
『君と私とIF』第37話「百面相」
<学校玄関・下駄箱>
文化祭が終わって1週間が経ち、
クラスの興奮も
少し落ち着きを見せた頃。
「小林先輩、おはようございます!──」
小林
「あ、おはよう・・・」
──キャー! 挨拶しちゃった!
玄関で小林に声をかけ、
盛り上がる後輩女子たち。
(うん、元気だ)
小林
「あはは・・・」
勇人
「今日もモテモテですな、旦那!」
小林
「やめてよ・・・」
苦笑いで顔を伏せる小林。
(本番では、
あんなに堂々としてたのにな)
ギャップ萌え(?)である。
(もっと、
堂々としてりゃ
いいのになぁ)
まぁ、それも含めて小林なのだ。
そして、教室に着くと・・・。
「小林くん、おはよう──」
小林
「あ、おはよう・・・」
これまたさっきと同じように、
女子たちに挨拶を返す小林。
「今日も可愛いね、小林くん──」
「ホントホント──」
完全に謎モテ期、到来である。
(これが、モブ男子に
一生に一度訪れるという
あの伝説の・・・)
次々と、
女子に挨拶されては
返事をする小林。
そして、
ザワザワする教室。
(まぁ、
あの活躍を見せられたら、
そりゃ注目浴びるわなぁ)
何を隠そう、
文化祭の売り上げで、
学校始まって以来の記録を
叩き出した立役者だ。
(何せ、
2位のクラスの記録を
1人で上回ったもんな・・・)
そう考えると・・・余計ウケる・・・。
そこへ、
桜澤
「よう」
大原
「おはよー」
ツインタワーが出現した。
小林
「桜澤くん、大原くん、おはよう」
勇人
「おう、おはよ」
軽く手を挙げ、
そのまま席に向かって
すでに来てた三浦と合流する
ツインタワー。
(あいつらの笑顔も
当たり前になったな)
文化祭以降、
3人でジャレあっては、
時折、桜澤の笑顔も
見られるようになった。
(なんか肩の荷が降りたぜ・・・)
だがしかし、
そこに新たな気掛かりが一つ・・・。
「いよう、おはよ──」
この声は──。
小林
「おはよう、武田くん」
やはり武田だ。
勇人
「おう、武田。
おはよ」
武田
「おう。
で、どうだ?」
小声になる武田。
勇人
「んー・・・?」
武田
「平方の様子だよ」
勇人
「あー・・・」
そう。
この1週間、おかしいのである。
葵の様子が・・・。
チラリと、
教室の隅に目をやると・・・。
(今日も突っ伏してるな・・・)
自分の机に突っ伏して、
固まる葵の姿。
陽葵と高橋はというと、
そんな葵を横目に
他の女子たちとダベってる。
(そういや、図書館でも
そんな場面あったっけ・・・)
武田
「平方・・・、
何があったんだろな?」
勇人
「まー・・・、
文化祭で色々あったし?」
チラリと横に目をやり、
「小林も大活躍だったしな」
同じく心配顔の小林に振る。
小林
「勇人・・・」
ジト目を返す小林。
やはり可愛い。
勇人
「だってなぁ・・・」
そこへ、
「おはよー、小林くん──」
小林
「おはよう」
女子が挨拶した。
その刹那──。
ビクンと反応する葵。
(ほら、プルプルし始めた・・・)
勇人
「な?」
武田
「ああ・・・」
小林
「いや・・・、
『な?』じゃなくて・・・」
勇人
「だってさ。
俺ですらメイド姿が
目に浮かぶんだぜ?」
武田
「俺もだ・・・」
小林
「っ・・・」
顔を赤くして俯く小林。
いちいち可愛い。
武田
「平方も、
早く落ち着くと
いいけどな」
勇人
「そうだな・・・」
──キーンコーンカーンコーン──
そうこうしていると、
朝の始業のチャイムが鳴った。
<3ーC・数学の授業>
(私、本当にどうしたんだろう・・・。)
文化祭からなのは、間違いない。
(あれから、
感情のコントロールが
効かない・・・。)
名前を聞いただけで
思い出してしまい、
勝手に込み上げてしまう。
(小林くんのメイド姿を見て、
初めて人前であんなに笑って。)
(あれさえなければ
我慢できたのに・・・。)
勇人の耳元での一言。
(っ?! 〜〜〜〜〜!)
(ダメダメ! 他のこと!)
少しでも脳裏をよぎると、
抑えが効かなくなる。
(当日は、
なんとかなったのにな・・・。)
──・・・・・・た
(でも、凛と希のステージも・・・。)
──・・・かた!
(あんなに泣くとは、
自分でも思わなかった・・・。)
陽葵
「ちょっと! 葵!」
葵
「あ?! え?」
気づくと、
陽葵が心配そうな顔で
私の肩を揺すっていた。
田中先生
「平方!」
葵
「はいっ?!」
田中先生
「前に出て、
この問題を解きなさい!」
数学の田中先生が怒った顔で、
黒板に板書した問題を指し示す。
(あ・・・。
何やってるんだろ、私・・・。)
陽葵
「授業中だよ! どしたの・・・」
葵
「あ・・・。
ごめん、陽葵。」
小声で話しかける陽葵に謝ると、
立ち上がって黒板へ向かった。
(これは・・・うん。)
葵
「できました。」
田中先生
「・・・ぐ。
合ってるからいいけど、
授業中だよ?
集中して。」
葵
「はい・・・すみません。」
先生に謝罪して、
自分の席に戻る。
(本当に・・・、
どうしたんだろう、私・・・。)
──昼休み──
陽葵
「ほーん、で?
アレが頭から離れない、と?」
葵
「うん・・・。
思い出す度に
込み上げちゃって・・・。」
自分の席で俯いて、
ションボリしょげ返る葵。
(なかなか珍しい姿だねぇ)
と思えば、
急に何か重大なことに
気づいたような顔をする。
七海
「葵・・・?」
七海の声にも
反応を示さなくなった彼女。
(今度は、真剣に悩み始めたね)
七海
「陽葵・・・」
陽葵
「何か・・・、
思考ダダ漏れって感じ?」
七海
「あ。今、何か思いついた?」
陽葵
「ニコニコし出したねぇ・・・」
(これは確かに「百面相」だわ)
クラスのみんなが、
そう呼びだしたのも頷ける。
(見てる分には面白いんだけどねぇ)
その顔がショックで固まり、
プシューッ!と言わんばかりに
机にへたり込む。
(本人は、
至って真剣に悩んでるから
笑うのもアレだしなぁ)
スッと葵の身体が起きたかと思うと、
今度は澄んだ表情で頬杖をついて、
窓の外のずっと遠くを眺め始める。
七海
「透き通っちゃったね」
陽葵
「心ここに在らず・・・」
(しゃーない)
そんな彼女の肩を揺すって、
声をかける。
陽葵
「ほらー、葵ー。
帰っておいでー」
葵
「あ・・・ごめん・・・。」
(お、帰ってきた)
再びしょげる彼女。
陽葵
「これは困ったねぇ」
葵
「うん・・・。
自分でも・・・どうしたらいいか・・・。」
陽葵
「あんた、
ただでさえ集中力高いしねぇ」
七海
「でも、
ここまでのは初めてだよね」
葵
「・・・」
七海
「でも、
まさか葵がここまで
ダメージ受けるとは
思わなかったよね」
陽葵
「まぁ、確かに?
小林のアレに中っちの追撃はねぇ」
葵
「っ?! 〜〜〜〜〜・・・」
その名前が出た途端、
顔を覆って机に突っ伏す親友。
七海
「これは重症だね・・・」
陽葵
「ホントにねぇ・・・」
心配顔の七海と、
顔を見合わせる。
(さぁ〜て、
どうしようねこれ・・・)
悩んでいると──。
真琴
「平方さん、大丈夫そう?」
委員長も様子を見に来た。
陽葵
「ちょっとお手上げかな・・・」
七海
「名前聞いただけで
これだもんね・・・」
真琴
「その・・・こば・・・くん?」
プルプルしたままの
葵を見ながら、
間の「やし」を、
口真似して見せる委員長。
七海
「そんな感じだね・・・」
真琴
「そう・・・なんだ・・・」
一瞬、表情が曇り、
妙に真剣な顔で
悩み始める委員長。
(ん? 何か・・・?)
真琴
「平方さんには
たくさんお世話になったし、
何か力になれればいいんだけど・・・」
(気のせいか?)
陽葵
「ま〜、こればっかりはね。
時間が解決してくれるのを
待つしかないかな」
七海
「そだねぇ・・・」
真琴
「そっか・・・」
陽葵
「問題は・・・」
七海
「問題?」
七海と委員長が、
心配そうにこっちを見る。
陽葵
「もうすぐ、
球技大会なのよねぇ・・・」
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