メインコンテンツへスキップ
見出し画像

CHAGEEはなぜ煮卵を売り始めたのか|中国ティードリンクブランドの商品開発は「その茶で何を作るか」へ


    この記事には音声解説もあります


    中国の人気ティーブランドCHAGEEが煮卵を売り始めた。
    2026年9月に上海の7店舗で登場した「白霧紅塵茶葉蛋」は同名の人気ドリンクと同じ大紅袍(烏龍茶の一種)の茶葉で煮て、茶の香りを卵に移した一品だ。
    茶葉蛋は中国では定番の朝食でもある。

    画像

    この煮卵のニュースで気がついたことがある。
    ミルクティーの店と煮卵は一見結びつかないが、この夏のCHAGEEやHEYTEAのジェラートと並べてみると、ティードリンクブランドが看板のお茶の風味を飲み物の外へ持ち出し始めていた。

    GAFUCAFEでこれまで紹介してきたニュースをつなげると、新茶飲(後述)の商品開発の発想の重心の変化が浮かび上がる。

    何を混ぜるかを考えるロジックから、どの茶を深めるか、その茶で何を作るかのロジックが加わっている。
    本稿では、組み合わせを「横に広げる開発」、茶を「縦に掘る開発」、「用途を広げる開発」に分けてこの動きを整理し、用途の広がりが客の来店する時間帯まで変え始めている点にも触れる。


    新しさを「横」に増やす

    中国の「新茶飲」は茶葉から淹れた茶にミルクや果物、花、食感のあるトッピングを組み合わせ、店頭で作るティードリンクの業態だ。
    新しい果物や食感を足せば新商品になる。
    組み合わせを横に広げる商品開発である。

    桃の次はブドウ、その次は別の季節の果物。
    チーズフォームやもちを重ねれば見た目も変わる。
    客がまだ飲んだことのない組み合わせを出し続け、試したくなる理由を更新していく。

    この方法だけで新しさを競うと、他社が似た組み合わせを出すたびに次の商品が必要になり、開発も販促も止められなくなる。

    7月の「アジアカフェニュースまとめ」で取り上げた甜啦啦(Sweet Lala)の商品開発責任者・沈一鳴は数千万人の膨大な顧客データの分析から、果物と茶の役割を分けて説明していた。
    果物は新しい客を呼び、茶は繰り返し買う理由を作る。
    同社の顧客データでは継続して利用するコアユーザーほど茶本来の風味を主体にした商品を好むという。
    沈氏は、フルーツで組み合わせを作ることは「創造性」、茶を開発することは「R&Dとサプライチェーン」の領域と求められる能力が別物で、後者による差別化の参入障壁は大きいと語った。

    「初めての味」を毎回用意する仕事と並んで、「また飲みたい味」を育てる仕事が重みを増している。
    茶の香りが店を思い出すきっかけになれば、その香りは次に売る商品にも引き継げる。


    茶を「縦」に掘り、一つの茶ベースを何度も使う

    HEYTEA(喜茶)はこの方向をはっきり打ち出している。
    8月の「アジアカフェニュースまとめ」では同社の「茶特調」を商品開発の本質回帰として紹介した。
    茶特調は茶の香りや味わいから組み立てるアレンジドリンクで、同社は2026年8月までの一年間に11種類のベース茶を独自開発し、30種類を超える商品を投入したと説明している。

    商品を支えるベースの茶を中国語で「茶底」と呼ぶ。
    茶葉の選定やブレンド、焙煎、花の香り付け、抽出を調整し、ミルクや果物と合わせても茶の特徴が残る味に仕上げる。
    開発の出発点が、足す素材から茶そのものへ移っている。

    私は別稿「ミルクティートレンドを考える|『茶葉ドリブン』の波は日本に来るか」で、茶葉の種類や香りを商品開発とメニュー選択の中心に置く動きを「茶葉ドリブン」と呼んだ。
    果物を使う商品でも、主軸はどの茶を選び、その香りをどう生かすかにある。

    作り込んだ茶底は複数の商品へ展開される。
    CHAGEEの30商品を分析した記事では金木犀烏龍がストレートティー、ミルクティー、クリームやナッツを載せたデザートティーへと姿を変えていた。同じ系統の茶で、軽く飲みたい日にも甘い満足感が欲しい日にも応えている。

    茶を深く作ることと、その茶を何通りにも使うことが結びつけば、原料の調達や味の調整にかけてきた手間を次の商品でも生かせる。
    客には「この店の金木犀烏龍」という共通の記憶が残る。
    新商品は定番から離れず、その周りに積み重なっていく。


    次は「その茶で何を作るか」へ

    茶底を深く作り、その茶を複数のドリンクへ展開するところまでは、変化はドリンクの中で起きていた。
    いま始まっているのは開発した茶をドリンク以外にどう使うかという動きで、茶を起点にした商品開発がドリンクの外へ広がり始めている。

    CHAGEEは2026年に看板商品の「伯牙絶弦」や「一抹関山」で使う茶の風味をジェラートへ展開した。
    ブランドの中で育ててきた茶と客が覚えているその味をそのまま別の商品カテゴリーへ移した形だ。
    展開店舗は190店を超え、導入店では取扱額を20%以上押し上げたと報じられている。

    HEYTEAも同じ方向に進んでいる。
    同社は「茶特調」で茶底からドリンクを設計する一方、ジャスミン茶ともち米を合わせたジェラートなどドリンク以外の商品カテゴリーにも手を広げている。

    茶はドリンクレシピの一要素から、いくつもの商品を生み出す起点に変わりつつある。


    煮卵は茶を朝食へ連れていく

    そしてCHAGEEの茶葉卵もこの延長にある。
    上海7店舗での販売価格は単品5元、通常価格のドリンクに追加すると2.5元。
    午前10時30分までは指定ドリンクと茶葉卵の朝食セットが2割引きになる。
    9月7日から21日までの期間限定特典をつけたテストだ。

    割引の時間設定から見れば狙いは朝にドリンクと軽食をまとめて買う客だ。
    大紅袍の茶葉を煮卵に使えば、ブランドが積み上げてきた茶の特徴を保ったまま、甘い飲料では応えにくかった食事の需要に近づける。

    ジェラートの発売は商品の種類を広げた。
    朝食セットはそれに加えて、客が店に来る時間帯を変えようとしている。
    何を作れるかを広げることが、いつ買ってもらうかを広げることにつながっていく。


    茶を深めるほど、作れるものが広がる

    8月のニュースまとめで「海外展開・本質回帰・シーン拡張」をつないだ背景には、国内で店を増やすだけでは伸びにくくなった市場環境があった。
    今回の商品開発の変化も、既存店で新しい購入理由を作る動きとして重なる。

    CHAGEEやHEYTEAは一度作り込んだ茶をドリンクだけで使い切らなくなった。
    ジェラートや煮卵の発売はその表れである。
    特徴のある烏龍茶を開発すれば、その茶からストレートティーもミルクティーもジェラートも、煮卵さえも作れる。

    客がその茶の香りを覚えていれば、商品カテゴリーが変わってもブランドとのつながりは切れない。
    開発した茶はカテゴリーをまたいでブランドを思い出させる目印になる。

    まだ使っていない素材を探して組み合わせを「横に広げる開発」は今も続き、茶葉の香りや抽出を磨く「縦に掘る開発」と並行して進んでいる。
    そこに磨いた茶をジェラートや煮卵など食べ物へ変える「用途を広げる開発」が新しい軸として加わった。

    画像

    茶葉に深く集中するほど、その茶で売れるものは広がる。
    私はここに「茶葉ドリブン」の次の可能性を感じている。
    産地との関係や加工、味の調整にかけた時間を一杯のヒット商品で終わらせず、商品全体に生かせるからだ。

    何を混ぜるかで競ってきた中国新茶飲は、どの茶を深め、その茶で何を作り、生活のどの場面に届けるかまで競い始めている。


    この記事が少しでも面白かったり、役に立ったら、「スキ」とフォローをしていただけると、中国・アジアカフェ市場の視察・研究を続ける大きな励みになります。
    X(@gafucafe)では、現地での“リアルタイム気づき”や"アジアのカフェ最新ニュース"についても発信しています。よかったらフォローお願いします。
    情報提供や、取材・寄稿・講演/講師等のご依頼はnote / X / Threads / InstagramいずれかのDMでお願いします。

    ※ヘッダー画像はバナー用にAIで生成した画像であり、実在のブランド商品とは関係ありません。


    次に読む一本

    全30商品の分析から、茶葉ドリブンなCHAGEEのドリンク構造を明らかにした記事です。

    本記事の「その茶で何を作るか」の流れを追うにはニュースまとめ記事をご覧ください。


    主な参考資料


    GAFUCAFEのその他の記事

     
     
     
    中国・アジア飲料市場リサーチャー。 事業開発/市場リサーチ歴17年。 中国・アジアのカフェ・ティードリンク市場を現地視察+事業開発視点で読み解き、店づくりや飲食ビジネスに使える示唆として届ける記事を毎週配信。 自身のティードリンクブランドの立ち上げ計画も進行中。 Xもやってます。

    あなたへのおすすめ