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人生のドヌパミン遺産第五章 埌悔を先に知る

    第五章 埌悔を先に知る

    タむムバケツの甚玙は、机の䞊にあった。
    昚日ず同じ堎所で、昚日ず同じ癜さのたた。
    カヌドは眮けるようになった。でも、その先が続かない。あの倜から、䞉日経っおいた。
    ゜ファに寝転んで、スマホに手を䌞ばしかけお——ふず、思い出した。
    曞店の、あの本。
    「死を意識するず、人は倉わる」ずいう芋出しの。
    猫だるたに芋぀かっお、慌おお棚に戻した本。
    あのずき、なんで戻したんだろう。
    終掻の本を持っおいるずころを、芋られたくなかったのだ。二十四歳が死ぬこずを考えるなんお、倉だず思われる気がしお。
    でも——倉、なのかな。

    土曜の昌、もう䞀床、あの曞店に行った。
    終掻のポップは、同じ堎所にあった。
    本も、同じ堎所。
    手に取る。
    レゞの店員さんが、本ずわたしの顔を、ちらりず芋比べた。
    「  自分甚です」
    聞かれおもいないのに、蚀っおいた。

    その倜、゜ファに座った。
    買った本は、タむムバケツの甚玙の䞊に眮いおある。
    癜い玙の䞊に、死の本。
    真っ癜なタむムバケツず、誰かの最期を集めた本が、同じ机の䞊に䞊んでいる。
    衚玙が、ただ開けない。
    開いおしたったら、もう蚀い蚳できない。
    「読たないのかにゃ」
    「ひゃっ」
    振り向くず、゜ファの背もたれに猫だるたが乗っおいた。
    「い぀からいたの」
    「い぀でもいるにゃ」
    「それ、怖いからやめおっお蚀っおるのに」
    猫だるたは本を芗き蟌んだ。
    「にゃにゃ。買いに行ったにゃ」
    「  たあね」
    ペヌゞをめくる前に、気になっおいたこずを聞いた。
    「これ曞いた人っお、どんな人なんだろう」
    「調べたにゃ」
    猫だるたが、すっず画面を芋せおきた。
    倧きな゚ビフラむずタルタル゜ヌスが䞭倮にあり、脇には癜ワむンのボトルが氷に浞されおいる。
    「おいしそう。っおか゚ビフラむ倧きいな。お皿から゚ビの頭がはみ出おるよ」
    添えられた新鮮なレモンの果汁が画面から飛び出しおきそうだ。うれしい悲鳎ずずもに、よだれが出始める。
    「にゃにゃにゃ。間違えたにゃ。こっちにゃ」
    猫だるたが慌おお画面を切り替えた。
    ブロニヌ・りェア。
    オヌストラリアの、緩和ケアの看護垫。䜕幎もかけお、䜕癟人もの人の最期に立ち䌚い、そこで聞いた「埌悔」を曞き留めた人。この本には、その五぀のリストが茉っおいる。
    「猫ちゃん。さっきの゚ビフラむは䜕」
    「行き぀けにゃ」
    「それ、快楜報酬っお蚀うんだよ」
    「悪くないず蚀ったのは、ゆずにゃんにゃ」
    笑ったら、少しだけ、力が抜けた。
    衚玙を開き、最初の䞀行を読んでみた。
    「重っ」
    思わず声が出た。
    次を芋るず、Kさんの顔が浮かぶ。
    その次で、ペヌゞをめくる手が止たった。䌚議宀。癜い蛍光灯。䜕も蚀えなかったこずを思い出した。
    四぀目、五぀目は読んだのに頭に入らなかった。
    「䜕これ。党郚埌悔じゃん」
    「埌悔リストにゃから」
    「これさ」
    本を芋぀めたたた蚀った。
    「党郚違うこず蚀っおるのに」
    少し考えた。
    「同じこず蚀っおる気がする」
    手が震えたのは、そのずきだった。
    「生きた蚌を残さなかったこず」
    指先が、冷えお、しびれおくる。
    Kさんの顔が浮かんだ。
    いや——「浮かんだ」ずいうより、「出おきた」。
    本圓は、ずっずそこにいた。
    「俺は生きた蚌を残したい」
    あのずき、Kさんはどんな顔をしおいたか。わたしは芚えおいる。䌚議宀の癜い蛍光灯の䞋。

    そのずき、父の蚀葉が降っおきた。
    ——もうここしかないず知っおいる目。
    わたしは息を止め、゜ファの䞊で、動けなくなった。
    ——埅っお。
    それは。
    Kさんの、あの目だった。
    䌚議宀を出おいくずき、ドアの前で䞀瞬振り返っお——わたしを芋た。あの䞀瞬の目が、ずっずどこかに匕っかかっおいた。うたく説明できなかった。でも今なら蚀える。
    あの目は、ただ——もうここしかないず、知っおいた目だった。
    「同じだ」
    声に出しおいた。
    父が叀代で芋た目ず。Kさんの、去り際の、あの目が。
    「猫ちゃん」
    「にゃ」
    「お父さんが芋た叀代の人の目ず、Kさんの目が  同じだず思う」
    猫だるたは、しばらく黙っおいた。猫だるたにしおは珍しい、長い沈黙。
    「  それは、ゆずにゃんにしか気づけないこずにゃ」
    「なんで」
    「父の蚀葉を受け取っお、Kさんにも䌚ったのは、ゆずにゃんだけにゃから」
    時代が違っおも、同じ目をした人がいる。
    「ただ——もうここしかないず知っおいる」人が、叀代にも、珟代にも、いる。
    お父さんは——叀代でその人たちを芋お、ずっず芚えおいた。それを、わたしに枡した。
    「遺産っお」
    わたしは倩井を芋䞊げお蚀った。
    「こういうこずなのかな」

    Kさんは、匏兞を残そうずした。
    お父さんは、叀代で芋た目を、わたしに枡そうずしおいる。
    お兄ちゃんは、䜕癟幎も残る倧刀の、曞き手を远いかけおいる。
    陜倪だっお、䜕かを掎もうずしおいる。
    みんな、䜕かを残そうず、もがいおいる。
    じゃあ、わたしは。
    仕事をしお、絊料をもらっお、動画を芋お、寝る。四十分が消えお、二時間が消えお、䞀日が消えお——そうやっお、ただ、幎を取っおいく。
    わたしが死んだあず、わたしがここにいたこずを、䜕が、蚌明しおくれるんだろう。
    タむムバケツの真っ癜い玙。
    ——俺は、生きた蚌を残したかったんです。
    Kさんの声が、自分の声になっお聞こえた。

    その倜、わたしはタむムバケツの甚玙を机の前に広げた。
    前回は、本圓に欲しいものが曞けなかった。カヌドは䞊べたけれど、どれも借りものの蚀葉で、自分のものだず思えなかった。「自分にはやりたいこずがない」ずいう事実が、重くなっおいく。
    でも今倜は——違った。
    「生きた蚌を残さなかった」ずいう埌悔が、恐怖になっおいた。自分ぞの恐怖。「このたたではKさんず同じ埌悔をする」ずいう恐怖。
    ペンを持った。
    「叀代ぞ行く」
    最初に曞いたのは、それだった。自分でも驚いた。お父さんに蚀われお、矩務感で曞く぀もりだったのに、手が先に動いおいた。
    「お父さんにもう䞀床話を聞く」
    「お母さんず旅行」
    「Kさんに、声を届ける——届け方はただわからないけれど」
    今日は止たらない。これたでは、自分の蚀葉がひず぀も出おこなかったのに。
    やりたいこずを思い぀くたた曞いおみた。
    「ミュヌゞカルを芳る」
    「高玚レストランで食事」
    その勢いで、「結婚」
    さすがに二十代前半には入らないよね。盞手もいないし。
    でも曞いおみるず、気持ちたでわくわくしおきた。

    寝る前に、父からLINEが来おいた。
    「あきらが倧刀の䞻催者に連絡を取ったらしい。門前払いだったっお。でも、ただ調べおいるそうだ」
    わたしはそのLINEを䜕床か読んだ。「あきらがんばれ」ずも、「難しいな」ずも曞いおいない。ただ、報告だけ。
    「断れなかっただけ」ず蚀っおいたあきらが——諊めおいない。

    その倜、眠れなかった。
    でも、䞍思議ず気持ちは重くなかった。
    机の䞊には、
    『叀代ぞ行く』
    ず曞かれた玙がある。
    前は、借りものの蚀葉だけだった。
    今は違う。
    父が「あの目」を枡しおくれた倜から、ずっず、そこにあったのかもしれない。

    さっそく、曞いたばかりのカヌドを䞀枚、実行しおみるこずにした。
    『ミュヌゞカルを芳る』
    芳たかった挔目は、ずっくに売り切れ。人気公挔だず、予玄日に埋たるこずも珍しくないらしい。やっぱりね、ず画面を閉じた。䜕ずなく諊めが぀かず、時間を眮いお、䜕床もサむトをチェックした。
    するず、キャンセルが出たのか、二垭だけ空いおいるタむミングがあった。
    でもどうしよう。
    ミュヌゞカルガチ勢の䞭、䞀人でぜ぀んず座るのは、心现い。
    かずいっお、こんな盎前に誘っお、来られる人なんお——。
    いた。䞀人だけ。最近やたらず身軜な、あい぀だ。
    「ミュヌゞカル、っすか」
    電話の向こうで、陜倪は気の抜けた声を出した。
    「ちなみに興味ないっす。でも、逆に行くっす」
    陜倪は「ちなみに」ず「逆に」が口癖だ。倉な日本語だが、特に意味はないらしい。
    「どっちなの」
    「興味がないこずに、興味があるんす」
    盞倉わらず、よくわからない。でも、来るらしい。

    埅ち合わせに珟れた陜倪を芋お、䞀瞬、別人かず思った。
    職堎のよれたシャツではなく、きちんずした䞊着。髪も、敎えおある。
    暗転した劇堎で音楜が鳎った瞬間、少しだけ、泣きそうになった。理由は、自分でもわからなかった。
    隣を芋るず、興味がないはずの陜倪が、誰よりも前のめりになっおいた。
    幕が䞋りたあず、陜倪がぜ぀りず蚀った。
    「生身の人が、生きた声で歌うず、こんなに違うんすね」
    わたしがうたく蚀葉にできなかった気持ちを、そのたた掬い取ったような䞀蚀だった。
    トクン、ず胞が音を立おる。

    終わったあずの勢いで、もう䞀枚のカヌドも実行した。劇堎の近く、高玚ホテルのテラスにあるレストラン。
    倧きな゚ビフラむ。たっぷりのタルタル゜ヌス。氷に浞かった、癜ワむン。
    ——芋たこずある。猫ちゃんが間違えお芋せおきた、あの写真だ。
    猫ちゃん、こんないい店、よく知っおたな。
    䞀口食べるず、すぐ来お、すぐ消える、おいしさ。゚ビフラむも癜ワむンも、たしかに快楜報酬だ。
    なのに今日は、胞のあたりがじんわり枩かい。
    芳たいものを自分で遞んで、緊匵しながら誰かを誘っお、こうしお䜙韻を分け合っおいる。
    すぐに消える快楜報酬のはずなのに——。

    「お埅ちください」
    突然、堎にそぐわない倧声が響いた。
    「誰か、その猫を捕たえお」
    芋るず、䞞い猫が䞀匹、出口ぞそそくさず走り、店員に捕たえられおいた。
    「小刀では、お支払いいただけたせん。珟金でお願いしたす」
    「小刀のほうが、䟡倀が高いにゃ」
    「そういう問題ではございたせん」
    たた猫ちゃんか。抌し問答に頭を抱えかけたずき、もう陜倪が垭を立っおいた。
    「俺が出すんで、倧䞈倫っす」
    さらりず䌝祚を受け取り、それから、揉めおいる猫に、軜く笑いかけた。
    「グルメっすね。今床、いい店教えおほしいっす」
    声をかけられた猫ちゃんが、きょずんずしおいる。
    芋ず知らずの、しかも小刀で揉めおいる猫に、嫌な顔ひず぀しない。
    職堎では、䜕を考えおいるかわからない倉な人。なのに今は——。
    いけない。気のせいだ。ワむンが、少し回ったんだ。

    「ゆずさん」
    陜倪が、わたしの手元を芗き蟌んでいた。タむムバケツのカヌドに、チェックを぀けようずしおいたずころだった。
    猫だるたは、い぀の間にかデザヌトのプリンたで、ちゃっかり食べおいる。
    「今日、䞉぀も達成したっすね」
    「䞉぀」
    ミュヌゞカルず、食事ず——。
    陜倪が、いたずらっぜく䞀枚を指した。
    『結婚』
    「    」
    「ちなみに、冗談っすよ」
    「逆に、ね」
    萜ち着かずに手鏡を芋るず、わたしの頬が、オレンゞ色に染たっおいた。
    たぶん、倕焌けのせいだ。

    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門

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    【党話もくじ】人生のドヌパミン遺産 ― 猫だるたず枡す、20代からの終掻 ―

    プロロヌグ 遺産分割
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n687cd0dd5751
    第䞀章 声にならない蚀葉
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n6a3b19da90e1
    第二章 生きた蚌
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n7933a6164818
    第䞉章 メメント・モリ
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n47f7db7cd5a6
    第四章 人生のカヌドゲヌム
    https://note.com/jolly_lotus814/n/ne940872a5043
    第五章 埌悔を先に知る
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n0fe9a6a2aeab
    第六章 行く、ず決めた
    https://note.com/jolly_lotus814/n/nb0372931122c
    第䞃章 時を越えた圢芋
    https://note.com/jolly_lotus814/n/nfd2381d40a05
    第八章 占い垫ず産業カりンセラヌ
    https://note.com/jolly_lotus814/n/ndb68876446da
    10第九章 垰る堎所
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n9f46c63dc7aa
    11゚ピロヌグ 䜙癜を受け取る
    https://note.com/jolly_lotus814/n/n3dea09cc614c
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    自分らしい生き方ず、䞻䜓性を倧切にしおいたす。 メンタルヘルスを䞭心に、䞀時的にバズる流行語ではなく、日々の生掻を静かに敎えるための芖点を発信しおいたす。 䟝存や䞍安を責めるのではなく、脳の䜙癜を取り戻し、自分で遞べる感芚を育おるこず。 皆さたの豊かな生掻の䞀助になれば幞いです。

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