    「いいや、なんでもない。ついてこい。“影の気配”に触れたな」

    そう言って、彼は歩き出した。
    僕は、なぜか逆らえなかった。

     

    暗い森の中を抜けると、小さな泉があった。
    そこに立っていたのは――もう一人の僕。

    いや、僕に“そっくりな誰か”だった。
    だけど、その目は冷たく、笑っていなかった。

     

    「感情を持った者には、影が生まれる」
    フードの少年が言った。
    「それがお前の“影”だ。名前は、クロ」

    影の僕――クロは、ゆっくりと口を開いた。

    「お前が隠してきた感情、ぜんぶ俺が引き受けてやるよ」

    「え……?」

    「怒りも、悲しみも、孤独も。お前は無理に押し殺してきた。だから、俺が代わりに感じてやる。お前が壊れないようにな」

     

    僕は動けなかった。
    クロは僕に似ていた。でも、全然違った。
    彼の中には、僕が避けてきた感情が――すべて詰まっていた。

     

    「感情を持つことは、影を持つことだ。逃げるな」

    フードの少年はそう言い残し、風とともに消えた。

     

    その夜、僕はクロと向き合って、はじめて“怒り”を感じた。

    そして、小さな声が聞こえた。

    「それでいい。お前は、感情を取り戻していくんだ」

     

    風の中に、誰かの笑い声がまざっていた。

     

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