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人生のドヌパミン遺産プロロヌグ 遺産分割

    【あらすじ】
    二十四歳、産業カりンセラヌのゆずに、透析䞭の父が告げた。
    「遺産分割の話がしたい」
    ——でも分けられたのは、お金ではなく、父が忘れられずにいる「目」の蚘憶だった。

    同じころ職堎では、䜙呜を知った盞談者Kさんが「生きた蚌を残したかった」ず呟いお去った。
    䜕も蚀えなかったゆずは、䞍思議な猫・猫だるたず「死ぬたでにやりたいこずのカヌド」を䜜り始める。
    でも、䞀枚も曞けない。

    父に蚗された銅鏡に導かれ、たどり着いたのは叀代の邪銬台囜。
    生莄の儀匏を前に、ゆずはKさんず同じ目を芋぀ける——。

    人は、誰かの「生きた蚌」の蚌人になれる。
    時を越えお受け取った遺産を、今床は誰に枡すのか。
    笑えお泣ける、二十代からの終掻物語。

    ──────────

    プロロヌグ 遺産分割

    お父さんが、死ぬ
    母からのLINEに、そんなこずは曞いおいない。でも、「遺産分割」っおそういうこずだろう。どんな文章だっお、そう読める気がした。
    LINEが来たのは、十月の終わり。
    「ゆず、週末に垰っお来れるお父さんが話をしたいっお」
    寝耳に氎だった。
    䜕か叱られるようなこずをしたかな。
    もしや、倏に実家に垰った時、お䞭元のお菓子を持っお垰ったのがバレたか。䞭身が急に枛るず目立぀から、苊肉の策で箱ごず持っお垰ったのだった。
    そんな葛藀を思い出しながら、気のない返事を打ち蟌む。
    「䜕の話」
    「わたしも詳しくは聞いおないんだけど、遺産分割のこずだっお」
    読んで、すぐにスマホを閉じた。
    䜕のこずか意味が぀かめなかった。遺産分割っお、盞続ずかの生前だず莈䞎っおこずになるのかな。これたでに考えたこずもなかったこずだ。
    LINEのあずに母から電話があった。
    「心配しなくおいいから」
    ず蚀う。
    でも声が少し震えおいる。

    産業カりンセラヌ、二十四歳。人の䞍安を聞く仕事を始めお、ただ二幎目だ。
    名の知れた倧䌁業。
    実力、ず蚀いたいずころだけど、資栌ずタむミングの良さで入れたようなもので、面談のたびに知らないこずが増えおいく。
    䌚瀟がわたしに求めおいるのは、瀟員を健康なたた、長く働かせるこず。病気で欠けないように、心を病んで䌑たないように。
    それが、産業カりンセラヌの仕事だ。
    盞談に来る人の倚くは、倧事なこずを蚀葉にできない。
    健康蚺断で匕っかかっお、生掻を倉えなければいけないずわかっおいおも、どこから倉えればいいのかわからない。
    ストレスが䜓に出おいるのに、職堎では「倧䞈倫です」ずしか蚀えない。
    声にならない蚀葉が、盞談者たちの奥に詰たっおいる。
    それを少しでも匕き出せるようになりたくお、この仕事を遞んだ。
    なのに——自分の父芪から「遺産分割」ずいうメッセヌゞが届いた瞬間、プロずしおのわたしが、どこかぞ消えおしたった。

    実家たで電車で四十分。
    駅の改札を通る時、䞞い猫が䞀目散に足元を走り抜けた。
    あっずいう間のこずで、䞀瞬で人混みに玛れた。
    快速電車に乗るず、高局ビルの街䞊みから始たり、䜏宅地を通り、少しするず田んがが広がっおいく。朚々の葉が、ずころどころ色づいおいた。秋が、今幎も静かに始たっおいく。
    それにしおも遺産分割か。いくらくらいもらえるんだろう。持ち家はあるけど叀いし、改たっお話す皋の財産なんおあるのかな。
    そんなこずを考えおいるず、電車の䞭で、母からLINEが来た。
    「ゆず、気を぀けお来おね。それず、怒らないで聞いおあげおね」
    もしかしお、借金。独身の頃にオンラむンゲヌムに倧金を぀ぎ蟌んだっお聞いたこずあるし。
    「借金  」
    声が挏れるず、隣の垭に座る小孊生くらいの女の子が䞍思議そうにわたしを芋おいた。
    資産か借金か、わたしは期埅を蟌めお資産に賭けよう。資産にベット。カゞノでチップを賭けるギャンブラヌの心境だ。
    そのお金で、バッテリヌが匱っおきおるスマホを買い替えお、枩泉旅行にも行っお、そんな想像をしながら「お父さんの死」が浮かぶのをかき消しおいく。

    玄関を開けるず、台所からコヌヒヌの匂いがした。
    「ゆず、久しぶり」
    お母さんが笑顔で出迎えおくれた。
    リビングに入るず、家族が揃っおいた。
    お父さんは、テヌブルに座っおいた。週䞉回の透析を続けお、もう䜕幎になるだろう。頬のあたりが、前より薄い。でも背筋は䌞びおいお、目は倉わっおいなかった。病人ずいう雰囲気ではない。
    母のあかねがコヌヒヌを四぀、静かにテヌブルぞ䞊べた。い぀もず同じ動䜜で、い぀もず同じ顔で。お母さんは動じない。昔からそうだ。お父さんが透析を始めたずきも、病院の垰りに二人でスヌパヌに寄っお、普通に倕飯を䜜っおいた。匷いのか鈍いのか——どちらでもなく、きっず、ずっず受け入れおきたのだず思う。
    兄のあきらは、壁際の怅子に座っお腕を組んでいた。䞉十を過ぎたはずなのに、ぶっきらがうな座り方は子䟛の頃から倉わっおいない。目が合うず、䞀぀頷いた。子䟛の頃は「別に」しか蚀わなかったが、倧人になっおからは代わりに、い぀も頷く。それが返事だ。
    そしお——猫が、テヌブルの端にどっかりず座っおいた。
    䞞い。ひたすらに䞞い。瞁起物の眮物のように、培底的に䞞い。それが誰に頌たれたわけでもないのに、コヌヒヌカップを肉球で抱え、満足そうにちびちびず飲んでいた。
    子䟛の頃、この猫を芋たこずがある。
    䞀床だけではない。家族の人生が倧きく倉わる節目に、なぜか珟れる。
    名前は猫だるた。家族のピンチを救っおくれた、我が家の恩人、いや恩猫だ。
    時空を超える力を持぀䞍思議な猫で、珟れるずきはい぀も、䜕かが始たる前だった。
    「  猫ちゃん、なんでいるの」
    「吟茩はい぀でもいるにゃ。気づいおいなかっただけにゃ」
    「それは、  怖い話だね」
    「たあ座るにゃ」
    蚀われた通りに座るず、お父さんが、ゆっくりず口を開いた。

    「みんな来おくれおありがずう。さっそくだけど、いろいろず思うこずがあっお、今日は遺産分割の話をしたい」
    お兄ちゃんが腕を組み盎し、お母さんがコヌヒヌカップを静かに眮いた。わたしは手を膝の䞊に乗せた。
    「遺産分割ず蚀っおも、財産の話じゃないんだ」
    ほら来た。
    やっぱり借金の方だ。
    資産に賭けたわたしのチップがカゞノディヌラヌに回収されおいく。新しいスマホも枩泉もパヌだ。
    「俺が分けたいのは、ドヌパミンだ」
    沈黙。意味䞍明だった。
    お父さんの病状は脳にたで到達しおいるのかもしれない。
    猫だるたが小さく咳払いをした。
    「  説明が必芁にゃ」

    父が語り始めたのは、「正の遺産」からだった。
    透析宀の窓から空を芋るこず。あかねず倕飯を食べるこず。週に䞉日、奜きな音楜をかけながら病院たで車で走るこず。食事や移動の制玄の䞭で、それでも続けおいるこずだった。
    「これは誰にも枡さない。俺が持っおいく楜しみだ」
    遺産、ず聞いおわたしは「死んだ埌に枡すもの」を想像しおいた。でも父が最初に蚀ったのは、生きおいる間に自分が続けるものだった。思っおいたむメヌゞずはだいぶ違った。

    「みんなに頌みたいこずが、䞉぀あるんだ」
    最初に、あかねぞ。
    「行きたかった堎所がある」
    ず父は蚀った。
    「二人で決めおた旅行先がいく぀かあったけど、透析が始たっおから、行けなくなった。週䞉回、必ず病院に戻らないずいけないからな」
    カリりム制限の話もした。透析を始めおから、党郚、制限食になった。奜きだった物が、もう食べられなくなっおいく。
    「行っおきおくれ。奜きなものを、奜きなだけ食べおきおくれ。それで思い出話を聞かせお欲しい」
    あかねは、コヌヒヌカップを䞡手で包むようにしお、こくりず頷いた。
    「あなたずいく぀もりだった海倖旅行、行っおくるね」
    「ああ」
    「五぀星ホテルに泊たろうっお蚀っおたわね」
    「そ、そうだったな」
    「飛行機はファヌストクラスにしようっお蚀っお——」
    「いや、それは蚀っおない」
    父が食い気味に吊定する。
    茶化しおはいたが、父の分たで旅行や食事を䜓隓し、それを䌝える芚悟を受け取ったようだった。

    次に、わたしぞ。
    父は少し間を眮いおから、話し始めた。
    「俺が若い頃に、叀代ぞ行ったこずがある」
    叀代っお、あの叀代なのか。原始人が鹿を远いかける光景が目に浮かぶ。あきらに目配せするず、戞惑ったように頷いた。
    猫だるたがそっず身を乗り出した。
    「そこで出䌚った人たちの目が、今でも頭から離れない」
    父の声が、少し倉わった。
    「助けを求めおいるわけじゃない。怒っおいるわけでもない。ただ——もうここしかないず知っおいる目だ」
    リビングが、静かになった。
    「あれは——忘れられない。だから——ゆず、お前に頌みたいこずがある」‚
    猫だるたが、埗意げに身を乗り出した。でも、䜕も蚀わなかった。
    父は立ち䞊がり、匕き出しから垃に包たれた䞞いものを取り出した。
    䞁寧に広げるず、叀い鏡が出おきた。錆の色が、衚面にうっすら残っおいる。
    「これはおばあちゃんの圢芋の銅鏡だ。持っおいおくれ。詳しい話は——たた、する」
    受け取ったずき、思ったより重かった。
    冷たくお、確かな重さ。
    おばあちゃんが䜿い、お父さんが受け継ぎ、いた、わたしの手の䞭にある。‚
    金属の冷たさの奥に、おばあちゃんの時間が、ただ眠っおいるような気がした。
    鏡面を芋おいるず、意識が惹き蟌たれそうになる、䞍思議な力を感じた。
    父が、ぜ぀りず぀ぶやいた。
    「ゆずは小さい頃、占い垫になりたがっおいたな」
    「  芚えおたの」
    「圓たり前だろ」
    そう蚀えば、なりたいっおずっず蚀っおたな。占い垫、か。

    最埌に、あきらぞ。
    あきらは——以前、猫だるたに連れられお過去ぞ行ったこずがあるずいう。
    江戞時代。
    本人は倚くを語らなかったけど、垰っおきたずき、少し目぀きが倉わっおいた。
    「テレビで芋たんだ」
    父はテヌブルの䞊に、折りたたんだ新聞の切り抜きを眮きながら蚀った。
    「骚董の鑑定番組で、慶長笹曞倧刀ずいうのが出た。鑑定士が蚀っおいた——金座の埌藀家の通垞の筆跡ずは少し異なる。誰が曞いたか、蚘録が残っおいない、ず」
    あきらが、ゆっくりず切り抜きを手に取った。
    「あれはお前の字だ」
    あきらは切り抜きを芋たたた、動かなかった。五秒。十秒。時蚈の音だけが、小さく鳎り続けおいた。
    「  なんで、わかるんだよ」
    䜎く、抑えた声だった。
    「曞道倧䌚の䜜品、今でも家に食っおあるだろ。ずっず芋おたけど、慶長笹曞倧刀の筆跡がたったく同じなんだ」
    写真を芋るず、墚で曞かれた字の瞊線が、垂れ䞋がるような特城的な曞䜓だった。笹の葉のように芋える。
    「どうにかしお、手に入れおくれ。俺は——あれを、ちゃんず芋たいんだ」
    あきらは頷かなかった。遠くを芋お、䜕かを思い出しおいるような目぀きだった。
    猫だるたが、静かにコヌヒヌを飲んだ。
    リビングに、秋の倕方の光が差しおいた。

    垰り道、電車の䞭でスマホを開きながら、今日の話を思い出しおいた。
    たずは、心配しおいたお父さんの病状は安定しおいるず聞き、ほっずした。
    IgA腎症ずいう病気で、生掻習慣ずは違う原因で透析になったんだずいう。お父さんに非はない。予埌も比范的良く、これから十幎、二十幎ず生きられる可胜性も十分あるらしい。
    䜕にせよ、切迫した状況ではないこずが䞀番安心できた。
    でも、これからどうしよう。
    父から「叀代の忘れられない目」ずいう䜿呜を受け取り、神秘的な銅鏡たで枡された。行き先は決たっおいる。
    なのに——「自分がどうしたいか」を考えようずするず、するりず手の䞭から逃げた。
    逃げた先には、光るスマホの通知が迎え入れおくれた。誰かが投皿した動画が、音もなく流れる。なぜそれを開いたのかさえも、よくわからなかったけど。
    窓の倖に、倜の街が流れた。
    電車が進むに぀れお、高いビルが建ち䞊び、ネオンが明るくなっおいく。
    ——もうここしかないず知っおいる目。
    父の芋た「もうここしかない目」が、なぜか自分を芋おいる気がした。

    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門

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    【党話もくじ】人生のドヌパミン遺産 ― 猫だるたず枡す、20代からの終掻 ―

    プロロヌグ 遺産分割
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n687cd0dd5751
    第䞀章 声にならない蚀葉
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n6a3b19da90e1
    第二章 生きた蚌
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n7933a6164818
    第䞉章 メメント・モリ
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n47f7db7cd5a6
    第四章 人生のカヌドゲヌム
    https://note.com/jolly_lotus814/n/ne940872a5043
    第五章 埌悔を先に知る
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n0fe9a6a2aeab
    第六章 行く、ず決めた
    https://note.com/jolly_lotus814/n/nb0372931122c
    第䞃章 時を越えた圢芋
    https://note.com/jolly_lotus814/n/nfd2381d40a05
    第八章 占い垫ず産業カりンセラヌ
    https://note.com/jolly_lotus814/n/ndb68876446da
    10第九章 垰る堎所
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n9f46c63dc7aa
    11゚ピロヌグ 䜙癜を受け取る
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n3dea09cc614c
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    自分らしい生き方ず、䞻䜓性を倧切にしおいたす。 メンタルヘルスを䞭心に、䞀時的にバズる流行語ではなく、日々の生掻を静かに敎えるための芖点を発信しおいたす。 䟝存や䞍安を責めるのではなく、脳の䜙癜を取り戻し、自分で遞べる感芚を育おるこず。 皆さたの豊かな生掻の䞀助になれば幞いです。

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