
『 君と私とIF 』第14話「勇人」
──数日後・昼休み──
<欅のベンチ>
勇人
「へぇ〜、ミステリ・・・」
葵
「うん。」
「霧辻綾人って作家なんだけど。」
勇人
「霧辻・・・」
(聞いたことはあるな・・・)
葵
「建物の構造を使った
トリックが面白くてね。」
楽しそうに語る彼女。
(よっぽど好きなんだな)
平方さんにしては珍しく、
熱が入る。
勇人
「俺はラノベしか読まないや」
葵
「ライトノベル?」
勇人
「そそ」
葵
「古いのなら、子供の頃に、
『ブラックファントム』っていうのは
読んだことあるよ。」
勇人
「え? マジで?」
「俺も小林に借りて読んだよ」
(意外だな・・・)
「でも、あれ、
ミリタリーものだよね?」
葵
「うん。」
「サスペンスの要素もあって、面白かった。」
勇人
「あー、確かに」
(子供の頃だよな・・・?)
「でも、意外だな」
「そういうのも読むんだ?」
葵
「うん。」
「今は、ミステリが多いけど。」
(本の話だと、
ホント生き生きするな)
とまぁ、
彼女とは、
大分、砕けて話せるようになったと思う。
教室はというと。
女子はキャッキャウフフ。
男子はお通夜状態継続中。
引き続き、対照的だ。
(武田は相変わらず絡んでくるが・・・)
あれ以来、その度に
高橋や西川が止めに入ってくれる。
(ギャルってすげーわ・・・)
少し、
西川のことに想いを馳せた。
──同時刻──
<4階廊下>
陽葵
「ねー、葵見なかったー?」
顔見知りの女子は、首を横に振った。
「そっかー、ありがと」
(あれ〜?)
(どこ行った〜?)
さっきから探してるけど、
見当たらない。
(この陽葵さんが見失うとは)
思えばこの数ヶ月、
あの子とあまり話した記憶がない。
(バカだね、あたしは)
自分の視野の狭さが嫌になる。
(あそこか?)
階段の窓を開け、
身を乗り出して眺める。
(お? いたいた)
いつものベンチに葵の姿。
(ん?)
木陰でよく見えないけど、
隣に男子のスラックス。
(中っち・・・だな?)
(ほほ〜ぅ?)
ピンときた。
(・・・そっか)
安心したような、
少し寂しいような。
(強いなぁ・・・)
遠目にも、
楽しそうに
おしゃべりしてるのが分かる。
(うん、悪くない)
窓枠にもたれて、眺める。
そこへ、
背後から足音が近づいてきた。
「なあ、陽葵」──
名前を呼ばれ、
陽葵
「何? 翔」
横目に返事をする。
桜澤
「中藤、見なかったか?」
(中っち?)
陽葵
「ん」
片手で指をさす。
無言で、
あたしの後ろから身を乗り出し、
窓から外を覗く翔。
桜澤
「あれは・・・平方と中藤か?」
陽葵
「邪魔、すんなよ?」
桜澤
「・・・するかよ!」
短く吐き捨てると、
振り向いて歩き出す。
そのまま、
階段を降りていく
背中を見送った。
(さて、
あんたはどうすんの? 翔)
ふわっと、
風が髪をなびく。
(春だねぇ)
ふと、空を見上げる。
(うん、春だ)
霞んだ晴れ空が、
やけに眩しかった。
<欅のベンチ>
勇人
「そういやさ」
「この前、ありがとな」
葵
「この前・・・?」
勇人
「助けてくれただろ?」
「教室で」
葵
「・・・」
(ん?)
笑顔のまま、固まる彼女。
──刹那
シュバッ!
むこうを向くのと同時に、
うつむき、両手で顔を隠す。
勇人
「あの・・・?」
「平方さん・・・?」
葵
「・・・違うの」
「あんなつもりじゃ・・・」
小さく呟く彼女。
(・・・あ〜)
(クリティカルヒットだったもんな)
(武田のヤツ・・・)
耳まで赤くなってるのが見える。
(これ以上はあかんヤツ・・・)
勇人
「で・・・でもさ」
「本当に助かったよ」
そう、改めて伝えると、
手の隙間から
チラッとこっちを見る。
勇人
「無理してくれたんだろ?」
「ありがとな」
一瞬、間が空き、
──ふぅ・・・
小さくため息が漏れる。
こっちに向き直り、
葵
「・・・うん。」
「それなら、よかった。」
そう言いながら、
すまし顔を、
両手でパタパタあおいでらっしゃる。
(こうやって見ると)
(やっぱ普通の女の子だよな)
なんだか微笑ましい。
と思ったその時、
何かに気づいた顔をする彼女。
(ん?)
渡り廊下の方から、
足音が近づいてくる。
「中藤」──
呼ばれて振り向くと、
桜澤
「・・・ちょっと、いいか?」
勇人
「あ・・・ああ」
「いいけど」
(ビビった・・・)
「何か用か?」
桜澤
「その・・・」
言葉に詰まる。
(えらい神妙だな・・・)
桜澤
「悪かった」
勇人
「え・・・?」
桜澤
「事故のことだ」
勇人
「あ・・・あ〜」
(そりゃそうか・・・)
(気にするわな)
「ごめん」
「実は俺、
あんまり覚えてないんだよ」
桜澤
「・・・」
勇人
「だからまぁ、気にすんな!」
「どうせ、
わざと突き落としたとかじゃ
ないんだろ?」
桜澤
「・・・ああ」
そう、
一言だけ残して。
背を向け、
去っていく桜澤。
(ちゃんと伝わったんだろうか・・・)
後ろ姿を見送りながら、
少し悩んでいると、
葵
「あれ。」
「桜澤くんの、精一杯だね。」
勇人
「そうなの?」
葵
「うん。」
「彼は、そういう人。」
(そういうもんか・・・)
勇人
「そうかぁ・・・」
「マジで
気にしなくていいんだけどな」
「俺、本当に覚えてなくてさ」
(あんまり気にされてもな・・・)
悩ましい・・・。
そう思った時。
葵
「うん。」
「勇人は、それでいいと思う。」
(・・・ん?)
一瞬遅れ、
勇人
「・・・へ?」
顔を向けると、目が合った。
葵
「どうしたの?」
(あ・・・いや・・・)
勇人
「今・・・勇人って・・・?」
少しだけ、
首を傾げて、
葵
「ダメ?」
勇人
「いえ・・・そうゆう訳では・・・」
クスッと笑う平方さん。
葵
「私も、葵でいいよ?」
勇人
「え・・・」
「いやいやいや!」
葵
「嫌なの?」
静かに、
じっと見つめてくる。
勇人
「・・・いや」
「そうゆう・・・事じゃ・・・」
(視線が・・・)
「葵・・・さん?」
葵
「あ、お、い。」
(・・・いや・・・無理)
(・・・)
(・・・ええい! ままよ!)
勇人
「葵・・・」
ふふ、と
微かに笑った。
目が、
固まって動かせない。
(眩しい・・・)
透き通るような笑顔。
(落ち着け! これはフラグだ!)
(調子乗って事故るヤツだ!)
──キーンコーンカーンコーン──
──ちょうど、予鈴が鳴った。
葵
「大変、戻らないと。」
少し慌てる彼女。
(助かった・・・)
葵
「早く戻ろ?」
「勇人。」
そう言って、
早足で歩き出す彼女。
その背中を、慌てて追いかけた。
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